みなさん、K-POPはお好きですか?
世界チャート1位を獲得するBTSやBLACK PINKのヒットをはじめ、2019年以降の第四世代では新たなグループが次々と登場するなど、K-POPの勢いは衰えを知らず、その市場規模はなんと! 50億ドル(約6500億円)を超えるとも言われています。
(ソース:seoulspace.com/how-much-money-do-kpop-idols-make-a-five-billion-dollar-industry)
そのヒットの裏側には、楽曲やメンバーの魅力はもちろん、MVも大きく影響しているんです。K-POP業界全体のカルチャーとして楽曲リリース時、MVが先に公開される業界慣習からMVがとても重視されており、そのクオリティも年々上昇しています。
そこで今回は「K-POPのMV」に注目!
K-POPを愛する、映像ディレクションチーム"VeAble"の3人に、K-POPのMVの何がすごいのか? なにが「K-POPらしさ」なのか? 思う存分語っていただきました!
映像ディレクションチーム”VeAble”
聞き手:CGWORLD 宮澤
本企画の立案者のK-POPオタク。CG/VFXに関しては勉強中。
TWICE『TT』に感動し、MVを言語化して分析
CGW:今日はよろしくお願いします。まず、みなさんがK-POPにハマったきっかけはなんですか?
涌井:映像ディレクター、VFXアーティストの涌井 嶺です。2017年ごろにたまたま聴いたTWICEの『TT』が良くて、さらにMVを見て感動したんです。そのことがきっかけでK-POPにハマり、自分がそれまで得たVFX、特にフルグリーンバック合成のノウハウを活かしてK-POPのクオリティに負けない映像制作ができるチームをつくろうと考え、VeAbleを立ち上げました。
史耕:映像ディレクター、プロデューサーの史耕です。以前アイドルのMVを作るときに「K-POPらしい作品に」というオーダーがあり、リファレンスとしてBTSやBLACK PINKを見始めたのがきっかけです。その後サバイバルオーディション番組にハマったこともあって今ではファンの目線としても見ていて、韓流文化も含めて好きです。
MONA:映像ディレクターのMONAです。普段は番組のOP・ED映像やアイドルのMVなどを多く担当しています。2019年以降くらいでK-POPのMVのクオリティがグッと上がったと感じていて、クリエイターとして気にはなっていたんですが、コロナの時期に友達からTWICEのDVDを借りたことがきっかけでどハマりしました。ビジュ(※)も曲も含めて好きです。
(※:ビジュアル=メンバーの顔、見た目のこと)
CGW:VeAbleはK-POP好きという共通点で集まったんですよね?
史耕:そうですね。涌井さんとは、仕事する中でK-POPカルチャー好きな点で意気投合したところがはじまりでした。当時、涌井さんが個人的にTWICEのMVを分析していたスプレッドシートが衝撃的で、ぜひ一緒に何かできたらなと。
涌井:TWICEのMVがなんで良いのか、よく見えるのかをちゃんと言葉に起こそうと思って。コマ送りで見たり、コンテをつくってみたりしながら、どういう作業をしているのかを分析しようとまとめてました。K-POPのMVはトランジション(※)や撮り方の手数が多いので、技術面で学ぶことがすごく多いと感じます。
(※)動画のカットとカットをつなぐエフェクトや演出のこと
史耕:涌井さんの分析を聞いていると、この人はガチだなって思うのと同時に、改めて着眼点がミュージシャンだなと感じられて面白いんです。
CGW:先程、史耕さんが「K-POPらしい作品に」というオーダーがあったとお話されてましたが、そういったオーダーは多いのでしょうか?
史耕:とても増えてますね。リファレンスとしてBTSあたりのMVを貰うことも多々あります。もともと情報量の多い映像が好きだったので、「K-POPらしさ」を求められるのは自分がやりたい表現にマッチしていると思います。
涌井:史耕さんの作品を見ていると、たとえフルCGのMVでもカメラワークだけでK-POP好きとわかりますよね(笑)。例えば振りの動きに合わせて動くとか。カメラがずっと動いてるんです。『Ride on Time』とかまさに。
史耕:たとえば0:35あたりですかね。このMVは「K-POPらしさ」をかなり意識してつくりましたね。ファンの方の反応も良かったです。
CGW:みなさん、"推し”はいらっしゃいますか?
涌井:めちゃくちゃいるんですけど(笑)。もともとハマったきっかけであるTWICEが大好きで。あとはLOONA(今月の少女)ですかね。まず1人ずつソロ曲を出して、2年くらいかけてメンバー全員を発表し、最後にグループとして曲を出すというデビューの仕方をしたんです。
CGW:LOONA、面白いデビュー方法ですよね。
涌井:MVも面白いんです。LOONAのMVはDigipediというプロダクションがすべてつくっていて、僕もそれがきっかけで興味を持ちました。特に「Butterfly」という曲は印象的でした。
涌井:MVのコンセプトが「世界中の女性」なのですが、メンバーが登場するのは一部のダンスシーンのみで、基本は世界中の女性のインサート映像で構成されています。そして一番印象的なのは、サビの直前で画面が真っ暗になるんです。するとMVを見ている自分の顔が画面に反射して映るのですが、これは「あなたも世界中のメンバーのひとり、誰しもLOONAのメンバーなんだよ」というのを表しているという説があるんです。こういう考察をしながら観れるところが面白いですね。
MONA:これまでにない方法ですよね。インサートがメインのMVというのもこの曲が唯一な気がします。私は、全体的に第四世代(※)が好きです。特にIVE(アイヴ)のアン・ユジンちゃんですね! あとはLE SSERAFIM(ル セラフィム)とENHYPEN(エンハイプン)なんかも好きですね。
(※)2019年以降にデビューしたグループが第四世代と呼ばれることが多い。
CGW:IVEは、どんなところが魅力ですか?
MONA:まずは音源が良いところですね。あとはメンバー全員ハイスキルかつビジュが良い所!
史耕:もともとIZ*ONEというグループで活動していたメンバーが居るグループで。なので、最初は元IZ*ONE組がスターとして目立っちゃうんじゃないかなと思われてたんですが、他のメンバーもなかなか良いぞとなって、ちゃんとグループとしてバランスがとれている印象ですね。
MONA:コンセプト的にも良い位置を獲得できていますよね。ITZY(イッチ/イッジ)はガールクラッシュ(女性の憧れる女性像)に寄っていて、aespa(エスパ)は「バーチャル」みたいなゴリゴリにユニークなコンセプト。IVEはその間に入り込んで、ガールクラッシュな作品もコンセプチュアルな作品もつくれちゃうみたいな、そんなグループです。
史耕:ビジュアルが良いからこそできるところですね。人間ではない、女神的なコンセプトを感じます。私は仕事で関わることが多かったのもあって男性グループに注目していて、Stray Kidsというグループが好きです。MVに力を入れていて、映像表現がなかなか面白いです。
CGW:Stray Kids、僕も好きです! MVかっこいいですよね。
史耕:カッコよさとポップな可愛さの押収で、楽しい! と感じさせるエンターテイメントが詰まっているグループだと思います。映像的にも、急に止まって巻き戻って、とか(『CASE 143』2:45~)面白い試みが沢山あります。このグループはサバイバルオーディション番組からデビューしているんですが、最初の頑張りを知っているからこそスタートダッシュで推せるみたいなところもあります。
史耕:あと、日本のグループではあるんですがINI(アイエヌアイ)も好きです。もともと韓国で人気のあったサバイバルオーディション番組の日本版である『PRODUCE 101 JAPAN SEASON 2』からできたグループで、日韓双方の文化やスタイルがあるのが面白いですね。
涌井:INIはクリエイティブをかなり韓国っぽくつくっていますよね。
史耕:どちらにも共通しているのはクリエイティブのクオリティが高いというところで、映像制作する身だからこそ好きになったんだと思います。
多様性のJ-POPとトレンド重視のK-POP
CGW:K-POP全体としてのグループの特徴をみなさんはどういう風にとらえていますか?
史耕:女性アーティストでいうと、かわいいというより、美しい・強いイメージですよね。
涌井:女の子がなりたい女の子像といいますか。日本のアイドルと比べるとコンセプトの段階から方向性の違いを感じますね。
史耕:また男女問わず、日本のアイドルは多様性に振っているイメージがあります。いろんなビジュアル、いろんなコンセプトがバラエティ豊かにある印象です。一方、韓国はトレンドを重視する傾向にありますね。みんなで同じ波に乗って、その中で一番上を目指している感じがあります。
涌井:韓国だと、小さなプロデュース会社が沢山あるんですよね。無名の事務所が下克上的に一躍有名になることもあって、なかなか競争が激しい世界です。
史耕:有名な所だけでも7社くらいありますね。ターゲットが全世界だからというのもある気がします。
涌井:それから、メンバーが多国籍なことが多いのも特徴の一つですね。日本人としては、メンバーに日本人が居ると身近に感じられます。
史耕:Kカルチャー研修ビザという名目で、韓流コンテンツ留学者を対象に入国精度を緩和するプランを韓国政府が提示しています。これが制定されれば今後グローバル化はさらに進んでいくと思いますね。
涌井:昔はグローバルグループなんて言ってましたが、最近はどこもグローバルになってきてますね。メンバーの中に韓国語、日本語、中国語、英語担当が居るのが当たり前みたいな感じです。
MVの映像表現におけるK-POPらしさとは?
ダンスを強調する「デジタルズーム」
CGW:ここから映像についてお聞きします。さきほど話題にでたMVの「K-POPらしさ」というのはどんなところにあるのでしょうか?
史耕:色味とか動きとか、振り切った演出が多い気がしますね。
涌井:常に新しいものを求められてるからこそ表現が自由なのかなと思いますね。コンセプトの流行りとかもコロコロ変わりますし。
CGW:映像制作者として目をつけているポイントはどこですか?
史耕:特徴的なのはデジタルズーム(※)ですかね。日本だとデジタルズームは禁忌のように捉えられることも多いですが、K-POPではよく使われています。
(※)撮影した映像の一部を編集時に引き伸ばしてズームアップする方法。
涌井:ダンスの振りを強調するために、ずっとデジタルズームが付いてるMVも少なくないですよね。
CGW:確かにK-POPには禁じ手のようなものがあまり感じられない気がします。
静止することがない、滑らかな「トランジション」
涌井:マクロな視点で言えば「流れ」ですね。良いK-POPのMVは目が離せないんです。トランジション(※)に力を入れているといいますか、ずっと連続した流れがある中で見せ場もちゃんとあるのでつい見入ってしまいます。
(※)動画のカットとカットをつなぐエフェクトや演出のこと
MONA:待つタイミングというか、静止することがないんですよね。
涌井:大量消費社会の中で埋もれない努力ですよね。最後まで止まらず見てもらえるように、滑らかなトランジションで画がずっと繋がっている工夫がされているみたいな。
MONA:それから、K-POPを見ていると展開の上手さ、シチュエーションの多さを感じますね。演出の手数も多いですし、セットを6個くらい建てたりすることもあります。日本だと多くても2個くらいですよね。特にITZYの『LOCO』には驚きました。とにかくいろんな演出を入れてきて、それがシームレスに展開していくんです。
涌井:序盤にもってきたくなるようなつくりこまれたセットを、平気で2番以降で出してきたりしてますよね。カメラアングルとかも、天井の上から撮ったりするとセッティングに時間がかかるのに、一瞬しか使われていなかったりする(笑)。0.1秒のカットのためにかなりの労力をかけて撮影しているんですよ。とにかく豪華で贅沢なんです。
音楽と映像がピッタリ合わさった「音ハメ」
CGW:音楽の作り方自体もそんな印象がありますね。イントロなしでいきなり上がるような。
涌井:そうですね。日本の音楽って長らくサビ文化だったので、Aメロ、Bメロ、サビと起承転結が重視されてきましたが、K-POPはAメロが重視されている印象があります。
CGW:飽きさせない工夫が随所にされているんですね。
涌井:音楽ってサビが基本同じじゃないですか。だからこそ映像も同じ繰り返しを避けるように、サビごとにセットを変えて画に変化を持たせているんだと思います。
史耕:MVを映像作品として捉えているんだなと感じますね。監督とプロデューサーが同じ方向を向いていて、シチュエーションとか方向を取り決めているからこそできるのだろうなと思います。もちろん予算もスケジュールも限られてますが、何を重視するかを予め共有しておかないと出来ないつくり方です。
涌井:よく見るとマスクが荒かったりとか、意外と細かいところは気にしていなかったりするんですよね。何が大事か、何にコストを割くべきかを考えて、変なところにはこだわっていないんです。
MONA:あとは音無しで見ても音が聞こえてくるくらい音ハメ(※)が上手いですよね。
(※)音楽と動作をピッタリと合わせること、K-POPでは振り付けをはじめ、映像においてもトランジションやカメラワークでの音ハメが特徴的
史耕:音楽を最大限楽しめるようにつくられていますよね。
涌井:そうですね。ダンスが主軸にあるからできるんだろうなと思います。ドラムやってるとここで終わらせると気持ちいいみたいなのがあるんですが、ダンスでもあるんだろうなという。リズム感ですね。
CGW:映像のリズム感、たしかに大事ですよね。
セットの良さを引き出す「さりげないVFX」
涌井:それから、K-POPはVFXの使い方がいい意味でさりげないものが多いですね。
CGW:さりげないVFXというのは?
涌井:セットでやるところと、VFXでやるところの境の見極めが本当に上手いんです。使い分けのラインがはっきりしていて、セットの良さ、VFXの良さどちらも引き出せている作品が多いですね。例えばTWICEの『Alcohol Free』の1:29あたりで出てくるパラソルの傘が一斉に開くところなんかはさりげなくてとても上手いVFXの使い方だなと感じました。
CGW:涌井さんも制作のときはこういった表現をされるんですか?
涌井:いや、僕は全部CGでつくっちゃうので……(笑)。なのでこういった使い方は憧れますね。
佐藤ノアさん「LADYBUG」MV
— Ray Wakui / 涌井嶺 (@Ray_T6L) July 25, 2022
VFX Breakdownです!
全編グリーンバック撮影ですが、本当に美術セットで撮ってるような映像を目指して、「馴染んでるとは何か?」「合成っぽさはどうしたら消えるのか?」ってところを悩み抜いて作ったのが楽しかった…#b3d pic.twitter.com/l90sJY1iXl
CGW:こういったさりげないVFXって、どうやってVFXかどうか見分けているんですか? 素人目にはまったくわからないのですが……(笑)
史耕:撮影環境的に無理だろうなとか、光源的におかしいなとか。自分でつくっているからこそアラが見えてきちゃって分かることはあります。もちろん判断付かないところも多々ありますけどね。
涌井:「Alcohol Free」の傘は、正直どっちかわからなかったですね(笑)。メイキングをみて、「CGだったんだ!」とわかりました。
MONA:K-POPはとにかくVFXがドヤっていないんですよね。ちゃんとアーティストに集中できる気がします。
涌井:映像表現として、画をおもしろくするためにつかっているんですよね。
MONA:オタクからすると、顔が見えたほうが嬉しいですし。邪魔してこないVFX演出というのは見てる側からはかなり嬉しいポイントですね。
CGW:あまりフルCG等は使われていのですか?
涌井:最近だと、セットやMVの世界観を再現したフルCGのインサートはよく見ますね。尺としては短いのですが、こういったところには豪華なCGを使う姿勢が好きです。
グリーンバック使用時の「接地面のなじみ」にも注目
CGW:さきほどお話に出た「さりげないVFX」以外では、具体的にどんな場面で使われているのでしょうか。
涌井:セット、ロケ地を拡張するためのVFXが多いですね。もちろん一概には言えませんが、日本のMVがドラマ仕立てだったり、シネマティックな演出が多いのに対して、韓国のMVはグラフィックや画的なインパクトを重視したものが多い傾向があると思います。そのため、K-POPは美術セットをさらに派手にするための補助としてVFXが使われる場面が多く見られますね。場合によっては、あえて全部背景をCGにして、実写合成であることが前提のつくり方をしているものもあります。といっても基本は美術セットを組んでいる事が多いです。
CGW:CGでもできそうな部分をあえて美術にしているところもあるのでしょうか?
涌井:普通に考えたら当然CGになるよね、みたいなところを実写でやっていたりしますね。
MONA:セットで撮っていると、メイキングを見た時に、規模感だったり豪華さを感じられます。
涌井:たとえばLE SSERAFIMの『FEARLESS』の1:23あたりで吊るされている車に座っているシーンがあるのですが、車はCGかと思いきや本当に吊ってその上に座っていて(笑)。確かにCGだと車と人の接地面の馴染みが気になってしまうこともあるけど、そこまでやるのかという驚きがありましたね。
MONA:接地面はたしかに気にするポイントですよね。NMIXX(エンミックス)の『O.O』にも特徴的なシーンがあって。
史耕:1:54~のほぼフルCGのシーンですね。これはメンバーが立っている足元の芝生だけがセットで、あとはグリーンバックで撮影していると思います。そのすぐあと、芝生ではないところに立っているカットと比べるとわかりやすいと思います。
MONA:接地面を実際に撮影しているかいないかで、馴染みの良さが全然変わりますね。
涌井:このMVは相当気合入ってますよね。VFXもかなり多く使われています。最初のシーンは船だけCGですね。それから1:45~のシーンは、後ろにみえている一番手前の建物だけがセットで、その後ろの建物や街並みはすべてCG。建物に咲いている花もすべてあとからCGでつけていますね。これは大変な作業だと思います(笑)。
グリーンバック不使用時の「気合い抜き」とは?
涌井:あと、TWICEの『SCIENTIST』はすごいですね。映像で遊ぶのが上手すぎるんですよ。冒頭からみてわかるように、普通のカットがない。ずっとトランジションしていて、シーンの切れ目がなくつながってますよね。
MONA:これ、フルCGじゃなくてめっちゃ大きいセットで撮ってますよね。
涌井:黒板が上がっていくところ(0:38)のナヨンは、たぶん気合い抜きですよね。
CGW:気合い抜きとは!?
史耕:グリーンバックを使っていないということですね。グリーンバックの前で撮影すれば、「クロマキー」という技術で比較的簡単に人物を分離できるんです。背景布の色を指定すると、その部分が透明になるイメージの技術ですね。ただ、このMVのカットはグリーンバックの前で撮っていないので、手作業で人の形をなぞって切り抜く「ロトスコープ」を行なっているはずです。この「ロトスコープ」はかなり気合いが必要なので、我々は「気合い抜き」と呼んでいます(笑)。背景と人物の境目を見ればわかりますね。結構K-POPでは多いと思います。
日本のMVとの演出の違いは?
自然さよりもビューティーを意識したライティング
CGW:画づくりの観点では、日本のMVとの違いはどんなところがあるでしょうか?
史耕:ライティングの考え方はかなり違いますよね。日本のMVは環境に沿った自然さを重視するシネマ的なライティングで、韓国のMVはビューティーを重視したライティングが多いと思います。例えばあえて光源に逆らって思いっきりアーティストにライトを当てたり、カメラにライトを載せたり、演出としてあえて矛盾したライティングを行なっているイメージです。
史耕:たとえばINI(アイエヌアイ)のMVは、韓国制作のものと日本制作のものがあるんです。こちらの『PASSWORD』は韓国制作ですね。実際、ファンの間でも「今回のMVはどっちで制作したんだろう?」ということがSNS上で話題になったりしているのが面白いです。僕たちも「このライティングは韓国かな?」などと話し合ったりしています(笑)。このMVでいうと、0:12のカットの雰囲気なんかはそれっぽいですね。
フッ軽さを重視したカメラワーク
MONA:あとは色味だったり、シチュエーション数かな。カメラワークも演出的なところではかなり違いますよね。
涌井:いろんな要素はあるんですが、縦方向の動きが多いですね。縦、つまり前後上下に動くカメラワークをよく見ます。逆に横方向の動きは日本の映像と比べると少ない印象です。振り付け次第ではあまりカメラワークを決めずに撮っているっぽくて、デジタルズーム前提で、センターの人を中心に激しく動く作品が多いです。逆に横動きになるサイドショットはあまり見かけないですね。
史耕:メンバー全員踊っているけど歌っているのはセンターのひとり、というパフォーマンスのパターンが多いんですよね。真ん中からドリー(※)で近づいていくカメラワークにすることで、センターのメンバーにフォーカスできますし、目線が来ているカットがつくりやすいんです。逆にメンバーが少人数かつ偶数のグループでは、センターをつくりづらいため、横方向のカメラワークがあったりしますね。
(※)移動式撮影台のこと。あるいは移動式撮影台を使って撮影すること。
涌井:NCT 127『Ay-Yo』では、冒頭のダンスパートのグループショットから、基本的にずっとセンターを中心にした縦ドリーだと思います。1:07あたりのカットで明確に横の動きが入りますが、ここは一番下手にいるメンバー、マークのパートを決め打ちで撮っていると想像できますね。
涌井:1:20くらいで入るカメラの下手へのトラック(※)の動きは、センターの振付に合わせて下手から入ってくるユウタを入れるためのものと思われ、カメラマンが振付を理解してカメラワークを決め込んでいることが分かります。こんな感じで横のワークを使っているときは振付やフォーメーションに合わせた決め打ちの場合が多そうで、通常時はずっと縦のワークを徹底しているように思えます。
(※)動く被写体に対して、カメラ自体を動かして追随させ、撮影する技法のこと。
史耕:ファンありきのお仕事なので、カメラワークも求められた方に寄っているところはあると思います。あとは、音楽の違いによるものかなとも思いますね。
涌井:K-POPはダンスのないイメージシーンが多いんですよね。逆に、サビにはダンスをしっかり入れているので、サビでは振り付けを見たいのかなとか。
CGW:撮影の仕方から違うんですね。
MONA:あとはK-POPの撮影って、レールで撮らずにセグウェイに乗ったりジンバル(※)で撮ったりしてますよね。ドリーとかはあまり見ないです。
(※)カメラの手ブレを補正する手持ちの装置
涌井:フッ軽さを重視してる印象がありますね。
史耕:以前カメラマンとK-POPのMV見て勉強したことがあるんですが、トランジションを意識してジンバルを使ったカメラワークにしているなと感じるところも多かったですね。
涌井:確かに、フッ軽さ+画の見栄えを重視してジンバルを選んでいそうですね。ダンスに合わせたカメラワークとかもよく見ます。とにかく動くんですよね。
史耕:ちょっと脱線しますが、韓国の音楽番組のカメラワークもすごく動きますよね。カメラマンがあらかじめ曲とダンスをインプットしてこだわってたり。あとは引きのグループショットが少なくて、個人寄りの構成が多いですね。
CGW:たしかにずっとカメラが動いていますよね。見る側としては違和感に繋がったりしないんでしょうか。
MONA:個人的には、逆に生っぽさといいますか、ファンとしては距離が近いのは嬉しいですね。
涌井:舞台裏の映像見ると、カメラとぶつかるんじゃないかって気になるときもありますけど(笑)
MONA:物理的に近い画を見れるのはファン目線では嬉しいですね。
もっとCGをカジュアルに使っていきたい
CGW:最後に、つくり手の視点で今後日本でのCG/VFXを取り入れたMVはどのように広がっていくでしょうか?
涌井:日本だとCGを使うことのハードルが主にコストや制作期間の面ではまだまだ高いので、もっとカジュアルに使えるようになると良いですね。個人制作向けのBlenderなどのツールの普及が後押ししてくれるんじゃないかと思っています。
史耕:コンテンツの広がりはとても重要視したいところです。CGの使い方の広がりが、コンテンツ自体の広がりにつながると良いなと。そこをVeAbleが先陣切ってやっていきたいですね。
涌井:僕はCGをやりたくてCGをやっているわけではなくて、あくまで演出をするためのツールとして捉えてます。ディレクションとVFXが有機的に、密接に映像をつくっていけるチームにしたいので、どんどん演出の幅を広げていければと思います!
CGW:ありがとうございました。
VeAbleの最新作 Kawaguchi Yurina×ガンバレルーヤ「Cheeky Cheeky」が公開!
2/6(月)0:00、Kawaguchi Yurina×ガンバレルーヤのデジタルシングル「Cheeky Cheeky」の配信がスタートし、MVが公開! MONA氏が監督、涌井氏がCG/VFXを担当した。
MONA:企画/監督/オフライン編集を担当しました。出演者3人の個性をそれぞれ生かしたMVにできたのではないかと思います!
涌井:全カットの3DCG/VFX/オンライン編集を担当しました。シチュエーションとしては計11シーンほどあり、かなり物量が多かったのですが、減らしてしまうとVeAble(Visual Effects + Able = 不可能を可能にする)のコンセプトから外れる気がして、寝る間を惜しんで頑張りました。ぜひ見てください!
TEXT_三宅智之 / Tomoyuki Miyake(@38912_DIGITAL)
INTERVIEW_宮澤 開吾(CGWORLD)
EDIT_柳田晴香(CGWORLD)