「ポールダンス」×「歌」×「がんばる少女たち」がテーマの『劇場版 ポールプリンセス!!』。制作は『プリティーリズム』などで知られるタツノコプロだ。ポールダンサーをモーションキャプチャアクターに迎え、その妖艶な演舞を煌びやかなアニメーションに昇華した注目作だ。
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Information
監督:江副仁美/脚本:待田堂子/CGディレクター:乙部善弘/キャラクター原案:トマリ/アニメーションキャラクターデザイン:櫻井琴乃 /ポールダンス監修:KAORI(STUDIO TRANSFORM)/アニメーション制作:タツノコプロ/原作:エイベックス・ピクチャーズ、タツノコプロ/配給:エイベックス・フィルムレーベルズ
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©エイベックス・ピクチャーズ/タツノコプロ/ポールプリンセス!!製作委員会
キャラクターの個性をも表現するトップダンサーの演舞
本作の見どころはやはりポールダンスシーン。モーションキャプチャで再現された超人的なダンサーの踊りが個性豊かなキャラクターに憑依し、観客を魅了する。その映像美はキャプチャ現場での工夫やツール開発など、細かな取り組みにより実現している。
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tatsunoko.co.jp
個性豊かなダンサー陣によるキャラクターとシンクロした演舞
モーションキャプチャを利用したポールダンスの動きの監修は、日本ポールダンス協会の理事で、ポールダンススタジオTRANSFORM代表のKAORI氏が務めた。モーションアクターには本作のキャラクター設定と共通項をもつダンサーを選定することで、モーションにリアリティをもたせている。
例えば、KAORI氏が担当した蒼唯ノアの場合、両者共に日本舞踊からポールダンサーになったという共通項がある。また、作中で“絶対王者”という位置づけで登場する御子白ユカリのモーションアクターはMANABIN氏、中学生の全国チャンピオンyuuri氏。そして主人公の星北ヒナノのモーションアクターAyaka氏は、韓国の大会への出場のためモーション収録は遅れて別日程で組んでいたところ、大会で見事に優勝。ヒナノのダンスに一層の説得力をもたせた格好だ。
コレオ(振り付け)については、各楽曲をダンサーに聴いてもらい、ダンスのイメージを打ち合わせてからラフなダンスを動画として収録。それを乙部氏がチェックし、フィードバックを行なった。「踊ったときに難易度の高いものと、映像として見映えするものでギャップが出るケースがありました。そういうときは見映えを優先しました」(乙部氏)。
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モーションキャプチャには慣性式のMVN Linkを使用。光学式とはちがってマーカーを使用しないため、アクターのダンスとキャラクターに対する没入感を高めるのに役立ったという。撮影はキャプチャスーツを着用して行なったが、これを着てポールダンスをすると摩擦が働かずに滑ってしまい、ダンスの難度が格段に上がる。そのため、シリコン素材の特別に摩擦係数が高いポールを輸入してダンススタジオに備え付け、撮影を行なった。
テクニカルディレクターの國武亮佑氏は「動きづらいキャプチャスーツを着て、バッテリーやセンサーも付いている。さらに慣れないシリコンのポールを使っているのに、ここまでのダンスができるとはと思うほど、まさに超人的でした」と、ダンサーたちの踊りに舌を巻いたという。
ポールダンサーのモーションキャプチャ現場
モーションキャプチャにはMovella(旧XSENS)のMVN Linkを使用し、絶対値取得のためにHTC Viveの位置トラッカーも2台併用。Viveトラッカーの赤外線乱反射を抑えるため、スタジオ備え付けの鏡には黒いカーテンをかけた。
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ダンサーの回転によるズレをツール開発で解決
慣性式モーションキャプチャの特性上、激しく回転するポールダンスでは、回転が速ければ速いほどポールとの接触点にズレが生じてしまう。MVN LinkとHTC Viveを併用していても、レイヤーの位置移動では360度の回転ズレに細かく対応できなかったが、CGデザイナーの伊藤氏は「ポールを軸に固定すれば、規則的な円を描いて回る」ということに気づいた。そこでポールへの接触ポイントを作業者が指定し、そのポイントが回転の中心になるようにBipedの位置を変更するスクリプトベースのツール「Move Biped Point」を開発し、ズレを吸収した。
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股関節の破綻はスキンモーフで修正
アイドルのダンスで破綻が目立つ箇所といえばやはり肩回りだが、ポールダンスではそれに加えて股関節の可動範囲が広い。本作ではそうした破綻が目立つ部分にはスキンモーフモディファイヤを適用した。「想定していた以上に股関節が曲がっていたので、破綻の状況によっては頂点アニメーションを加えて整えています。これは今回の劇場版というよりはショートアニメの制作時に発見し、解決したことです」(乙部氏)。
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ダブルスでの衣装のめり込みは丈の調整で回避
御子白ユカリが左手足でつくった“輪”に紫藤サナが降りていくというダブルスのパフォーマンス。こうした演技ではキャラクター同士の接触が多いため、めり込みの解決に苦労したという。ワークフロー上、衣装デザインはダンス関連よりも前の工程にあったため、ダンスの動きに合わせた衣装の調節はできず、合成で直そうとしても、次のレイヤーの重なりが変わってくるため非常に困難。そこで、接触面付近ではサナのスカートとユカリのジャケットの丈を少しずつ短くすることで、接触を回避することにした。回転しながらの演技ということもあり、違和感のない表現に仕上がっている。
スカートへのポールのめり込みは手作業で頂点移動
スカートをクローズしてマーメイドスタイルになった東坂ミオのダンスは、ポールを挟んだり脚を交差する動きもあるため、画が破綻しやすい。セットアップだけでは全ての破綻を回避できなかったため、カットごとに修正を行なっている。「ダンスの動きに合わせて、めり込んだパーツ単位で、段階を踏んで修正していきました。綺麗な形を出すために、手クセで直すようなことはせず、フィニッシュの形を別にモデリングしてから、それを下敷きにして手作業で合わせていくという地道な作業が中心でした」(CGデザイナー・平泉 晃氏)。
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芝居経験のある社内CGデザイナーのモーションを活用
ステージへの入退場など、ダンスシーン以外の一部の日常芝居についても作画コストを考慮してCGモデルを使用している。こうしたシーンのアニメーション制作では、舞台劇を経験した経歴をもつCGデザイナーの川崎春香氏のモーションをキャプチャし、加工している。
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キャラクターの特徴に合わせた多彩なフェイシャル
フェイシャルには各キャラ29パターンのモーフターゲットを用意している。
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作画キャラとCGキャラが絡むシーンでは、作画キャラに合わせて鼻を高く、顎を大きく弾いている。ダンス中は正面斜めのアングルが最も多く映るため、その印象が良くなるモデリングしているが、横アングルになると不自然に見える。そこで、横顔専用のモーフターゲットを作成し対処したという。こちらは修正前の横顔 -
修正後。鼻の形を整え、顎を前に出している
MassFXを活用した揺れものの制御
御子白ユカリのマントや蒼唯ノアの着物の袖のアニメーションは、クロスシミュレーションでは頂点をベイクしてしまうため修正が難しくなる。そこで本作では、3ds MaxのMassFXを揺れもの用のボーンに適用し、そこにシミュレーションをかけることで、ベイク後でも再編集できるボーンにした。その結果、メッシュを高密度にする必要がなくなり、後工程の作業負荷を大きく軽減できたという。
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ユカリのマントのMassFXコリジョン設定。青いメッシュがシミュレーション部分、オレンジが衝突判定用のメッシュ -
MassFX適用後のアニメーションリグ。マント端には角度を制限するヘルパー(緑色)がある
キャラクターを美しく描き出すカメラワーク
本誌の表紙にも登場している蒼唯ノアのダンス。刀を持ち、回転しながら空中であぐらをかき、逆さ反りポーズをとるという、アイドルのダンスではまずお目にかかれない大技である。全6曲のダンスシーンは、乙部氏が自らカメラワークをつくり、江副仁美監督がチェックするというながれで制作した。「ダンサーさんが見せたいポイントを拾うように意識して、特に足を綺麗に見せられるように撮っています。カメラワークで強く意識したのは現実の音楽ライブのPV映像です。ロックバンドやアイドルのMVなども参考にしています」(乙部氏)。
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TEXT_日詰明嘉/Akiyoshi Hizume
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota
EDIT_海老原朱里/Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子/Momoko Yamada