一般社団法人 日本アニメーター・演出協会(JAniCA)による「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2025 in TAAF」が、3月8日(土)・9日(日)の2日間行われた。

東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)実行委員会主催の下、「ACTF2025 in TAAF」と銘打ち、8日(土)には各社事例紹介をTKP池袋カンファレンスセンターにて、9日(日)にはセミナーと展示などをとしま区民センターにて開催。あわせてオンライン配信も実施された。

本記事では9日(日)のセミナーから、CloverWorksソニー・ミュージックエンタテインメントソニーグループによる「アニメ制作ソフト“AnimeCanvas”開発進捗報告」の模様をレポートする。

記事の目次

    関連記事
    Unreal Engineを活用した東映アニメーションの3Dレイアウトツール「3DLayout UE」事例紹介 〜ACTF2025 in TAAF(1)

    アニメ制作の全工程デジタル化を目指すstudio MOTHERによる制作事例を紹介〜ACTF2024 in TAAF(2)

    イベント概要

    「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2025 in TAAF」
    開催日:2025年3月8日(土)、9日(日)
    場所:8日(土)TKP池袋カンファレンスセンター 5階 ホール5A、9日(日)としま区民センター 6階会議室(配信・聴講)、7階会議室(展示)
    参加料:無料
    主催:東京アニメアワードフェスティバル実行委員会
    共催:一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA)、ACTF事務局、株式会社ワコム、株式会社セルシス
    www.janica.jp/course/digital/actf2025inTAAF.html

    ソニーグループがアニメ制作ソフトを開発する意義

    本セッションにはCloverWorksの倉澤太一氏、ソニー・ミュージックエンタテインメントの高橋 学氏、ソニーグループの荒木俊之氏が登壇。ソニーグループ横断で推進中のAPDXプロジェクト(アニメ制作DXプロジェクト)より、現在開発中のアニメ制作ソフト「AnimeCanvas」の進捗について報告がなされた。

    ▲左より、倉澤太一氏(CloverWorks)、高橋 学氏(ソニー・ミュージックエンタテインメント)、荒木俊之氏(ソニーグループ)、轟木保弘氏(司会進行・ACTF事務局)
    ▲本セッションではAnimeCanvasのコンセプトムービーもお披露目。一部カットではAnimeCanvasを試験的に使用しているという。なお、アニメーション制作はA-1 Picturesが担当

    AnimeCanvasの開発は、原画・動画用ソフトの「KEY/DO」と、仕上げ(着色)用ソフトの「COLOR」の2つに分けて進められている。オリジナルソフト開発の背景について、倉澤氏は「既存のソフトウェアの限界」と「安心して使い続けられる環境の必要性」を挙げた。

    ▲APDXプロジェクトにはA-1 Pictures、CloverWorks、ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニーグループが参画。なお、図中にある仕上げ支援機能のスマートフィルは「COLOR」に搭載される

    既存のソフトは、日本のアニメ制作の工程に特化したものではないものが多い。現場では紙と鉛筆が根強く残っており、「アナログの感覚を壊さずにデジタル化を進めなければ、真の意味での移行は難しいのではないか」と、倉澤氏は語る。

    また、第三者のメーカーが開発を担う場合、ビジネス上の判断でサポートが打ち切られるリスクもある。そうした懸念を払拭するためにも、制作現場が開発を主導する意義があると強調した。

    ▲現状のアニメ制作現場では工程ごとにクリエイティブには直結しない煩雑な作業が発生しており、クリエイターはもちろん制作進行の負担も大きい

    AnimeCanvasの理念として、まず「安心して使い続けられるソフトウェアの提供」を第一に掲げているという。メーカーの都合による突然の仕様変更に左右されることなく、クリエイターがハードウェアやOSの進歩を享受できる環境づくりを目指している。

    さらに「作業の効率化」も重要な柱だ。ファイル形式を統一することで他のソフトとの互換性を保持することや、原画から撮影までタイムシートの一貫性を確保することも視野に入れている。その実現には、業界全体で同じ環境で作業をすることが重要で、AnimeCanvasがその共通言語となれればと、意気込みを伝えた。

    タイムシートをデジタル化するなど、「作業の効率化」も重要な開発目的だ
    ▲「KEY/DO」は、2025年度内にA-1 PicturesとCloverWorksの内部で運用することを目標に開発中

    荒木氏は「KEY/DO」のプロトタイプ版を紹介。「KEY/DO」は紙のような直感的な操作感を再現しつつ、デジタル作画に慣れたアニメーターも満足できる操作体系の構築を目標としているという。初めに、A-1 Picturesのアニメーター・川上哲也氏によるレビュー動画が上映された。

    ▲川上氏のレビュー動画の一部。とくにタイムラインシート機能が好評で、作画監督の作業時にワンクリックで用紙を追加できるなど、UIの利便性を評価した
    ▲引き続き、川上氏のレビュー動画。オニオンスキンのカスタマイズ性や作画のプレビュー機能も高評価。一方で、ツールごとのショートカットの実装など、使い勝手に関わる機能の充実を課題に挙げた

    「KEY/DO」の最大の特徴は、画面右に表示されるタイムラインシートだ。修正作業の効率化を考慮し、シートの表示方法は複数の形式が用意された。

    ▲タイムラインシートの表示形式の一覧。紙のシートと同じようにセル番号のみを表示するもの、セル番号に最新の修正を加えたもの、すべての修正指示を表示したもの、さらにサムネイルで確認できるビュアー形式がある

    原画・動画用ソフト「KEY/DO」を実演

    セミナーの後半は「KEY/DO」のデモンストレーションが行われた。

    ▲「KEY/DO」を開いた状態。まずはレイアウトの工程から実演が始まった
    ▲タイムラインシートをクリックすると作画用紙が表示される。画面上部にはアニメ制作でよく使われるペンが複数あり、クリックで色を選択して絵を描いていく。なお、用紙の右上にはA-1 Picturesのロゴマークが表示されているが、完成版では任意のロゴが表示できる予定とのこと
    ▲用紙に線を描くと、タイムラインシートに「1」と表示され、レイヤーが自動的に生成される。レイヤーは色鉛筆ごとに紐付いているため、レイヤーの切り替えを意識せずに紙と同じ感覚で描くことができる
    ▲ボールが跳ねるアニメーションのラフ。これを基に背景とラフ原画を描いていく
    ▲タイムラインシートの背景をクリックして、新たな用紙を表示。透明度は自由に選択でき、ラフを透かせた状態で背景の地面を描いていく
    ▲タイムラインシートのAセルをクリックしてラフ原画を制作する。セル番号は自動で振られ、画面上はA-1からA-5まで5枚描き上げた状態だ。タイムラインシート上部の再生ボタンを押すと、プレビュー動画が再生される。カーソルキーを使って、指パラのような感覚でも動きを確認できる
    ▲シートを調節して、A-3とA-4の間に新たなセルを加えた状態。自動的にA-6のセル番号が割り振られるが、右クリックから「タイムラインの正規化」を選択すると、順番通りA-4に置き換わる
    ▲右クリックから「中割セル追加」で中割を打つことができる。デモでは原画の間に均等に動画を打った
    ▲上記、ウィンドウのアップ。「中割セル追加」を選択すると中割を打つことができる

    作業完了時には「保存」以外に「提出」という機能も備わっている。「提出」は次の工程にファイルを出力するための機能で、任意のフォルダ構成やファイル名などのルールが自動で反映されるしくみが採用された。

    演出や作画監督が内容を確認した結果、修正の必要がないと判断した場合でも、きちんとチェックはしたことを示す手段としても活用できる。

    ▲続いて、演出チェックの工程に進む。受け取ったファイルを開くと「工程選択」が表示される。
    ▲上記、ウィンドウのアップ。なお、このときすでに完了したLOの「上がり」は選択できないようになっており、誤って前の工程に戻ってしまうミスを防いでいる
    ▲演出チェックでは、タイムラインシートのセルをクリックすると、赤い演出修正用紙のレイヤーが自動で生成される。今回の例ではA-4のラフ原画に「もっと潰す」という演出指示を加えた。修正が入るとタイムラインシートの表示の色が変わり、一目でわかるようになっている
    ▲タイムラインシートの表示形式は複数ある。これはサムネイルで確認できるビュアー形式のもの。担当者の好みによって使い分けできる

    続いて、動画の工程では、ライトテーブル機能を使用し、絵の位置を調整しながら中割をする手法を実演した。

    ▲動画の工程で「タイムラインの正規化」を選択すると中割に番号が振られ、原画番号が動画番号に置き換わる
    ▲原画のA-1とA-3をトレスした後に、動画のA-2の中割を実演。A-2をライトテーブルに登録し、A-1とA-3は色を変えて見やすく表示した
    ▲A-1とA-3の絵が重なるように用紙を合わせる。用紙の回転軸なども調整でき、位置をぴったり重ねることができる
    ▲ライトテーブルの中割の枚数を「1枚」、位置を「50パーセント」に設定し、実行ボタンをクリック。するとA-1とA-3の位置の中間に、A-2の用紙が移動する
    • ▲そのままトレスをする。「一時リセット」ボタンを押すと……
    • ▲A-1、A-2、A-3のすべての用紙が表示され、きちんと均等に割れているか確認できる

    荒木氏はプロトタイプの現状について、UI構造が好評を得ており、基本的な設計はここから大きく変更されることはないとコメント。今後は、前述の川上氏が指摘したショートカットの実装をはじめ、カメラワークの設定や大判の作画への対応を検討し、ブラッシュアップを重ねた上で、β版の内部リリースに繋げたいと述べた。そして、ソフトを広く使用してもらうためにも、今後さまざまな場で皆さんの意見を伺いながら開発を進めていきたいと語った。

    ▲セミナーの後半では「COLOR」も紹介。こちらは「KEY/DO」よりも開発が進んでおり、2025年度からA-1 PicturesとCloverWorksでの運用実証が予定されている
    ▲「COLOR」と既存ソフトとの作業速度の検証結果。作業時間は4人中1人のみの軽減に留まったが、クリック数は4人全員が減少しており、独自機能のスマートフィルを使いこなすことで、既存ソフトを上回る作業速度が実現できるとわかった。現在はさらなる完成度向上と本番運用に向けた検証中だ

    質疑応答のコーナーでは、ソフトウェア開発者の参加者から、継続して運用できるソフトを手がけるにあたって考慮していることについての質問が飛んだ。

    荒木氏は、まずは使い勝手が良いものをつくらなければユーザーに使ってもらえないため、それが大前提だとコメント。その上で、マルチOS対応やAPI解放については要望がある一方、運用コストも関わってくるので慎重に判断する必要があるとした。

    続いて、高橋氏もビジネス的な観点でも同様だと語る。ただ、AnimeCanvasは、ソフトウェア単体で利益を上げることを目的とはしておらず、各社の協力を得ながら継続的な運用を目指していきたいと述べた。

    なお、AnimeCanvasは現在、公式X(https://x.com/animecanvasinfo)を運用中。最新情報は随時発表していくとのことだ。実用化に向けて、今後の更なるバージョンアップが楽しみだ。

    TEXT_遠藤大礎 / Hiroki Endo
    EDIT_海老原朱里 / Ebihara Akari(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada