ACT3の安藤恵哉氏が監督・脚本を手がけ、KORATが3DCG制作を担ったショートアニメ『また明日ね。』。本連載では全3回にわたり、脚本設計からアセット制作、カット制作まで、本作を支えた意思決定のプロセスを紐解いていく。第1回では、世界各国の映画祭で評価された脚本と映像表現が、どのような設計思想から生まれたのかを追う。
INFORMATION
3DCGショートアニメ『また明日ね。』
監督・脚本:安藤恵哉
制作:KORAT/ACT3
グローバルステージハリウッド映画祭 グランプリ、モントリオール国際アニメーション映画祭 最優秀短編アニメーション賞を受賞。その物語と映像が各国で評価されている。
act3creative.my.canva.site/3dcg
STAFF
国際的評価を獲得した、脚本と映像の成立プロセス
CGWORLD(以下、CGW):本作は世界各国の映画祭で高い評価を得ています。まずは、それぞれの立場から、その要因をどう捉えているかをお聞かせください。
安藤恵哉氏(以下、安藤):私は監督と脚本を担当しました。本作ではハリウッド式の脚本術に則って、時間軸に沿った観客の感情の動きを設計してから物語を組み立てました。どのタイミングで何を感じてほしいかを決めて、それに必要な出来事を配置していく。その設計が映像を通してブレずに伝わったことが、評価につながったのだと思います。
米山和利氏(以下、米山):私はKORAT代表として全体のプロデュースを担いました。フルCG作品は世界各国でつくられていますが、物語と映像の品質が両立できている事例は多くない。本作は最初からそれをねらっていたので、結果として評価されたのだと思います。
SONIC氏(以下、SONIC):私はアートディレクションを担当しています。キャラクターデザインの際には、観客が物語を自分の体験として受け取れるかどうかを基準にしていました。特に犬のジョシュはデフォルメしすぎると観客との間に距離ができてしまうので、そのバランスを何度も見直したことが感情移入につながったのかなと思います。
鎌田友樹氏(以下、鎌田):私はCGIスーパーバイザー(以下、SV)として3D制作全体を統括しました。本作では技術的な目新しさよりも、作品として成立するかどうかを優先しています。脚本で設計された感情のながれを崩さないように各工程の判断を揃えていったことが、最終的な評価につながったと捉えています。
CGW:具体的には、その設計が実制作の中でどのように機能していたのでしょうか。
安藤:全体を通して見たときに、観客の感情のながれを止めてしまう要素は見直すようにしていました。象徴的だったのが、主人公のケンちゃんがゲームをするシーンの前に入れていた、母親との40秒程度の会話です。脚本制作時には必要だと考えていたのですが、実際にカットを並べてみると感情のながれを妨げてしまうと感じたので削除しました。その時点でレイアウトまで進んでいましたが、なくした方が全体として良くなると判断しました。
米山:プレスコも録っていたのに削る判断ができたのは大きかったですね。
安藤:脚本として成立していても、映像として並べたときに引っかかる要素であれば削る。その基準は最後まで変わりませんでした。
鎌田:現場としても、その判断軸が共有されていたのは大きかったです。途中で変更が入っても、何を優先するかが明確だったので、柔軟な提案や対応ができたと思います。
CGW:本作では、ジョシュが階段を上るカットが複数回出てきます。終盤に向けて観客の感情を積み上げる効果的な構成だと思いました。
安藤:階段を上る動作は、単なる日常の描写ではなく、終盤に向けた伏線として配置しました。最初に見たときと、最後まで見た後とでは、大きく意味が変わる設計になっています。
CGW:過剰な説明を足さずに成立しているのが印象的でした。観る側が自分の中で意味付けできる余地があったと思います。
安藤:台詞についても同じで、当初はもう少し多かったのですが、制作の中で削っていきました。世界各国の映画祭に応募することを想定して、なるべく言語に依存しないかたちにしたかったというのもありますし、ビジュアルで伝える方が適していると判断しました。
鎌田:その前提があったので、各工程でも「画でどう伝えるか」という意識が強かったです。
SONIC:私は主にキャラクター周りを見ていましたが、2Dのデザイン画を3Dモデルに落とし込む段階でも、最初に描いたイメージがそのまま画として成立するかどうかを細かく確認していました。例えばケンちゃんの髪のながれやシルエットのニュアンスは、レンダリング画像の上から2Dペイントで修正指示を出し、それを3Dチームが立体として成立させています。私としては「こう見えてほしい」というイメージを出しただけで、それをどう実現するかは3D側に委ねていました。無理を言っている部分も多かったと思いますが、イメージがそのまま形になっているのはすごいなと感じました。
CGW:安藤監督は当初1カットの戦争ものの脚本を提案されていたとのことですが、そこから現在のかたちに変更した理由も教えてください。
米山:制作工数やレンダリングコストを考えると現実的ではなかったというのが大きいです。そこでスケールを抑えて、室内中心の物語に切り替えていただきました。
安藤:その前提で、実写では扱いが難しい要素に挑戦したいという発想から、子どもと動物を主人公に据えようと決めました。
鎌田:「室内中心の物語にする」という方針が決まってからは、まず出てきたアイデアをそのまま受け止めることにしました。3D側の都合で最初から制限してしまうと、表現自体が弱くなってしまうので、実現が難しい場合は後から調整するようにしていました。
CGW:その結果として、観た人の感情を揺さぶる作品に仕上がったわけですね。
安藤:本作では、泣かせること自体を目的にはしていません。観た後に何か行動したくなるところまで含めて設計しています。「明日が来るとは限らない」というテーマを根幹に据え、誰かに何かを伝えたくなる余韻を残そうと思ったんです。 実際、「今すぐペットを抱きしめたくなった」という声をいただきました。
CGW:そうした反響を生み出した要因のひとつに、意思決定のあり方があると感じました。
米山:本作は約7ヶ月という短期間で完成させていますが、そもそもオリジナル作品はこれまで何度か挑戦しても上手く成立しなかった経験があります。通常業務の合間で片手間に進めるかたちになると、どうしても中途半端なところで止まってしまうんです。
CGW:今回はそこを乗り越えた。
米山:本作は最初から「仕事として成立させる」と決めて、きちんと時間と人員を割く判断をしました。制作途中で一度休止を挟もうかと迷った時期もありましたが、現場の集中力を削ぐのは得策ではないと思い直し、最後までやり切ることを優先したんです。結果的に、複数のスタッフを一定期間本作のために拘束することになりましたし、資金面でも融資を受けるかたちにはなりました。
CGW:経営者としての投資判断でもあったと。
米山:ただ、短編を1本つくって終わりでは意味がないとも考えています。本作は映画祭への応募やその後の展開も含めて、次につなげる前提で進めています。日本のCG制作会社が海外に出ていく機会はまだ多くない中で、自分たちの作品を通して評価を得ることには大きな意味がある。今回の経験と実績を、今後につなげていくことが重要だと考えています。
INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.335(2026年7月号)
特集:『スマスロ ミリオンゴッド-神々の軌跡-』
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:128
発売日:2026年6月10日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota