2024年10月よりTBS系列ほかにて放送中のアニメ『アオのハコ』。今回は制作に当たったテレコム・アニメーションフィルムのCGI制作部に詳しい話を聞くことができた。本作では長年の検証を経て、Houdiniを中核とした制作環境が構築、導入されている。こうした制作環境導入の詳しい経緯とねらいをCGI制作部メンバーへの取材を基に紹介したい。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 317(2025年1月号)からの転載となります。

    関連記事: TVアニメ『アオのハコ』Houdiniの活用により同時進行型ワークフローを構築し導入〜(1)

    Information

    TVアニメ『アオのハコ』
    毎週木曜 よる11時56分から、TBS系28局全国同時放送中
    原作:三浦糀(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)/監督:矢野雄一郎/アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
    aonohako-anime.com
    Ⓒ三浦糀/集英社・「アオのハコ」製作委員会

    Houdiniで制作された体育館で様々なカットに対応

    前列左より、CGIスーパーバイザー・高野怜大氏、デジタルアーティスト・猪俣愛実氏、CGBGスーパーバイザー・石原由梨氏、デジタルアーティスト・可知拓磨氏、リードデジタルアーティスト・田中慎也氏。後列左より、パイプラインエンジニア・根本パウロ氏、CGIプロデューサー・伊東耕平氏、アニメーションリード・新井龍二氏、デジタルアーティスト・鬼山尚丈氏、パイプラインエンジニア・佐伯圭介氏(以上、テレコム・アニメーションフィルム)
    www.telecom-anime.com

    背景美術制作でこれまでは3ds Maxを使用していたCGBGスーパーバイザーの石原由梨氏は、本作から本格的にHoudiniを使用。Solarisでネットワークを組み、美術監督とのやりとりで調整を重ねた。従来通り静止画に美術側がレタッチして仕上げるだけでなく、カメラワークがあり3DCGそのままを用いるカットもあったが、両者はなるべく差が出ないようにする必要がある。「時制に合わせた素材の作成、ライティングの変更やカットによってもこのオブジェクトのいる・いらないを調整する際に、ノードベースでのアセット管理の恩恵を受けることができました」(石原氏)。

    フローの検討としては、コンポジットまでHoudini内で完結する案もあったが、今回は石原氏の経験に基づく画づくりのしやすさからAfter Effects(以下、AE)を選択。素材数をできるだけ抑えられるよう、AEでの見せ方を念頭に調整を進めつつ、時間変化によるライティングちがいなど、すでに出ている素材では表現できない場合に新たな素材を用意した。こうしたバリエーション作成やカット固有の様々な変更について、シーンファイルを分岐させることなく対応可能となったのはHoudini導入のメリットと言えるだろう。

    体育館内の部活動の位置などを示したステージング資料

    体育館内ではカットごとに映り込む部活や道具類を整合させる必要があるが、部活の配置は日によって変わる。絵コンテを読み込めば確認できるが、俯瞰的な資料があれば精度の高いつくり込みにつながることはまちがいない。

    ▲体育館内の部活の位置関係を示すステージング資料の例。第2話C252以降の例だが、このシークエンスのみ女子バレー部と新体操部が入れ替わる
    ▲同、カット259〜282のためのステージング資料。絵コンテの切り出しを貼り、キャラクターの立ち位置や、カットごとのカメラの位置・向きが把握しやすいよう仕上げられている。これらは第2話に限らず、体育館が舞台となる場面のために大量に整備された。もともと体育館全体のCGモデル制作は、このステージング資料を目指して始まったという。「監督から見せたい構図がまず上がってきて、これを私たちの方でこのかたちなら競技ルールに沿って表現できそうです、というようなやり取りをしながら進めていきました」(デジタルアーティスト・可知拓磨氏)

    Houdiniにより効率的に背景を制作

    従来モデリングとマテリアルアサインは不可分であり、同様に工程間・データ間の依存関係が固定されていたが、Houdini Solarisを中核とすることで、それぞれにイテレーションを回し、必要に応じてつなぐコンカレントワークフローを実現した。

    • ▲Houdiniでのワイヤーフレーム表示。ネットワーク上のピンク色で囲んだグループが素材出力を表している
    • ▲同じく、HoudiniでのHydraレンダリングの一例
    ▲マテリアルライブラリのノードツリー。Assign Materialノードで適所に割り当てられ、モデル制作と質感のイテレーションを個別に重ねることが可能
    ▲作中のCG背景。体育館内は全面的に3DCGで描かれ、日本スタイルのアニメの背景美術と遜色ないものが目指された。「レンダリングコストや手間を考えるとAOV出力が有利ですが、撮影での見え方を意識して、細かく調整してより良い画は目指したいなと。Solarisであればパラメータ調整なども柔軟に対応できるということで、コストの面でも採用することができました」(石原氏)

    1話冒頭のカメラが体育館の中を通り抜けるカット

    以下は1話冒頭の新体操部から卓球部まで各部をくぐり抜け、体育館内全体を見晴らす約15秒の長回しカット。約160体のモブキャラクター、ボールやシャトルなどの大量の関連プロップが躍動し、奥行き感のある光の効果も印象的な、情報量の多いカットに仕上がっている。メインツールをHoudiniに切り替えたメリットが遺憾なく発揮されており、こうしたカメラワークがある場合も静止画の場合も、また多くの時間帯変化やプロップ配置の変化が必要であっても、ひとつのhipで集中管理され、それらに応じた素材出しまで含め一貫したワークフローでCGBGを仕上げていく環境が構築された。

    なお、結果的にこのショットでは、デプス・マスクといった基本素材や卓球台など部位ごとの素材、fx素材として落ち影、光の効果など32素材(キャラクター、シャトル・ボールなどは含まず)が出力された。

    (3)に続く。

    CGWORLD 2025年1月号 vol.317

    特集:韓国CGの今
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年12月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_岸本ひろゆき/ Hiroyuki Kishimoto
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada