これまで数々の自主制作ショートアニメを発表し、アーティストのMVや企業のプロモーションアニメなどでも活躍しているアニメ作家の安田現象氏。1月31日(金)には初の長編アニメーション作品となる『メイクアガール』が公開された。今回は安田監督のインタビューと共に、制作の内容を特別に公開する。

記事の目次

    ※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 318(2025年2月号)からの転載となります。

    自主制作アニメをきっかけに長編映画化へ

    CGWORLD(以下、CGW):『メイクアガール』は以前に制作された自主制作アニメ『メイクラブ』の長編版とのこと。商業作品として制作された経緯を教えてください。

    安田現象監督(以下、安田):まず『メイクラブ』自体が、僕が自主制作で書いていたライトノベルを映像化した作品で、それを観たプロデューサーから長編映画制作のお声がけをいただきました。ただ、これを長編化するにあたっては、かなり悩みました。というのも、もともと伝えたかった内容はショートアニメの2分30秒でほとんど描き尽くしてしまった感触があったんです。そこで改めて長編映画にする場合には、何らかの意味を付与する必要がありました。

    長編アニメーション映画『メイクアガール』
    1月31日(金)劇場公開
    原作・脚本・監督:安田現象/配給:角川ANIMATION/アニメーション制作:安田現象スタジオ by Xenotoon/製作:メイクアガールプロジェクト
    make-a-girl.com
    ©安田現象 / Xenotoon・メイクアガールプロジェクト

    CGW:どのような点を拡張されていったのでしょうか?

    安田:主人公である明(あきら)が科学的に“彼女” をつくるという、短編で描いていた物語の根幹を掘り下げていく構造にしています。その際に明の真意を物語上どこまで開示するか、バランスには相当悩みました。90分の映画をつくるのは長くて大変ですが、語る身としては短くもあります。何が正解だったかは今も考え続けています。

    安田現象氏

    (株式会社ゼノトゥーン所属)
    2013年に日本大学芸術学部を卒業。ニトロプラスにてCGアニメーターとして活動。その後、フリーランスとして活動する傍ら、2020年に自主制作アニメ『メイクラブ』を発表。2021年より安田現象スタジオ by Xenotoonで『メイクラブ』をベースとした長編アニメ『メイクアガール』を制作開始。2025年1月31日(金)公開。
    X:@gensho_yasuda

    CGW:映像作家として長編第1作へ取り組む上での難しさは何でしたか?

    安田:これまで自主制作として1人でつくっていた部分を切り離してスタッフに渡すことには正直、勇気が要りました。制作当初の頃は「自分だったらこういうかたちで表現するのに」と思った部分もゼロではありませんでした。ただ、構想をスタッフに上手く伝えることができると、自分の技術ではつくり込むことができなかった域にまで仕上げてもらえて、今ではむしろ「頼らせてください」と思える状態にまでになり、良いチームに仕上がっていったと思います。

    CGW:現在の安田現象スタジオの規模感をどのように捉えていますか?

    安田:やたらに大きくしたくはないとは思っていますが、プラスアルファの表現を探究するためには、もう少し人数がほしいです。

    3DCGとの出会いとライトノベルの執筆

    CGW:安田さんのクリエイターとしてのバックボーンについて教えてください。

    安田:自分にとっての創作活動のスタートラインは転校した先の高校で出会った油絵でした。それまでの水彩絵の具とは異なる油絵の自由さに惹かれ、大学は芸術学部に進みました。就職の時期を迎えると、自分の腕だと絵では食べていけないことに気づき、その頃に3DCGの存在を知りました。画づくりで培った技術や経験を活かして創作活動ができ、仕事にできるのではないかと思ったんです。ただ、この頃の僕にとって3DCGは仕事のツールに過ぎませんでした。実際に働き出してはじめて、自分が制作者として一番惹かれていたコンテンツは“物語” であると気づいたんです。

    CGW:いくつもの表現手法を経てたどり着いたんですね。

    安田:そこでまずは週末だけ小説を勉強するための学校に通い、書き始めてからは、当時勤めていた会社のライターさんたちに作品を見せ、ご指導をいただきました。その後ライトノベルの賞に応募し、上位2%ぐらいまで通るようになったのですが、その先に至れない状況が長く続きました。ゴールを外に設定するととても疲れます。気づけば3Dクリエイター業も中堅になってきまして、そこでようやく自分の中でやりたいことに改めて向き合うようになりました。そのとき、それまで個別に磨いてきた小説と3DCGの技術を合わせることを思いつきました。そうしてつくったのが『メイクラブ』でした。

    CGW:だから『メイクラブ』の原作がライトノベルだったんですね。

    安田:そうなんです。ありがたいことに、この作品は大勢の方に観ていただき、コメントもいただきました。本当に嬉しくて、作品というものは人が観てくれて初めて完成するのだとわかりました。以降、アニメ作家としての仕事やMVのお仕事をいただき、この『メイクアガール』に至ります。

    CGW:お話いただいたご自身のプロセスがアニメーション作家として活きているなと実感することは?

    安田:自分でもなかなかの行き当たりばったりですし、評価されるようになったのも、デジタルメディアで活動する方たちの中では遅い方なので……(笑)。ただ、まずは作品を人目に触れるところにもっていくことがスタート地点ですし、そのとき人に気に入ってもらえたり説得力をもつような作品である必要があると思います。特に3DCGはかけた時間の分だけ上手くなるので、時間をかけてトライ&エラーを行い、自分の中で確かな技術にする必要があると思います。

    これは自省を込めてですが、言われた仕事をこなすだけでは得られないものはたくさんあります。自分の場合は能動的に『メイクラブ』をつくろうとしたことをきっかけに、改めて様々な技術を会得することができました。表現者として自分が評価されているポイントも、能動的に発見しにいって見つけたことばかりなので、やはり最低限の業務以外の工夫をいかに重ねるかが、クリエイターとしての自分を成長させるポイントなのかなと思いました。

    CGW:『メイクラブ』でデビューし、その後にショートアニメで着実にキャリアを重ね、劇場長編というマイルストーンを置きました。若いクリエイターの希望となっていると思います。彼らにメッセージを送るとしたら?

    安田:自分が実際に思ったこととして、3DCGを含めたクリエイティブ全般に言えるのは、関わりはじめは楽しいことばかりですけれども、苦しいことだらけのタームも創作活動を続ける中で必ず訪れます。それは往々にして、自分を他者と比べて外にゴールをもったときに起こるんです。そこでいかに自分と向き合う状態をつくれるか。楽しんでつくることが結局は大事なんだと思います。

    CGW:『メイクアガール』が公開されましたが、今後の目標は?

    安田:初めての長編物語でセリフが入ったのも自分としては初めてでした。そうした作品の絵コンテを描いたことで様々な発見もありました。こうして出来上がったからこそ、より良くできる方法が後から見つかったりもします。その悔しさも踏まえ、現在は1950年代までさかのぼって映画演出の研究を続けています。よりプラスアルファの工夫をもたせた演出をバージョンアップしたかたちで作品を発表していけたらと思っています。

    (2)に続く。

    CGWORLD 2025年2月号 vol.318

    特集:株式会社萌と『株式会社マジルミエ』
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2025年1月10日
    価格:1,540 円(税込)

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    TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
    PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada