人気ゲーム『モンスターストライク(以下、モンスト)』の新キャラクター・マサムネをフィーチャーした新作オリジナルアニメ『マサムネ - 使命の赤き刃 -(以下、マサムネ)』が、昨年末に前後編としてYouTubeにて公開(※)された。本作の制作を担当したのは『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』(2022)や『ニンジャバットマン』(2018)などの作品で知られるYAMATOWORKSだ。
CGWORLD.jpでは、本作のメイキングを3回にわたって紹介していく。第3回はアニメーションとレンダリングにおけるYAMATOWORKSの工夫について、3Dアニメーションディレクターの坂本隆輔氏、吉野功一氏、3D演出(後編)の丸山貴大氏、3Dルックデブサブディレクターの石川将輝氏に聞いた。
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モンストアニメ『マサムネ - 使命の赤き刃 -』
メイキング動画
<1>リギング
カットに合わせた調整を前提としたシンプルなリグ
YAMATOWORKSでは、アニメーターがリギングから担当するケースが多い。本作では、まずアニメーションディレクターの坂本隆輔氏(前編担当)と吉野功一氏(後編担当)がリギングの方向性を決め、各キャラクターごとのディレクションを行なった。
細部までつくりこんだしくみを最初から準備するのではなく、アニメーターの柔軟性や想像力を活かすためにいかにシンプルに構成するかが重要であったという。
表情芝居には特にこだわり、モーフィングとリギングを組み合わせた変形をスムーズかつ直感的に操作できるよう工夫した。
「カット作業が進むと、骨の数が足りなかったり、モーフィングの調整が必要になることがありますが、そのような場合でもアニメーター用のモデルを自由にカスタマイズできるよう、柔軟なフローを整えています」と、後編の3D演出を務めた丸山貴大氏は語る。
レイアウト期間中には、モデラーがアニメーターからのフィードバックを受けて、イワクラの肩周りのトポロジーを変更したり、ウェイトを修正したりといった対応も行なったという。
<2>アニメーション制作
アニメーション制作フロー
本作のレイアウト作業は、一部の作画カットを除いて基本的に3Dレイアウトで進められた。
本作の3Dレイアウトには大きく分けて3つのラインがあり、最もシンプルな場合は1カットにつきキャラクターの画を1枚用意する。さらにキャラクター芝居が必要なシーンでは3〜4枚を用意し、動きの多いアクションカットなどでは演技の構成やカットのプランニングをレイアウト段階で綿密に行うため、相応に工数が増加する。
また、前編の議事堂や山道のシーンでは、ロケハンを実施し、撮影した写真を加工して背景原図として使用している。
レイアウトOK後に、アニメーション作業が開始される。キャラクターアニメーションにはLightWaveが用いられている。
YAMATOWORKSでは、セカンダリアニメーションも含め、1人のアニメーターが1カットの最終段階まで担当するため、テイク1の段階で細部の動きまで付けた状態で提出されることもあったという。アニメーターは1人あたりレイアウト、アニメーションを含めて毎月約10カットを仕上げるというスケジュール感で進められた。
キャラクター性を意識した表情の制作
本作では3D用のキャラクターデザイナーを置いていなかったため、フェイシャルアニメーションの指針となるリファレンスを坂本氏が制作した。
「シナリオや絵コンテをもとに、どのような表情が必要かを想像しながら、3Dルックデヴディレクターの大原さんと相談して進めました。その際、特に注意したのは、原作ゲームにおけるキャラクター性をしっかりと保つことです。
制作資料を参考にしつつ、リアクションが過度にオーバーにならないよう、アニメーションとして必要な表情の振り幅を考慮しました。さらに、三面図をつくる過程でモーフの調整を行い、ルックデヴでの検証を重ねながら仕様を確立していきました」(坂本氏)。
フェイシャル制作を効率化するYSプラグイン
フェイシャルアニメーションの制作においては、YAMATOWORKSとサブリメイションが共同開発した「YSプラグイン」が活用された。
例えば、アオリの表情を作成する際には骨の変形とモーフィングの変形を別々に行う必要があるが、このツールを使うと、一度作成した表情を登録し、後のカットでその表情を呼び出し参考にすることができる。
ただし、登録した表情を100%そのまま使用するのではなく、目や口などのパーツを部分的に組み合わせたり、調整を加えて使用するなど、あくまで各カットにおける感情表現を重視し、作画アニメと比べても遜色のない表情芝居を追求したという。
前編・議事堂でのバトルシーン
前編の議事堂でのバトルシーン(CUT-079)では、マサムネが兵士を斬り倒しながら足技をくり出す大立ち回りが描かれているが、実際にはカメラを動かさず、マサムネを中心に背景を回転させることで、空間的なアクションを演出している。
「アニメーターはキャラクターの演技を見るだけでなく、カメラマンの視点ももつ必要があります。その際、カメラをある程度固定して集中すべきポイントを絞ることで、動きに専念できるのです。3D空間上でどこから見ても綺麗に見える必要はありません」(坂本氏)。
後編・マサムネがフガクに向かって飛んで行くシーン
後編の、マサムネがフガクに向かって飛んで行くシーンは、立体的でダイナミックなカメラワークが特徴だ。しかし、背景を3Dで制作すると処理が重くなるため、全て2D美術で制作した。まず3Dでカメラワークをテストし、その映像を参考に2D美術をAfter Effectsで配置することでカットを構成している。
「必要な美術を選んで効果的に配置する演出プランニングには高度な技術と経験が求められます。吉野はこれが得意で、後編のディレクションを担当しながら、このような難度の高いカットも見事に仕上げてくれました」(坂本氏)。
<3>エフェクト
作画とのハイブリッドで表現したフガクの登場エフェクト
フガクの登場シーンでは、滝から出現するような迫力を表現するため、作画によるエフェクト制作が進められた。しかし、このシーンでは3Dキャラクターのフガクとエフェクトが絡む表現が必要であり、作画だけではその表現が難しかった。
そこで、3D素材を用いてフガクに絡むエフェクトや出現マスクなどを制作し、最終的にはそれらを作画エフェクトと組み合わせてカットを構成した。
Houdiniが活用されたフガクの消滅シーン
終盤のフガク消滅シーンでは、光り輝くマサムネによって呪いが浄化されていく。
このカットはエフェクトがメインとなり、拡散する光や浄化される呪いなど、多様なエフェクト表現が要求された。アニメーターの北居士龍氏はLightWaveとHoudiniの両方を使いこなし、このカットを1人で仕上げた。
<4>カットに合わせたルック構築
アニメーションがFIXし、データ処理が完了した後は、LightWaveで各素材をレンダリングし、それらをAEに読み込んで各カットのルックを組み立てていく。アニメーターからの要望やルックデヴ側からの提案によって、この時点でエフェクトを追加することもあるという。
「演出家やアニメーターの意図を理解し、それをさらにカットのねらいを反映したかたちで表現することが重要です。例えば、キャラクターが歯を食いしばっているカットでは、シワや影を追加して強調することがあります。
また、影付けの際には、アニメーターが指定する光源とは異なるものをルック側から提案することもあります。エフェクトが多かったり、特殊な背景がある場合には、明るい色の使い方や影の量など、色の印象を大きく左右する要素に細心の注意を払う必要があります」(3Dルックデヴサブディレクター・石川将輝氏)。
特に難しかったシークエンス
前編は暗い議事堂や森の中、後編は明るいシーンや黄色い光に包まれるシーンなど、難しいシークエンスが多かったという。
TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota