月刊 『CGWORLD + digital video』vol.314(2024年10月号)掲載の特集「3Dビジュアライゼーションの最前線」から、PART 01-1 Project PLATEAU[3D都市モデル]を全3回に分けて転載する。

国土交通省が進めるProject PLATEAU(プラトー)は、日本全国の3D都市モデルを作成し、都市計画、防災管理、コンテンツ制作などに幅広く活用することを目的としたプロジェクトだ。同省の内山裕弥氏と椿 優里氏に、これまでの変遷と最新の取り組みを語ってもらった。

記事の目次

    誰もが開発にコミットできる、オープンな3D都市モデルをつくる

    CGWORLD(以下、CGW):PLATEAUにおける、お2人の役割から教えてください。


    内山裕弥氏(以下、内山):本プロジェクトの開始は2020年で、私は当初から2024年3月までプロジェクト・ディレクターを務めました。今は別の課に異動していますが、ADVOCATEとしてPLATEAUの技術まわりのアドバイザーを務めています。

    内山裕弥氏

    国土交通省 総括課長補佐/PLATEAU ADVOCATE 2024

    椿 優里氏(以下、椿):私は内山の後任として、プロジェクト・ディレクターを務めています。

    椿 優里氏

    国土交通省 都市局 国際・デジタル政策課 国際・デジタル政策企画調整官/Project PLATEAU プロジェクト・ディレクター

    ▲PLATEAU Concept Film 2024

    CGW:本プロジェクトは、どのような経緯で始まったのでしょうか?


    内山:コロナ禍をきっかけとして、2019年あたりから政府全体でDXの必要性が高まってきました。都市局が担当するまちづくりの領域でも、デジタル技術を用いて新たな価値を生み出したり、課題を解決したりする必要があるという議論が起こり、その中で、3D都市モデルの導入というアイデアが生まれてきました。現在の都市の快適性や安全性を評価するにしても、持続可能なまちづくりのためのシミュレーションをするにしても、信頼できる都市デジタルツインは必要ですからね。


    CGW:参考にした先行事例はありますか?


    内山:フィンランドのヘルシンキ、オランダのアムステルダム、シンガポールなど、世界各国が先行して3D都市モデルを開発していたので、それらを参考にしながらプロジェクトチームを結成しました。例えば多くの諸外国はCityGML 2.0という国際標準規格で3D都市モデルのデータを提供しており、PLATEAUもこれに倣っています。CityGML 2.0はリッチなデータを構造化して格納できるフォーマットで、データ交換用の中間フォーマットという側面もあります。PLATEAUではCityGML形式でのデータ整備と併せて、様々なデータ形式へ変換するためのツールも提供しており、利用者が自らの開発環境に合わせてデータを活用することを可能にしています。CGWORLDの読者に馴染み深い、OBJやFBXへの変換も可能です。

    [POINT 1]CityGML 2.0を採用

    CityGML2.0は、産・官・学の様々な機関から構成される地理空間情報に関する国際標準化団体のOpen Geospatial Consortium(OGC)により策定された、3次元都市空間を記述するためのデータ交換フォーマットだ。地理空間情報に特化したXMLフォーマットであるGML(Geography Markup Language)を拡張したサブセットとして定義されており、多様なフォーマットとのデータ連携を可能にしている。実装仕様はOGC Technical Committee Standards Working Groups(SWG)内のCityGML SWGで議論されている。なお2024年8月現在、同SWGの3人のGroup Chairの1人を、日本人の石丸伸裕氏(日立製作所)が務めている。

    CityGMLでは、3D都市モデルを表現・交換・保存するための概念モデルとデータフォーマットを定めており、都市を構成する基本的な地物、基本的な特性、データ構造などを定義している。地物として、建築物、道路、土地利用など、特性としてジオメトリ(幾何形状)、属性(名前、種類など)が定められている。この技術により、ジオメトリとセマンティクス(意味情報)を統合した都市デジタルツインを実現している。

    CGW:『CGWORLD vol.314』の表紙ビジュアルはWOWに制作を依頼しており、PLATEAUの渋谷のLOD 1〜2や、そのテクスチャデータなどを使っています。PLATEAU-SDK-for-Unityを用いてFBX形式でエクスポートしたものを、Cinema 4Dにインポートしたと聞いています。

    ▲渋谷区渋谷のLOD 1データ
    ▲渋谷区渋谷のLOD 2データ
    ▲渋谷区渋谷のLOD 2データ(テクスチャ付き)
    ▲WOWが制作した、『CGWORLD vol.314』の表紙ビジュアル

    [POINT 2]LOD概念の導入

    CityGMLはLOD概念を有しており、ひとつの地物に対して、複数段階のジオメトリを統合して保持させることが可能。この技術により、大スケールで大量のデータを解析するときにはLOD 1を用い、小スケールで詳細な解析を行うときにはLOD 3を用いるといった、利用目的に応じたLODの選択が可能となり、パフォーマンスを最適化できる。

    LOD 0は、高さをもたない外形線のみの平面情報となっている。なお、PLATEAUのLOD情報は段階的に拡充中であり、LOD 1や、LOD 2までしか作成されていない地物もある。

    同じ標準仕様で管理され、品質が統一されたデータを提供

    内山:国際標準であるCityGML標準仕様はあくまで基本的なデータモデルを定義しているだけなので、実際に3D都市モデルをつくる際には、日本の都市構造に合わせた非常に細かい実装仕様を決める必要がありました。例えばPLATEAUでは、日本独自の地物として[地下埋設物モデル]というものを定めています。そのひとつにマンホールがあって、LOD 1では矩形、LOD 2では円形の外周を地表面から下向きに押し出した立体を作成します。ただし、地表から視認できるマンホールの蓋の直径と、地中に埋まっている円柱部分のマンホールの直径はイコールではなく、中心点もずれているのです。となると、どこを中心点にして、どのように押し出せば良いと思いますか?


    CGW:地中の情報がないなら、蓋の中央を中心点にした方がつくりやすそうですね。


    内山:その通りです。実際にはマンホールの設計図が残っておらず、地下がどうなっているかは現地調査をしないとわからない場合がほとんどなので、データ整備のフィジビリティの観点から、中心点は地表から測量できる蓋の中央と定め、真下へ押し出すことにしました。そういった細かい仕様を地道に決めて、「3D都市モデル標準製品仕様書」というドキュメントにまとめていったのです。(※HTML版はこちら


    椿:さらに、実際にデータをつくる際の作業手順も「3D都市モデル標準作業手順書」というドキュメントにまとめています。(※HTML版はこちら)例えばLOD 1では建築物を一律の高さに押し出すことになっていますが、実際の地面や建築物の上面は真っ平らではない場合がほとんどです。建築物の下面と上面の高さの取得方法を決めておかないと、作業者や都市ごとにバラバラのデータがつくられてしまいます。


    内山:PLATEAUの目的は、単に3D都市モデルをつくることではありません。全国で均一化された品質の、誰にとっても安定的で利用しやすい標準化されたデータの提供を目指しています。北海道の札幌市から沖縄県の那覇市まで、全部のデータが同じ標準仕様で管理され、品質が統一されていることがPLATEAUの最大の特徴です。もしデータ構造が標準化されていなければ、例えばSDKにインポートしたときにエラーが発生して、余計なコストが生じてしまいます。加えて品質基準が明らかにされていなければ、安心してデータを使うことができませんから、仕様や手順を記した詳細なドキュメントを整備して公開しています。


    椿:2021年3月にドキュメントの第1.0版を策定し、2022年3月に第2.0版、2023年3月に第3.0版、2024年3月に第4.0版をリリースしました。更新の度に標準化の範囲を拡張し、第3.0版で都市デジタルツイン作成に必要な主な地物のカバーが完了しました。

    [POINT 3]ドキュメントの整備

    「3D都市モデル標準製品仕様書 第4.0版」に記された、LOD 0〜LOD 4のマンホールの取得イメージ。LODごとに、様々な地物の仕様が細かく定められている
    「3D都市モデル標準作業手順書 第4.0版」に記された、LOD 1における建築物の高さの取得例と、そのルールに則ってつくられた建築物の例
    No.2は、1月21日(火)に公開します。
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    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.314(2024年10月号)

    特集:3Dビジュアライゼーションの最前線
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2024年9月10日

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    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_遠藤大礎/Hiroki Endo
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota