リリース6周年を記念し、3Dライブモードを実装した『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』。3Dキャラクターによるバンド演奏をリズムゲームの背景でリアルタイムに再生するための様々な工夫を、Craft Eggとexsaの開発チームに聞いた。
本記事では、キャラクターモデリングについて解説した前回に続き、モーションとライブ演出について紹介する。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 304(2023年12月号)からの転載となります。
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Information
開発:Craft Egg
リリース:好評配信中
価格:基本料金無料(アプリ内課金あり)
対応プラットフォーム:iOS、Android
ジャンル:リズム&アドベンチャーゲーム
bang-dream.bushimo.jp
©BanG Dream! Project ©Craft Egg Inc. ©bushiroad All Rights Reserved.
モーション
モーションを使い分けてキャラの魅力を引き出す
キャラクターアニメーションの制作については、3Dライブをexsaが担当し、3Dカットインや衣装の着せ替え画面、リズムゲームが始まる前のアニメーションをCraft Eggが担当。3Dライブでは基本的にモーションキャプチャを利用し、その他は手付けでアニメーションを制作していることから、3Dライブとその他ではモデルに異なったセットアップを施している。
「3Dライブ用のキャラクターモデルは、キャプチャデータを扱いやすいようにHumanIKでリグをセットアップしました。それ以外は全キャラクター共通のカスタムリグでセットアップしています」とCraft Eggのグラフィックスエンジニア江口大喜氏は話す。
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左から 宮澤竜平氏(3Dディレクター)、若林邦甫氏(MV・演出ディレクター)、佐竹雄紀氏(グラフィックスエンジニア)、江口大喜氏(TA/グラフィックスエンジニア)
exsaのプロデューサー加藤淳一氏はこの点について「アニメーション制作については3DライブとMV外の3Dカットイン等ではそもそも目指すところがちがっていますから、必然的に使用するリグも変わります。
着せ替え画面や3Dカットインのカメラワークは、よりキャラクターにフォーカスするものです。かなりキャラクターに寄った状態になるということで、キャラクターの細かい動きやニュアンスが伝わるように手付けにしたということですね」と補足した。
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左から 加藤淳一氏(第二制作部開発推進課課長/プロデューサー)、コカージェローム氏(第二制作部開発推進課課長補佐/チーフエンジニア)
3Dライブモードでは、バンドの各ポジションに好きなキャラクターを自由に編成することができる。これを実現するためには、同じモーションデータを身長やプロポーションが異なるキャラクターに適用し、再生できるようにする必要がある。
その場合、通常はキャラクターごとの身体的特徴を加味してモーションを修正していくことになるが、キャラクターと衣装の組み合わせ数が膨大な本作では、それは非現実的だ。
そこで今回、キャラクターの特徴ごとに自動でボーンにスケールがかかり、衣装がキャラクターのプロポーションに合うしくみを実装した。なお、キャラクターの身長差はカメラワークにも影響してくるが、本作ではキャラクターの身長に応じてカメラワークに自動調整が入り、最適なレイアウトになるという機能も実装。レイアウト上の問題を回避している。
目的に応じて2種類のリグを用意
exsaが担当した3Dライブのモデルは、MotionBuilderなどでのキャプチャデータのオペレーションのしやすさを考慮してMayaのHumanIKでセットアップ。一方Craft Eggで作業するモデルは、細かな動きを手付けするため、カスタムリグでセットアップしている。
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衣装を自動でキャラクターの身丈に合わせるスケーリングシステム
キャラクター衣装の着せ替えについては、1サイズの衣装(ボディ)をキャラクターの身丈に自動で合わせるスケーリングシステムを開発。衣装を単純にスケールするのではなく、プロポーション反映のため、ボディのパーツごとに太さなどを調整する。
キャラクターの読み込み後、ボディのHumanoidのアバターは削除され、ボディの骨を移動してHumanoidを再生成する際にスケールが変更される。胸の大きさも各キャラクター・各衣装で3パターン用意。
キャラクターモデルは全て155cmで制作され、出力時に頭部とボディに自動で分割。設定に応じて組み合わせる際に、頭部モデルに登録されたキャラクター情報を読みとり、ボディの変形に反映するしくみだ。
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モーションキャプチャを用いた3Dライブ制作のながれ
3Dライブはまず、クリーンアップ前のモーションキャプチャデータでレイアウトを作成する。同時にカメラデータやキャラクターのアニメーションデータを出力して楽曲に合わせ、楽曲全体のライティングや特徴的なカットのエフェクトを試作する。
その後はUnityに実装し、ゲーム内で使用するキャラクターに置き換えながら、演奏に合わせた口パクや目線、身長差を考慮してカメラ位置を調整し、仕上げていく。
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キャラに応じたアニメーションの補正
3Dライブモードではバンドの各ポジションに自由にキャラクターを設定できるため、キャラクターの体型によっては、楽器に対する手の位置がずれることがある。
そうした不具合を回避するため、手の位置と回転を楽器のアニメーションにベイクし、楽器を手のIKターゲットにして、ベイクした位置に移動する処理を行なっている。これは手でスタンドマイクを握ったり、キャラクター同士で手を合わせたりするモーションにも活用している。
また、衣装と楽器の干渉を防ぐため、楽器にはコリジョンを設定している。
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▲身長差に応じたカメラレイアウトの調整例。カメラの高さ補正にキャラクターの身長差分を加えることでレイアウトを調整する。調整前 -
▲調整後。見切れていた頭部がレイアウトに収まった。身長差分の何%を補正に適用するかはアニメーターが個別に設定する
シルエットが異なるミッシェルには専用設定を適用
メンバー構成を変更する際に問題になったのが、メンバーにミッシェルを選んだ場合。ミッシェルは他のキャラクターと比べるとシルエットが極端に異なるため、専用の設定を用意した。
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▲頭部のサイズが極端に大きいため、共通モーションキャプチャデータを使用した際に手が頭にめり込む。それを防ぐため、専用のコリジョンを適用した -
▲ギターを弾く際には、ボディにギターが埋まらないように、IKでギターに腕が追従する設定を施した
細かな表情を手付けできるフェイシャル
フェイシャルは基本的にブレンドシェイプで表現。ブレンドシェイプのデータは全アニメーションで共通だが、3DライブのフェイシャルはUnityで設定している。表情のバリエーションや細かな設定もUnityからコントロールできるため、表情の調整でMayaに戻る必要はない。
口パクについては別途設定を用意しており、表情変化と口パクを合わせる操作は簡単に行えるという。なお、楽曲に合わせて自動的に口パクするシステムも考えたが、楽曲とズレているように見えたり、表情に合わない口の開け方になってしまったりすることから、今回は全て手付けで調整した。
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揺れものはMagica Clothでシミュレーション
スカートなどの揺れものは、Unityの有料アセットMagica Clothでシミュレーションしている。シミュレーション結果はほぼ使い回しができないため、身長や体型の差を考慮しつつMagica Clothのビューアで確認し、微調整をくり返しながらアニメーションを仕上げているという。
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ライブディレクション
練られた演出が映える野外&屋内ステージ
バンドメンバーたちが演奏を披露するステージは屋内ステージと野外ステージの2種類を制作。数を絞る代わりに、見映えの良い、完成度の高いステージを目指して開発を進めたという。
「特に後から追加した野外ステージはデザインありきではなく、こういう演出をしたい、こういうカットで見せたいという、演出先行で考えてデザインしたものです。デザインの担当者はアニメの背景美術の制作経験があり、映像になることを前提としたステージデザインをつくってくれました」とCraft EggのMV・演出ディレクター、若林邦甫氏は話す。
野外という特性を活かして、夜には花火を上げるなどの演出も施している。
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ステージの演出には絵コンテを用意したり、曲によってはVコンテや、仮モデルを使ったプリビズを用意したケースもあった。
「絵コンテのつくり込みに関しては、現場や後工程の作業で迷わないように、プリプロ段階で演出コンセプトを明文化して、共通認識をもつ目的でつくっていきました。定位置からの動きが少ないバンドものという性質上、量産の過程で似通った構図ができてしまうこともあるのですが、コンセプトレベルで差別化してあるので、各楽曲ならではの画づくりが達成できています」(若林氏)。
登場するバンドの中には数年ぶりに新規実装されたグループもあり、リファレンスが少ない中で迷いながらも演出を練っていったという。
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非常にリッチな画づくりのステージだが、本作はリズムゲームという性質上、描画のフレームレートがとても重要になる。60fpsを保ちながらリズムゲームの背景として3Dライブを表示するため、フレーム分割レンダリングを採用。60fpsでリズムゲームを再生しながら、3Dライブの部分のみ2フレーム使って実質30fpsで3Dシーンを更新することで負荷の軽減を図っている。
「これまでの『バンドリ!』コンテンツが培ってきたセル調表現との親和性を考え、60fpsでは滑らかすぎたことから、30fpsでの表現に着地しました」(若林氏)。
巨大かつ煌びやかな2つのステージ
3Dモデルで用意したステージは現在、屋内と野外の2ステージ。
屋内はアリーナ級の広さをもった会場で、野外は音楽フェスの会場を想定したものとなっている。
野外ステージはアニメの美術監督を経験したスタッフがデザインしており、演出の若林氏もかつてアニメ演出を経験していることから、アニメの美術設定やカット制作のような映像演出的な観点での共通言語が多く、スムーズに制作を進めることができたという。
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絵コンテ、プリビズによる認識の共有
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細かく調整可能な観客のサイリウムアニメーション
ライブを盛り上げる演出の要素のひとつに、観客の存在を感じさせるサイリウムのアニメーションがある。特にステージ後方からのバックショットでは非常に映える演出となる。
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3Dカットインにおけるカメラの位置・ズーム補正
身長差によるカメラ位置の補正は3Dライブだけでなく3Dカットインでも行なっている。特にキャラクター2人が共演するカットインの場合、カメラの高さに対する補正だけではなく、引きの補正も実行。
具体的な計算方法としては、身長差をベースにカメラの最大の引き位置を計算しておき、演出する2人の身長差から線形補間した値を引き量として設定している。
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CGWORLD 2023年12月号 vol.304
特集:限界に挑む! 最新モバイルゲームグラフィックス
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年11月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT _大河原浩一(ビットプランクス)
EDIT_小村仁美/ Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada