アジアにおけるコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術のカンファレンスと展示が行われるイベントとして、注目を集めるSIGGRAPH Asia。
6年ぶりに日本へ戻ってくる今年のSIGGRAPH Asia 2015は、11月2日(月)~5日(木)の4日間、神戸国際会議場・国際展示場を会場に開催される。

カンファレンスパスの早期割引の終了が近づくなど(10月2日まで)、開催に向けたカウントダウンが進んでいることを実感するところだが、ここでは昨年、中国深圳で開催された 「SIGGRAPH Asia SHENZHEN 2014」の内容をレポートする。昨年を振り返ることで、今年の見どころを探る際の参考にしてもらいたい。

SIGGRAPH Asia 2014は12月3日から6日の期間、中国深圳で開催された。
毎年8月に米国内でSIGGRAPH(アメリカコンピュータ学会(ACM)のコンピュータグラフィックスを扱う分科会)が開催されるが、SIGGRAPH Asiaはそのアジア地域限定会議にあたる。2008年にシンガポールにて第1回が開催され、今年の神戸で第8回となる。

SIGGRAPH Asiaは本家SIGGRAPHと比較すると格段に規模が小さい。とはいえ、回を重ねるごとに内容は充実してきていると聞いている。

2014年の開催は初の中国本土。香港での開催は2011年と2013年の2回あるが、生粋の中国国内開催は初である。今現在、経済大国としてハリウッド映画にも大きな力がある中国、そして映像ビジネスとしても大きな市場である中国での開催だった。北京や上海などの都市でCG技術も大きく進歩している。

その中国でのSIGGRAPH Asiaをレポートする。

深圳コンベンション&エキシビションセンター

<1>Exhibitionは期待はずれの規模だが、有力プロダクションによるメイキング講演は充実

開催地の深圳は、香港にほど近く、バス等の陸上交通でも1時間程度の距離にある。経済特区にも指定されており、人口も多く、北京や上海、広州に次ぐ大都市だ。

たくさんの高層ビルが建ち並び、また新たに何棟ものビルが建設中。会場である深圳コンベンション&エキシビションセンターは、そのような発展を遂げる深?市のほぼ中央に位置し、新たなビジネス展開に関わる各種イベントが開催されてるイベント施設である。

  • 深?の夜景ー近代的なビルが建ち並ぶ

  • SIGGRAPH ASIA2014会場入り口

SIGGRAPH Asiaはカンファレンスとエキシビション、コンピュータ・アニメーション・フェスティバルの3つで構成される。

カンファレンスではビジネスに関わるシンポジウムや技術についてのコースやペーパーセミナーが開催される。 その中で私が拝聴したのは、スコット・ロス氏による「One-on-One with Scott Ross」と題された講演。

スコット・ロス氏と言えば、30年以上のキャリアを持つハリウッドにおけるVFXパイオニアの一人、ジェームズ・キャメロン氏とデジタル・ドメイン社を立ち上げた事でも有名である。

基調講演では、彼のキャリアの一部の紹介とハリウッドにおけるVFX業界の現状、そしてアジア市場での今後の発展について語った。

彼のキャリアについては言うまでもないのでここでは割愛する。
ハリウッドのVFX業界は、2012年にデジタル・ドメイン社が、2013年にはリズム・アンド・ヒューズ社が倒産するなど、大手のVFX会社でさえも厳しい状態であるが、それはすべて技術偏重が原因だったことが語られた。

80年代から始まったVFX技術の発展は凄まじいものがあり、それを礎に今のハリウッド映画のクオリティは確立されている。
しかしながら、技術的な黎明期であったこともあり、ビジネスという点はあまり考えられず、ただより高い技術を求めてしまったのである。

そのせいでVFXは見合わないコストでの作業を余儀なくされ、今の苦しい状況を産み出してしまったのだった。

ビジネス面をもっと考えていかないとVFX業界にはもはや未来はないのである。そんな中でアジアは非常に大きな市場があり、世界のVFX関係者の救いとなるだろうと予見された。それこそがSIGGRAPH Asiaのもつ大きな意義であるということが熱弁された。

エキシビションは45ブースで展示が行われた。本家SIGGRAPHを知っている人にとって、この規模は信じがたいものであろう。

LAなどで開催されるSIGGRAPHのエキシビションや日本のInter BEEに比べると数十分の一の規模である。中国のメーカーやプロダクションが多く出展しているだろうと予想していたのだが、各ブースの出展内容も芳しくなく、期待はずれだったことは否めなかった。

エキシビション会場入り口

展示会場の一角に設置されている「Exhibitor Talks and Sessions」ではいくつかのプロダクションがメイキングセミナーを行なわれており、非常に盛況だった。

その中の「Base FX」のセミナーは興味深かった。北京を拠点に『トランスフォーマー/ロストエイジ』や『パシフィックリム』などのハリウッド映画作品のVFX製作を請け負う会社である。

発表は中国語で行われたので細かい内容はまったくわからないが、ほんの数年前は数人の小さなプロダクションだったのが、今は非常に大きなVFXプロダクションに成長しているようだ。

それだけハリウッドからの仕事量も増えており、クオリティも向上しているのだろう。今話題のスターウォーズ新シリーズへの参加もするらしい。

Exhibitor Talks and Sessions会場

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<2>展示会場で体感する技術トレンド

展示ではこれといって目新しいものはなかった。
モーションキャプチャや3Dスキャニング、3Dディスプレイなど見慣れたものが並ぶ。

NVIDIA社がTech Talkスペースを大きく取っており、最近の技術トレンドをセミナー形式で紹介して盛況だった。

NVIDIA社のTech Talkスペース

入り口近くに大きなブースを構えたDigimania社
Unreal Engineを使ったレンダリングソフトウェア「Render Digimania」を大々的にアピールしていた。

しかし、デモの時間を決めている訳でもなく、人が集まったらやりますというノリなのでなかなか人が集まらないようだった。せっかくのデモなのだから、もっとやり方を考えた方が良いと感じた。

デモでは簡単なモデリングからレンダリングまでのワークフローを説明。使用用途としてこのソフトが中心になることはないと思われるので、Mayaなどのソフトウェアとどう連携できるかというところが重要だろう。

ゲームエンジンを使ったレンダリングソフトは今後利用される事も多くなると予想されるので、今後の展開には注目したい。

Digimania社ブースでRender Digimaniaデモ

Noitom Technology社がリリースしたモーションキャプチャツール「PERCEPTION」

Xsens社のMVNに似たシステムであり、体に各種センサーを装着する事により、人物の動きを収録する。各センサーのデータはワイヤレスでPCで受信される。

ワイヤレスの距離は屋内だと50m、屋外では100mだそうだ。日本で使う場合には電波法に觝触しないか心配。

MVNと同等の性能が得られるかはデモからはわからなかったが、操作性はかなり似ている。価格はMVNの1/3。どう展開されるか、今後の動向には注目である。

Noitom Technology社ブースでのPERCEPTIONデモ

奥に「EMERGING TECHNOLOGIES」と題し、大学で研究されている技術の紹介を行なっていた。

アジアでどのような研究が進められているのか興味を持って入ってみたが、ほとんどが日本の大学で驚いた。
画像処理をうまく使った技術であり、エンターテインメントに使えそうなもの、福祉等に使えそうなものなど様々だった。

もっとアジア各国での研究されている内容を見たかったが、それでも日本の大学の若者たちががんばっている姿は誇らしく思えた。

EMERGING TECHNOLOGIES会場

アジアの CG技術を見るために最も注目していたのが「コンピュータ・アニメーション・フェスティバル」である。

これは多くの作品を上映するアニメーション・シアターとその中から優れた作品を選び特別上映する「エレクトロニック・シアター」、作品制作に関わる「プロダクション・セッション」で構成されている。

エレクトロニック・シアター会場

アニメーションシアターにはできるだけ時間を取って見てみたが、これからのCG業界を担っていく学生作品が多く、非常に興味深いものだった。

米国SIGGRAPHでは学会的要素があるので、アニメーションシアターにもシミュレーションなどの研究成果が見られるが、SIGGRAPH Asiaではそういうものは全くと言って良いほど見られなかった。

エンターテインメント性が高く、ストーリーのしっかりしたアニメーション作品が大半を占めている。

中国というお国柄なのか、自国でなにか技術開発して作り上げるというよりは、既存技術を巧みに使い、ビジネスへ昇華していくという点を重視しているからなのかもしれない。

アジア諸国の作品では中国、韓国、台湾など多くのオリジナル作品、学生作品が上映された。内容的には多少残念さが残るものもあるが、全体としては非常にクオリティが高い。

日本の作品が非常に少なかったのが本当に残念。それを埋め合わせるかのように、メディア芸術祭の作品が別途紹介されていたが、それはちょっと反則のように感じた。やはり同じ土俵で勝負すべきだろう。

エレクトロニック・シアターにも参加。こちらはアニメーションシアター以上にエンターテインメント色が強く、学術的な内容は皆無だった。残念ながらアジアで選ばれていたのは日本と韓国がそれぞれ2作品だけ。

多くは欧米で中東とニュージーランドがそれに加わる。日本はアニメとゲームのムービーなので商業作品だが、韓国は2作品ともオリジナル作品だった事が素晴らしい。

プロダクション・セッションでは「Over the Moon」(審査員特別賞)という作品を制作したMedia Design School(ニュージーランド)の教育方法、「Little Yeyos」という作品を制作したLight Chaser Animation社(中国)によるメイキング、「ライフ・オブ・パイ」などのVFXを担当したBUF社によるインハウスツールの解説が行われた。

「Little Yeyos」
北京に拠点を置くLight Chaser Animation社が制作した作品

どのセッションも非常に興味深い内容だったが、これらを企画したスタッフが考えていたのはこれからのアジア(中国)のCG業界をどう進めていくかということだったのではないだろうか。どう教育するのか、今現状のワークフローはどうなのか、欧米がどういうスタンスなのか、それを強く感じた。それは日本でも同じだろう。

2008年の第1回から回を重ねてきたSIGGRAPH Asia。近年はその規模もだんだんと大きくなり、盛り上がってきたという話を聞いていた。

しかしながら、前回のSIGGRAPH Asiaは期待を遥かに下回る内容だった。アジアはハリウッドでも大きな市場として注目されている。この数年で技術力も向上した。それなのにこんな内容にしかならないのかと落胆した。

今年11月、第8回SIGGRAPH Asiaは6年ぶりに日本で開催される。2009年の第2回SIGGRAPH Asiaは横浜で開催されたが、今年の開催地は神戸だ。やはり、アジアを牽引できるのは日本しかないだろう。私も微力ながら貢献出来ればと考えている。どんな内容になるのか、今から楽しみだ。

SIGGRAPH ASIA2015 KOBEを紹介するブース

TEXT & PHOTO_山口 聡(ACW-DEEP