幕末の日本を舞台としたオープンワールドのアクションRPG『Rise of the Ronin』。歴史物アクションに定評のあるコーエーテクモゲームスTeam NINJAの新たな挑戦に迫る。

記事の目次

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    ・Team NINJAの技術力が随所に光る幕末アクション『Rise of the Ronin』前篇

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 313(2024年9月号)からの転載となります。

    『Rise of the Ronin』
    発売:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
    開発:コーエーテクモゲームス
    リリース:発売中
    価格:8,980円(通常版)
    Platform:PlayStation 5
    ジャンル:オープンワールドアクションアドベンチャー
    www.playstation.com/ja-jp/games/rise-of-theronin
    © 2024 コーエーテクモゲームス. Rise of the Ronin is a trademark of KOEI TECMO GAMES CO., LTD. Published by Sony Interactive Entertainment Inc.

    オープンワールドで見せる“夜明け前の時代”

    物量に対応するためにHoudiniを本格導入

    本作の背景は横浜、江戸、京都のオープンワールドとミッションステージで構成される。

    「本作では、資料を参考にしつつゲームとしての魅力をより引き出すためにフィクション要素を加えて創作しています。例えば、横浜の開港記念館は当時まだありませんでしたが、平屋建ての建築物が多かった中で、横浜の西洋感を象徴しながら、ワールドの中にわかりやすく象徴的なランドマークを置くにはどうしたら良いかということを慎重に検討した結果、置くことにしました」とエンバイロメントアートリード・加藤裕之氏は語る。 

    前列左から テクニカルディレクター・高橋裕太郎氏、CGディレクター・岡本翔太氏、CGディレクター・小林賢典氏、後列左から シネマティックリード・岡田修一氏、キャラクターアートリード・古田希望氏、テクニカルアートリード・岡本尚也氏、エンバイロメントアートリード・加藤裕之氏、グラフィックプログラマー・鄧 曉禧氏
    以上 コーエーテクモゲームス

    実制作では、オープンワールドにTeam NINJAらしいアクションを入れ込むというのは初めての試みであり、膨大な物量の制作をいかに効率化するかがチャレンジになったという。

    まずオープンワールドとミッションステージでチームを分け、それぞれ並列で作業を進めるようにしつつ、Houdiniを最大限活用し、ステージを極力自動生成できるしくみを検討した。また、樹木のLODもエンジン上で半自動的に生成できるようにツールが開発された。

    制作は横浜のステージから始まり、検証を重ねながら他のステージをつくり込んでいった。各ステージは日本的な色味や光の感じ、大気感が出るように心がけており、遠景の山々の青味がかった色も日本の大気感を意識して表現したという。

    「日本的な色合いの表現は、これまで多くの歴史ものをつくってきたリファレンスや感覚、強いて言えばコーエーテクモゲームスの歴史の蓄積とも言えます。ステージは何度も修正をくり返しました」(加藤氏)。

    エリアごとのコンセプト

    ステージ制作に先だって作成されたコンセプトアート。

    • ▲横浜。横浜港が開港されたことによってもたらされた西洋的なモダン建築と、従来の日本的な家屋が同居する和洋折衷な世界観のステージとなっており、日本の夜明け的な空気感が表現されている
    • ▲江戸。江戸は横浜と対照的に暗く病的な雰囲気に包まれた世界観になっており、衰退していく幕府の権威や光と影に翻弄される民衆の苦しさが表現されたデザインとなっている
    ▲京都。朝廷、幕府、薩長の各派閥の思惑が入り乱れる怪しい雰囲気をもつ。曲がりくねった坂など、誰もがもつ京都のイメージが詰まっている

    史実と創作のバランス

    本作では史実をモチーフとしつつ、フィクションとして、場所によってはその時代になかった建築物などもランドマークとして配置されている。ただ、その場合も基本的に当時の技術でつくることが不可能なものはNGとしており、その他はチーム内で議論を重ねて決めていったとのこと。

    • ▲江戸のランドマークとして取り入れられた江戸城の天守閣。幕末期にはすでに存在しなかったが、権威の象徴ということで入れることになった
    • ▲横浜の開港記念館は当時はまだ建設されていなかったが、オープンワールドで移動する中でランドマーク的な高い建物が必要だと考え、配置することに。横浜のステージではガス灯も配置されているが、時代的にグレーではあるものの、横浜の西洋的なイメージを強調するために採用されたという
    • ▲Team NINJAのオフィスがある江戸の麹町(現在の市ヶ谷)あたりにある忍者屋敷。完全にフィクションの建築物だがこっそりと配置されている
    • ▲ゲーム内の地図で見た忍者屋敷の位置。ぜひ訪れてみてほしい

    Houdiniによるアセットの自動配置

    オープンワールドを作成するにあたり、膨大なアセットを効率良く配置していくためHoudiniを使ったアセットの自動配置のしくみが用意された。単純に自動配置すると直線的で日本らしい街並みが生成できないため、古地図を参考に道のテクスチャを作成し、そのテクスチャをベースに配置が行われるようになっている。

    ▲古地図を基に作成した江戸の道用テクスチャ
    • ▲道用テクスチャを利用してHoudiniで区画データを作成
    • ▲区画データを基に、同じ建物が隣り合わないなどの条件を設定し、建物のアセットをランダムに配置していく。「開発やCG側の要望を汲みながら家をずらしたり、色や形状に歪みを入れるなど細かく調整しながら進めていきました」(加藤氏)

    ▲道端に配置する細かいアセットも配置パターンをいくつか用意しHoudini上で自動配置している

    ▲小物を自動配置した結果。アセットのリピート感がなく手で並べたような自然な配置になっている

    Houdiniによる地形編集

    オープンワールドのベースとなる地形もHoudiniによって作成されている。広範囲な土地の隆起は地面用のハイトマップを利用して編集し、崖用マップや浸食用のマップを利用しながら、地形のディテールをつくり込んでいる。

    ▲Houdini上に作成された基本地形
    • ▲地面ハイトマップ
    • ▲ステージは2,048m四方に分割して作成
    • ▲Houdiniにハイトマップをインポートした状態
    • ▲さらに浸食をかけて調整
    • ▲Houdini上で浸食を適用し、崖部分を生成
    • ▲特定の角度以上の条件で崖用のマスク画像を生成して出力
    ▲Houdiniで生成された各地面の素材を、エンジン内で地面のメッシュに対して適用していく
    • ▲崖や地面の属性など、樹木が生える範囲の情報もHoudiniから出力する
    • ▲出力された情報を基にHoudini上で樹木の配置イメージを確認して、社内ツールの配置情報に落とし込み植生配置を実現

    四季の変化

    ステージは時間や天候のほか、季節によっても変化する。例えば江戸であれば春に桜が咲いたら夏に向けて葉が茂ってきたり、針葉樹と広葉樹が入れ替わる。日本の風土を再現するために、各地の季節による当時の植生のちがいを調べながらプリセット化していったという。

    • ▲江戸の春。桜の花が咲いている
    • ▲同位置での夏。花は枯れ、桜の木も葉が茂った状態になっている
    ▲同位置での冬。雪が積もり草もまばらになっている。桜の木は葉が落ちている

    リアルな世界観に合わせたエフェクト

    オープンワールドならではの多彩な制作手法

    本作に登場するエフェクトは、リアルな世界観の中でプレイされる作品であるため、ファンタジー的なルックのエフェクトではなく、斬撃や血飛沫、炎などリアル系のルックが多い。エフェクトはアクションに付随することが多いため、モーション完成後に担当者からテキストベースで要望を受けながら進められた。

    制作には基本的にKatana Engine上の内製ツールが使われており、爆発などはHoudiniで作成したエフェクトを連番ファイルで出力して利用しているという。

    今回エフェクトチームでは、プログラマーと連携してプレイヤー周辺に生成される環境エフェクトをある程度自動化するということに力が入れられた。

    「例えばプレイヤーがオープンワールドの中で移動するときに、プレイヤーの周囲に生えている樹木の種類によって、落ちてくる葉の種類が変わるといったエフェクトを入れたい場合、全ての場所にエフェクトを仕込んでおくのは手数が多すぎるため、プレイヤーがいる場所を判断して自動的に環境に適したエフェクトが出るようなしくみをつくっています」(小林氏)。

    なお、エフェクトに使用しているマテリアルのうち目立っているのはグローマップを使用している程度だというが、黒船の甲板に漂う蒸気などはキャラクターが遮ると動きに合わせてたなびいたりするため、Katana Engineの2D Fluidによる流体シミュレーションが活用されている。

    戦闘に華を添えるバトルエフェクト

    • ▲3Dメッシュによって作成された血飛沫の素材。エフェクトは2Dマテリアルを使って表現されているものも多いが、血飛沫に関しては立体で作成されている
    • ▲Character Editor上で血飛沫とキャラクターを合わせてタイミングを調整
    ▲インゲームにおける血飛沫のエフェクト。3Dメッシュであるためボリューム感のある血飛沫になっている
    • ▲Effect Makerによる炎斬撃の設定画面。刀が火をまとう炎斬撃のエフェクトは、2Dスプライトでは刀の軌跡に応じたトレイルが表現できないため、パーティクルを使って表現されている。非常に動きが速いエフェクトなので、コントロールに苦労したエフェクトのひとつだという
    • ▲インゲームでの炎斬撃のエフェクト。刀の軌跡に沿って綺麗な弧を描く
    • ▲敵の攻撃にタイミングを合わせ捌く石火のEffect Makerによる設定画面。石火はアクションの手触り感と直結する本作らしい表現が求められるエフェクトであったため、リテイクの回数を重ねながら作成していったという
    • ▲インゲームでの石火エフェクト

    環境エフェクトの自動化

    環境エフェクトはプレイヤーがいる環境に合わせて出現するエフェクトだ。本作では、例えばプレイヤーの近くにある樹木の植生のちがいに応じて自動的に落ちてくる葉の種類が変化する。

    • ▲プレイヤーがもみじの近くにいる場合。紅葉したもみじの葉が降っている
    • ▲プレイヤーが桜の木の近くにいる場合

    幕末の暗さを表現するライティング

    独自開発のシステムでメリハリある画づくりを実現

    本作の見どころとして、幕末の混沌としたノワール感が存分に表現されたオープンワールドのルックがあるが、これらのルックはこだわり抜かれたライティングによるところが多いという。

    「幕末の暗さをきちんと表現したいということで、独自のリフレクションプローブを開発しました。遮蔽された場所はきちんと暗く、部屋の中でも外からの太陽光が反射しているところは明るく、光が届かないところは暗くなど、画面の中でしっかりとコントラストがつくように明暗を整理していきました。

    このしくみではエミッシブも間接光として出てくるようになっており、行灯のオレンジ色の光に照らされた室内も効果的に表現することができます。長期間開発を続けてきて、本作でやっとこのようなクオリティの明暗の表現に達しました」と岡本翔太氏は話す。

    本作では、時間や天候、季節の変化など条件に応じて多彩なライティングやエフェクトをステージに施すことができるようになっている。時間変化によるライティングの変化は、Katana Engineのシステムで実際の緯度や経度に準じた設定が可能だ。

    また、昼、夕方、夜とポストエフェクトによるカラーグレーディングが施されており、よりドラマチックな表現にもこだわっているという。ポストエフェクトはこのほかにもブルームやレンズフレア、色収差などオーソドックスなものをひととおり使用している。

    ライティングに付随してシャドウの表現もこだわった点のひとつだという。オープンワールドでは、影の描画負荷が問題になることが多い。そのため、PCSS(Percentage Closer Soft Shadows)によるリアルタイムシャドウとIES(Illuminating Engineering Society)を活用した擬似シャドウを併用することで負荷を軽減している。

    独自開発のリフレクションプローブ

    本作のために開発されたリフレクションプローブは、幕末の暗い雰囲気の表現にひと役買っている。

    • ▲リフレクションプローブをOFFにした状態。本来光があまり届かないであろう室内の部分も明るくなっており、非常に平面的な画になってしまっている
    • ▲リフレクションプローブをONにした状態。光が届かない部屋の中は暗く影になっており、太陽光の反射が間接光として天井を照らしている。ライティングにメリハリが出て、より奥行き感のある画になっている。外が相対的に明るく見えるので、視線誘導もしやすい
    • ▲遊郭でのシーンでリフレクションプローブをOFFにした状態。建物の奥の方まで明るくなってしまっている
    • ▲リフレクションプローブをONにした状態。建物の周囲が暗くなることで行灯の明るさや色、妖艶な雰囲気が上手く表現されている

    時間・天候変化

    Katana Engineによる時間帯に応じたライティング変化の例。Katana Engineでは緯度・経度、時間をパラメータ入力すれば自動的に適切なライティングが設定されるようになっているが、そのまま使用すると本作の画づくりに合わない部分もあるため、さらに細かい設定が施されている。特に、夕方から夜にかけてのライティングの変化にはかなり細かい調整を加えている。

    • ▲朝
    • ▲昼
    • ▲夕方
    • ▲夜
    • ▲Katana Engineでは天候の変化もパラメータで調整でき、5種類の天候を設定でき、天候間の変化は自動補間される。画像は晴れ
    • ▲雨。ただ天候が変化するというだけではなく、地面が濡れた状態なども表現されている

    大友啓史監督が演出を手がけたカットシーン

    キャラクターメイクの結果に沿った細かな調整

    最後に、ゲーム中に挿入されるカットシーンについて紹介する。本作のカットシーンは、一般的な映像制作のワークフローと同様に台本作成から始まり、絵コンテ制作、コンテ打ちを経て制作に入るというながれで進められた。

    実写映画『るろうに剣心』シリーズなどを手がけた大友啓史監督が演出として参加し、一緒につくり上げていったという。カットシーンのアクションはモーションキャプチャを使用しているが、その収録にも大友監督が立ち会ったとのこと。

    モーションキャプチャが終了するとカット制作に入るが、ゲーム演出との兼ね合いでカットの尺調整が必要な部分はプリビズを作成し、Mayaでカット制作に入る前に演出を調整。Mayaでの作業が終わった後は、Katana Engineのイベントエディタに読み込み、エフェクト、ライティングの各チームが作業に入る。

    「カットシーンでは、キャラクターメイクの結果がカットシーンにも影響するので、どのようなキャラクターの状態でもそのカットが成立するように調整しています。そこは制作の中でも特に注力した部分ですね」と岡田氏は話す。

    ライティングもインゲームとは若干異なっているが、例えば帽子の落ち影やリムライト表現など、明暗の差を大事にしながらライティングが施されている。影になっている暗い部分であっても、緻密にディテールをコントロールするように注力していったという。

    また、カットシーンでは多くのフェイシャルが必要になるが、顔のアップが多く、繊細な演技が求められるため重要な表情にはブレンドシェイプを使用。なお、インゲームは8ヶ国語に対応しているが、「カットシーンは日本語と英語に対応しており、日本語のリップシンクを作成した後に英語のリップシンクを必要部分だけ作成し差し替えています」(テクニカルアートリード・岡本尚也氏)。

    カットシーン制作のながれ

    ▲カットシーンの絵コンテの一部。大友監督が参加することで非常に映画的なカット割りになっている
    ▲モーションは、アクターの演技をモーションキャプチャで収録して利用。収録では大友監督が参加し演技指導がなされた
    ▲カットの演出に変更があったり、カットの尺の取り方が難しい場合には絵コンテとモーション収録風景を並べたプリビズを作成して検討
    ▲Maya上で細かいカメラワークやキャラクターの動きを編集。フェイシャルもこの段階で付けられている
    • ▲Mayaでの作業が終了したらKatana Engineのイベントエディタに読み込み、ライティングやマテリアルの設定を施した後、細かい調整を行う
    • ▲完成カット

    主人公の体格差の反映

    カットシーンに登場する主人公は、キャラクターメイクで作成されたキャラクターがそのまま反映される。男性主人公と女性主人公では身長や体格に差があるため同じモーションであってもそのままでは同じようなレイアウトにならない。そのため、カットシーン制作時にはどのキャラクターでも成立するようにKatana EngineのIKや体格補正技術によって調整されている。

    ▲男性主人公の場合
    ▲女性主人公の場合。体格差があっても印象を崩さず同一カットシーンが再現されている

    CGWORLD 2024年9月号 vol.313

    特集:VRChatへ飛び込もう!
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年8月9日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_大河原浩一(ビットプランクス)
    取材協力_榊原 寛
    EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada