リリース6周年を記念し、3Dライブモードを実装した『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』。3Dキャラクターによるバンド演奏をリズムゲームの背景でリアルタイムに再生するための様々な工夫を、Craft Eggexsaの開発チームに聞いた。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 304(2023年12月号)掲載の記事を再編集したものです。

    リアルタイム3Dでゲームに新風を吹き込む

    小説・漫画からTVアニメをはじめ多数のメディアに展開し、ガールズバンドの活動を通して少女たちの成長を描く『BanG Dream!』(バンドリ!)プロジェクト。今回紹介する『バンドリ! ガールズバンドパーティ!(以下、ガルパ)』もその展開のひとつ、リズム&アドベンチャーというジャンルのアプリゲームである。

    バンドリ! ガールズバンドパーティ!
    開発:Craft Egg
    リリース:好評配信中
    価格:基本料金無料(アプリ内課金あり)
    対応プラットフォーム:iOS、Android
    ジャンル:リズム&アドベンチャーゲーム
    bang-dream.bushimo.jp
    ©BanG Dream! Project ©Craft Egg Inc. ©bushiroad All Rights Reserved.

    『ガルパ』は今年の3月に6周年を迎えたことを記念して、ゲーム内のリズムゲームパートに3Dライブモードを実装した。従来はLive2Dによる2Dグラフィックスでゲームが構成されていたことから、今回の3Dライブモード導入は斬新な試みとなる。

    3Dモデル化された各バンドメンバーがリアルタイムレンダリングでライブシーンに登場し、衣装の組み合わせや担当楽器の変更にも対応するなど、大きくパワーアップしている。開発全般はCraft Eggが担当し、3Dライブモードの開発はexsaが担った。

    【#ガルパ超大型アップデート】Poppin'Party『ときめきエクスペリエンス!』3Dライブ映像

    「『ガルパ』のリリース当時(2017年頃)、市場にはリアルタイム3Dレンダリングを利用したリズムゲームも多くリリースされて人気が出ていました。うちでもそうした演出を取り入れたいという要求が日に日に高くなっていったんです。

    そこで、衣装設定やキャラクターの構成を自由に設定できるゲーム演出ができないかと模索していたところ、『バンドリ!』のアニメシリーズにおいて3Dアセットやアニメーション制作に携わっていたexsaさんが開発に参加してくれることになり、3Dライブモードの導入が実現しました」とCraft Eggのグラフィックスエンジニア佐竹雄紀氏は話す。

    Craft Egg
    左から 宮澤竜平氏(3Dディレクター)、若林邦甫氏(MV・演出ディレクター)、佐竹雄紀氏(グラフィックスエンジニア)、江口大喜氏(TA/グラフィックスエンジニア)
    exsa
    左から 加藤淳一氏(第二制作部開発推進課課長/プロデューサー)、コカージェローム氏(第二制作部開発推進課課長補佐/チーフエンジニア)

    Craft Eggではこれまで2Dベースのゲーム開発をメインに行なってきたこともあり、今回は開発ワークフローもイチから整備し直して挑んだという。

    「R&D期間が約8ヶ月、そこから実装までに10ヶ月程度。今回は内製の開発でなく、協力会社に実装までお願いしたことで、スケジュール面でかなり効率化できました。可能な限り3D開発とそれ以外を分離して進められるように環境構築もしました。

    それと今回、3D開発環境でもそれ以外の開発環境でも同じようにライブシーンを再生できるようにする必要があり、その部分の開発に注力したことで、イテレーションのスピードアップも実現できました」(佐竹氏)。

    パイプラインを分けてアセット制作を効率化

    まずは3Dライブモードの要、キャラクターアセットの制作について紹介しよう。

    本作ではキャラクターが35人、衣装のバリエーションも合わせると100体以上のアセットが必要だったが、それらを10ヶ月で制作するため、Craft Eggとexsaが制作を分担した。なお、アニメで使用されたサンジゲン制作の画像と楽器モデルの提供も受けていたが、それらはあくまで参考に留め、モデルは全て新規に制作している。

    「『ガルパ』はこれまで2Dイラストベースでしたから、3D化しても原画を忠実に再現するよう注意を払い、exsaさんとかなり細かいモデルチェックのやり取りをしながら進めました。効率化のために、ベースモデルをひとつ用意してそこから量産する方針で、顔や手足のデータは流用しました。

    また、モデルは全員同じ身長で作成し、リグで身長や身体のシルエットを調整できるしくみづくり(後述)をしておいたので、制作効率が上がりましたね。髪の毛は同じキャラクターでも衣装ごとに髪型が変わるため、個別に対応しています」とCraft Eggの3Dディレクター宮澤竜平氏は話す。

    その他、膨大な数のモデルを効率良く制作するため、Mayaによる3Dアセット制作とUnityによる実装作業を完全に分け、別々のパイプラインとして稼働。こうしたワークフローでは、MayaとUnityでルックが変わってしまい手戻りが発生しがちだが、今回はどちらで見ても同じルックになるシェーダを開発したことで手戻りを回避した。

    「UnityシェーダとMaya DX11シェーダを同時に開発し、キャラクターモデルの制作から監修、リテイクまではMayaだけで完結しています。その後、QA開始のタイミングでUnityデータを作成するため、MayaとUnityのやりとりを最小限にして監修のフローを短縮しました。

    ただ、Mayaのキャラクターシェーダでは、ブルームなどのポストプロセスをビュー上で再現できません。そのため、ポストプロセスによるルックはUnity側で調整しました」とexsaの開発チーフエンジニア、コカー・ジェローム氏は話す。

    原画のルックに忠実な3Dモデル化を目指す

    本作のキャラクターは、これまでLive2Dによる2Dグラフィックスで描かれていたため原画に忠実なルックを維持できていた。しかし今回は3D化するため、それによって原画から離れてしまわないよう、細かいチェックを随所で行いながらモデリングを進めた。

    • ▲Live2Dで表現している従来の戸山香澄
    • ▲今回3Dモデル化した香澄。ルックの再現性はかなり高い

    ライブ映像内でも原画のルックを保つキャラクター専用シェーダ

    原画のルックを3Dライブ内でも忠実に再現するため、キャラクター専用のシェーダを開発。Maya(モデリング)用とUnity(実装)用に2種類のシェーダを同時開発し、作業環境を問わず、同じルックでキャラクターデータを確認できるようにした。

    • ▲ベースカラー
    • ▲シェーディングを追加
    • ▲マスクによる影を追加。影マスクには顔モードとノーマルモードが用意され、部位に応じて影の出方を調整できる
    • ▲スペキュラを追加
    • ▲リムライトを追加
    • ▲アウトラインを追加
    ▲エミッシブ(発光)を追加。ブルームなどのポストプロセスの要素はMayaではプレビューできないためUnity側で追加する

    表現力豊かなアウトライン設定

    アウトラインの設定は、ラインの色や太さだけでなく、アウトラインにZオフセットをかけたり、そのオフセットに対してマスクを設定したりといったこともできる。

    また、アウトラインに対して影やベースカラーを合成するOutline Color Modeや、アウトラインの合成方法を設定するOutline Color Blend Methodも用意。

    • ▲髪のアウトラインに対してOutline Color ModeをBlend Shadow Colorに設定。赤味がかったアウトラインになった
    • ▲Outline Color Blend MethodをColorBurnに設定。アウトラインが濃い色になった

    前髪に透けて見える眉もシェーダで描画

    アニメ作品でよく見られる、前髪の奥にある眉毛が透けて見える表現は、2回描画することで実現。

    • ▲1回目は不透明で描画。眉は前髪に隠れている
    • ▲2回目はアルファブレンドによる半透明で、カメラに向けて頂点シェーダでオフセットさせて描画
    ▲【上の2画像】を重ね合わせた眉。これにより、髪の設定を変えることなく眉を描画できている

    イラストチームと共同で進めた衣装の3D化

    キャラクターの衣装は3D化を前提としていないデザインのものが多く、モデリングでは苦労したという。そのため、新規追加する衣装は三面図やアニメ版の設定資料の提供を受け、3D化しやすい環境を整えた。

    また、これまでLive2Dで実装されていた衣装で背面がわからないものは、イラストチームが背面のデザインなどを描き起こしている。3D化した衣装データはイラストチームの監修を受けて、衣装設定上の違和感が出ないように配慮。

    なお、過去の衣装の人気投票を行い、選出された衣装の3D化も行なった。

    • ▲今回新規に描き起こした香澄の衣装の三面図
    • ▲3Dモデル

    シースルー素材や光沢感も妥協せず描画

    シースルー素材を使った衣装の半透明処理は描画処理の負荷などデメリットが多い。しかし本作は衣装デザインの再現を最優先とし、あえてモバイルでは難しい半透明表現にチャレンジした。

    ▲衣装の半透明部分の描画。左は不透明部分を描画した状態で、右は半透明部分を専用バッファに描画し、不透明部分の上にブレンドした状態。内側のスカート上にシースルーのスカートが乗っている様子が綺麗に表現されている
    ▲MatCapを使ったアクセサリの光沢感表現。左は未使用、右はMatCapを使って環境マッピングを行い、光沢感を強調した様子

    モーション&ライブディレクション編に続く。

    CGWORLD 2023年12月号 vol.304

    特集:限界に挑む! 最新モバイルゲームグラフィックス
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2023年11月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT _大河原浩一(ビットプランクス)
    EDIT_小村仁美/ Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada