アニメ『MFゴースト』は、しげの秀一氏原作による漫画のアニメ化作品だ。同氏の過去の作品『頭文字D』の後継作でもある。本作は電気自動車が一般化されている近未来を舞台に、「MFG」と呼ばれるガソリン車の公道レースをめぐる物語が展開される。実在する公道を使った迫力のカーレースが見どころだ。現在は2nd Seasonが放映されている。

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    TVアニメ『MFゴースト』3DCGで表現されたリアルなクルマと迫力のレースを解説!〜(1)クルマ&レースコース制作篇

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 316(2024年12月号)からの転載となります。

    Information

    アニメ『MFゴースト』
    2nd Season、TOKYO MX、アニマックスほかにて放送中
    原作:しげの秀一(講談社「ヤングマガジン」連載)/監督:中 智仁/アニメーション制作:FelixFilm/CGアニメーション制作:FelixFilm、directrain/ 製作:MFゴースト製作委員会
    mfg-anime.com
    Ⓒしげの秀一・講談社/MFゴースト製作委員会

    3DCGならではの表現力で描く迫力のカーレース「MFG」


    左より、テクニカルディレクター・鳥居克裕氏、ルックディベロップメントスーパーバイザー・坂上 旦氏、3Dディレクター・内田博基氏(以上、FelixFilm)、3DBGスーパーバイザー・桃内ツトム氏(フリーランス)、3Dプロダクションマネージャー・唐澤晃太氏(FelixFilm)

    取材協力、CGモデリングディレクター・島野達也氏、CGラインディレクター・伊藤仁美氏(以上、FelixFilm)

    アニメーション作業で中監督が最もこだわっていたのがレイアウトやカメラワークなど、画面上でどのようにクルマを見せるかという点だ。クルマの挙動のリアルさ、絵コンテにある演出要件、画的な格好良さ、この3つのポイントのバランスをとることが難しく、当初はリテイクを重ねることが多かったという。

    特にスピード感とクルマの挙動など、アニメ的なダイナミックな表現とリアルのギリギリなバランスを表現できるようになるまで、やや時間がかかったとのこと。「絵コンテだけではわからない動きも多く、カメラワークも3Dなので自由度が広く、難易度が高かったですね。アニメーターの中にはマニュアル車の運転をしたことがないスタッフもいるので、シフトチェンジの挙動の感覚がつかめなかったり。けれど、最終的にはスタッフに中監督の意図がきちんと伝わり、テイク1でOKになるカットが多くなってきました」と内田氏。

    2nd Seasonからは雨や火山灰が降りしきる中でのレースもあるが、雨や灰の表現はクルマの挙動を付けた後にtyFlowを使って自動的にエフェクトが適用されるようにスクリプトを書いて対応。アニメーターの負担を少なくして効率良くカット作成できるように工夫されているという。

    クルマのライン取りにこだわったレースカットの制作

    カット制作では、当初、絵コンテ通りに制作していたが、動画にすると監督のイメージと異なるものになることも多く、監督チェックをくり返しながら詰めていったという。「『頭文字D』の後継作ということで、表現も継承したいと考えていました。本作はレースバトルシーンが長いのですが、その中でどう上手く見せるかが最初に苦労した部分です」と内田氏。カット制作では、実寸サイズの背景モデルとアニメーション作業がしやすい汎用の背景モデルの2種類が用意されており、カットの内容に応じて切り替えているという。

    • ▲コースをカーブするカットの絵コンテ……
    • ▲クルマの挙動変化は記されていないが、監督の演出意図を汲み取って動きを付けていく
    • ▲同カットのプライマリ段階の状態
    • ▲同カットのセカンダリ段階の状態
    ▲監督から示された修正メモ。ドリフト時のクルマの挙動の推移が記されている
    • ▲修正前
    • ▲修正後。クルマのライン取りが変更されていることがわかる

    2nd Seasonから登場する雨のエフェクト

    2nd Seasonでは、レース中の天候変化が物語上のポイントになってくるため、雨のエフェクトにも力が入れられている。各天候用の背景モデルを作成し、そこに降雨とクルマが巻き上げる水などの要素を足したテスト映像を作成し、中監督のフィードバックを基に調整をくり返していったという。雨が降っているカットは、通常のカットの1.5倍ほどのコストがかかるため、登場する15台の車輌に汎用的に使用できるエフェクトを作成し、基本的にクルマを合成するだけで雨のエフェクトを追加することができるしくみが構築されている。

    • ▲路面で反射する雨の素材
    • ▲降雨自体の素材
    • ▲tyFlowで作成した車体に当たる雨と巻き上がる水滴のエフェクト素材
    • ▲雨の素材・降雨自体の素材・水滴のエフェクト素材を合成した状態
    ▲背景を合成し、撮影処理された完成画像

    迫力とリアルさを兼ね備えたカメラワーク

    カット制作では、全体を通してスピード感のあるクルマの挙動とカメラワークの実現が課題になったという。レース中のバトルシーンでは、どの程度の速度で走らせれば違和感を与えずにレースが表現できるか試行錯誤された。MFGのコースは実在する公道なので、走行ラインにもリアルさが求められる一方、バトルシーンではアニメ的な誇張された表現や派手なカメラワークも必要なため、両方のバランスをとるのが難しかったという。

    • ▲第7話カット183の例。コースを上から見た状態
    • ▲カット183の画コンテ。「ヤジキタ兄妹」のクルマに挟まれた片桐夏向のTOYOTA 86が先行車に対してじわりと差を詰めていくというカットだ
    • ▲同カットのプライマリ。カメラ前を3台のクルマが走り抜けていくという大胆でダイナミックなカメラワークになっている
    • ▲同カットのセカンダリ

    カット内でのクルマが走る軌道は、軌道の形状をスプラインで作成し、そのスプラインにクルマをコンストレイントしてアニメーションさせている。カメラワークの作成方法も基本的には同様だ。スプラインに沿わせた状態からクルマの挙動を調整し、クルマの挙動に合わせてカメラワークも調整される。

    ▲青いスプラインがカメラを動かすためのスプライン。赤いラインがクルマの軌道用スプラインだ。このカットでは3車輌が勾配のきつい坂道を上りきり、下り坂を疾走しているカットだが、バトルの迫力を出すために、カメラ位置を上に移動し空撮のようなカメラワークになっている
    ▲カメラリグを表示した状態。カメラ本体とターゲットにそれぞれヘルパーを作成し、それらのヘルパーをカメラワーク用のスプラインにコンストレイントさせた親となるヘルパーにリンクさせて階層化している
    ▲デフォルトで仕込まれている車輌のリグ(紫のコントローラ)に、ひとつヘルパーを追加して細かいライン取りの調整に使用。さらに、その上の階層にヘルパーをもうひとつ作成して親ヘルパーとして階層化し、その親ヘルパーを軌道用のスプラインにコンストレイントさせている

    CGWORLD 2024年12月号 vol.316


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    判型:A4ワイド
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    発売日:2024年11月9日
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    TEXT_大河原浩一 / Hirokazu Okawara
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada