月刊 『CGWORLD + digital video』vol.314(2024年10月号)掲載の特集「3Dビジュアライゼーションの最前線」から、PART 01-1 Project PLATEAU[3D都市モデル]を全3回に分けて転載する。

国土交通省が進めるProject PLATEAU(プラトー)は、日本全国の3D都市モデルを作成し、都市計画、防災管理、コンテンツ制作などに幅広く活用することを目的としたプロジェクトだ。同省の内山裕弥氏と椿 優里氏に、これまでの変遷と最新の取り組みを語ってもらった。

記事の目次

    関連記事

    Project PLATEAU>>No.1 誰もが開発にコミットできる、オープンな3D都市モデル Project PLATEAU>>No.2 実際の都市の変化に合わせ、PLATEAUの3D都市モデルも更新

    利用者の課題解決につながる、チュートリアルやソリューションも開発

    CGWORLD(以下、CGW)スペースデータの事業が国土交通省の中小企業イノベーション創出推進事業に採択され、フォトリアルな都市デジタルツインを自動生成するAIの開発に5年計画で取り組むことが2024年4月に発表されましたね。


    内山裕弥氏(以下、内山):スペースデータとは、PLATEAUのモデルをインプットにして精緻なデジタルツインを生成するAIの開発プロジェクトを連携して進めています。PLATEAUのモデル自体の自動生成が可能になったとしても、映像やゲームなどのコンテンツ領域でそのまま使えるようなクオリティにはなりません。そこで、コンテンツ領域向けのシェーダやマテリアル、「小物」などを自動生成・配置するソリューションが必要になってきます。

    CGW:PLATEAUのWebサイトでは、チュートリアルやソリューション開発の事例も数多く公開していますね。


    内山:PLATEAUはGISデータがベースになっているので、慣れていない方には扱いが難しいのです。しかし私たちは、ゲームエンジンやWebアプリ上で動かしたり、データベースに投入したり、CG映像やイラストの制作に活用したりといった幅広い用途での利用を期待してきました。だから2022年度以降は、それを支援するチュートリアルもつくるようになりました。なにより私自身がソリューション開発に苦労していたので、多くの利用者の課題解決につながるナレッジの蓄積が急務だと肌身で感じていたのです。CG映像の領域では、WOWにチュートリアルの制作を依頼しました。WOWのようなプロフェッショナル集団をアサインし、高品質な作例映像を制作することで、「プロも使うんだ」と利用者に実感していただくことがねらいでした。一方で利用者の裾野を広げるため、誰もが無料で使えるBlenderを使用ソフトとして指定しました。ほかにも、CLIP STUDIO PAINTを使ってイラストや漫画用の背景をつくるチュートリアルなどを公開しているので、ぜひ活用していただきたいです。

    [POINT 7]幅広いチュートリアルの公開

    PLATEAUのWebサイトで2024年3月に公開されたWOWによるチュートリアル「PLATEAUを使った映像作品を作る」は、新潟市の3D都市モデルを使ってつくられた。

    PLATEAUを使った映像作品を作る:夜景編[1/2]|建築物を作る
    PLATEAUを使った映像作品を作る:夜景編[2/2]|夜景を作る
    PLATEAUを使った映像作品を作る:昼景編[1/2]|リアルな街並みを作る
    PLATEAUを使った映像作品を作る:昼景編[2/2]|空想的なシーンを作る

    ▲作例映像の夜景のショット
    ▲3D都市モデルをインポートしたBlenderの作業画面
    ▲新潟市の展望台からiPhoneで撮影した写真をマッピングすることで夜景を表現した
    ▲作例映像の昼景のショット
    ▲LOD 2のビルの凹凸は屋上のみ再現されており、壁は平らなので、窓の凹みを追加してディテールアップを図った
    ▲エッジにベベルを適用したり、屋上にパイプや室外機のKitbashモデルを追加したりして、ビルの情報量を増やした

    民間のアイデアを集めなければ、ソリューションは生まれない

    椿 優里氏(以下、椿):チュートリアルは約50個、ソリューション開発の事例は100個以上公開しています。


    内山:私たちは様々な自治体や企業、有識者などと意見交換しながら、PLATEAUを活用することで、世の中のどんな課題を解決できるかを常に論じています。その中で出てきたアイデアを集約してプロジェクト化し、多様なソリューションを開発しているのです。例えばスペースデータの場合は、代表の佐藤航陽さんが衛星データとAIを使って生成した都市デジタルツインの映像をXにポストしているのを私が見つけて、「一緒に何かやりませんか?」とアプローチしました。


    CGW:ものすごくアグレッシブですね。


    内山:やりたいことや技術をもっている人を、いかに巻き込むかが一番大事ですからね。民間のアイデアを集めなければソリューションは生まれないので、オープンに議論することが重要です。例えば「地下街データを活用したナビゲーションシステム」というソリューションで実装したAR機能は、過去に福岡で実施したハッカソンの参加チームが「天神の地下街はわかりづらいから、ARで地上を見通せる機能があると良いですよね」と言ってつくったデモからアイデアを得ました。


    CGW:PLATEAUのハッカソンとソリューション開発が、そのようにつながっているのは面白いですね。

    [POINT 8]民間を巻き込み、多様なソリューションを開発

    [地下街データを活用したナビゲーションシステム]

    実施事業者:JR東日本コンサルタンツ
    実施場所:東京駅エリア/品川・高輪エリア

    2023年度に実施した本事業では、駅周辺の地上・地下の3D都市モデルを統合したデジタルツイン基盤を構築し、エリア全体をシームレスにつなぐナビゲーションシステム開発の実証実験を行なった。詳細はこちらを参照。

    ▲東京駅での実験では、エリアマネジメント団体より提供された東京駅周辺の7つのビルのBIMデータと、PLATEAUの地下街モデルを活用し、異なる施設管理者が共通して利用可能な3次元地図基盤がつくられた。これにより、まちづくりのDX推進、エリアマネジメントの高度化に寄与できることが確認された
    ▲GPSが効かない地下でも屋内測位により自分の位置が高精度にわかるため、地下から地上へのシームレスなナビゲーションが可能
    ▲スマホを天井に向けると、屋内にいながら周辺ビルがARにより表示される
    ▲災害時には出発地から避難場所までの経路を3Dナビ画面上で案内してくれる

    [XR技術を活用した市民参加型まちづくりv2.0]

    実施事業者:ホロラボ/日建設計/日建設計総合研究所
    実施場所:東京都八王子市北野地区/広島市中区、南区(紙屋町・八丁堀・相生通り)

    2023年度に実施した本事業では、3D都市モデルとXR技術を組み合わせた、まちづくりワークショップの運営システムを開発した。詳細はこちらを参照。

    ▲【上】torinome Plannerでカードを認識すると、【下】白地図上に3DのまちがARで浮かび上がる
    ▲【上】ワークショップ参加者が設計したまちはtorinome Webに登録され、【中】【下】torinome ARによって現実世界に重ねてAR表示できる。3つのツールを組み合わせた本システムにより、まちづくりへの市民参加の促進や議論の活性化を実現した

    [歴史・文化・営みを継承するメタバース体験の構築]

    実施事業者:ANA NEO/JP GAMES/アクセンチュア/TOSE
    実施場所:京都府京都市 先斗町・鴨川/祇園新橋

    2023年度に実施した本事業では、3D都市モデルを活用し、現実空間を舞台としたメタバース空間を、コンシューマクオリティで制作する手法を開発した。詳細はこちらを参照。

    ▲プラットフォームアプリのANA GranWhaleにつくられた、【上】辰巳大明神や、【下】夜の鴨川のメタバース空間
    ▲【上】辰巳大明神周辺のLOD 3と、【下】Maya上でディテールアップしたモデル
    ▲Unity上にディテールアップしたモデルを入れ、表示用とIBL用の全天球画像を撮影し、リダクションしたコリジョン用モデルに適用することで、軽量かつ高精度な空間を実現した

    内山:PLATEAUは開発者コミュニティの醸成にも多くのコストをかけており、ハッカソンもその一環で実施しています。実際のところ、オープンデータとして公開するだけでは、新たな価値を生み出したり、課題を解決したりする盛り上がりは得られません。面白がって使ってくださる仲間を集めるためには、SDKなどの変換ツールを充実させたり、チュートリアルを公開したり、コンテストやイベントを実施したりすることで、コミュニティの活性化を促す活動が不可欠なのです。


    椿:2022年度以降はPLATEAU AWARDというコンテストも実施しており、グランプリ作品には100万円、ほか作品も合わせると総額200万円が授与されます。3D都市モデルを利用したものであれば作品ジャンルは問いません。2024年度の最終審査会・表彰式は2025年2月15日(土)にオンサイト、およびオンラインで東京都内の会場にて開催します。一般観覧も募集中なので、ぜひご応募ください!

    [POINT 9]コンテストやイベントを実施し、開発者コミュニティを醸成

    ▲PLATEAU AWARD 2023 最終審査会の様子。12組のファイナリストが登壇し、作品のプレゼンテーションを行なった
    ▲PLATEAUの3D都市モデルをPythonで扱うためのライブラリとコーディング環境を構築した小関 健太郎氏の作品がグランプリを受賞した
    ▲大スケールでPLATEAUの3D都市モデルを扱うために、ビジュアルクオリティを維持しつつレンダリングパフォーマンスを向上させるためのスケールアップ技術を開発したSagar Patel氏の作品は逆激励賞を受賞した
    ▲2024年度のPLATEAUのイベントスケジュールを示すダイアグラム。2回のライトニングトーク、3回のハンズオンワークショップ、10回のハッカソンなどを経て、年度末にPLATEAU AWARD 2024 最終審査会を実施する
    ▲2024年6月にオンラインで実施された、PLATEAU Hack Challenge 2024 for ルーキーの成果発表・表彰式の様子。本イベントには国土交通省チームも参加し、内山氏や椿氏も自らUnityやBlenderを操作して3D都市モデルを活用したMVを制作した
    ▲MV制作時のBlenderの作業画面。「椿を撮影した実写映像に対して、Blender内でマッチムーブを行なっています。正面のビルの屋上から歌詞のジオメトリが落下する演出をやりたかったので、FBXの3D都市モデルをインポートして衝突判定や影の描画をしています」(内山氏)
    Copyright© MLIT Japan. All Rights Reserved.

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.314(2024年10月号)

    特集:3Dビジュアライゼーションの最前線
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2024年9月10日

    詳細・ご購入はこちら

    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_遠藤大礎/Hiroki Endo
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota