アニメ『MFゴースト』は、しげの秀一氏原作による漫画のアニメ化作品だ。同氏の過去の作品『頭文字D』の後継作でもある。本作は電気自動車が一般化されている近未来を舞台に、「MFG」と呼ばれるガソリン車の公道レースをめぐる物語が展開される。実在する公道を使った迫力のカーレースが見どころだ。現在は2nd Seasonが放映されている。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 316(2024年12月号)からの転載となります。

    フルCGで表現されたレースシーン

    本作は作画と3DCGのハイブリッド作品となっており、公道レースシーンはフルCGで表現されている。CGアニメーション制作はFelixFilmが担当。

    「基本的にクルマが走っているシーンは3DCGで完結できるようにつくっています。クルマに搭乗しているドライバーも3DCGで作成しています。また、コースの背景も3DCGで作成し、レースの舞台となる実際の街並を忠実に再現しました。2nd Seasonでは、様々な天候条件の中でレースが行われるので、天候変化に伴った雨や灰などのエフェクトも担当しています」と3Dディレクターの内田博基氏は話す。

    アニメ『MFゴースト』
    2nd Season、TOKYO MX、アニマックスほかにて放送中
    原作:しげの秀一(講談社「ヤングマガジン」連載)/監督:中 智仁/アニメーション制作:FelixFilm/CGアニメーション制作:FelixFilm、directrain/ 製作:MFゴースト製作委員会
    mfg-anime.com
    Ⓒしげの秀一・講談社/MFゴースト製作委員会

    3DCGの制作は2020年10月からスタートし、まずは主人公が搭乗するTOYOTA 86からモデリングを開始。1st Seasonだけで車輌39台、ドライバーについては衣装替えも含め24体が制作されている。2021年から、3D先行のカットから3Dレイアウト作業が開始。アニメーション作業は2022年1月からプライマリが始まり、約4ヶ月後に1話のアニメーション作業が終了。24話までのアニメーションが終了したのが2024年6月だったという。

    左より、テクニカルディレクター・鳥居克裕氏、ルックディベロップメントスーパーバイザー・坂上 旦氏、3Dディレクター・内田博基氏(以上、FelixFilm)、3DBGスーパーバイザー・桃内ツトム氏(フリーランス)、3Dプロダクションマネージャー・唐澤晃太氏(FelixFilm)

    取材協力、CGモデリングディレクター・島野達也氏、CGラインディレクター・伊藤仁美氏(以上、FelixFilm)

    DCCツールは、3ds MaxAfter Effects(以下、AE)がメインで、背景制作の一部にUnreal Engine(以下、UE)が採用されている。「これまでもクルマを扱うことはありましたが、カーレースを描く仕事は始めてだったので、スタッフ内でレイアウトやカメラワークによるクルマの見せ方を共有しました」と内田氏。以降、詳しく紹介していきたい。

    TOYOTA 86をはじめ実在するクルマやレースコースを忠実に再現

    クルマのモデルのベースは購入した既存のモデルを利用しているが、物語の設定に合わせてパーツのディテールなどが追加されている。特にTOYOTA 86に関してはディテールを増やす作業が多くなったという。

    「クルマのモデルは質感設定がポイントで、ライトやウィンカーなどの発光部分の表現が難しかったです」と、CGモデリングディレクターの島野達也氏。クルマのルックは完全にセルアニメ調に合わせてしまうと背景から浮いてしまうので、グラデーションや映り込みを表現して、ややリアル調のルックに調整された。

    コースの背景アセットは、実在する街並が舞台となるためイメージボードや写真を参考にしながら制作された。「昼間のシーンが多く、細かいところまで見えてしまうので、ディテールのつくり込みが難しかったです。ただ、最初の段階で中(智仁)監督と細かく打ち合わせできていたので、早めに取りかかれました」(3DBGスーパーバイザー・桃内ツトム氏)。

    背景は基本的に3ds Maxで作成されているが、俯瞰のショットは樹木の表現が難しいためUEを使って作成。ただし、スタッフの習得コストを考慮して、UEを使用するカットは決め打ちして活用された。

    主人公の片桐夏向が乗るTOYOTA 86

    TOYOTA 86のモデル。細かいパーツのカスタマイズが行われている。「TOYOTA 86は1戦目と2戦目で大きくカスタマイズされていて、ホイールの形状やブレーキキャリパー、マフラーの形状などを変更しています。内装なども整合性を詰める作業が難しかったですが、実物のデザインを忠実に再現するように心がけました」(ルックディベロップメントスーパーバイザー・坂上 旦氏)。

    • ▲下方向から見たTOYOTA 86。シャーシ裏も細かく再現されている
    • ▲内装は実際の市販品をベースにモデリング
    • ▲難しかったというホイール。ブレーキキャリパーも設定合わせでカスタマイズされている
    • ▲タイヤも実際の商品に合わせてモデリングされ、溝もメーカー特有のデザインを再現。タイヤは停止時と走行時で2つのモデルが切り替えられている
    • ▲ショックアブソーバー。アップに耐えられるようにディテールが詰められている
    • ▲レンダリングされたTOYOTA 86。ハイライトの入り方など、リアルとセルアニメ調の中間バランスで調整されている

    TOYOTA 86に多数施されたカスタム

    TOYOTA 86のカスタム例だ。カスタムパーツは基本的に実際に販売されている商品を基にデザインされており、メーカーやブランドロゴも実際に使われているものが使用されている。

    • ▲タイヤ周りをカスタムした状態。ブレーキキャリパーはBLITZ製のシステムにカスタマイズされており、タイヤもヨコハマタイヤADVANのMFG仕様という設定に基づいている
    • ▲スロットルコントローラも実際に市販されているものを再現
    • ▲作品の設定に合わせてマフラーもカスタマイズされており、チタンの青いグラデーションの焼き色も再現されている
    • ▲左画像赤枠の拡大

    個性的で見どころとなるクルマたち

    TOYOTA 86のほかにも、様々なクルマが登場するのが本作の見どころのひとつ。これらも物語が進むにつれ、車種や装備がアップグレードされるため、そのためのモデル制作やリグ制作も多く発生したという。例えば、柳田拓也が第3戦目でBMW M6からBMW M4 DTMという車種に乗り換えるが、このクルマはもともと第1戦目でほかのキャラクターが乗っていたBMW M4のモデルデータを改造して制作している。

    • ▲BMW M4のモデル
    • ▲左記のBMW M4をベースに制作されたBMW M4 DTMのモデル。カラーリングはもとより、タイヤやウィング、テールランプなどがアップデートされている。「見た目がかなり変わって、とても印象に残ったモデルです」(坂上氏)
    • ▲ポルシェ ケイマンのリアウイングの開閉ギミックの例。画像は閉じた状態
    • ▲同じく、開いた状態。ケイマンは一定の速度になると開閉する仕様になっているため、リグを仕込んでアニメーターが動きを付けやすいように工夫されている

    クルマのライトや車内のパネルのつくり込み

    作中ではクルマのバックショットも多く、ブレーキングを見せる演出も多いため、各クルマのテールランプも非常に凝ったつくりになっている。「リアル寄りの質感表現になっているので、テールランプなどのガラス部分の艶とかハイライトの質感設定にはこだわりました」と島野氏。また、インストルメントパネルにある計器類の文字盤の発光やガラスの表現も、車種に合わせて正確に再現されている。

    • ▲TOYOTA 86のテールランプの例。フロントライトやテールランプは電球などの内部パーツもモデリングされており、昼間のカットでは中が透けて見える。電球の質感リファレンスを探すのには苦労したという
    • ▲インストルメントパネルの一例

    リアルさにタッチ線を追加したルックデヴ

    本作に登場するクルマの質感は、セルアニメ調とリアルなルックが混在したルックになっている。映り込みのハイライトはグラデーションがかかったリアルな映り込みになっているが、ボディにはPencil+ 4を使ったラインが描画されている。また、アニメ寄りの質感表現として、タッチ線と呼ばれるボディの傷や汚れについては、ノイズを縦方向に伸ばした素材をマスクに使って部分的に描画されている。このノイズはアニメーションができるように設定されており、クルマの振動を上手く表現するのに使われている。

    • ▲タッチ線用のノイズマップ
    • ▲マスク素材。UV展開され、ねらったところにタッチ線が表示されるようになっている
    ▲カラーマップにノイズを合成した状態
    • ▲タッチ線をレンダリングした状態
    • ▲左画像赤枠の拡大
    ▲TOYOTA 86のルック例。窓ガラスもアニメではよくスモークになっており中が見えないことが多いが、本作ではグラデーションがかかった半透明になっており、空などの環境も映り込む質感になっている

    カスタムアトリビュートが設定されたクルマのセットアップ

    本作のリグは比較的オーソドックスなリグになっており、地面への接地機能や速度に合わせたタイヤの自動回転などの機能が盛り込まれている。

    ▲これらのリグには、カスタムアトリビュートが設定されており、アニメーターが動きを付けやすいようになっている
    • ▲クルマにセットアップされたコントローラの例。基本的な挙動はこれらのコントローラで操作可能だ
    • ▲リグ中央上部にあるピン状のコントローラが、接地用のコントローラだ。押しつけた状態にすればタイヤが地面にめり込まないようになっている
    ▲カットにおけるコントローラの使用例。コントローラに仕込まれたカスタムアトリビュートは、UIに独自の関数をもたせて、UI上で呼び出すことができるようになっている。「3ds Maxのカスタムアトリビュートは大部分をMAXScriptで置き換えることができ、カスタムアトリビュートを用いて新しい機能をリグに埋め込めるので、非常に強力な機能のひとつだと思います」(テクニカルディレクター・鳥居克裕氏)

    実在する公道を再現したレースコース

    カーレース「MFG」のコースはイメージボードや写真、Googleマップを参考にしながら実際の街並を再現。物量が多くなると予想されたので、イメージボードが提供された段階で先行して3DBGチームで背景アセットを作成するワークフローを中監督に了承してもらったという。「先行制作の了承がとれたのが、BG制作の大きな分かれ道になりました」と桃内氏。

    ▲最初に提供された箱根ターンパイク料金所のイメージボード
    • ▲スタッフ間で共有するために作成された汎用素材のモデルの一例
    • ▲同じく、汎用素材のモデルの一例
    ▲汎用素材に使用されているテクスチャは、アニメの美術背景的な絵柄を表現するため、「地道にPhotoshopでテクスチャを描き込む」というシンプルな方法が採られている。ほかの作品の3DBGとの差別化を図るため、背景美術的な嘘の陰影やハイライト、アンビエントオクルージョンの省略など、自由にコントロールできる方法として桃内氏が多用する手法だという
    小田原のカマボコストレートの背景用のマテリアル。3Dライティングは基本的に使用しないが、必要な落影用マスク素材が用意されている。撮影処理用に内製ツール「ShellSwitchマテリアル」で切り替えながら出力することができる

    3D背景制作

    カマボコストレート部分の3D背景制作の例。

    ▲背景データを上から見た状態。Project PLATEAUが提供している3D都市モデルから地形を読み込み、建物の位置を整理し、RailCloneで道路や付属物を敷いてレイアウトされている
    ▲モデルチェック用画像。樹木は板ポリゴンにテクスチャを貼って対応している
    ▲モデルチェック用のレイアウトをレンダリングした状態。3ds Maxから出力された背景素材は3DBGチームの方でベースのコンポジットがAEで仮組みされている。素材の名前や設定方法を統一しているため、新規の大きな要素変更がなければ、素材を上書きするだけでコンポジットの仮組みを行うことができる

    (2)に続く。

    CGWORLD 2024年12月号 vol.316

    特集:ガンダムCGの変遷と最前線
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2024年11月9日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_大河原浩一 / Hirokazu Okawara
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada