月刊 『CGWORLD + digital video』vol.314(2024年10月号)掲載の特集「3Dビジュアライゼーションの最前線」から、PART 01-1 Project PLATEAU[3D都市モデル]を全3回に分けて転載する。
国土交通省が進めるPLATEAU(プラトー)は、日本全国の3D都市モデルを作成し、都市計画、防災管理、コンテンツ制作などに幅広く活用することを目的としたプロジェクトだ。同省の内山裕弥氏と椿 優里氏に、これまでの変遷と最新の取り組みを語ってもらった。
関連記事
CC BY 4.0なので、営利目的も含め無料で複製や改変が可能
内山裕弥氏(以下、内山):PLATEAUは現在メンテナンス段階に入っており、利用した方々の意見を聞きながら、データの仕様や詳細度などの最適化を恒常的に行なっています。例えば地下埋設物モデルの土管の「深さ」はジオメトリがもつ緯度・経度・高さから取得できます。他方で、水道管などの施設管理の世界では、標高(東京湾平均海面を基準面とした高さ)ではなく、地表面からの深さという意味の「土被り」と呼ばれる概念が使われています。そこで昨年度の仕様改定では、この「土被り」を属性として記述できるようにしました。そういった利用者からのフィードバックを受けて、誰もが使いやすい標準仕様になるようにメンテナンスしていく活動を2023年度以降は続けています。
CGWORLD(以下、CGW):ジオメトリのLODと属性を統合した構造化データになっている点も、PLATEAUの特徴ですね。
内山:例えばLOD 2の建築物モデルでは、「屋根」、「壁面」、「床」などが「地物」として区別して定義されています。この特性を利用することで、特定の地物だけを編集・加工したり、特定の属性情報をもつ地物だけを抽出したり、現実の都市空間と関連付けたりといったことが可能になります。
[POINT 4]データの標準化・構造化
第1.0版では建築物LOD 0〜2、道路LOD 1などの基本的なセットを対象に標準化。第2.0版では地物の範囲を拡大。第3.0版で都市デジタルツインの主な地物のカバーを完了。最新の第4.0版ではデータの実利用をふまえたメンテナンスを実施した。
PLATEAUの3D都市モデルはメッシュが結合した単なるCGデータではなく、ジオメトリと都市空間のセマンティクス(意味情報)を統合した構造化データで、ビッグスケールかつマルチスケールな情報の表示・抽出に対応できる。
CGW:PLATEAUは「誰もが使いやすい」とのことですが、知的財産権関連の留意点についても教えていただけますか?
内山:クリエイティブ・コモンズ(CC)が定義しているCC BY 4.0というオープンライセンスなので、営利目的も含め、無料で複製や改変が可能です。例えば「絆ノ奇跡」(TVアニメ『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』のOPテーマ)のMVでは東京都港区のデータを使っており、YouTubeの説明文には「Source:PLATEAU (MLIT)」というクレジットを入れてくださっています。著作権や商標権などに関する詳しいガイドラインは「3D都市モデルの導入ガイダンス」の4章に書いてあるので、そちらをご確認ください。
CGW:UnityとUnreal Engine(以下、UE)のSDK以外にも、数多くの変換ツールが用意されているのですね。マインクラフトまで網羅しているとは知りませんでした(笑)
椿 優里氏(以下、椿):全方位の業界に向けて、段階的に整備してきました。UnityとUEのSDKは2023年2月にver.1.0.0をGitHub上でリリースし、その後も利用者のフィードバックを受けながら改良を続けてきました。ver.2.0.0以降は「使いやすい」という声が多数派を占めるようになっています。
[POINT 5]CityGML変換ツールの充実
実際の都市の変化に合わせ、PLATEAUの3D都市モデルも更新
内山:2020年度の時点でも東京23区のFBXデータは提供していたのですが、ダウンロードした利用者からは「重すぎる」という声を数多くいただいていました。なぜかというと、頂点の重複が多すぎたのです。当時はデータ品質の検討が十分ではなく、重複頂点の排除基準が統一できていませんでした。さらに、ひとつの建築物に対して複数の独立したマテリアル・テクスチャ・UVを設定していたので、建築物によってはテクスチャが100個くらい割り当てられているケースもありました。
CGW:すごく嫌ですね。
内山:GIS(Geographic Information System/地理空間データを収集・管理・分析・表示するためのシステム)として使う場合は全データを統合した上で変換するので、当時の私たちはそれが嫌なことだと理解できていませんでした。でもFBXデータをそのまま使う場合はすごく困るのだとCG映像業界の利用者から教えていただいたので、2021年度にはBlenderなどのサードパーティツールを用いた軽量化手法を公開しました。2022年度にリリースしたUnityとUEのSDKでは、ゲームエンジン内でテクスチャのUVを統合してエクスポートする機能を実装しました。エクスポートしたデータは、BlenderやMaya上でもテクスチャ付きで軽快に動かせます。2023年度にはCityGMLの仕様自体を見直し、GISの世界にもUVやアトラス化(テクスチャ統合)の概念を導入し、テクスチャ仕様を取り込みました。
CGW:PLATEAUのデータは、日々進化を続けているのですね。
内山:2020年にPLATEAUを使ってみたものの、「ダメだこりゃ」と感じ、それ以降はアクセスしていない方々もいると思うのですが、かなり使いやすくなっているので、ぜひもう一度使ってみてほしいです。
CGW:実際の都市は日々変化していますよね。PLATEAUの3D都市モデルはどの程度の頻度で更新しているのでしょうか?
椿:2024年8月時点で196都市が作成されており、2023年度は新規に65都市を作成する一方で、既存の77都市を更新しました。東京のような変化の激しい都市は、毎年更新しています。
AIを活用し、PLATEAUのモデルを自動生成するツールや手法も開発中
内山:PLATEAUの3D都市モデルは、全国の自治体が保有している都市計画基本図や、その作成に用いる航空測量用の写真、都市計画基礎調査、関連するGISデータなどの既存資料を再利用してつくっています。これらの資料は定期的に更新されるので、それに合わせてPLATEAUのデータも更新する整備スキームを確立しています。
CGW:3D都市モデルの作成や更新は手作業で行なっているのでしょうか?
内山:GISや画像認識AIなどを活用して自動化している部分もありますが、詳細度の高いLODはCADソフトやCGソフトを使って手作業でひとつずつ調整しています。どこのデータをどの会社がつくっているかは、PLATEAU VIEWの出典情報などから確認できます。これも私たちのこだわりで、自分のつくるものに誇りをもってほしいので明記するようにしています。それと並行して、LOD 1〜2の建築物や道路のモデルを自動生成するツールや、PLATEAU自体をAIの教師データにして都市の点群データからモデルを自動生成する手法の開発も進めています。
[POINT 6]データの整備と更新の高度化・効率化
No.3は、1月22日(水)に公開します。INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.314(2024年10月号)
特集:3Dビジュアライゼーションの最前線
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2024年9月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_遠藤大礎/Hiroki Endo
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota