札幌市と札幌を拠点とするゲーム開発企業による道内最大規模のゲーム開発イベント「Sapporo Game Camp 2023」が、2023年10月6日(金)~8日(日)の日程で開催された。本イベントは札幌の若きクリエイターの人材育成とデジタルエンターテインメント業界のさらなる盛り上げを目的としており、今年で2回目を迎える。

プロのクリエイターと即席のチームで一緒にゲーム開発をする「Game Jam」をはじめ、eスポーツを体験する「プログラミング講座×eスポーツ体験会」、さらに札幌で活躍する若手クリエイターとベテランクリエイターによる「トークセッション」が開かれた。本イベントをトークセッション(前編)、ゲームジャム(後編)の2回に分けてレポートする。

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    Sapporo Game Camp 2023

    開催日時:2023年10月6日(金)~8(日)
    会場:札幌市産業振興センター
    https://sapporo-game-camp.com/2023/

    ゲーム会社なら必ずボドゲがある?
    【新卒からみたゲーム業界座談会】

    多くの学生が来場し急遽座席が増設された

    10月6日(金)は10時からトークセッション「新卒からみたゲーム業界」がスタートした。当日の札幌は朝から雨が降っていたが、札幌市産業振興センターの会場は学生で埋め尽くされた。お題は「入社した会社の雰囲気や面接対策」について、札幌のゲーム開発会社で働く4名の先輩が職場の雰囲気や、憧れの業界に入るためのノウハウを伝授した。

    MCを務めたのはゲームドゥの取締役社長、中村 心氏である。中村氏はハドソンにプランナーとして入社し、2002年からフリーランスとして活動を始め、2005年に現在のゲームドゥを設立した。

    右から札幌市役所 伊藤実花氏、ゲームドゥ有限会社 取締役社長 中村 心氏

    中村氏が率いるゲームドゥは、20数名のスタッフで構成されている。会社では、誰もが毎日誰かと話す機会を設けるようにしており、スタッフ間のコミュニケーションを特に重視している。そのため、採用の立場からすれば、面接の練習をしている人は好印象で、声が大きく、自分の意思や意気込みをしっかりと相手に伝えることが重要だと中村氏は強調する。

    右から小野優真氏、中野広大氏、駒嶺壮氏、佐々木 千晶氏

    小野優真氏(ロケットスタジオ)
    「ロケットスタジオでは、同期が9人おり、毎日が楽しく、新しい発見が絶えず、ワクワクしながら仕事をしています。職場にはボードゲームがあり、仕事終わりには先輩たちと一緒に遊んでいます。」
     
    中野広大氏(インフィニットループ)
    「インフィニットループにはボードゲーム部があり、毎週金曜日は終電を逃すほど遊んでいます。社内のチームは若手が多く意気投合しやすい環境です。大学は文系でしたが、ゲーム業界に就職できたら良いなと軽い気持ちでプログラミングの独学を始めたのが、業界を目指すことになったきっかけになっています。」月1,000円程度でプログラミングを学習できるオンラインサービス『Progate』を利用して、一点突破でPHPを履修し採用された経歴をもつ同氏。諦めないことが大切でハローワークなどにも積極的に活用してほしいとのこと。

    駒嶺 壮氏(セガ札幌スタジオ)
    「学生時代と明確に違うのはプロは求められるスキルが違うということです。セガ札幌は自分のスキルを磨きたいと考える向上心の高いメンバーが多い環境です」。 また面接で提出するポートフォリオについては、手を抜いた中途半端なものはプロに見抜かれてしまうため自信の無いものはポートフォリオに載せない方が良いと持論を展開。面接練習については多くの先生にお願いして模擬面接を行ったとのこと。
     
    佐々木千晶氏(ハ・ン・ド)
    「ディレクター、プランナー、デザイナー、プログラマーの各部署が密接に連携しているため、自分の担当範囲以外の進行状況も学べます。ハ・ン・ドでは『朝会・夕会』を実施し、社内のメンバーと情報共有や雑談を楽しんでいます。また、年齢の近い先輩が多いため、話しやすい環境があります」。 学生時代、1~2ヶ月でゲームを1本作るプロジェクトに取り組み、それが就職活動のポートフォリオとなったそうだ。PDF形式ではなく、自身のサイトに遊び心のあるポートフォリオを載せることで楽しみながら面接に挑むことができたと振り返る。さらに、札幌にはゲーム開発会社が集まっており、東京や大阪に限らず、様々な場所でゲーム開発のキャリアを追求できると学生に伝えた。

    効率的なAIの活用が求められるこれからのゲーム業界
    【インフィニットループ & Google Cloudトークセッション】

    右からグーグル・クラウド・ジャパン シニアアカウントエグゼクティブ 杉山正彦氏、インフィニットループ 代表取締役社長 小野真弘氏

    12時からのトークセッション「インフィニットループ & Google Cloud」では、Google Cloud Japanのシニアアカウントエグゼクティブ、杉山正彦氏と、インフィニットループの代表取締役社長、小野真弘氏が登壇し、ゲーム開発現場の裏側について話した。
     
    札幌には様々なゲーム会社があり、ゲームを開発できるのは東京などの首都圏だけではないと切り出した小野氏は、「インフィニットループは最初にソーシャルゲームの開発からスタートして10年、バックエンド、いわゆるサーバーサイドのエンジニア集団です。グループ全体では総勢170名、デザイナーやプランナー、Unityを用いたクライアントエンジニアなどを擁する2つの子会社があり、3つの会社でひとつのプロジェクトを遂行しています」と説明する。
     
    「Google Cloud」とは何か、という杉山氏の問いかけに対し、具体的な内容を把握している学生の参加者は少ないように見受けられた。「Google Cloudは、データセンターやネットワークなどを企業向けに提供するサービスです。ゲーム会社にとっては、本番環境で使用できる信頼性の高いインフラと言えるでしょう」と杉山氏は解説する。多くの現代のゲームがデータ通信に依存しており、かつてはオンプレミスの環境でデータを管理していたが、現在はそれらがクラウドへと移行していると、彼は指摘した。
     
    小野氏は続けて説明する。「ゲーム開発では、ユーザーデータやゲームのロジック、マスターデータ、プレイ時の実際のログなど、すべてを通信を介してサーバーに保存します。リクエストがあるとそれらのデータを返し、ユーザーの端末でゲームがスムーズに動作する。ここで言う“ゲームインフラ”は、主にストレージ部分を指し、私たちインフィニットループはデータの通信や保全を担っており、これによりユーザーに快適なゲームプレイを提供しています。また、開発の初期段階ではゲームの画面自体を見る機会はほとんどなく、ゲームが公開されるまで実際のゲーム内容を知らないこともしばしば」と、サーバーサイドエンジニアの日常を苦笑い交じりに話した。

    さらに、開発現場の環境も変化しつつあると小野氏は語る。

    「スマホゲームでも、昔は3ヶ月に1本程度のスパンで開発していたのですが、現在ではプロジェクトが長期化し、初期計画の段階で2年や3年というものが普通になり、規模も大きくなっています。人材不足も手伝って、チーム内の結束はより一層不可欠です。また、デザイナーやプログラマーの境界が変わりつつあり、多様なスキルが求められています。そのため、自分が希望する職種だけでなく、さらに広い範囲に手を伸ばし、新しい領域にチャレンジすることが重要です」とのこと。

    さらに、最近はローカルの環境に依存しない制作環境が一般化しており、「通信ができればどこにいても開発が可能というのは大きなメリットです」と小野氏は付け加える。
     
    AIの活用についても、小野氏は見解を示す。「例えば、人工知能チャットボットなどの生成AIは、人間が作業するよりも効率的で、繰り返しの作業や大量のタスク処理に適しています。私自身、AIの積極的な活用を推進しています」と彼は述べる。しかし、「権利関係がクリアになっていない場合や、創造性が必要なタスクでは、AIは単なるツールではなく、パートナーとしてうまく活用することが望ましいです」とも語る。
     
    杉山氏は、特にGoogleが開発・提供する会話型人工知能について、「Birdは入力に対する応答性が高く、正確性にも自信がありますので、ぜひ活用していただきたい」と推奨している。

    就活ではなにをアピールすべき?
    【悩める若手デザイナーセッション】

    14時からのトークセッション「悩める若手デザイナーセッション」では、pixydaの児玉陽一氏がMCを務め、お題に「グラフィックデザインや就活、転職について」3名の先輩デザイナーがリアルな経験を話す。

    右奥の男性がpixyda 児玉陽一氏
    右から小金井 茜氏、齋藤隼輝氏、酒井勇紀氏

    小金井 茜氏(セガ札幌スタジオ)
    「モデラーであれば設定画を再現することが仕事なので、自身の作風を重視するのではなく、再現性にこだわった作品づくりを意識した方がいい」と語る。企業の説明会などで出会った採用担当者や制作担当者からもらったリクエストは必ず、ポートフォリオに反映させて提出するなどして、意欲の高さや修正への対応能力をアピールしたそうだ。
     
    齋藤隼輝氏(ロケットスタジオ)
    齋藤氏は「エフェクトを作る人材が不足しているため、学生のうちからエフェクトに対する知見があると需要があります。私自身はUnityのShurikenというパーティクルシステムでエフェクトを作っています。エフェクトを作る際は実際のゲーム画面を想定し、2Dや3Dの知識も兼ね備えることでよりクオリティの高いものになります」と語る。また、実際の業務は細分化されているが、普段からプランナーやプログラマーとコミュニケーションをとり意思疎通をすることが大切。また学生のうちに様々なツールに触れておくことで担当する職務領域が広がるとアドバイスしていた。
     
    酒井勇紀氏(HiBiGA)
    もともとエンジニアとしてキャリアをスタートさせた酒井氏。絵への愛着と漫画を描く夢が膨らみ、デザインの分野へと転身したという。「何より大切なのは、頭の中で描いたイメージを迅速にアウトプットする力です。例えば、ミーティングで即興のイラストを描き、デザインやUIを提案し、ゲームの魅力をその場で相手に伝えるスキルが不可欠です」と強調した。

    ゲームジャムから始める、クリエイターへの一歩
    【ゲームジャムとは何か、ゲームジャムの可能性とは】

    17時からのトークセッションは「ゲームジャムから始める、クリエイターへの一歩」と題して、本イベントのファシリテーターでもあるセガ札幌スタジオ 取締役 中林寿文氏が登壇し、そもそもゲームジャムとは何か、ゲームジャムの可能性について語った。

    右奥の男性がセガ札幌スタジオ 取締役 中林寿文氏

    中林氏は「ゲームジャムとは、ゲーム開発を目的としたハッカソンです」と話し始めた。「昨年のゲームジャムでは、40名の参加者が2日間でゲームを開発しました。このゲームジャムは何か特別に開催しているものではなく、世界的には2009年から始まったGlobal Game Jamが有名で、最大規模のゲームジャムとしてギネスにも登録されています。これは、プロからアマチュアまでさまざまな経歴を持った人々がチームを組み、48時間でゲーム開発プロセスのすべてを体験するイベントです」と述べる。

    ゲームジャムの魅力について中林氏は「まず1つめは短期間で0からゲーム開発の全体の流れを体験できること。これは、決められた期間内に必ず終わるもので、プロのゲーム開発会社で見られる終わりのないデスマーチとは異なります。
    2つ目は仕事ではないので売れる売れないに関わらず、攻めた企画にチャレンジできること、いつもと違う役割に挑戦できることです。そして最後に、適切な準備によって、ゲームジャム自体がワークショップとして機能し、人材育成に寄与するという点です」と語った。
     ゲームジャムについて「小難しいことを言っていますが結局のところ作るのは楽しい。これが本質。ゲームジャムを楽しむためには、チームメンバーは同じクリエイターという立場で年齢も先輩も後輩も関係なく互いの意見をぶつけ合い作品を作ること。また失敗を恐れない、限られた時間の中で自分達が考える面白いものにそもそも失敗なんてありません。
    自分の役割について臨機応変に、むしろ他の人のタスクをどんどん奪いに行くような勢いでやるのがゲームジャムを楽しむコツです」と、ゲームジャムについての立ち振る舞い方を説明して、セッションを締めくくった。

    ゲームジャムのレポート記事は後編をぜひチェックしてもらいたい。
      

    TEXT&PHOTO_阪口貴紀(Fotografika