TVアニメ『片田舎のおっさん、剣聖になる』でYAMATOWORKSが手がけた3DCGの剣撃アクションは、リアリティとケレン味を両立した動きに加え、キャラクターの感情を宿した豊かな表情芝居も秀逸だ。剣の一閃ごとにキャラクターの内面を映し出す、同社の高い技術力と表現力に迫る。なお、本記事は2回に分けてお届けする。

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TVアニメ『片田舎のおっさん、剣聖になる』
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第1話「片田舎のおっさん、首都に行く」
youtu.be/wDaWpM7kh2g
原作:佐賀崎しげる・鍋島テツヒロ(SQEXノベル/スクウェア・エニックス刊)
監督:鹿住朗生
公式HP:ossan-kensei.com
公式X:x.com/ossan_kensei
西洋剣術ベースの説得力ある剣撃アクションを3Dで実現
TVアニメ『片田舎のおっさん、剣聖になる』における剣撃アクションは、単に見映えが良いだけの動きとは一線を画す。そこで表現されているのは、リアルな西洋剣術をベースにしつつ、映像作品としての迫力も追求したアクションだ。この演出方針の背景には、原作者・佐賀崎しげる氏からの「瞬間移動的な動きや、魔法陣演出などの派手なエフェクトに頼らない、説得力のあるアクションを」という要望があった。本作では、剣と体の動きをスローモーションも交えて丁寧に見せることが求められており、その実現には高い精度と柔軟性を備えた3Dが最適と判断された。
アニメーションプロデューサーを務めた別府洋一氏(ハヤブサフィルム)は、3Dによる剣撃アクションを初期段階から視野に入れており、2023年秋頃にYAMATOWORKSに制作をオファーしたという。同社は『ガッチャマン クラウズ』や『ニンジャバットマン』など、これまで数々の作品で高度なアクションを手がけてきた実績をもち、作画と3Dを融合させる職人気質の表現スタイルにも定評がある。「本作をやるならYAMATOWORKSさんしかいないと、最初から確信していた」と別府氏は語った。
本作における3Dパートの演出を担ったYAMATOWORKSの森田修平氏と、同社の3Dプロデューサー・清水一達氏も、並々ならぬ意気込みをもって本作に臨んだ。清水氏は「作画主体のTVアニメで、キャラクターアクションを任されるのは貴重な機会です。信頼して大切なパートを託していただけたことに感謝しています」と語った。

※アニメーションプロデューサー・別府洋一氏(ハヤブサフィルム)は写真非掲載
3Dで描かれたアクションは、リアルな剣と剣の衝突に加え、キャラクターの感情をそのまま軌道に投影するような設計になっている。ピンチなのか、楽しんでいるのか、剣の動きと共に表情にも繊細に表れる。「どこまでが3Dかわからないくらい、本気で仕上げました」と森田氏が語る通り、アクションと芝居が高いレベルで融合した剣撃シーンは、ほかにはない独自の3D表現を確立した。感情を宿す剣撃。以降では、その真髄をひも解いていく。
3Dの立体的整合性と、作画の"理想の見え方"の両立を図る
本作の3Dパートには、YAMATOWORKS社内外のスタッフ約25名が参加し、そのうち約15名がコアメンバーとして制作を牽引した。初期から中心的な役割を担ったのが、3Dアニメーションディレクターの坂本隆輔氏と、3Dディレクターの丸山貴大氏だ。坂本氏は各セクションと密に連携しながら、アニメーション全体のクオリティを管理した。一方の丸山氏も全体を俯瞰しつつ、作画と3Dを馴染ませる意識の徹底を図った。
本作の制作は、剣撃アクションを3Dで表現することを前提に設計されており、キャラクター設定や絵コンテも3Dの進行に合わせて準備された。YAMATOWORKSが提示した予算・物量・スケジュールの枠組みに全体の制作体制を合わせるかたちで調整され、同社が十分な開発期間を確保できるよう配慮された。その結果、設定や作画待ちの期間が発生することなく、3Dの進行は終始安定した。
また、同社が力を発揮できるよう、3Dパートの演出は基本的に森田氏ら3D演出陣に一任され、細かなディレクション待ちが発生しないフローが構築された。副監督の古我 望氏や、ハヤブサフィルムのラインプロデューサーは3Dへの理解が深く、演出方針のすり合わせもスムーズだった。ただし作画では絵を通じて修正内容を伝える一方、3Dでは口頭で指示する場合が多いため、3D演出陣が打ち合わせの場で作画側の演出方針を的確に把握し、作画と3Dの"翻訳係"として機能する体制が整えられた。
本作の劇中では、同じキャラクターが作画から3Dに切り替わるシーンが頻繁に発生するため、両者を違和感なくつなぐことが最大の挑戦だった。3Dモデルの立体的な整合性と、キャラクターデザイン・総作画監督の早坂皐月氏が描く"理想の見え方"の両立を図るため、カメラアングルに応じて形状を変えられるセットアップを導入し、作画と違和感なく馴染む画づくりを実現した。
主人公・ベリルの3Dモデル制作
本作用に制作したキャラクターの3Dモデルは約10体で、ベリルの場合は衣装ちがい、ダメージありなどのバリエーションがある。三面図などの3D用資料はなかったため、モデリングディレクターの澤田覚史氏が作画用の設定画に青文字で仕様を書き込み、CGスタジオの武右ェ門にモデリングを発注した。






モデリング工程では立体的な整合性を重視し、あえて横顔は設定画に合わせていない。ラインの量はルックデヴ工程で調整し、真横や斜めのカメラアングルから映した場合の見え方は、カット制作時にアニメーターがモーフターゲットやボーンを使って調整することで早坂氏の絵を再現した。
ベリルの形状調整
YAMATOWORKSではアニメーターが手分けしてセットアップを担当しており、モデルの形状やトポロジーにも関与し、より良い画づくりができる状態へと最適化を図っていく。




なるべくモデル形状が確定してから、ルックデヴへ移行するようにしている。「セクション間の垣根がはっきりしすぎていると良い画ができないので、モデラー・ルックデヴ・アニメーター間の意思疎通と連携を大事にしています」(丸山氏)。
アリューシアの形状調整



ヘンブリッツの形状調整
斜めのアングルでの画づくりに対応するため、セットアップ段階で"盛り毛"も仕込んだ。


第1話のレイアウト作業開始後もアニメーターからモデルのアップデートの要望が出され、ルックデヴ作業と並行して、髪のウェイト調整、モーフターゲットの追加などが行われた。「作画の印象を再現しつつ、立体感もある画を少ない手数で3Dに落とし込むことを目指して、調整を重ねました」(坂本氏)。
ベリルの表情プリセット


リグのテストも兼ねて、全キャラクターの多彩な表情が用意された。ただしプリセットはあくまで参考であり、カット制作時にそのまま使われるケースはなかった。各カットの演技は担当アニメーターに委ねられ、キャラクターの感情に合わせて個別の表情が付けられた。
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定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2025年6月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota