2024年10月よりTBS系列ほかにて放送中のアニメ『アオのハコ』。今回は制作に当たったテレコム・アニメーションフィルムのCGI制作部に詳しい話を聞くことができた。本作では長年の検証を経て、Houdiniを中核とした制作環境が構築、導入されている。こうした制作環境導入の詳しい経緯とねらいをCGI制作部メンバーへの取材を基に紹介したい。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 317(2025年1月号)からの転載となります。

    コンカレント(同時並行)ワークフローを追求し
    Houdiniを中核とした制作環境を構築

    作画中心のスタジオにおける3DCGの効率的な運用について、長らく取り組みを続けてきたテレコム・アニメーションフィルム(以下、テレコム)。CGIプロデューサーの伊東耕平氏は2010年代半ばから、CGIスーパーバイザーの高野怜大氏と共に課題観を共有し、様々な研究開発を重ねつつ、2021年にCGI制作部を起ち上げた。本作『アオのハコ』はこれまでの集大成でもあり、小規模で効率良く制作を進めるためにレンダー環境も含めてHoudiniを中核とした制作環境が構築された。

    「ウォーターフォールな制作ではイテレーション回数を上げづらく、十分な人材育成の時間も確保しづらい。コンカレント(同時並行)ワークフローを確立しなければ商業ベースの映像制作会社としては生き残れないという危機感がありました」と高野氏。

    TVアニメ『アオのハコ』
    毎週木曜 よる11時56分から、TBS系28局全国同時放送中
    原作:三浦糀(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)/監督:矢野雄一郎/アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
    aonohako-anime.com
    Ⓒ三浦糀/集英社・「アオのハコ」製作委員会

    数年前からデータアセンブルなどでの別ソフトウェア導入やSolaris、およびHydraの検証は進めてきたが、KineFX登場を契機に全面導入への動きが本格化。「これでモデリングからリギング、アニメーション、ショットワークまでひとつのツール内で完結できるなと。ちょうど『アオのハコ』の制作環境検討中の発表でしたので、技術や人材含めこれまでの準備と機会が巡り合ったと感じました」(高野氏)。

    前列左より、CGIスーパーバイザー・高野怜大氏、デジタルアーティスト・猪俣愛実氏、CGBGスーパーバイザー・石原由梨氏、デジタルアーティスト・可知拓磨氏、リードデジタルアーティスト・田中慎也氏。後列左より、パイプラインエンジニア・根本パウロ氏、CGIプロデューサー・伊東耕平氏、アニメーションリード・新井龍二氏、デジタルアーティスト・鬼山尚丈氏、パイプラインエンジニア・佐伯圭介氏(以上、テレコム・アニメーションフィルム)
    www.telecom-anime.com

    本作では体育館の中で活き活きとした部活動を描くための空間として、3DCGで体育館全体を構築。各部活や小物の配置、時間・天候によるライティングの変化などを、複数話の制作が同時並行する中でも柔軟に切り替えられるネットワークを組み上げた。また、アニメ美術らしい背景を目指してSolarisで調整した素材を多数出力。これに対応するためレンダリング環境も増強された。

    「アニメ制作では途中で変更したいという要望はたくさん出てきます。Houdini導入はそれらに対応できる大きなメリットがありました」(伊東氏)。

    イテレーション回数を上げ品質向上を図る3DCGの制作体制

    本作の制作環境はHoudiniだけで完成するものではなく、レンダーファームも合わせての効率化がなされている。クラウドへのクライアントツール「Render Pool Client」は開発元と連携することで、レンダリング周りの複雑な環境整備を極力取り除いている(後述)。このシステムはHoudiniに限られたものではなく、さらにテレコム内に留まらず、協力会社も同アプリを使うことでレンダリングの高速化につながっている。

    また、Solaris/USD導入の最大のメリットは、Hydraが利用できる点にあるという。シーングラフを解析しレンダリングする部分にHydraが介在することで、レンダラ選択の自由度を高く保ったまま制作を進めることができる。

    10年近くにわたりコンカレントワークフローに移行したいという信念をもっていた高野氏。Houdiniによって各工程を集約できる環境が整い、実現への最後の一押しとなったのが『アオのハコ』だった。「現時点では満足していますが、ほかにもやりたいことはあります。今はMaterialXを用いUSDファイルそのものをクラウドに投げてレンダリングすることを検討しています」(高野氏)。

    Houdiniを活用したデータフロー

    ▲『アオのハコ』におけるデータフローの概要。注目すべきは「BG組み上げ」で、「3DLO」「原図」からデータが流入し、Render Pool Clientによってレンダリングを実行するというシンプルなながれだが、このシンプルさは中核ツールをHoudiniに置き換えたことで実現したものだ。「3ds MaxでCG背景をつくってきたスタッフや、MotionBuilderを使っていたスタッフなど、これまでの経緯やスキルがそのままHoudiniに集約できる体制を確立できたのが大きかったですね」(高野氏)
    ▲「Hydra Scene Delegate」を中心としたデータのながれ。Hydraの利用により、レンダラ選択の自由度を高く保ったまま制作ができるようになった

    クラウドレンダリング「Render Pool Client」の活用

    レンダリングにはクラウドレンダリングサービスを利用。レンダリング設定などをCSVでまとめて記載し、クライアントアプリケーション「Render Pool Client」を通してジョブを投入することで、1,000におよぶジョブでも一括して必要ファイルの収集・アップロード・レンダリング後のダウンロードまで自動化される。CSVはExcelで編集できるため、テスト用の解像度変更や記入をミスした場合の一括修正なども容易だ。共同作業者ともファームを共有しているため、相互にレンダリング進捗が把握しやすく、環境が異なることによるトラブルも回避。クラウド上のレンダリングの経過を閲覧したことで、外注担当箇所への修正箇所の早期発見につながることもあるという。

    レンダラはAMD Radeon ProRenderを採用。ラインの出力などNPR表現を中心に5年以上にわたり共同開発を続けており、以前からテクスチャもパッケージされる中間ファイル「rpr」を生成してレンダリングを実行してきたが、本作でもそのフローを踏襲している。「1ジョブにつき最大100台が分散して処理されます。美術としては基本1フレームのレンダリングですが、今回は素材数が20以上と多く、一括してジョブ投入・処理できる効果は大きかったと思いますね」(パイプラインエンジニア・佐伯圭介氏)。

    (2)に続く。

    CGWORLD 2025年1月号 vol.317

    特集:韓国CGの今
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年12月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_岸本ひろゆき/ Hiroyuki Kishimoto
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada