人気ゲーム『モンスターストライク(以下、モンスト)』の新キャラクター・マサムネをフィーチャーした新作オリジナルアニメ『マサムネ - 使命の赤き刃 -(以下、マサムネ)』が、昨年末に前後編としてYouTubeにて公開(※)された。本作の制作を担当したのは『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』(2022)や『ニンジャバットマン』(2018)などの作品で知られるYAMATOWORKSだ。
CGWORLD.jpでは、本作のメイキングを3回にわたって紹介していく。第2回はアセット制作とルックデヴにおけるYAMATOWORKSの新たな技術的挑戦と創意工夫について、3Dモデリングディレクターの澤田覚史氏、3Dルックデブディレクターの大原伸一氏、3D演出(前編)の稲垣颯大氏に聞いた。
関連記事
・YAMATOWORKS流でキャラクターの魅力を存分に引き出す〜モンストアニメ『マサムネ - 使命の赤き刃 -』(1)演出篇
モンストアニメ『マサムネ - 使命の赤き刃 -』
メイキング動画
<1>制作体制
過去最長の作品に挑むYAMATOWORKSの制作体制
『マサムネ』は、YAMATOWORKS史上最長となる約40分の作品だ。制作には社内スタッフ約30名に加え、協力会社として武右ェ門の約20名のスタッフも参加した。
武右ェ門が担当したのは、前編の約150カットにおけるアニメーションからレンダリングまでと、一部のキャラクターモデリングだ。モデリングディレクターを務めた澤田覚史氏は、「『エクスカリバー SPECIAL MOVIE』(2023年10月公開)で武右ェ門さんにモデリングを担当していただいた際、とても良い仕事をしていただいたので、今回もお願いしました」と、協力体制の経緯を語る。
さらに、武右ェ門のCGI監督である小久保将志氏は、かつて森田修平氏やルックデヴディレクターの大原伸一氏とともに『FREEDOM』や『SHORT PEACE』を制作していたサンライズ荻窪スタジオのクリエイターであり、YAMATOWORKSのメインツールであるLightWaveへの深い理解をもっていることも大きな要因だった。
前編の3D演出を担当した稲垣颯大氏は、「小久保さんは、僕にとってLightWave使いの大先輩です(笑)。知らない機能を教えてもらったり、コンバート検証で大きく助けてもらったりと、実制作以上にお世話になりました。武右ェ門さんの協力なしには、この作品の制作は考えられませんでした」と語る。制作期間は、2023年3月〜5月がアセット制作、6月〜10月がカット制作、そして11月がリテイク期間にあてられた。
武右ェ門のメインツールはMayaであるため、今回はYAMATOWORKS側でLightWaveからデータをFBX形式で書き出し、Mayaにコンバートして制作を進めた。
「『武右ェ門さんの方でやりやすいようにしてください』とお渡ししたところ、YAMATOWORKSでつくったルックデヴと変わらないクオリティに仕上げていただけました」と稲垣氏が語るように、信頼に応える出来映えを見せたという。
YAMATOWORKS側ではモデルのセットアップ構成の変更が頻繁にあり、常に武右ェ門側のモデルに共有できるよう、更新情報を保持する必要があった。そこでコンバートする際に、必要な情報が保持されているモデルをつくり、毎回の更新時に崩れていないかどうかを担当者が手動で確認した。
YAMATOWORKSでは、モデリングにMODO、セットアップにLightWaveを使用している。UV展開の際にはMODOに戻し、レンダリングはLightWaveで行う。本作ではテクスチャを使用せず、レンダリングした素材をAfter Effects(以下、AE)でコンポジットしている。また、ラスボスであるフガクに関しては、ZBrushとSubstance 3D Painterを使用した(詳細は後述)。
<2>アセット制作
演出陣がデザインを手がけた背景モデル
背景モデルについては、演出編でも紹介したように、絵コンテ・演出を担当した森田修平氏、佐々木達也氏、曽野氏がそれぞれ原図を起こし、それらに基づいてモデリングを行なった。
演出家が美術設定まで担うことは珍しいが、今回は演出家陣が背景制作会社出身(佐々木氏)や漫画家(曽野氏)であったため、特異なケースとなった。チェックについては、キャラクターモデルやプロップモデルは澤田氏が、背景モデルは演出家と背景担当者が行なった。工程上、絵コンテと背景制作が同時に進むため、演出によって背景が変更されることもあれば、その逆もあるためである。
作画のように髪のニュアンスを制御する「AddHair」
マサムネ、ミカド、イワクラには、それぞれ長短2種類と、手描きのようなニュアンスを出すための細い毛の「AddHair」が用意され、これによりカットごとに繊細な表現が可能になったという。稲垣氏はこれを「3Dで2Dをつくるような感覚」と表現した。
「作画アニメでは、キャラクター設定画は存在しますが、実際のカット内では、カットの内容によって“よりディテールのある画”として描かれることが多々あります。CGキャラクターは形状が一定のため、設定画基準でモデリングしただけではカメラが寄った際にどうしても情報量が不足してしまいます。そこで今回、アニメーターからの要望で、アップ時にはウィッグのように髪の毛を加える手法を採りました」と澤田氏はこの手法を採用するにいたった経緯を説明する。
実際、このAddHairに相当する技術は、先述の『エクスカリバー』以降、YAMATOWORKSで部分的に使用されてきたが、今回本格的にシステム化し運用が始まった。今後の作品での活用が期待される。
竹谷隆之氏の造形デザインの情報量を立体化したラスボス・フガク
ラスボス・フガクのデザインは、『仮面ライダー』シリーズなどで数々のクリーチャーを手がけてきた造形作家の竹谷隆之氏によるものだ。ラスボスとしての風格や強大さ、恐ろしさがしっかりと表現されたデザインだが、これを作り上げるには通常のモデリングワークフローでは困難であったため、ZBrushを使用して制作された。
「竹谷さんのデザインの情報量をそのまま立体化しようと試みました。アニメキャラクターのトゥーン的なつくり方ではなく、むしろ一般的なリアルCGのようにスカルプト造形からのリトポロジーやリダクションを行なった上でUV展開をし、Substance 3D Painterでテクスチャを描いています。また、試験的にディスプレイスメントマップを使用して情報量を足しています」(澤田氏)。
フガクはその造形からデータ量が非常に大きく、さらにマサムネに斬られた状態の派生モデルも存在するなど、制作が難航したモデルだった。
稲垣氏は「セットアップの段階に入ってもまだルックデヴを行なっていました。竹谷さんのデザインと造形が非常に良かったので、どうしてもそれを活かしたくて」と、アセット制作期間を超過しても完成度を高めるために制作が進められていたことを語った。
最後の完成度を積み上げる秘術「ショットスカルプト」
さらに本作では「ショットスカルプト」を行なっている。澤田氏は「アニメーション工程終盤の時期の打ち合わせの中で、アニメーターが『あと少しだけ詰めきれないニュアンスの部分がある』と話したことがきっかけでした。海外の制作事例でショットスカルプトという手法があると聞いていたので、モデラーに比較的余裕があるこのタイミングで試してみました」と、その経緯を語った。
その「詰めきれないニュアンス」とは、主に手の芝居だった。本作では、手で相手を掴んだり、決意を表現するなど、手による心情の演出が多く見られるが、CGではそれを作画ほど繊細に描くには至っていなかったという。従来のボーンやモーフを使った調整に加えて、LightWave 2019から新たに加わったメタモーフィック機能(モデルに対して頂点アニメーションを行う)を使うことで、絵を直接的に触ることが可能になった。
澤田氏は「当然、カットごとに画づくりの調整は行なっていますが、その上でさらに微細なニュアンスを突き詰めたいときに使う方法です。スカルプティングした後では指の印象がまったくちがいます」と説明し、稲垣氏はこれを「80点を90点にする」と表現した。
比較的新しいツールであるため、まずアニメーション後の工程として導入して使ってみたが、「演出からの評判もかなり良く、今後、全体に向けて導入していく流れになっています」と稲垣氏は語った。
<3>ルックデヴ
2種類の用途に分けたキャラクターモデル
YAMATOWORKSのキャラクターモデル制作の特徴として、レンダリング用モデルとは別にアニメーション用モデルが用意されている点が挙げられる。
レンダリング用モデルは、最低限のテクスチャしか貼られておらず、レンダリングに特化した設定がされているため、アニメーションには適していないことが多い。そのため、アニメーション用モデルは、アニメーターが最終的な映像をイメージしやすいようにテクスチャが貼られ、シーンができるだけ軽量になるよう最適化されている。
AE上でテクスチャを調整する手法によりアニメ的な画づくりを容易に
ルックデヴの工程では、まずモデルがOKになった段階で全てのUVを展開し、テストカット上でレンダリングの設定(塗り色、線、各種マスク、落ち影、ジオメトリ、ディフューズ、UV)を行う。それらのレンダリング素材を使ってコンポジットすることでアニメ的な画づくりを行なっている。色彩やアウトラインの太さ・強弱は、原作ゲームのイラストを参考に組み立てている。
また、ルックデヴにおいても武右ェ門とのやりとりが発生するため、レンダリング素材の数をできるだけ少なくする工夫がなされている。キャラクターのコンポジットには共通のAEPを使用し、LightWaveで出力されるレンダーバッファと同じ素材を、武右ェ門側ではMayaのレンダーレイヤーとAOVを用いて出力している。さらに、Maya側のラインレンダリングにはPencil+を使用している。
さらに、各カットによって、「線」「影・ハイライト」「色」といった要素の調整が必要になる。この際、修正しやすいようにマスク素材(細かいものと大まかなもの)を出力している。アウトラインの太さは細すぎず、太すぎず、基本的には細めに出しておき、AEを使ってカットごとに調整を行なった。
本作では、ごく一部を除き、CGモデルにほぼテクスチャを貼らず、AE上でテクスチャを載せる手法を採用している。
「AE上でUVにテクスチャを貼る際には、ft-UVPassというプラグインを利用しています。これにより、コンポジションをテクスチャとして貼り付けることが可能です。AE上であれば、パスアニメーションを使ってテクスチャを動かすこともできます。
例えば、キャラクターが影から現れるような動きの場合、UVコンポジション内で影を描いているパスをAからBへと動かすだけで表現できます。また、3Dライティングによる影よりも、洗練されたデザイン的な影や線をつくりやすいという利点もあります」と3Dルックデブディレクター 大原伸一氏は話す。
「レンダリングアーティストの仕事には、画面を成立させるためのエラー潰しのような側面がありますが、今回のように影の形を少しでも格好良くしようとクリエイティビティを働かせるマインドをもつことができました。
その際には、作画アニメの格好いい影付けの研究もしました。また、AE上にデータが残るので、後に似たようなカットが出てきた場合には参考や流用することができ、作業効率がどんどん良くなりました」と大原氏は語る。
AE上で色を付ける手法により待ち時間をつくらない
本作では、AE上でカットごとの色の調整を行なっている。各シーンにおける色彩設計・色指定は背景美術の後工程となるため待ち時間が発生しがちだが、この方式を用いることでその待ち時間をなくし、仮色で効率的に3Dセル化の作業が進められる。シーン固有の色を当てる場合も、色指定表の画像を置き換えるだけで、セルの色が変わるようにAE上で設定されている。
(3)アニメーション篇に続く。
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota