『スターオーシャン セカンドストーリー』(1998/以下、『SO2』)のリメイク作品である『STAR OCEAN THE SECOND STORY R』(以下、『SO2R』)は、2023年11月2日の発売以来、国内外のゲームファンから高い評価を受けている。その開発の舞台裏を、前後編に分けて紹介する。

記事の目次
    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.308(2024年4月号)掲載の「原作のドット絵表現を活かしつつ、3Dによる新たなスタイルを確立『STAR OCEAN THE SECOND STORY R』」を再編集したものです。

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    『STAR OCEAN THE SECOND STORY R』前編:原作のドット絵表現を活かしつつ、3Dによる新たなスタイルを確立

    INFORMATION

    『STAR OCEAN THE SECOND STORY R』

    プラットフォーム:Nintendo Switch/PlayStation 5/PlayStation 4/Steam
    価格: 通常版 6,578円(税込)
    発売:スクウェア・エニックス
    開発:ジェムドロップ
    www.jp.square-enix.com/so2r

    STAFF

    ▲左から、長谷川心太氏・3D背景、山田恒輝氏・3D背景、石井拓也氏・3Dエフェクトリード、佐々木 駿氏・3D背景、北尾雄一郎氏・ディレクター/開発プロデューサー、山口真人氏・2Dキャラクターリード、渡邉佳代子氏・3D背景リード、吉川英雄氏・プログラムディレクター、石黒千歳氏・3D背景、金倉賢一氏・3D背景、山本晴貴氏・プログラマー、増田幸紀氏・アートディレクター(以上、ジェムドロップ)。小牧 恵氏・プロデューサー(スクウェア・エニックス)は写真非掲載

    より面白くするための工夫を積極的に盛り込む

    原作ではプリレンダーによる1枚画の切り替えで表現していた背景を、『SO2R』では3Dマップに変更し、アレンジや改良も加えている。「これは僕の経験に根ざした考えですが、昔のゲームをリメイクするときに、内容はそのままで、見た目だけ綺麗にしてもユーザーは新鮮味を感じないんです。"綺麗になったね" といった感想で終わってほしくなかったので、原作の特徴を残しつつ、より面白くするための工夫を盛り込みました」(増田氏)。


    例えば、原作の神護の森とアーリア村は真っ直ぐに舗装された道でつながっていたが、3Dマップで再現してみると退屈で間がもたない画になった。そのため道を緩やかに蛇行させ、両側に麦畑を配置して、見映えのする風景へと改良している。一方で、神護の森の出口付近とアーリア村の中を流れていた特徴的な2本の川は、『SO2R』でも再現した。「原作の川は広域のワールドマップになると途中で途切れていたのですが、『SO2R』では2本の川が合流して、海へとつながる地形をつくっています。そういった辻褄合わせは説得力を高める上で重要なので、丁寧にデザインしました」(増田氏)。なお『SO2R』では "原作のテキストを変更しない" という決まりがあったため、キャラクターの台詞に合わせて川をつくるといった辻褄合わせも行なっている。


    『SO2R』ではエフェクトも3Dでつくっているが、カメラに合わせてビルボードのキャラクターが回転した際に、戦闘時の攻撃エフェクトがズレてしまう問題が発生した。そのため該当するエフェクトは最終出力時にビルボードと同じ挙動にし、キャラクターに合わせて回転させることでズレをなくす対策を施している。

    神護の森のリメイク

    ▲原作の神護の森
    ▲開発初期には原作に近いカメラアングルで方向性を探った
    ▲カメラを下げ、奥行きのあるレイアウトに変更した
    ▲完成した神護の森。「"その名にふさわしい、神々しさを感じる森にしてほしい" というのが増田の指示だったので、初期の試作を意識しながら光を調整しました」(山田恒輝氏・3D背景)

    アーリア村のリメイク

    ▲原作のアーリア村
    ▲『SO2R』のアーリア村。麦畑のおかげで良い画になったが、最適化で苦しんだ
    ▲レナの家や村長の家は、原作の特徴を残しつつ、現在のユーザーを意識したデザインを起こした
    ▲ショップなどではMegascansのアセットも有効活用している
    ▲上空から見た原作のアーリア村
    ▲『SO2R』でも村内の川は再現しつつ、橋を2個に増やして遊びやすくした

    フィールドにおける、ブレンドカメラの設定

    ▲神護の森やアーリア村などのフィールド上のカメラはキャラクターに追従する設定になっており、どこを切り取っても良い画になるよう調整されている。【上】神護の森の出口付近の画と、上空から見た配置/【下】少し森に入っただけでアーリア村が隠れるように調整されている
    ▲上空から見た神護の森。「キャラクターが赤色ボックスの中にいる間は事前にアーティストが設定した値がカメラに適用され、青色ボックスに移動すると、周辺にある赤色ボックスの値がブレンドされます。このしくみをプログラマーに実装してもらったことで、滑らかに値が推移するカメラが実現しました」(山田氏)

    ハーリーの町のリメイク

    ▲最初に訪れるアーリア村の家はデザインから起こしたが、ハーリーの町の制作時には、それ以前につくったクロス城下町やクリクの港町の建物をレベルデザイン段階から配置して効率化を図った。「早い段階で雰囲気を掴めるようにアセットを配置し、町の入口付近だけつくり込んで増田のチェックを受けました。それから全体の完成度を上げることで、やり直しを最小限に抑えています」(長谷川心太氏・3D背景)
    ▲左のホテルは原作テキストの台詞で「海の見える最高の部屋」と表現されているため、海の近くに配置した
    ▲アセットストアのモデルをモジュール化して組み合わせることで、バリエーションを増やしている
    ▲キャラクターの頭身に合わせて、アセットを調整した

    ラクール前線基地のリメイク

    ▲ラクール前線基地の制作でも、レベルデザイン段階から既存アセットを配置することで効率化を図った
    ▲完成した前線基地。重要イベントに関わるラクールホープ(左端の巨大兵器)はイチから制作した。「修正を依頼するときには、必要最小限のメモと説明用画像を事前に渡し、詳細は相手の席に出向いて口頭で伝えることで時間を節約しました」(増田氏)

    リンガの聖地のリメイク

    ▲「町と同じくダンジョンも、原作の特徴を残しつつ、現在のユーザーに楽しんでもらえるアレンジを企画と相談しながら加えました」(佐々木 駿氏・3D背景)。【左】原作と【右】『SO2R』のリンガの聖地の全体像
    ▲【左】原作の三叉路は【右】『SO2R』でも再現する一方で、高所から飛び降りるギミックを新たに設けている

    愛の場のリメイク

    ▲【上】原作の愛の場では橋が回転するギミックを採用したが、【中】【下】『SO2R』では「泉の精は花で満たされた庭園を愛する」という設定を追加し、キャラクターが歩いた跡に花が咲くギミックへと変更した。「もっと "愛" が伝わる見せ方にしたいという企画の提案を受けて、演出を考えました」(佐々木氏)

    グレムリンレアーのリメイク

    ▲「原作の高威力魔法は発動する度に20秒程度の長尺演出が入り、その間ユーザーは操作できません。現在の感覚で見るとテンポが悪いため、企画と相談しながら再構築しました」(石井拓也氏・3Dエフェクトリード)。【上】原作と【下】『SO2R』のグレムリンレアー。複数回攻撃するという原作の特徴は維持しつつ、尺を縮め、発動中の操作も可能にした。降り注ぐグレムリンのドット絵も新規制作している

    サザンクロスのリメイク

    ▲サザンクロスは『SO2R』でも映像演出を残したが、尺は半分程度に縮めた

    UnityのTimelineを活用した、プロローグムービー制作

    ▲プリビズ段階
    ▲「レイアウトから、編集、レンダリングまで全てUnity上で行い、シェーダもゲームから転用できたので、早いペースでトライ&エラーをくり返せました」(金倉賢一氏・3D背景)

    ワールドマップのリメイク

    ▲【左】原作の惑星エクスペルのワールドマップのサイズ/【右】「原作の大きさだと村や町などの拠点間の距離が近く、世界を探索している実感が弱いと思ったので、本作は1.5倍の大きさにしています。結果、つくり方の工夫が必要になったり、最適化が大変だったりしました」(渡邉佳代子氏・3D背景リード)
    ▲人工惑星エナジーネーデのセントラルシティが位置する大陸の【上左】ベースと【上右】完成形。【下】ベースの上に、自然地形やシティのシンボルを乗せている。このつくり方には、後からの変更が容易、使用アセット数を削減できるなどのメリットがあった
    ▲【上左】【上右】山のアセットはHoudiniで制作し、【中】生成したマスクを【下】Unityに組み込んだ後、ワールド座標を用いてテクスチャを適用した。これにより、拡大してもディテールの維持が可能になった。赤と緑の領域には、Megascansの異なるマテリアルを適用してブレンドしている
    ▲LODは4段階で、一番軽いもの(奥の列)はシェーダも含めて軽量化を図った
    ▲森を最適化するために制作したアセット
    ▲【上】開発当初は木を1本ずつ植えていたが、【下】開発終盤に半分以上の木を前述のアセットに置き換えて最適化を図った。「距離でカリングすると遠くの木が消えてしまう問題が発生していたのですが、この対応で解決できました」(渡邉氏)
    ▲【上】シルエットだけが見える遠方の陸地には、【下】軽量なシェーダを適用。「フォグ色とハーフランバートによるシェーダを適用し、シルエットだけ描画してGPU負荷を抑えました。一部プラットフォームでテクスチャの読み込み量を削減するなどの対策も施しています」(山本氏)

    アーリア村のワールドマップ

    ▲【上左】神護の森の出口付近と【上右】アーリア村の中を流れていた2本の川は、【下】ワールドマップでも再現した
    ▲【上左】フィールドマップ上の建物の【上右】ポリゴンを削減して、【下】ワールドマップ上のシンボルとして配置している。フィールドマップと同じサイズだと成立しないため、2階建ての家とキャラクターが同じ大きさになる程度まで縮小した。「本作はシンボルエンカウントなので、敵と遭遇した場合の遊びやすさも考慮しながら、アーティスト主導で村や森、山などのサイズ感を決めていきました」(増田氏)

    クロス城下町と、ファンシティ近辺のワールドマップ

    ▲クロス城下町の制作過程。段階的に川の面積が増え、豪華になり、釣りを楽しめる場所が増えた。町に入ったキャラクターが散策できるのは入口付近のみだが、ワールドマップでは全域をつくった
    ▲ファンシティの制作過程。「舗装されたシティと周囲の平野がパキッと分かれているのは不自然だったので、エントランスを拡張し、周囲に馴染むようにデザインしています」(石黒千歳氏・3D背景)
    ▲ホフマン遺跡が位置する大陸のコリジョン。オレンジは飛行できるサイナードのめり込み防止、青はキャラクターの移動制限、緑は岩も登れるバーニィの移動制限のために設定した
    ▲白点の間にコリジョンを配置するツールをプログラマーが開発し、アーティストがマップ全域に3種類のコリジョンを設定した。「原作にない高低差のあるマップを採用した結果、緻密な設定が必要になりました」(渡邉氏)
    © 1998, 2023 SQUARE ENIX Original version developed by tri-Ace Inc.
    『STAR OCEAN THE SECOND STORY R』前編:原作のドット絵表現を活かしつつ、3Dによる新たなスタイルを確立

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.308(2024年4月号)

    特集:アニメ『アイドルマスター シャイニーカラーズ』
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年3月8日

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    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota