2022年9月17日(土)と9月18日(日)の2日間、CGWORLDの人気イベント『CGWORLD MASTER CLASS ONLINE』の第9弾が開催された。

今回はCGWORLD MASTERCLASS OMLINEとしては初めてHoudiniに特化した「Houdiniアドバンスコース」として開催。「Houdiniをより使いこなしたい」「もっとさまざまなアプローチを知って、引き出しを増やしたい」と思っている方向けに、国内外で活躍する7名のHoudiniアーティストが、各々のテクニックや考え方を披露した。

この記事では、2日間の講義のあとに行われた座談会のレポートをお届けする。

記事の目次

    Houdini座談会【北川茂臣氏×秋元純一氏×堀川淳一郎氏】

    豪華講師陣による講義のあとに、フリーランスのHoudiniアーティスト北川茂臣氏(以下、北川)、トランジスタ・スタジオ取締役副社長の秋元純一氏(以下、秋元)、アルゴリズミックデザイナー・建築系プログラマーの堀川淳一郎氏(以下、堀川)による「Houdini座談会」を開催。

    異なる分野でHoudiniを操る3人が、普段よく使うテクニックや勉強法のTipsを、視聴者の質問に答える形でアドバイスした。

    Houdini独特の概念「3D空間がすべてじゃない」

    CGW:さっそくですが、講師の皆さんは現在どのような仕事をされていて、Houdiniをいつから使っているのでしょうか?

    秋元:僕はチームプレイよりも個人プレイが多いんですけど、ディレクション案件のほかにけっこう多いのが、医療系や科学系のビジュアライズですね。Houdiniって、医療や科学とめちゃくちゃ相性がいいんですよ。

    どんなデータも大概読み込めるし、数値のコントロールがしやすくて、科学的に正しい数値をビジュアライズできる。Houdiniは専門学校時代に勉強し始めて、今も、全案件の50%ぐらいで使っています。僕にとっては一番使いやすいツールですね。

    ▲秋元純一氏

    堀川:僕は、建築系やプロダクトデザイン系のモデリングのほかに、大学の研究室で実験のシミュレーターとして使ったりしています。もともと建築会社で、Houdiniに似たCAD系のツールを10年以上使っていたんですけど、もっと幅広い形状を扱いたいと思っていたときにHoudiniを見つけて。Houdini15から使い始めて、今5年ぐらいです。

    ▲堀川淳一郎氏

    北川:僕は映画やドラマ、ゲームなどのエンタメ系がほとんどです。最近はとくに実写版映画に携わることが多いですね。はじめて使ったのはHoudini13で、6〜7年前だったと思います。実写案件で大規模な“水”をつくる必要があったときに、Houdiniが選択肢に上がって使い始めました。

    ▲北川茂臣氏

    CGW:皆さんHoudiniアーティストとして活躍されていますが、Houdiniを使うにあたっての小技や、よく使うテクニックってありますか? 秋元さんいかがでしょうか。

    秋元:う〜ん、小技というか考え方ですけど、Houdiniってサーフェスやポイントに座標を持ってるじゃないですか。ただ、オープンに表示されているもの以外にも使えるパラメトリックな座標ってたくさんあるんですよね。

    たとえばUVやClip。UVはポジションに代入してあげれば簡単に使えるし、Clipは「まっすぐだけは絶対にカットできます」っていう機能なんですけど、ブーリアンより確実にカットしてくれるし、直線に合わせて空間をねじ曲げたり、アトリビュートごとに並べて切っていけば、あたかも伸びていってるようにカットできるんですよ。

    後輩のMayaユーザーに「UVで並べ直してさ、○○○すればいいじゃん」と伝えると「UVを……並べ直す?」とハテナになっちゃうので(笑)、3D空間がすべてじゃないというか、UVを“テクスチャを貼るための座標”じゃなくポジション的に考えるのは、Houdini独特の概念だと思いますね。

    CGW:なるほど。堀川さんはどうですか?

    堀川:僕は大学の研究で離散幾何学(りさんきかがく)を扱うんですけど、離散幾何学では、解析のときに3次元の空間を一旦フラットにするんです。で、解析し終わったら3次元にマップし直して、解析結果を3次元空間で利用する……というのをよくやっているんですが、今の秋元さんのお話に通ずるものがあるなと。Houdiniはそれが簡単にできるので、めちゃくちゃいいなと思います。

    「数学の学び直し」は必要なのか

    CGW:ありがとうございます。次は視聴者からの質問です。ひとつ目は「各分野のノードの正しい使い方は、どうやって勉強したらよいでしょうか?」。北川さんいかがでしょう?

    北川:そうですね。ノードはバージョンごとに細かい部分が変わってきちゃうので、もし初心者の方なら、少し教科書的にはなりますが、チュートリアルを観るのをおすすめします。知識が増えれば自然とノードを吸収できますし、結局は一番の近道ではないかなと。

    チュートリアルは、SideFXの公式ページで定期的に配信されているので、まずは新しいものから観てみてください。徐々に使い方を覚えてきたら、古い動画も観てみると「ここが変わったんだ」と気づけて、さらに知識が深まると思います。

    CGW:たくさん質問が来ているので、どんどんいきましょう。「皆さんHoudiniを使うにあたって、数学は勉強されましたか? また、どのように勉強されましたか」。

    北川:僕は、Houdiniを使うことになったときに、三角関数や内積と外積、逆三角関数のような中学・高校数学から大学レベルまで、ひととおり勉強し直しましたね。それまではなんとなくの理解でツールを使っていたんですけど、「人に説明できるレベルではない」と気づいて。

    CGW:どうやって勉強されたんですか? 本を買うなど……?

    北川:基本は本で勉強して、わからないところはHoudini関連も含めて、ネットで調べましたね。最終的にはブログでアウトプットしたりして、人に説明できるようになったら次へ進む、と決めていました。

    秋元:めちゃくちゃちゃんとしてる。
    (一同笑う)

    北川:でもやっぱり、自力では理解しきれないこともあって、そういうときはお手上げでした。誰かに教えてほしいんだけど、何がわからないのかすらわからない。独学のつらいところですね。

    CGW:なるほど。堀川さんはどうですか?

    堀川:僕は建築のなかでも意匠(デザイン)系出身なので、数学はあまり得意じゃないんですが、CADでデザインするとき、3次元空間でベクトルを使った操作をするんです。それで、サインコサインやベクトルの内積ってこんなんだったかな……とCAD上で思い出しながら、自然に覚えていった感じです。きちんと学び直したわけではないし、深い部分まで理解してやっているかというと、そんなことはない気がします。

    CGW:秋元さんはいかがですか。

    秋元:高校の数学は9割9分夢の中だったんで(笑)、僕の“数学脳”はもう中学で止まってます。だから、Houdiniの中で勉強した感じですね。これは僕の持論なんですけど、「だったらCG的な機能に慣れたほうがいい」って思う派なんですよ。

    秋元:たとえば料理で言うと、はじめてビーフシチューをつくるときにフォンドボー(仔牛のスジや骨から取っただし汁)からとる人って滅多にいないじゃないですか。だんだん慣れてきて「もっとこだわりたいな」と思ったときに使うことはあるかもしれないけど、最初から突き詰めちゃうと、下手したら「仔牛を育てる環境から整えて……」みたいなことになる。

    だから、基礎的な能力をまずは磨いて、逆算して「どこまで追求するか」を考えるので十分だと僕は思います。「数学やってからHoudini頑張ろう」だと、心が折れちゃうので。

    北川:それはありかもしれないですね。数学の知識ってどんなときに使うか? というと、ある程度“絵”ができて「ちょっと直したい部分があるけど、標準機能じゃ足りない」というときに、知識があるとサクッと直せるぐらいなので。心が折れちゃったら、本末転倒ですからね。

    ほとんどのTipsは“ヘルプ”に網羅されている

    CGW:実際に数学でつまずいてしまう方は多いので、みなさん参考になったのではないでしょうか? では、次の質問に行きます。「現在の知識に至るまで、どのような方法でHoudiniを学びましたか?」。

    堀川:僕はそれこそ、最初はエクストルードやロフトのような、単純なモデリング機能しか使っていなくて。イメージが湧いてきたら、焦点単位で動かしたりアトリビュートを使ったり、Houdiniならではの概念をチュートリアルで学びましたね。

    その学びをYouTubeに上げたら、「そんなことしなくても、このノードを使えば一発でできるよ」とコメントをもらったりして(笑)、どんどん新しいノードを学んでいきました。

    北川:僕は仕事として学んだので、SideFXの方にメールで聞くのが基本だったんですけど、そもそも何を聞いたらいいかわからないので、まずは手探りでノードのサンプルを調べました。「このノードなんだろう?」と思ったらマニュアルを見て、一つひとつの知識を深めましたね。

    すると組み合わせ方の知識も溜まってきて、ブログでアウトプットするうちに、できることが増えていきました。今なら迷わず堀川さんのようにYouTubeでアウトプットしたと思いますが、当時はブログが、よい発表の場として機能していましたね。

    CGW:Houdini歴の一番長い秋元さんはいかがですか?

    秋元:僕がはじめて使ったバージョンはHoudini3とか4なんですけど、当時は日本代理店がなくて、情報がほとんどなかったんですよ。だから、代理店が無くなる前に発行されていた日本語版の紙のマニュアルを読み込んだり、海外サイトの掲示板で質問するしかなかったんですよね。

    あとは、Houdini公式サイトの「ヘルプ」。重要なことはたいてい網羅されているので、ヘルプさえ見ておけば、ほとんど取りこぼしはないと思います。

    CGW:ありがとうございます。では、続いての質問です。「Houdiniではよくノイズを使いますが、より一歩進んだ利用方法や、品質を上げるために意識されていることはありますか?」。皆さんいかがでしょう?

    秋元:ノイズは組み合わせることが多いですね。昔、今のようにオーシャンが充実していなかった時代は、たとえば“川の流れ”をシェーダーで表現するときに、それこそデフォーメーション的なノイズだけじゃなく、表面の揺らぎなど複数のノイズを組み合わせて“カーッ”とやったりしていましたけど。

    CGW:北川さんはどうですか?

    北川:僕は使い慣れたノイズに行きがちで、だいたいタービュレントノイズやユニフォームノイズの2つでしょうか。あとはカールノイズやAA(アンチエイリアス)ノイズとか……ほかの方がいろいろ組み合わせているのを見ると、「あ、そんな使い方があるんだ」と学ぶことが多いですね。

    CGW:だいたい行き着くのはそのあたりなんですね。堀川さんはいかがですか?

    堀川:テクニックというより、単に使っている……という感じにはなるのですが、VEXでよく使うのは、ノイズやカールノイズという関数、ピリオディックノイズです。ピリオディックノイズは、ループアニメーションを使うときに便利なんですよね。

    CGW:皆さんそれぞれ、よく使うノイズがあるんですね。

    秋元:僕はアンチエイリアスノイズ一択です。これがあればぶっちゃけなんとかなる、と思う反面、ノイズ自体をあまり気にしてないかもしれないですね。クライアントさんも見ているかもしれない場でこんなこと言うのもあれなんですけど(笑)、正直ノイズなんて、外から見てもわかりゃしないので。仮にわかったとしたら、それはノイズじゃなくて“模様”。最近は、「このノードさえいてくれたらそれでいい」みたいな、Houdiniミニマリストになりつつあります。

    CGW:では、続いての質問です。「僕はWrangleを扱うときにポイント・プリミティブ・リテールを扱うのですが、Vertexの利用がいまいちわかりません。『こういう処理にはVertexがおすすめ』といった場面があれば教えてください」。

    堀川:主にUVじゃないでしょうか。

    秋元:UVぐらいしか思いつかないなぁ。普段はあまり使わないですね。たとえば、Mayaなどほかのツールにジオメトリをアウトプットしたいときに、UVやVertexから一括処理するとか、そういうときぐらい。ポイントカラーで読み込むのは、Houdiniならではの概念じゃないでしょうか。

    Houdiniの作業で普段利用しているPC環境は

    CGW:続いての質問です。「Houdiniで作業する際のPCスペックを、仕事と個人制作のそれぞれで教えてください」。北川さんいかがですか?

    北川:仕事は各会社さんの作業環境を使わせてもらっているので、メモリも64があたり前、CPUもそこそこある環境で、ありがたいことに不便したことはありません。自宅では、過去に一度だけ、思い切ってお金を出していいやつを買ったことがあります。メモリ128でCPUはXeon、グラボもカタログから一番いいのを選んで(笑)。

    一同:へぇ〜!

    北川:ただ正直、フルでは使ってないですね。それだけのメモリとCPUを使うってけっこうな作業なので。ただ、64じゃ足りない場面はけっこうあるから、あると安心かな? ぐらいです。

    秋元:めちゃくちゃわかります。今、ちょうど狭間ですよね。僕はGPUに重きを置くほうなんで、CPUはぶっちゃけCore i9とかです。

    CGW:堀川さんはいかがですか?

    堀川:僕はモデリングが主なので、仕事も個人制作もMacBook Proで十分なことが多いです。ときどきTOPsで大量の読み取り・書き出しをしたいときは、Threadripperの乗ったPCで一気にやっていますね。

    Houdiniの作業も楽々行えるハイエンドノートパソコン

    今回のイベントではマウスコンピューターの機材協力により「G-Tune H5-LC」を使用して講義を行った。
    ※CPU(i9-12900H)、GPU(RTX3070Ti)、メモリ(64GB)にカスタマイズ

    講義で使用した北川氏は「動作が非常に快適でした。HoudiniのGPUレンダラKarma(XPU)も安定していまたし、メモリも充分。エフェクト作成作業にも充分使えるのではないでしょうか。水冷ノートPCは初めて使いましたが、凄く静かだったのが印象的でした。」と使用した感想をコメントした。

    G-Tune H5-LCの詳細はこちら
    https://www.mouse-jp.co.jp/store/g/gg-tune-h5-lc/

    じつは「鈍感力」も必要

    CGW:ありがとうございます。では、最後の質問に行きましょう。「ちょっと壮大な質問ですが、今後“CG人”として持たなければならない能力は何でしょうか」。

    北川:そうですね……。フリーランスであちこち飛び回る身として言えば、CGの知識ももちろんですが、やはり対人スキルは必要だと思います。たとえば「失礼のないメールを打てる」とか、最低限のマナーがあるだけで仕事って続けていけるので。

    堀川:僕は、必ず持たなくてはいけない能力はないと思ってます。「好きならやればいい」、それだけじゃないでしょうか。

    秋元:あと、じつは「鈍感力」だったりもしますよね。CG業界って目まぐるしくて、ツール自体がどんどん変化していくので、そのたびに知識をアップデートすることを常に繰り返さなきゃいけない。だから、「もういいや、やれることだけやってこう」みたいな、楽観的な一面もないとつぶれちゃうと思うんですよね。

    あと、仕事となると同じことの繰り返しも多いので、毎回「これ、自分のやりたいことじゃないんだけどな」と喜怒哀楽を出したり、一喜一憂しないこと。あえて何も考えず鈍感でいることって、意外に大事だと思いますね。

    CGW:必要以上にこだわりを持たないことで一定のパフォーマンスが出せる、という考え方もありますよね。ご質問いただいた皆さん、ありがとうございました。あっという間に1時間過ぎてしまいましたので、座談会はお開きにしようと思います。みなさん、ありがとうございました。

    TEXT_原 由希奈/Yukina Hara(@yukina_0402