『MUJINA INTO THE DEEP』を題材に、漫画風のコマ割り、かつキャラクターと背景込みで描き下ろしてほしいという、編集部からの無茶振りオーダーに端を発したCGWORLD 303号の表紙イラスト。フル3Dの街だからこそできるカラーイラストの制作過程について、順を追って詳しく紹介しよう。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 303(2023年11月号)からの転載となります。
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Profile
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浅野いにお(@asano_inio)
1980年9月22日生まれ。茨城県出身。1998年「ビッグコミックスピリッツ増刊号 manpuku!」にて『菊地それはちょっとやりすぎだ‼』でデビュー。『ソラニン』『零落』は実写映画化され、『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』は2024年に劇場アニメ化が決定している。現在、小学館ビッグコミックスペリオールにて『MUJINA INTO THE DEEP』連載中。
©浅野いにお/小学館
<1>表紙レイアウト案の検討とラフ
初期の案では、縦と横のコマが混在する漫画らしいコマ割りも考えていたとのことだが、コマの上に載るテキスト情報で絵が潰れてしまい、迫力が欠けてしまうことが懸念された。そこで、文字が乗ってもしっかり街の絵が見えるよう、パノラマ状に広がりが出る横のコマ割りへと変更された。
以下は、各コマの背景にCGマネキンを配置して作成されたラフ。「CGの背景はレンダリングしたままのものですが、ディテールもあるのでラフっぽく見えませんね(笑)。ラフの段階から最終イメージがほぼ把握できることもCGを使用する大きなメリットです」。
<2>Unreal Engineでの3Dレイアウト
『MUJINA』で使用されているUnreal Engineの街データから、今回の表紙用のレイアウトが探られた。「いろいろと検討しましたがイメージしたレイアウトに適した建物がなかったので、表紙用に建物を強引に追加してマネキンのポージングを探りました」。レイアウトカメラから見えない部分はめりこんで配置されている。
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<3>レンダリング画像の処理
背景CGを漫画に馴染ませるための加工を行う。カラーイラストを描くときに必ずやるのが、ドライブラシによる加工だという。「ブラシを結構粗いサイズに設定してかけることで、厚塗り系のイラスト風に変換できます」。
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<4>輪郭線の処理とキャラクターの馴染ませ
カラーイラストの輪郭線の抽出は、輪郭抽出のフィルタを使いラインを抽出している。「そのまま重ねるとラインが濃すぎるので、今回は40パーセントの透明度で重ねています。濃さはいつもそれくらいですが、実際の絵の見映えによって多少調整をしています」。また、アクションを行うキャラクターを浮かせるため、マスクをぼかして背景との境界線を曖昧にさせる処理も行なっている。
<5>キャラクターの線画を描く
続いて、中央のコマのキャラクターの線画を描いていく。
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<6>ベースカラー
まず塗り分けしたい箇所について、はっきりした色で仮塗りを行う。その後、色域指定で選択した箇所が色ムラの出るブラシで塗られていく。
<7>メイクと髪の描き込み
線画のキャラクター部分に、メイクの処理と髪の毛の描き込みを加える。
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<8>重ねて描かれる陰影
大きく2段階に分けて陰影が塗り重ねられている。陰影の濃淡を描くことで立体的な仕上がりが増している。
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<9>ハイライトの追加
目や髪の毛にさらにハイライトを追加していく。ハイライトを入れたい箇所に濃淡を分けて黒で描き、スクリーンで重ねられている。
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<10>コマと吹き出し
コマ割りと吹き出しを作成し、漫画としての体裁が整えられた。「本来漫画では、吹き出しはページ送りの関係で右上から左下に流れますが、今回は表紙の文字組みが横組みなので、あえて左上から右下に流しています」。なお、吹き出しの文字は、書体AB countryroadをあえて手でなぞり、アナログ風に仕上げられている。
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<11>仕上げの色調補正
「最後の仕上げとして、表紙用ということでグラフィカルな味付けとして、コマごとに色の方向性を変えてみました。それに加え、塗りムラ素材を重ねてアナログ感も付け足しています」。
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CGWORLD 2023年11月号 vol.303
特集:『漫画×3DCGの現在地』
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2023年10月10日
価格:1,540 円(税込)
TEXT_渡邊英樹 / Hideki Watanabe
EDIT_藤井紀明 / Noriaki Fujii(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada