デジタルコンテンツ業界をめざす学生を対象とした就職イベント「CGWORLD Entry Live vol.3」が2015年6月27日にTEPIA(東京都港区)で開催された。

リクルーティングブースでは設立3年未満の新鋭企業から、誰もが耳にしたことのある老舗企業まで28社が集結。PC・ツール・書籍など関連5社による企業展示もみられた。

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一方で学生の事前登録者数は600名以上を数え、開場前はロビーで受付待ちの長い行列がみられた。人気企業ブースでは企業説明時に立ち見が出るほどで、ポートフォリオ持参で採用担当者にアピールする学生の姿も多く、会場は終始にぎわっていた。

また、セミナーは第一線で活躍するクリエイターの生の声を聞こうと、どのセッションも学生が熱心に聞いている姿が印象的だった。
本レポートでは当日会場で行われたセミナーを中心にレポートしていく。

学生ポートフォリオプレゼントーク(午前の部)

■ゲストコメンテーター
廣田 隆行 氏(Aiming・プロデューサー)
赤崎 弘幸 氏(ジェットスタジオ・チーフディレクター)

■モデレーター
尾形 美幸(ボーンデジタル)

本セミナーは学生が1人3分間ずつポートフォリオやデモリールをプレゼンテーションし、企業の採用担当者が講評を述べる「学生ポートフォリオプレゼントーク(午前の部)」。

登壇した学生はエフェクトデザイナー志望からキャラクターデザイナー志望、CGアニメーター志望などさまざま。作品も恋愛ゲームのメインビジュアルや、3段階にレベルアップするモンスターのデザイン、自宅のバスルームをフォトリアルに再現したCGなど、多岐にわたった。

(左)廣田 隆行 氏(Aiming・プロデューサー)
(右)赤崎 弘幸 氏(ジェットスタジオ・チーフディレクター)

これに対して廣田氏は「デザインとはプレイヤーに対して特定の感情を抱いてもらうためのコミュニケーションツール。作品の制作ではプレイヤー視点から逆説的に進めるといい」とアドバイス。

赤崎氏は「現実にあるものと、ファンタジーなものと、両方描きわけられる引き出しの多さがあるといい」といったアドバイスがなされた。また見た目の印象をより重視する赤崎氏と、ポリゴンの分割にも気を配る廣田氏といった具合に、映像会社とゲーム会社の違いから生まれる評価点の違いなども議論された。

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注目クリエイターたちが語る、仕事術と新人時代の過ごし方

(左)宮本 浩史 氏(東映アニメーション株式会社)
(中)瀬賀 誠一 氏(株式会社オムニバス・ジャパン)
(右)笠井 隆司 氏(株式会社セガゲームス)
モデレーター:沼倉有人(ボーンデジタル、CGWORLD編集長)

実質的な基調講演ともいえる本セッションでは、第一線で活躍するクリエイターの新人時代から現在に至るまでのキャリアパスについて議論が行われた。

「Pythonも絵コンテも書けるアニメ監督をめざして奮闘中」という宮本氏は、「はじめは主人公キャラクターのモデリングに参加したかったが、次第に演出面からキャラクターの魅力を表現する方向に興味が移っていった」とコメント。瀬賀氏は「1年目から蒼々たるクリエイターの方々とチームを組む機会に恵まれ、驚くと同時に不安になった」とふりかえった。

また学生時代との違いについて、笠井氏は「学生の時は作品を作ってプレゼンテーションをしたらそれで終わりだが、プロではお客様がいる点が最大の違いで、求められるクオリティラインが大きく異なる」と語った。これについて瀬賀氏も「学生時代は自分のアイディアを大切に育てていたが、プロの現場ではアイディアごとダメだしされることもある。そんな時も、いかに気持ちを切り替えて代案を出せるかが重要」だと指摘した。

exsa株式会社の成長戦略

(右)海老澤 広樹 氏(制作部 副部長 兼 プロデューサー)
(左)有沢 包三 氏(制作部 ディレクター)

2004年に設立し、資本金1億円、従業員数140名を数える中堅CGスタジオに成長したexsa。東京・名古屋・福岡・札幌と日本全国にスタジオを展開し、UターンやIターン希望者の受け入れや、各スタジオをオンラインで結んでの勉強会やテレビ会議、週末を活用して連続9日間の有給休暇が使える制度の導入など、新しいワークスタイルの提案や、それを可能にする環境整備などに注力している。

業務も売り上げの約6割を占める遊技機向けの映像制作を筆頭に、アニメ・映画・CM・PVなど多岐にわたっており、今後も時代にあわせて事業を変化させていく予定だ。中でも遊技機向けでは企画から映像制作・組み込みまで一気通貫で受注できる、国内でも数少ないスタジオとして高い評価を得ている。

そんな同社では「他人と自分の両方を大切にする人」「自己分析ができる人」「壁を乗り越えられる人」という人材像をかかげ、学生に幅広く自社アピールをおこなっていた。

アニメーション監督の目指しかた、育てかた

水崎 淳平 氏(有限会社 神風動画 / 代表取締役)

アニメ「ジョジョの奇妙な冒険」オープニングムービーをはじめ、個性あふれる作風で日本のCGアニメ界を牽引する神風動画。代表の水崎氏は「アニメ業界では30代半ばでの監督デビューが普通だが、弊社では業界で一番早く監督になれる」と会場を埋め尽くした学生に語りかけた。

実際「ジョジョ」シリーズのオープニングムービーの監督は2Dアニメーターからの転職組で、まだ20代。「ウルトラジャンプ」のCM監督は専門学校出身の新卒社員で、社交性が高いことと、器用さを買われての抜擢だった。企業プロモーション用の映像「未来光子播磨サクラ」の監督は印刷業界から転職してきた29歳。倖田來未のPV映像を手がけたのは、ゲーム業界から転職してきたママさん監督で、色彩感覚の豊かさなどを評価。オリジナル作品「COCOLORS」の監督は元映画オタクのニートだったほどだ。

水崎氏は「かつてCGは手描きアニメの黒子役だったが、今はCG出身の監督も増えてきて、両者の力関係が変化してきた」と語り、監督志望の学生にはぜひ門を叩いて欲しいと締めくくった。

▶次ページ:︎学生ポートフォリオプレゼントーク

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学生ポートフォリオプレゼントーク(午後の部)

■ゲストコメンテーター
谷口 顕也 氏(サムライピクチャーズ)
佐藤 桂 氏(コロッサス)
 
■モデレーター
尾形 美幸(ボーンデジタル)

学生が1人3分ずつポートフォリオやデモリールなどをプレゼンテーションするコーナーの後半戦。こちらもCGクリエイターではなくガンプラ専門のプロモデラー志望や、2Dキャラクター向けの表情筋を研究している女子大生など、個性豊かな6名があつまった。

(左)谷口 顕也 氏(サムライピクチャーズ)
(右)佐藤 桂 氏(コロッサス)

講評を担当した佐藤氏は「できるだけ引き出しの数を多くすることが大事。背景デザイナー志望であれば、自然の中、人工の建造物、SF的な未来絵図など、さまざまな状況をかき分けられるといい」とコメント。また身近な風景を題材にする場合は、徹底的に観察することが大事だとした。谷口氏もポートフォリオには、ある程度の作品数を盛り込んだ方が良いとコメント。「特に弊社では作品数が熱意を諮る大きな指標になる」と、就職活動中の学生に向けてアドバイスした。

Aimingではたらくということ

(左)寺垣 遼 氏(デザイナー) (右)鈴木 菜々海 氏(デザイナー)

「剣と魔法のログレス」をはじめ、オンラインゲーム開発で定評があるAiming。本年3月に東証マザーズに上場もはたし、今いちばん勢いのあるゲーム会社の一つだ。そんな同社は企業紹介に加えて、2015年4月に入社したての新人デザイナー2名が登壇。就職活動で提出したポートフォリオの紹介や、現在の仕事内容などについて紹介した。

美大卒で入社するまでCGツールを一切触ったことがなかった寺垣氏は、「とにかく自分は『絵が描ける』ことをアピールしようと、文章を最小限に抑えて、写真集のようなポートフォリオを作成した」と紹介。専門学校卒の鈴木氏は「自分は絵に個性がないことがコンプレックスだったが、逆に器用さをアピールできるような構成にして、装丁なども気を配った」と説明した。これに対してプロデューサーの廣田氏は「自分の個性・実力・やりたいことなどを、見る人にしっかり伝えられるのが良いポートフォリオ」とコメントし、二人の発表を評価。あわせて学生にエールを送った。

▶次ページ:︎YAMATOWORKS式アニメーション術

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YAMATOWORKS式アニメーション術

金本 真 氏(合同会社YAMATOWORKS / CGIディレクター)

セルタッチのCG作品が増えているアニメ業界。アニメ「牙狼〈GARO〉-炎の刻印-」に制作参加したYAMATOWORKSも、そうした手法を得意とするスタジオの一つだ。もっとも、そのやり方は会社によってさまざま。金本氏はLightwave 3Dを用いた同社の制作スタイルについて、実際にデモを行いながら紹介した。

金本氏はLightwave 3Dを「作りがシンプルでアニメーターでも手軽に使える」と評価。実際の作業もキャラクターのキーとなる動きを原画として描き、その間を動画で中割していく手描きアニメーションの作業手順に準拠している。Lightwave 3Dでの作業が終わると、After Effectsでコンポジットし、動きの微修正が行われて完成となる。

キャラクターの動きはIKではなくFKのみで設定し、カメラビューで見た映像のみを注視して、何度もチェックを繰り返しながら一つひとつ手でつけていく。金本氏は「ツールで中割りされたヌルヌルした動きをもとに、いかにアニメータが一枚ずつ絵を修正しながら、手描きアニメらしい印象的な動きに変えていけるかがすべて」と説明していた。

「フォトリアルCGのすゝめ」

山内 太 氏(株式会社家元 slanted / Director)

文系大学を卒業後、宝石商として働くかたわら、専門学校でCGツールの使い方を学んでCGアーティストになった山内氏。セッションはまず「自分のような経歴でも立派に業界で働けます」と学生を鼓舞するところからスタートした。

仕事の大半が自動車関連で、実写素材をベースにフォトリアルなCGを組み合わせてムービーに仕上げる例が多いという山内氏。一番重要なことは「対象物を徹底的に観察し、その上でCGとして再現すること」だと指摘した。観察では資料を収拾するだけでなく、可能なら自分で写真を撮影することも大事で、もしデジタル一眼レフカメラを所有していなければ、すぐに購入するべきだともアドバイスした。

また静止画では実力がわかりにくいので、応募時にはポートフォリオよりもデモリールを作る方がいいとコメント。その際も長編ストーリーなどより、実写とCGが組み合わさった10秒程度の映像をたくさん作って送る方が効果的だと解説されていた。


クリック一つでエントリーシートが送れる昨今の就活事情。しかし、1人で数百社にエントリーしてしまうなど、学生がネットの利便性に振り回されがちなのも事実だ。そうした中で今回のようなイベントに参加すると、企業の採用担当者やクリエイターのリアルな声を聞くことができ、ネットや学校の求人票では得られない生きた情報が得られるメリットがある。今後もぜひこうした機会を活かしてほしい。

TEXT_小野憲史
PHOTO_弘田充