ゲーム制作といえばプログラミング。プログラミングといえばキーボードでひたすらソースコード入力。そんな常識を覆すアプリが、株式会社しくみデザインの「Springin’(スプリンギン)」だ。スマホやタブレットを使って、タッチ操作で簡単にゲームが制作できるアプリである。
このアプリはイラストレーションやCGなど、画をつくるクリエイターにとっても新しい展開が期待できる。ということで今回は、しくみデザインの代表、中村俊介氏とピクセルアーティストのAPO+(アポ)氏に、アーティストの立場からスプリンギンでできることを探ってもらった。
敷居の高さ“ゼロ”のゲーム制作アプリ
APO+:実は『アンリアルライフ』(Switch、Steam、iOS、Android)というゲームのデベロッパーのhakoさんと7年近くの知り合いで。この方はピクセルアーティストでもあるんですけど、ひとりでアートからゲーム、音楽まで手がけてるすごい人(笑)。そういうこともあって僕もゲームには興味あるんです。
ただ、hakoさんがあのゲームを6~7年かけてリリースしたこともあって、やっぱり大変だよなぁと思っていて、なかなか手が出せていないんですよ。
APO+
ピクセルアーティスト
中村俊介(以下、中村):そうなんですよね。イラスト、動画、写真とか、クリエイティブのツールは本当に選択肢が増えて、アプリでは特に、直感的に誰でも使えるものが増えてきましたよね。でも、プログラミングだけはそういったツールがまだ少なくて、そのせいでゲーム制作は敷居が高くなっている部分があると思うんです。
中村俊介氏
株式会社しくみデザイン 代表取締役
APO+:その敷居の高さって、デバッグっていうんですかね、エラーが出て挫折するみたいなことも原因ですかね。
中村:そうですそうです。なので、文字を使わずにエラーも出さずにつくれるようなアプリで、しかも開発画面と実行画面をほとんど一緒にして、難しそうって思われないようなゲーム制作アプリをつくろうということで開発したのがスプリンギンです。
APO+:スマホでつくれるんですね。どうやってつくっていくんですか?
中村:ちょっとやってみますね。これはアプリを起動したらすぐできるチュートリアルワークです。
―― と中村氏は、下記動画のような一連の操作をAPO+氏に見せてくれた。
■「コロコロゲーム」でSpringin’(スプリンギン)を覚えよう!
―― 坂を降りていくプレイヤーキャラを良いタイミングでジャンプさせて、ゴールの旗に捕まらせるというゲーム。重力の設定、キャラの回転移動、坂を重力の影響外にすること、ボタンタップとキャラジャンプの連動といった挙動をノンコーディングで実装できる。実装できる40種の属性は「属性ガイド」にまとめられている。
APO+:UIがすげーわかりやすいですね! 思ってたよりも直感的で、こんなに簡単にできるんだ。属性も、ちょっと触ってみるだけでこう動くのかというのがすぐわかる。
中村:そうなんです! エディタのUI/UXは特にこだわって練り上げたものです。アイコンとピクトグラムベースでテキストは極力使わないようにして、年齢・国籍を問わないユニバーサルデザインに仕上げました。
APO+:SE(効果音)もかなりつくり込めるんですね!
中村:はい、音程から波形まで、ちょっとしたシンセを内蔵してます。でも細かいことはあまり気にせずに、動かしてみたらこんな音になったみたいなつくり方で、楽しみながらつくれるようにしています。
それと、うちの社員がつくったフリー音源素材が今1,000個ぐらいあって、スプリンギンでも、それ以外でも自由に使ってくださいってことで公開しています。
APO+:え? スプリンギン以外でも使っていいんですか(笑)!?
中村:はい、そこはケチなことはせずにどうぞということでやってます(笑)。
APO+:ユーザーがつくったゲームもこんなにたくさんあるんですね。Flashゲームを思い出しましたけど、つくるハードルはスプリンギンのほうが全然低いですね。
中村:確かに、盛り上がり方はFlashに似ているかもしれませんね。おかげさまで、ちょっとしたゲームから本格的な作品まで、スプリンギンのマーケットプレイス(ユーザーがスプリンギンの自作ゲームをアップロードして公開できる場所)にはもう30万点以上も作品が集まっています。ユーザーも18万人を超えていて、賑やかです。
―― と中村氏は、まるで子どものようにスプリンギンユーザーの傑作を次々とAPO+氏に見せ、自らプレイして見せてくれた。ここではその一部を紹介するが、より豊富な事例はスプリンギンのホームページ「クリエイターインタビュー」を参照してほしい。
■『まっくら館で ものさがし』(つな氏)
■『ナンプレといてシチューが食べたい!』(ファミっこ氏)
https://play.springin.org/share/work/65B045C9-676C-486A-B0C2-81B0AE8283C4
■『THE ANGEL』(HORMONE CITY氏)
https://play.springin.org/share/work/30844547-56D9-414D-930A-AA0B664A5710
APO+:……なるほど。画が上手な人も多いですね。……あーすご!
そうか。プレイするだけではなく、どうやってつくったのかがわかるのはめちゃくちゃアツイですね!
中村:はい、そうやって研究して自分のゲームに活かしたりできるのもポイントですね。
APO+:おもしろ! すご! ちょっとしたインタラクションがあるだけでも没入感が出ますね。すごいなあ。ああ、ちゃんと動きにもこだわってる感じが見えます。僕も、アニメーションをつくるときに、1フレーム追加しただけで気持ち良さが全然変わるので、良くわかります。
あれ、これ『ラップムシ』ですよね?ちょっと前にiPhoneで良く遊んでました。
中村:あ、そうそう! そうです。これはスプリンギン用につくってもらった『ラップムシガール』です。実はこの『リズムシ※』シリーズの作者(成瀬つばさ氏)、今うちの社員です(笑)。
※シリーズ総計600万ダウンロードの、音で遊べるメディア・アート作品。文化庁メディア芸術祭新人賞受賞
APO+:え!? そうなんですか!(笑)
■『ラップムシガール』(成瀬つばさ氏)
https://play.springin.org/share/work/7B034F4C-C12A-4319-AAA6-9CAB5CB8A593
ポジティブな好循環をつくるスプリンギンのコミュニティ
中村:つくったゲームはやっぱりいろんな人に遊んでほしいと思うので、うちのマーケットにすぐ公開できます。何回プレイされたかはクリエイターも確認できて、人気作品は万単位になりますから、制作の大きなモチベーションになります。
APO+:ゲームをプレイするのって、SNSのいいねよりも全然ハードル高いのに、こんなにやってくれるんですね。これはつくり手として嬉しすぎる……!
中村:作品にはSNSみたいにいいねやコメントもできて、クリエイターのフォローもできますから、新作ができたら通知が来たりとか。特にレベルが高い作品はうちがピックアップして紹介したりもしていて、つくり手側のモチベーションになるような工夫をしています。
APO+:めちゃすごい! ただ、繊細なクリエイターあるあるですが、ネガティブなコメントで心が折れちゃったりするんですよね……。
中村:僕もつくる側だったのでそこ、よーくわかります。なので、スプリンギンのコメントは選択式にしてあって、ネガティブなコメントは送れないように工夫してあります。ただ、コメントがテンプレートだけでは味気ないので、その作品に「応援する」ボタンを推してくれた場合は、ポジティブだろうということで自由コメントができるようにしています。念のためこの自由コメントも、クリエイターさんがイヤだなと思えば削除もできます。
APO+:さすが、つくり手への配慮が行き届いていますね。
中村:ちょうど今「第1回 クリエイターズアーケード コンテスト」というアワードで作品を募集していまして。
アミューズメント施設を運営している株式会社GENDA GiGO Entertainmentさんと一緒に、スプリンギンでつくったゲームが動く筐体を開発したんです。それで、全国のゲームセンターであなたのゲームが動きますよ、というコンテストなんです。4月9日(日)まで作品を募集中なのですが、募集して2週間で200作品も集まっていて、盛り上がってます。
APO+:それはすごい取り組みですね! 自分のつくったゲームを誰かがプレイしてくれる、しかもゲーセンでですか! それはめちゃくちゃ嬉しいです。
イラスト主体のインタラクティブコンテンツ制作にも
APO+:日本には個人のクリエイターがとても多いですよね。僕が描いているドット絵界隈はまだそこまで大きくないですが、広くクリエイターという意味では、コミケやデザインフェスタみたいなイベントが小さいものから大きいものまでたくさんあります。そうした個々のコミュニティで自分がつくったものを見せる文化が育っているのが日本の特長ですよね。
中村:その通りですね。僕たちも将来的に、スプリンギンを通してクリエイターがマネタイズできるような仕組みとかもつくっていけたらと考えています。
APO+:僕もこういうアプリをさわるのが好きで、ついついずっとやっちゃいました。ある意味危ない(笑)。実際さわってみて、「あ、これをつくってみたい」というアイデアも浮かびました。僕は前々からイラストでストーリーを伝えたいと思っていたので、イラストが主体で、でも少しインタラクティブなコンテンツです。
設定としては、お母さんの過去の写真が机の上に広がっていて、それを見ている。その写真をひとつひとつさわったり、写真についた汚れを拭うとかすると、それぞれの写真の状況なんかがわかっていって、少しずつ謎が明かされていくと。写真を全部タッチし終わったら、次のシーンに移ってお母さんが事件に巻き込まれたことがわかる。そんなコンテンツです。
中村:おおすごい! もうできましたね。謎解きものはスプリンギンでも人気のコンテンツなので、プロのイラストレーターの方が入ってきてくれたら話題になりそうです。
APO+:僕としても新しい挑戦になるのでやりがいがあります。スプリンギンとしてはやっぱりイラストレーターとかCGアーティストにも参加してほしいのですか?
中村:はい、誰でも参加できるのがスプリンギンの良いところだと思っていますが、今までゲームまでは縁がなかったようなイラストやCGのクリエイターの方々にもぜひ挑戦してほしいなと。そういった方々は、きっとこれまでにつくった絵やキャラをゲームにしてみたいと思ったこともあると思うんです。スプリンギンはそうした気持ちをそのまま実現できるツールです。つくった作品の次の展開として、ぜひスプリンギンでゲームやインタラクティブコンテンツ制作にチャレンジしてみてください。
APO+:1枚のイラストから奥行きのあるコンテンツをつくれたら、クリエイターが思い描く世界観をより明確に伝えられます。そうした表現がインタラクティブコンテンツとして実現できるなんて、その可能性にワクワクします!
音楽が付けられるというところにも可能性を感じます。抒情的なイラストを描いても、画だけで涙を誘うのはなかなか難しいですが、音楽と組み合わせることで伝えたいメッセージが届きやすくなりますから。今日は良い刺激をもらいました。ありがとうございました!
中部電力×Springin’ 「挑戦」をテーマにした作品を大募集!!
中部電力×スプリンギン
コンテストのテーマは「挑戦」!!あなたが考える「挑戦」をテーマにした作品を大募集します!
今回は、電気などのエネルギーを中心に、人のくらしに「なくてはならないもの」を提供している中部電力株式会社が協賛し、コンテストを開催!現在、中部電力が展開している「中部電力、挑戦中。」をキャッチフレーズにしたテレビCMに合わせて、あなたが考える「挑戦」をテーマにした作品を募集します。
初めてスプリンギンに「挑戦」して作ったゲーム、誰かが挑戦したくなるようなゲーム、新しい仕掛けを取り入れる「挑戦」など、あなたが考えた「挑戦」をテーマにした作品を大募集!!
みなさんの「挑戦」をお待ちしてます!!
TEXT _kagaya(ハリんち)
PHOTO _弘田 充