各種SNSで独特のかわいいキャラクター作品、YouTubeで初心者向けのモデリング講座動画を投稿したりと精力的に活動しているキャラクターアーティストのTom氏。最近では代表的なキャラである「泳げない鳥」のグッズ販売も開始され、さらに活動の幅を広げている。
本記事ではそんなTom氏をお招きして、可愛らしいキャラクターを作るコツから、3DCGの上達法、実際の制作工程から制作環境、オリジナルのグッズ制作まで、幅広くお話いただいた。
Tom氏
キャラクターアーティストとして制作に携わる傍ら、YoutubeでBlenderの使用方法について解説している。
YouTube (bit.ly/2nAszcH)/ X(@Txx_CG)
ますく氏
1991年生まれ、多摩美術大学卒。原型・ゲームモデリングの専門会社で修行を積み、大手ゲーム会社 R&D部門にてAIを活用したアバター生成技術の特許を取得したのち独立。アプリケーションやゲームなどリアルタイム分野のモデリングに特化したCGスタジオ「KATASHIRO+」を設立。CGWORLDの執筆に多く携わり、 ブログやFanboxなどのメディアに力を入れており、3Dモデリングやゲームエンジン、CG原型、3Dスキャンなどの指導を教育機関・個人へ行なっている。制作依頼、企業への技術顧問、教育機関・個人指導について、お気軽にお問い合わせください。X(旧Twitter:twitter.com/mask_3dcg )
リアルとかわいいが同居する世界観
CGWORLD(以下、CGW):まずはこれまでの経歴を教えてください。
Tom氏(以下、Tom):これまで約7年間、映像会社でキャラクターモデリングの部署に所属していました。会社に所属していた頃はゲーム案件を主に手掛けていました。
今年の7月に独立し、フリーのキャラクターアーティストとして活動を続けています。
CGW:Tomさんの作品は、フォトリアルな背景に、デフォルメされたかわいいキャラクターが同居しているような構図のものが多い印象です。このジャンルは何とお呼びすればいいんでしょう?
Tom:特に自分で名前を付けたりはしていないですね(笑)。確かにフォトリアルな背景とデフォルメキャラを合わせるこの分野を手掛けている3DCGクリエイターはあまりいないかなと思っています。
自分が興味を持ったことから始めるのが一番の近道
CGW:TomさんがBlenderを使い始めたきっかけは?
Tom:3年くらい前に、Blenderに搭載されているEeveeというレンダーエンジンに魅力を感じたのがきっかけですね。SNSで「Blenderに爆速でレンダリングできる機能が追加されたぞ!」という情報を見て、バージョン2.8から使い始めました。ちょうどその頃がBlenderの使い勝手が大きく変わった時期で、UIもだいぶスッキリしたんです。
ますく氏(以下、ますく):Blenderを使い始めるのにちょうどいいタイミングだったんですね。Eeveeはそんなにレンダリングが速かったんですか?
Tom:今は他のソフトでもレンダリングが速くなってきていますが、僕が使い始めた当時だと、ずば抜けて速かったですね。それに、ほぼ完成形を見ながら作っていけるという点も魅力でした。
CGW:TomさんはYouTubeでメイキング動画や初心者向けのBlender講座動画などを投稿されていますが、どのような理由で始められたのでしょう?
Tom:最初は、自分の制作のメモ代わりになればというくらいの気持ちで制作過程を映像で残すようになりました。
ただ、そこにより詳細な解説を付けてYouTubeにアップすれば、僕が詰まったところと同じところで苦労している人の助けになるかなと。それに自分の行った作業に解説を付ける過程で、自分自身の頭の中を改めて整理できることにも気付きました。
CGW:特に人気の動画を動画をいくつか教えてください。
Tom:一つ目は、「誰でも簡単に!ハロウィンに向けてゴーストを作ろう! 」という動画ですね。
ますく:私もその動画でTomさんの存在を知りました。この動画はモデリングの知識が全くなくても取り組める内容でしたので、はじめに取り組むにはすごいいい講座だと感じました。
Tom:ありがとうございます。「自分で作ってみました!」と報告してくれる視聴者の方も多かった動画ですね。
あとは、「ずぼらな人の為のキャラクターの作り方」シリーズですね。
Tom:それから、キャラにもふもふの毛を生やすやり方を解説した「超簡単!もっふもふの作り方」という動画も人気です。
ますく:ぬいぐるみのようなもふもふの毛が生えたエビフライがサムネイルの動画ですね。確かにTomさんの作るもふもふの毛の表現の秘密を知りたい人は沢山いると思います!
CGW:ところで、先ほど他の学習者の助けになればと思って講座動画を投稿しているというお話が出ましたが、Tomさん自身はどのようにしてBlenderを学ばれたのでしょうか?
Tom:Blenderに関しては、ほとんどYouTubeの動画で学びました。Blender Guruさんの動画など、ほとんど海外の方が投稿している動画をよく見ていました。
ちなみに学び始めた当時は、日本語の情報がほとんどなく 、実は僕も一度挫折しました。3ヶ月くらいほぼ触れない時期がありましたね。だからこそ、今こうやって動画投稿をするようになったという背景もあります。
CGW:なるほど、Tomさん自身もまたYouTube動画で学ばれ、挫折したこともあったんですね。では、講座動画を投稿する際に気を付けていることはありますか?
Tom:初心者向けに講座動画を作っているので、何よりもまず楽しんでもらえるように!ということを意識しています。
3DCGに興味はあるけどまだ自分で作ったことはないという層がYouTubeの視聴者の中で、一番多いと思うんです。だから3DCGを始めたてとか、まだ3DCGツールを触ったことがないというレベルの初心者にも楽しんで観てもらえるように動画を作っているつもりです。
CGW:Tomさんの講座動画を観て、自分も3DCGを作ってみたいと思った初心者は、まずは何から始めればいいでしょうか?
Tom:初めからツールの機能を全部理解していこうとすると、触っていても楽しくないと思います。なので、まずは自分が興味を持ったことから入って行くのが一番の近道なんじゃないのかなと思います。
たとえば3DCG制作全体の流れを一回確認してみて、モデリングなりアニメーションなり、自分が一番興味を持った工程から学習していくやり方が効率がいいと思います。やっぱり好きじゃないもののチュートリアルを観ても楽しくないですからね。
僕自身もハードサーフェス系のものは苦手なので、自分が好きで得意な、柔らかくて可愛いものしか作っていません(笑)。
CGW:確かに、自分の好きなところから入るのが一番いいのかもしれないですね。これまでTomさんの動画で数多くの3DCGクリエイターが育っていったかと思うのですが、視聴者からはどんな反響がありましたか?
Tom:Xで反応をいただくことが多いですね。中には「講座を見て自分もこういうキャラを作ってみました!」と、自分の作品画像を送ってくれる方も結構います。大変な時もありますが、ありがたいです。
丸みのあるフォルムと隙のある仕草がかわいいを生み出す
CGW:Tomさんは様々な作品を発表されていますが、その中でもご自身が特に気に入っている作品を教えてください。
Tom:いま僕が一押ししているのは「泳げない鳥」というキャラで、これはかなり気に入っています。それから「ポチタ」(※漫画「チェンソーマン」の登場キャラ)はかなりバズって、海外からの反響もとても大きかったので、思い入れがあります。
ますく:Tomさんの作品の魅力といえば、やはりかわいいキャラクターだと思います。かわいいキャラクターを作るための秘訣を教えてください。
Tom:かわいいキャラを作る上でまず大切なポイントは、「丸み」ですね。角張ったものやトゲトゲしたものは「かわいい」から離れると思っています。なのでBlenderのサブディビジョンサーフェスを使って、できるだけ曲線を多用し、丸い形状を作ることで「かわいい」を表現しています。丸く、その上で「ぼてっと」した形状にデザインすることが多いです。
CGW:確かにぬいぐるみ等も、丸くてぼてっとしたデザインのものが多いですね。
Tom:まさに、「ぬいぐるみのような手触り感の表現」を大切にしています。
たとえば先ほど挙げた「泳げない鳥」も、実際の着ぐるみを参考にして質感を付けていきました。CGは実際の造形物と違って、どうしても触れることができないものですが、その限界を超えて見る人に手触り感を感じさせられるような質感作りをこころがけています。
ますく:Tomさんの作品はまさにぬいぐるみや着ぐるみと見紛いそうで、触ったときの手触り感まで感じられそうな作品が多いです。他にも「かわいい」を表現するために気を付けていることはありますか?
Tom:僕のキャラは「瞼を重く」して、眠そうな表情にしたものが多いんです。これは僕が、眠たい動物にかわいさを感じるからです。
そして、「隙がある」ということが、かわいいを表現するためには重要な要素の一つだと考えているからです。完璧すぎると僕の考える「かわいい」から離れてしまうので、ちょっと隙があったりおっちょこちょいだったり.....ということを表現したほうがいいと思っています。そこはアニメーションやポージングで表現するようにしています。
CGW:様々な角度から「かわいい」を表現するために考えられているんですね。ここまでは「かわいい」を作るための手法についてうかがってきましたが、インプットについてはどのようなことを心がけていますか?
Tom:YouTubeのペット動画をよく観ています。作品の中に、視聴者の共感を呼ぶ要素を入れることで、より作品に寄り添ってもらえることがあると考えています。そういう点において、ペット動画は非常に参考になります。ほとんどの動物キャラのアニメーションは、ペット動画を参考に制作しています。
Tom氏の制作過程と制作環境
CGW:Tomさんの作品が出来上がるまでの工程について教えてください。
Tom:まずはPinterestを見ながら作品の方向性を模索していきます。色んな画像をPureRefで並べて作品イメージを整理していくんです。
それから頭の中を整理するために、イメージをPhotoshopで描き起こします。ラフ画が出来たらそれを画面の片隅に表示しておいて、Blenderで3Dモデルを作り始めます。
ただ、動画の絵コンテは全く作らず、デザインのラフ画のみです。ラフ画も以前は描いていなくて、最近少し描き始めたくらいです。
CGW:絵コンテを作らなかったり、あまりラフ画を描かなかったのはなぜですか?
Tom:やっぱり3Dで見たときの可愛さやかっこよさは2Dとは別なので、3Dでデザインを模索しながら作り上げていくのが自分に合っていると感じているからです。先ほど述べたようにモデリングはBlenderで、そしてテクスチャはSubstance Painterで付けていきます。
ますく:アニメーションのところで、少しクレイアニメ感も感じるのですが仕上げの編集はどのように行っているのですか?
Tom:モデリングを完成させたら、映像はDaVinci Resolve で仕上げます。クレイアニメのように感じられるのは、あえてなめらかアニメーションを、DaVinci Resolve Studioのストップアニメーションエフェクトを使って意図的にかくつかせているからだと思います。
CGW:Tomさんの作品といえば毛の表現が特徴であり魅力のひとつですが、それはどのような工程で作り上げられるのでしょうか?
Tom:Substance Painterで皮膚など表面に見えるものだけを描いた後に、Blender上で毛をマテリアルを組んで作っていきます。
おすすめアドオンは「Poly Haven」「Auto-Rig Pro」
ますく:さらにTomさんの制作環境について深掘りさせてください。アセットは使用されていますか?
Tom:はい、Megascansも使っていますし、Poly Havenという無料でアセットを配布しているサイトから引っ張ってくることも多いです。
それと、Poly Havenで販売されているBlenderのアドオンを入れておくと、Poly Havenでアップデートされたアセットが常に呼び出せるんですが、それがめちゃくちゃ便利なんです。
ますく:それは使い勝手が良さそうですね。他にもお勧めのアドオンがあれば教えてください。
Tom:Auto-Rig Proという、、3Dモデルに自動でリグを付けてくれるアドオンがお勧めです。また、人型以外のモデルを作りたい人向けに、Auto-Rigのライブラリーが別途販売されており、これは人型以外のモデルに簡単にリグを付けるのに役立ちます。
CGW:先ほどの工程のところでも名前が挙がりましたが、映像制作に関してはDaVinci Resolve Studioのみで完結しているのでしょうか。Adobe Premiere Proについてはどうお考えですか?
Tom:僕自身はDaVinci Resolve しか使っていません。いわゆるYouTubeでよくあるような編集をしたい場合には、Adobe Premiere Proがいいと思います。
CGW:ソフトウェアについて色々とお伺いできましたが、ハードウェアについてはどのようなものを使われていますか?
Tom:HPの「HP OMEN 30L」というゲーミングPCを使っています。グラフィックボードは、GeForce RTX 3080搭載のものを使用しています。
オリジナルグッズを制作、ぬいぐるみも制作予定
CGW:今後、グッズ展開も検討されていると聞きました。その理由や、どんなグッズを作るつもりなのかについてお聞かせください。
Tom:3DCGというものはどうしても画面の中のものなので、それだけではなく、もっと身近にキャラクターを感じて欲しいと考えたのが理由です。
現在は僕がイチオシの「泳げない鳥」のステッカーやTシャツ、スマホケース、アクリルキーホルダーなど様々なグッズを販売しています。それからイラストブックのような冊子も制作しています。
https://suzuri.jp/TomStudio
CGW:冊子も拝見させていただきましたが、まるで古いカメラで撮ったような質感がとてもいいですね。
Tom:嬉しいところに気付いていただけました。実は僕はカメラも好きで、オールドレンズをよく使っていたんですが、その雰囲気をエフェクトを使って3DCGで再現してみたんです。
CGW:現在も様々なグッズが販売されていますが、今後、このようなものを作っていきたいという展望はありますか?
Tom:やっぱりぬいぐるみを作ってみたいですね。これまでのグッズもありがたいことにファンの方々に親しんで頂いていますが、ぬいぐるみを通じてよりリアルで触れ合える形態を提供できればと考えています。
具体的には、どのキャラクターをぬいぐるみ化するか、そのぬいぐるみが持つ特徴やポイントを考え、愛らしいかつ触れ心地の良いぬいぐるみを制作したいです。
CGW:確かにTOMさんのキャラクターはぬいぐるみに最適ですね。楽しみにしています!今回はありがとうございました。
TEXT_オムライス 駆
INTERVIEW&EDIT_中川裕介(CGWORLD)