「ポールダンス」×「歌」×「がんばる少女たち」がテーマの『劇場版 ポールプリンセス!!』。制作は『プリティーリズム』などで知られるタツノコプロだ。ポールダンサーをモーションキャプチャアクターに迎え、その妖艶な演舞を煌びやかなアニメーションに昇華した注目作だ。

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    Information

    『劇場版 ポールプリンセス!!』
    監督:江副仁美/脚本:待田堂子/CGディレクター:乙部善弘/キャラクター原案:トマリ/アニメーションキャラクターデザイン:櫻井琴乃 /ポールダンス監修:KAORI(STUDIO TRANSFORM)/アニメーション制作:タツノコプロ/原作:エイベックス・ピクチャーズ、タツノコプロ/配給:エイベックス・フィルムレーベルズ
    poleprincess.jp
    ©エイベックス・ピクチャーズ/タツノコプロ/ポールプリンセス!!製作委員会

    ポールダンスを盛り上げるステージ&エフェクト

    表情豊かで艶やかなダンスパフォーマンスを支えるのが、ライブ楽曲の世界観を反映したステージ背景の装飾、立体的なエフェクトとカメラワーク。タツノコプロのスタッフの高い熱量により、キャラクターが引き立ち、感情移入を誘う画が生み出された。

    後列左より、CGデザイナー・笠永祥文氏、CGディレクター&企画プロデュース・乙部善弘氏、CGデザイナー・伊藤明仁氏、CGデザイナー・平泉 晃氏、テクニカルディレクター・國武亮佑氏。前列左より、CGデザイナー・川崎春香氏、CGデザイナー・朴 美佐氏、CGデザイナー・坂本奈央氏、CGデザイナー・小原彩子氏、CGデザイナー・鈴木遥夏氏(以上、タツノコプロ)
    tatsunoko.co.jp

    スタッフの熱量の高さが作品に魔法をかけた

    本作のポールダンスを盛り上げたのはキャラクターだけではない。乙部氏はそのひとつとしてステージ背景を挙げる。「美術さんの熱量がとても高くて、想定以上の非常に緻密なデザインを仕上げてくれました」(乙部氏)。なお、ステージ背後のモニタ画面に映る映像はモデルのみ3D班でつくり、撮影班が仕上げた素材を、乙部氏が曲に合わせて編集し演出している。

    東坂ミオのステージのテーマはメイドカフェ。これは楽曲タイトル『トキメキ・まぁ~メイド』にちなんだものだ。映像内のプロップ類は、ポスターのような2D素材も含めて3DCGスタッフが作成している。ちびキャラのミオを描いたのは川崎氏だ。「後ろのモニタの賑やかしと聞いていたら、最後のキメポーズでミオの手の平に乗っていて驚きました!」と笑う。

    ミオがマーメイド姿に変身してからの背景で、魚の動きを担当したのはCGデザイナーの小原彩子氏。3ds Maxの群衆機能を使って、魚群が自動で衝突を避けて回遊するように組み上げたという。そのほか、ティーカップを運ぶイルカがいたりと、総合的にステージのイメージをつくり上げているので、ぜひ何度も観て確認してほしい。

    「ミオが魔法をかけたんです」。取材の終わりに、スタッフも知らなかった設定秘話が乙部氏の口からこぼれた。「ヒナノのダンスのクライマックスで背中から現れる翼は、実はミオが衣装をつくったときに仕込んだもの。体温が上がると膨らむ素材でできています。仲間の衣装を作る喜びに目覚めたミオが、大好きな魔法少女のイメージをヒナノに託すつもりでこっそり縫い付けていたんです。3DCGの表現としては、普通の翼とはちがうVRっぽいルックにして、プラネタリウムと関連付けた、宇宙を反射する星空のようなイメージにしています」。

    ポールダンスのイメージを一新するチャレンジングな本作。すでに聞こえている熱いファンの声援がさらなる展開を後押ししており、オリジナル企画のCGアニメ制作への追い風となりそうだ。

    キャラクターを引き立てるステージのデザイン

    ライブステージは6種類。美術スタッフがラフデザインを作成し、CGデザイナーが正面画のみを美術ボードとして仕上げた。このときに制作したテクスチャはCGモデルにも流用している。また、カメラからあまり映らない部分はテクスチャで構成するようにし、作業負荷を抑えたという。

    星北ヒナノのステージの美術ボード
    ヒナノのステージの背景CGモデル。柱の装飾やステージ中央の模様は美術ボードのテクスチャをそのまま利用している

    キャラクターのパフォーマンスを彩るエフェクト

    西条リリアと南曜スバルのライトトレイルは國武氏のアイデア。TyflowのtySplineMesherモディファイヤを使って、キャラクターのつま先にあるスプラインからメッシュを生成し、軌跡を表現している。「これはメッシュを構築し続けるモディファイヤ。足のつま先に弓なりのスプラインを配置することで、バルブ撮影の光線と似たような表現ができるんです」(國武氏)。

    tySplineMesherでスプラインから軌跡のメッシュを生成
    ライトトレイルの完成ショット

    蒼唯ノアのステージの最初の大きな見せ場、1サビ前のカットでは、炎をまとった刀を振り、着物の片袖が燃え散るエフェクトが登場。刀の炎はFumeFXで、袖の破れはmClothモディファイヤで表現している。

    FumeFXとmClothモディファイヤにより、炎をまとう刀を振るい、着物が燃え散るエフェクトを作成
    燃え散るエフェクトの完成ショット

    コンポジットで仕上げる幻想的な海中の表現

    マーメイドが海底に沈んでいく様を模して、脚を上に向けポールを下っていく、東坂ミオのライブでの印象的なカット。V-Rayの環境フォグを使い、海面に見立てた天井から光が漏れ出るような表現にした。「歌詞の中に『私と一緒に泡になりましょう』というフレーズがあって、それがモチーフです。マーメイドの虜にされて異空間に取り込まれてしまうような、ちょっと蠱惑的なイメージです。振り付けのときに僕が話していた内容から國武くんが察して、オーダーする前に阿吽の呼吸で素材を作成してくれました」(乙部氏)。

    • キャラクター
    • マスク

    PICK UP:イラストなど各種版権物もCG班が手がける

    本作はタツノコプロのCG班が企画元ということで、作品を盛り上げる各種版権物もCG班のスタッフが担当。中には劇場来場者特典も含まれている。特にハロウィン版権は衣装デザインからモデリング、仕上げまでCGデザイナーの鈴木遥夏氏がひとりで手がけている。

    星北ヒナノの誕生日(9月12日)に公開した記念イラスト。衣装デザインはCGデザイナーの鴨 祥子氏。「ギャラクシープリンセスの衣装はミオがデザインしているという設定なので、同じメッシュ素材を使ったつくりにして、キャラクターの色やアクセサリで個性を出しています」(鈴木氏)
    ハロウィン(10月31日)記念の東坂ミオと星北ヒナノ。背景はポールダンスショームービーを加工した、ナイトプールとアラビアンなイメージのもの。コンポジットも鈴木氏が行なった

    CGWORLD 2024年1月号 vol.305

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    TEXT_日詰明嘉/Akiyoshi Hizume
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子/Momoko Yamada