7月17日(水)から19日(金)まで東京ビッグサイト・青海展示棟で開催された「通信・放送Week 2019」は、「第19回 光通信技術展」、「第3回 映像放送WXPO」、「第2回 5G/IoT通信展」、「第2回 4K・8K映像技術展」の4展の合同展示会だ。今回はその中の「4K・8K映像技術展」を取材し、数多くの出展社の中から6社をピックアップして紹介する。

TEXT&PHOTO_石坂アツシ / Atsushi Ishizaka
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

映像フォーマットや表示デバイスに応じた最適なマスタリングを行う技術/ソニーPCL

ソニーPCLは自社のスタジオで使われている高品質なマスタリングを可能にする技術を紹介していた。

RS+は、SDからHD、HDから4K、8Kといったアップスケーリングにおいてノイズや色味などの成分を調整して高画質化する技術で、単純なスケーリングで生じるエッジのぼやけや色の滲み、バンディングノイズ、インターレースのラインなどを解析、改善して高精細な映像に仕上げることができる。ソニーPCLのスタジオではマスタリング工程の中の適切なタイミングでその技術を施すだけでなく、ノイズの状態や仕上がりのイメージをクライアントと確認・相談した後に作業を開始して確実なチューニングを行なっているという。

このRS+を使ったアップスケーリングのワークフローを簡単に説明すると、まずスケーリングの前に、義色軽減、階調補正、櫛形ノイズ軽減、インターレースのマージ、などを行う。そのスケーリング前の工程で高画質化のための調整ポイントが見えてくるので、クライアントと相談して仕上がりのイメージを固める。その後に、一般的なアルゴリズムやオリジナルのアルゴリズムを使って最適なスケーリングを行い、さらにポスト・プロセスでジャギーやリンギングを軽減するエッジ処理を行なって高精細の映像に仕上がる。

マスタリングに関するオリジナル技術を展示・デモを行うソニーPCLブース

こうして出来上がったマスター映像に対して、ソニーPCLではさらに、その映像を表示する環境に合わせて最適化するために、10bit素材を8bitで表示する際に生じるグラデーションの帯状ノイズ(バンディングノイズ)を軽減するPixelShakeや、オリジナル時から生じているバンディングノイズを検出してその箇所を限定的に処理するPixelShake EXといったオリジナルの技術を使ったサービスも用意している。

また、カラーグレーディングに関するHDR/SDR Hybrid Gardingという効率的なサービスも実演していた。これは4K素材をグレーディングする際に、ハイダイナミックレンジ(HDR)とスタンダードダイナミックレンジ(SDR)用のグレーディングをそれぞれのダイナミックレンジのモニタで確認しながら同時に行うサービスで、デモではS-Logで撮影された素材を使い、HDRとSDRそれぞれに最適なグレーディングを同時に行なっていた。

HDRとSDRのグレーディングを同時に行うHDR/SDR Hybrid Gardingのデモ風景

世界最大手のガラスメーカーが提供する4K対応製品/AGC

ガラスメーカーとして有名なAGCのブースでは光ケーブルとフィルムスクリーンが展示されていた。

プラスティックファイバFONTEXを使ったアクティブ光ケーブルは、4K映像を外部電源を使わずに100mまで伝送でき、その速度もこの展示会の時点で世界最速の10Gbps×100m。さらに小さく曲げても折れないため、支柱に結びつけての使用も問題ない。

4K映像を外部電源不要で100mまで伝送できる光ケーブル

ガラスサイネージ用のGlascene Fはプロジェクタ用の透過型スクリーンフィルムで、ガラスに水貼りすることができる。スクリーンタイプはフロント投影用とリア投影用の2種があり、さらに透明性を重視したクリアタイプと映像の明るさを重視したブライトタイプの2種類に分かれる。可視光の透過率は、フロント投射用のクリアタイプが78%、ブライトタイプが36%。リア投射用のクリアタイプが83%、ブライトタイプが64%。製品は1260mmのロール仕様なので、例えば高さが1260mmで幅に大きく広がるスクリーンをつくることもできる。

Glascene Fに続く新製品として本展示会で初公開されたのがハーフミラーの大型スクリーンで、映像を投影していないときはハーフミラーのガラスとなる。こちらはリア投影専用で透過率は50%。ショーウィンドウで効果の発揮が期待できる製品だろう。

大型ミラースクリーンのデモ風景

プロ・ビデオへの動向と遠隔オペレーションライブ配信システム/Nikon

シネマカメラの分野で出遅れた感のあるNikonからは、参考出品としてカメラからのRAW出力と遠隔オペレーションライブ配信システムのデモが行われていた。

RAW出力ではNikon Z6Atomos Ninja Vの組み合わせが展示され、Z7とZ6のファームウェアアップデートによる12bit RAW/4K・FHD出力が開発中とのことだ。数多いNikonファンの映像関係者はこのプロ・ビデオ機能への動向は大いに期待したいところだろう。

Nikonのカメラを遠隔操作/映像配信するカメラコントロールエンコーダと配信システム

遠隔オペレーションライブ配信システムは、クラウドを介した映像配信システムの中にNikonのカメラを組み込んだもので、配信の中核となるソフトは既存のLivestream Studioを使いながらカメラコントロールも行えるようにアレンジしてあり、遠隔からのカメラコントロールとスイッチングを可能にしている。このシステムの意義は配信にNikonのカメラを使うかどうかの選択にかかっているが、少なくともNikonがこういったシステムの開発に少しでも動いていることはファンにとっては朗報であろう。

スイッチングソフトからNikonのカメラを遠隔操作できる

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4K60p RAWデータ編集用のワークステーション/TSUKUMO

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4K60p RAWデータ編集用のワークステーション/TSUKUMO

TSUKUMOからは4K60pの映像編集用のワークステーションが展示されており、実際にPremiere ProDaVinci Resolveでの合成編集デモを行なっていた。展示されていたのは、Intel Core i9-9980XEとGeForce RTX2080Tiを搭載した、リリースされたばかりのワークステーションWA9J-Y190XT/NRと、Ryzen 9 3900XとRadeon RX 5700 XTを搭載した参考出品のワークステーション。後者のマシンに搭載されているCPUのRyzenは日本ではまだ馴染みがないかもしれないが、高スペックのTSUKUMO注目のCPUだ。

TSUKUMOのブースでは2種のワークステーションがデモ展示されていた

気になるマシン構成とスペックおよび価格は下記の通り。

[WA9J-Y190XT/NR]
CPU:Intel Core i9-9980XE
グラフィックボード:GeForce RTX2080Ti
メモリ:128GB DDR4
システムドライブ:1TB SSD
作業ドライブ:SSD 2TB × 4枚
データドライブ:6TB HDD
マザーボード:ASUS PRIME X299-A
インターフェース:USB 3.2 Gen2、Thunderbolt 3
有線ネットワーク:10GBase-T
OS:Windows 10 Pro(64bit版)
価格:1,199,800円

[参考出品/AMD Ryzen 9]
CPU:Ryzen 9 3900X
グラフィックボード:Radeon RX 5700 XT
メモリ:64GB DDR4
システムドライブ:1TB SSD
マザーボード:ASROCK X570 Creator
インターフェース:USB 3.2 Gen2、Thunderbolt 3
有線ネットワーク:10GBase-T
OS:Windows 10 Pro(64bit版)
価格:400,000円前後を予定

3倍近い価格差のある2機種だが、WA9J-Y190XT/NRは作業ドライブとデータドライブを考慮した堅実な作業マシン仕様になっているので高価になるのも当然だろう。そして2台とも実際に編集データを動かすデモを行なっているので数値だけでは実感できないスペック体験をすることもできた。もし店頭で触る機会があったらぜひ試していただきたい。

両者とも編集ソフトが起動しているので実際のスペック体験ができた

映像資産をデータベース化するAIプラットフォーム/NTTデータ

NTTデータのブースでは映像フッテージを自動認識でタグ付けしデータベース化していくビデオAIプラットフォームのVision Data +を展示していた。

概要は、まず導入の目的に応じて最適な認識エンジンを選択してGUI設計とタグの設定を行う。後は映像を自動認識させてデータベース化していくわけだが、映像の状態によってはコントラストアップなどの前処理が必要になる場合もある。肝心の自動認識の内容だが、デモでは数種類を見ることができた。

ニュースクリップでは、ナレーション音声を自動でテキスト化してその中から固有名詞や専門用語などタグ設定した単語を検出する。映像内のテロップもテキスト化されて同様の検出を行う。人物の顔をタグ設定できるので、映像から顔認識して特定人物を自動検出することができる。また、その他の人物は登録外の人物としてストックされ、手動で名前を入力することができる。これら自動認識された情報はタグのボタンで検索され、検索にヒットした映像フッテージのリストと、それぞれの映像内で検索対象が登場する部分が時間とタイムライン上のマーキングの両方で表示される。

ニュースクリップから音声、画像、顔の認識を行いタグ付けする

映像フッテージの中から検索を行える

その他の検出機能として、映画のエンドロールを単純なテキストだけでなく、同時に役柄・役職と名前を分けてデータベース化したり、スポーツ中継のクリップから映像内人物の骨格を自動解析し、ガッツポーズなど特定のポーズを検出することができる。

このように、Vision Data +は複数の自動認識エンジンを元にクライアントの要望に応じて設計していくAIプラットフォームだ。

エンドロールから役職と名前と分別してテキスト化するユニークなデモ

ゴルフの中継クリップから、ティーショットや拳を握るポーズなどのシーンを自動検出していた

8K対応の周辺機器/ブラックマジックデザイン

ブラックマジックデザインの8K対応機器として、今夏発売予定のHDRとコントローラが展示されていた。

8K対応レコーダのHyperDeck Extreme 8K HDRの特徴は7インチのタッチスクリーンで、映像の拡大表示やビデオスコープとの表示切り替えなどが液晶パネルで行えるところにある。内部、外部の収録メディア対応も考慮され、さらに収録映像のコマ落ちを防ぐためにPCIeフラッシュディスクをインストールすることもできる。

8K対応のHDRであるHyperDeck Extreme 8K HDR

HyperDeck Extreme 8K HDRの仕様は下記の通りだ。

[HyperDeck Extreme 8K HDR]
・入出力:Quad 12G-SDI/HDMI2.0/アナログビデオ入力/アナログオーディオ入力
・録画/再生:8K(7680 × 4320)p60 まで可能
・対応コーデック:H.264/ProRes
・スクリーン:7インチ 1920 × 1200 2000 nit DCI-P3 100% HDR LCD(タッチスクリーン)
・ビデオスコープ:波形、パレード、ベクトル、ヒストグラム
・収録:デュアル CFast スロット、USB-C 3.1 Gen 2 拡張ポート × 1
・キャッシュスロット:M.2 PCIe NVMe 60mm、80mm、110mmに対応
・外部制御:RS-422 入出力、10Gイーサネット
・価格:567,800円

HyperDeck Extreme Controllerは8K HDR用のコントローラで、RS-422経由で最大8台までのデッキを操作することができる。HyperDeck Extreme 8K HDR単体でもボタンとタッチパネルの両方で録画や再生操作は行えるが、複数台のHDRを操作する場合にはどうしてもコントローラが必要になってくるであろうし、このコントローラが従来の放送用ビデオデッキに近いUIなのが魅力のひとつにもなっている。

タッチパネルで映像の拡大表示ができる

ビデオスコープ表示。右にあるのはコントローラのHyperDeck Extreme Controller

4K、8Kの高精細映像は、カメラやHDRなどの収録機器や、編集システム、再生機器などが注目されがちだが、高精細を利用したセキュリティ機器や自動検出システム、医療での活用など、あらゆる分野の発展に役立つ大きな要素であることは間違いなく、通信技術とも密接に関係してくる。その点からも今回のような映像技術と通信、伝送技術が一同に会する展示は意義のあることで、すでに来年の展示日程が決定していることからも、いかに注目されている分野であるかが窺い知れる。