ACT3の安藤恵哉氏が監督・脚本を手がけ、KORATが3DCG制作を担ったショートアニメ『また明日ね。』。本連載では全3回にわたり、脚本設計からアセット制作、カット制作まで、本作を支えた意思決定のプロセスを紐解いていく。第2回では、ケンちゃんの年齢差分モデルや繊細な表情設計、ジョシュの骨格再設計など、「観客の感情のながれを止めない」ために構築されたモデルとリグの設計思想を紹介する。

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    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.335(2026年7月号)掲載の「3DCGショートアニメ『また明日ね。』」を再編集したものです。

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    3DCGショートアニメ『また明日ね。』制作の舞台裏 第1回:観客の感情の動きを主軸に据え、脚本と映像を設計する

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    3DCGショートアニメ『また明日ね。』

    監督・脚本:安藤恵哉
    制作:KORAT/ACT3
    グローバルステージハリウッド映画祭 グランプリ、モントリオール国際アニメーション映画祭 最優秀短編アニメーション賞を受賞。その物語と映像が各国で評価されている。
    act3creative.my.canva.site/3dcg

    STAFF

    ▲前列左から、Lighting & Composite Designer・斉藤瑞紀氏、 Animation Designer/Lighting & Composite Designer ・上江洲愛氏、Setup Supervisor・和田勝裕氏、Producer ・米山和利氏、Written & Director・ 安藤恵哉氏、Modeling  Supervisor・鈴木春奈氏、Production Manager・新美遥香氏、Animation Designer・篠本圭恵氏。後列左から、Producer・山元太陽氏、CGI Supervisor・鎌田友樹氏、Producer ・西垣 力氏、Lead Lighting & Composite Designer・山下潤一氏、Lighting & Composite Designer・柴本哲央氏、Setup Designer・土井拓真氏、Art Director・SONIC氏、Animation Supervisor・野沢正人氏、Animation Designer・鈴木明音氏

    観客の感情のながれを止めない、事前設計とアセット構築

    本作のモデルおよびリグは、単なる造形や可動の問題ではなく、「観客の感情のながれを止めない」ための基盤として構築されている。前述の脚本設計の思想は、アセット制作の工程にもそのまま引き継がれた。制作体制は、モデリングSVの鈴木春奈氏を中心としたモデリングチーム5名、セットアップSVの和田勝裕氏とセットアップデザイナーの土井拓真氏によるリギングチーム2名で構成されている。

    制作初期には、必要な要素の洗い出しが徹底的に行われた。全体打ち合わせでは鈴木氏が中心となり、安藤監督に対して各シーンのキャラクターの年齢や衣装、表情を細かく確認している。表や画像を用いながら「こんなニュアンスで違和感はないか」といった具体的なすり合わせを行い、必要なモデル差分や表情が整理された。ここでの合意が、その後のアセット制作全体の前提となっている。

    ケンちゃんは、赤ちゃん・3歳・5歳の3段階のモデルに加え、パジャマ・半袖・長袖など複数の衣装が制作された。一方で、表情用のターゲットシェイプは共通化し、頭部のサイズ調整によって年齢差分を吸収している。両親を含む人間キャラクターの全身のリグ構造もほぼ共通化されており、体格のちがいはサイズ調整で対応している。

    フェイシャルリグは、ターゲットシェイプをベースとしつつ、ジョイントによる補助制御を組み合わせた構成となっている。ターゲット数は10〜15個程度に抑えながらも、目元や口元、眉などを個別に調整できる設計にすることで、単純な喜怒哀楽ではなく、シーンごとに意味の異なる繊細な表情のニュアンスに対応している。

    ジョシュについては、四つ足動物特有の可動と変形が課題となった。特に首周りでは、首の上げ下げによって形状の崩れやめり込みが発生するため、ポーズごとのターゲットシェイプを用意し、リグ操作に応じて形状を補正するしくみが導入されている。

    さらにアニメーターからのフィードバックを受け、骨格構造やプロポーションについても見直しが行われ、より実在の犬に近い構造へと再設計された。観客に違和感なく感情移入してもらうためには、動きの説得力が不可欠であり、その前提として形状自体を実在の犬に寄せる必要があったためである。

    また、制作初期にはキャラクターだけでなく、舞台となる空間設計についても詳細な確認が行われた。安藤監督はケンちゃんの家の間取り図を自ら制作し、カメラ位置や画角を前提に、どこまでが画面に入るのかを具体的に詰めていった。階段の長さやソファの配置、入口の位置といった要素も、この段階で整理された。アニメーターも含めた打ち合わせの中で、カメラワークと空間構造を同時に検討することで、レイアウト以降の工程で迷いが生じない状態をつくっている。

    ケンちゃんの表情設計から、ターゲット化までのプロセス

    • ▲SONIC氏が描いた表情参考の一部
    • ▲表情参考を基に構築された、ターゲットシェイプの一部
    • ▲この泣き笑いの表情は、本作終盤のシーンでのみ使う前提で制作された
    ▲フェイシャルリグ

    安藤監督は各カットで必要となる表情を事前に全て洗い出し、「泣き」ひとつとっても場面ごとに意味の異なる表情として個別に設計した。鈴木氏はそれらをターゲット単位に分解し、全てのカットで必要なニュアンスが再現できるかを制作初期に検証・共有している。実際のカット制作では、このターゲットをベースに、ジョイントも併用しながらアニメーターが細かな調整を加え、最終的な表情を成立させている。

    赤ちゃんケンちゃんの髪表現における、修正比較

    ▲赤ちゃんモデルの当初の髪は、5歳モデルと同様のメッシュ構造で制作されていたが、年齢より成長して見える印象だったため見直しが行われた
    ▲鈴木氏が自主的にリテイクを重ね、デザイン画の柔らかい質感を再現するため板ポリベースの表現へ変更。安藤監督の承認後も調整が続き、年齢に即したモデルへ更新された

    ジョシュの骨格とトポロジーの再設計がもたらした動きの変化

    ▲骨格構造の修正前
    ▲骨格構造の修正後
    ▲トポロジーの修正前
    ▲トポロジーの修正後
    ▲完成映像

    ジョシュは当初、ややデフォルメ寄りのプロポーションで設計されていたが、実際に動かすと犬らしい動作が成立せず、歩行や着座、階段の上りといった基本動作に違和感が生じた。土井氏にとって動物リグは初の挑戦であり、アニメーションSVの野沢正人氏と連携しながら、前肢・後肢の関節位置や骨の長さを見直し、より実在の犬に近い骨格へ再設計した。これに伴いトポロジーも調整され、変形時の破綻を抑える構造へ更新されている。モデリングを統括した鈴木氏もこの検証に参加し、形状と可動の両面から成立するバランスを詰めている。

    ジョシュは若年期と老犬期で2段階のモデルが用意されているが、リグ構造は共通化されており、形状や白毛の差分によって切り替える設計が採用された。本作は観客の感情を動かすことを目的としているため、ジョシュの動きに違和感が残る状態は避ける必要があった。骨格を実在の犬に近づけることで、若い時期の軽やかさから老犬特有の重さや衰えまで自然に表現でき、観客が自分の体験として受け取れる動きが成立した。

    ジョシュのリードと首輪を一体で制御する、複雑なリグ設計

    ▲リードと首輪は、口にくわえる、手で持つ、机に置くといった複数の状態をひとつのアセットで成立させる必要があった。土井氏はアニメーターの要望を受け、ターゲットシェイプと3系統のスキンクラスターを組み合わせたリグを構築。変形中もコントローラで制御できるよう調整し、自然な挙動を実現した
    ▲完成映像
    3DCGショートアニメ『また明日ね。』制作の舞台裏 第3回は、7月31日(金)公開です。

    INFORMATION

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    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota