※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 213(2016年5月号)からの転載となります
今回はデジタル造形特集ということで、ポストデジタル・アーティストの小林武人氏より義指のモデルデータを提供いただくことになった。本記事よりデータをダウンロードして、出力を試してみよう。
3D プリントを活かして
アートとテクノロジーを融合する
今回は筆者が行なっているコラボレーションプロジェクト「More Than Human(以下、MTH)」より、義指『type-Horus』のモデルデータを提供します。
MTHは純粋なアートプロジェクトXSENSEから派生したもので、美術家の坂巻善徳a.k.a senseとデジタル・アーティストの小林武人(著者)のユニットです。「アートの力」で成し得ることを、社会や個人に向けて還元していこうという考えに根ざして、アートはもっと人々に知れわたって評判となり、人と人、人と社会をつなぎ、希望や活力を広げていくものだと捉えています。また、3Dプリントの造形力を活かしてアーティスティックな義肢や医療機器を制作することで「アートとテクノロジーの融合によるソーシャル/パーソナル・スティグマの解消」を目指しています。
例えば既存の義肢は身体の欠損を「隠す」ために人体に似せて作られていますが、MTHは義肢をアーティスティックな形にすることで隠すものから魅せるものにしようとしています。形はあくまでも触媒で、最終的には義肢ユーザーのメンタリティの変化が重要です。美しく、カッコ良い、健常者が羨ましがるようなデザインを纏うことがユーザーの自信になり、身体の欠損も含めて自分だというアイデンティティを確立できるようにすることがMTHの理念なのです。
今回の『type-Horus』も同じコンセプトに基づいて制作しました。身体の欠損を補う義指ですが(装着は欠損部位によって応相談)、指を欠損していない人もファッションの一部として身に着けることができます。ファッション⇔義肢の境界を曖昧にすることで、健常者⇔障害者という考え方自体を超えていくことがこのモデルのコンセプトなのです。
※改変可(ただし、元のデータよりカッコ良くする自信がある場合に限る)、商業利用不可
工程001:モデルデータの読み込み
ここではXYZプリンティングの3Dプリンタ「ダヴィンチ」を用いた出力設定を紹介します。
まず付属ソフトウェアのXYZwareを起ち上げ、出力するモデルデータ(ここではfinger_highPoly_0312.stl)を読み込みます。
工程002:「壁」を立てる
今回は義指のモデルの周りに「壁」を立てて出力してみます(データfinger_wall_0312.stl参照)こうすることによりエクストルーダの熱が義指モデルに集中することがなくなり、先端部分を綺麗に出力することができます。
2つモデルを読み込むと、モデルが重ならないように自動で位置調整されてしまうので、移動ツールを用いてモデルの位置を調整します(両モデル共にX=100、Y=100)。なお、壁がなくても、義指モデル単体で出力できます。
工程003:印刷設定
印刷ボタンを押して、3Dプリントの設定をします。今回は「レイヤの高さ」は0.1(最高品質)で出力しました。レイヤーの高さの数値が小さいほど、出力した際のレイヤー間のギャップが目立たなくなり、綺麗なモデルになります。ただし、その分時間がかかります。
印刷ボタンを押すと、モデルのスライス(3Dプリント用にレイヤー化する計算)が始まります。
そしてモデルのスライスが完成したら「印刷」ボタンを押して3Dプリントを開始します。
工程004:出力結果
失敗! 途中で造形部分が引っ張られてしまい、造形物全体がずれてしまいました。ここではプラットフォームにノリを塗ることで対応しましたが、専用のプラットフォームシートも販売されています。筆者は未検証ですが試してみても良いかもしれません(deagostini.jp/select/detail.php?id=11145)。ちなみに素材はABS樹脂でした。
こちらはAPISTEC様が出力してくれたものです。素材はPolyFlex PLAで、少し柔軟性があります。素材ちがいで試してみても面白いですね。
▶︎データのダウンロードはこちら︎※改変可(ただし、元のデータよりカッコ良くする自信がある場合に限る)、商業利用不可
[STAFF]
-
左から、小林武人氏(ポストデジタル・アーティスト)、坂巻善徳 a.k.a. sense氏( 美術家/ クリエイティブ・プロデューサー)。以上、XSENSE/MoreThan Human
www.facebook.com/MTHprosthetic
[INFORMATION]
シリーズ:More Than Human 3Dプリント義指
作品名:type-Horus(タイプ ホルス)
原案・原型:坂巻善徳a.k.a sense、小林武人
制作協力:APISTEC
©More Than Human