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8月10日(土)デジタルハリウッド東京本校(東京・御茶ノ水)で、CGWORLDがプロデュースする「映像制作の仕事展」とのコラボイベント、「映像制作の仕事展×デジタルハリウッド『映像制作を仕事にする理由』本科デジタルアーティスト専攻開講記念」のイベントが開催された。同イベントに登壇したのは、現在Industrial Light & Magic(以下、ILM)のコンセプトアーティストとして数々のハリウッド映画の制作に携わる田島光二氏だ。急遽開催が決定したイベントであったにも関わらず、会場には200名もの来場者が駆けつけた。本稿ではその様子をお伝えする。

TEXT_UNIKO
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota、デジタルハリウッド / Digital hollywood

田島光二/Kouji Tajima
シニアコンセプトアーティスト。2012年にVFX制作会社のDNEGに入社、現在はIndustrial Light & Magic(LucasfilmのVFX部門)に所属。これまで『ヴェノム』、『ブレードランナー2049』、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』、『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』など多くの映画作品のコンセプトアートを手がける。学生時代に「3DCG AWARDS 2010」で最優秀賞、2017年に「WIRED Audi INNOVATION AWARD」を受賞。2018年、Forbes「30 under 30 Asia」に選出される。著書に「田島光二アートワークス」など

2012年にDNEGシンガポール支社でコンセプトアーティストとしてのキャリアをスタートさせた田島氏。2015年には同社のバンクーバー支社に移り、数々のハリウッド映画の制作に携わるかたわら、自身の活動として日本の映像作品の制作にも多数参加してきた。そして、2018年9月にILMに移籍し、シニアコンセプトアーティストとしてさらなる活躍を続けている。同イベントでは、そんな田島氏が映画制作の現場で実際に描いたコンセプトアートを多数用いて、コンセプトアーティストの仕事を詳しく紹介した。

コンセプトアーティストの仕事

背景、キャラクター、クリーチャー、メカ、マシン、看板......、コンセプトアーティストは本当にいろんなものを描きます」と田島氏。『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』(2016)の制作の際は、クリーデンス・ベアボーン役を務めた俳優のエズラ・ミラー氏とのやりとりの中からヒントを得たと言う。「エズラ・ミラーさんは、化け物になる過程は大変な苦痛を伴うのだけどどうしても変身してしまうんだ、と話していたので、そのコメントを元に身体にまとわりつく触角にギザギザとした棘を描き足して、苦痛を与える "印象" を加えることにしました」(田島氏)。

また、コンセプトアートは2Dの一枚絵で描くだけだと思いがちだが、必要があればアニメーターがアニメーションを付ける際に参考になるよう、アクションのイメージを何フレームにも渡って描くことがあるという。というのも、田島氏が描いたクリーチャーやマシンが変身・変形する様子は、時に一枚の絵では細部の描写が不十分な場合があり、変形する様子や特徴的な動きを段階別にわかりやすく補足しなければならないからだ。田島氏は「専門的なアニメーションの知識が必要とまでは言いませんが、どのように動いてどのように変形するのかを頭の中で想像して、その過程を描いたものも一緒にポートフォリオに入れておくと強いアピールになりますよ」と、これから世界をねらうアーティストたちにアドバイスした。

他にも、ハリウッド映画制作の最前線からのリアルなアドバイスとして、3DCGスキルの重要性について語られた。ひと昔前までは、鉛筆や絵の具を使うコンセプトアーティストが主流だった(現在でもアナログ画材で制作しているアーティストもいる)ものの、最近では3Dを使う人がほとんどだと田島氏は話す。「ILMは現在30名ほどのコンセプトアーティストがいますが全員3Dを使えます。というのも、後の工程で3DCGに置き換えなければいけないからです。2Dのスキルだけだと、「2Dと3Dのズレ」が生じて時間をロスしてしまうし、3Dを使えれば仕事の幅も広がるので、映画制作を目指している人は3DCGの勉強をしていて損はないと思います」(田島氏)。

ハリウッドへの道のり

次々とハリウッド作品の制作に携わり、世界的な活躍を続ける田島氏。「どのような道のりを経て現在の活躍に至ったのか」については、来場者の関心を引いたようだった。田島氏のこれまでの道のりに関しては、多くの記事で取り上げられているのでここでは割愛させてもらうが、そもそもコンセプトアーティストを目指していたわけではなかった、という逸話はとても印象的だったのでここでお伝えしよう。「専門学校を卒業してしばらくはフリーランスをしていたのですが、ハリウッドで活躍するクリエイターのみなさんの帰国を聞きつける度にメールを送り、直接会ってアドバイスを受けていました。そんな中、当時DNEGシンガポール支社で活躍していた北田栄二さんが声をかけてくださり、彼のサポートのおかげでなんとか面接もクリアして、DNEGに入社が決まりました」とハリウッドへの第一歩を踏み出した経緯について話した。

ところが、「僕はすっかりモデラーとして採用されたものだと思っていたんです。履歴書も作品も面接も、そのつもりで用意していましたし。でも、シンガポールに到着して初めての面談で、自分がコンセプトアーティストとして採用されていたことを知りました。実は、これがコンセプトアーティストになったきっかけなんです」と田島氏は苦笑する。コンセプトアーティストがどのような仕事かすら知らない状態だったらしく、デザインとは何か? から勉強し直したという。「仕事も英語もろくにできないもんだからデザインの仕事がもらえない時期もあって、シンガポールにいた2年間はほとんど外に出ることもなく、部屋で必死に練習していました」。そしてようやく実力がついてきたところで、ティム・バートン監督に大抜擢された田島氏は、『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(2016)で初めてメインキャラクターのデザインを担当することとなり、これが同氏にとって大きなステップとなったと語った。

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充実の質疑応答

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充実の質疑応答

イベントの中盤からは来場者からの質問が絶えず、そのひとつひとつに田島氏は丁寧に答えていった。本稿ではそのいくつかをピックアップしてお届けする。

質問:コンセプトアーティストを目指してモデリングの勉強をしています。モデラーやコミックアーティストからコンセプトアーティストになったという話をよく聞きますが、モデラーからキャリアをスタートさせることについてどのようにお考えですか?

田島:最終工程ではCGになるので、モデラー上がりの人だとモデリングしやすいデザインが描けたり、モデラーに細かい指示ができたりするので現場ではとても喜ばれます。実際、3Dからコンセプトアーティストのキャリアをスタートさせる人も多く、モデラーだけではなくライティングやマットペイントからコンセプトアーティストになる人もいます。ILMにはデザインのヘルプをしたり資料集めをしたりと、コンセプトアーティストの補佐的な仕事をする「アートアシスタント」を経てジュニアになる人もいますよ。いずれにしても、3Dの勉強をしていると強いですね。コンセプトアーティストって、けっこう地味な仕事が多くて、ひとつのクリーチャーを描くにしても、「目」、「くちばし」、「羽根」など、各パーツごとに色やテクスチャのバリエーションを何十パターンも提案します。このように、地味な仕事ではありますが、「かっこいい一枚絵が描けてこそ」でもあるので、3Dの練習だけではなく画力UPの練習も怠ることなく続けてください。

質問:リテイクの指示はどのような感じでもらって、どのように詰めていくのですか?

田島:毎日朝と晩に「デイリー」というミーティングがあって、シアタールームに全員集まって口頭で指示を受けます。メールの場合は赤ペン先生みたいに指示が入ったものが返ってきます。何度かリテイクしたもののなかなかうまくいかない場合は、資料となる画像を添付して話し合います。リテイクの出し方は監督によって様々で、例えばある監督はかなりビジョンが明確で「あと5ピクセルくらい左に」、とか「この部分を13%小さく」とか、指示がとても細かくてやりやすかったです。中にはできた絵を見ないとイメージができないという人もいるので、そういう場合は「地獄のパターン出し」になります(笑)。

質問:モデラー志望の場合、模写力をアピールした作品を入れた方が良いと聞きます。田島さんは、模写力やオリジナリティをどのように身に付け、ポートフォリオやリールをどのように育てていきましたか?

田島:結論からいうと、僕が就職活動で使っていたリールでは模写力は意識していませんでした(当時のリール参照)。先ほどお話したように、僕はモデラーとしてではなくコンセプトアーティストとして採用されたので、そこは重要視されませんでした。モデラーのリールとしては、本当に良くないリールだしダメな例です(笑)。モデラー志望で応募するなら模写力はとても重要です。車のデザインであれば内装まで完璧に作っておいた方が良いし、ワイヤーフレームは絶対に入れておくべきです。オリジナリティに関しては、昔からオリジナルのポケモンを考えるのが好きだったんですよね。実際、仕事の現場でもオリジナリティに溢れたアイデアをみんなで出し合ったりします。だから、好きな映画の続編を勝手に作ってみたり、オリジナルのアイアンマンを作ってみたり、「自分だったらこうするのに」とイマジネーションを膨らませて「自分のオリジナル」を表現してみてください。オリジナリティはその過程で育つでしょうし、デザインしていく上での強みになります。

質問:勉強法についての質問です。海外に渡ってからデザインの勉強をし直したと話されていましたが、どのような基準でどのように勉強されたのですか?

田島:1枚で見せる構成力はもちろん、デザインするには本当に様々な要素が必要で、ちゃんとした仕事ができるまで勉強には2年半ほどの期間を要しました。はじめの頃は、大きな仕事をもらってもクオリティは低いしコミュニケーションも全然上手くいかないし、つくっても全て回収されていました。その中で痛感したのは、絵を描くスキルだけではなく、自分が何が分からないのかを質問したり、お互いに分かっていないところを話し合ったりする「相手が欲しいものを汲み取る力」がとても大切だということです。

技術的な面では、リアルに描く練習をしていました。というのも、3Dでつくったとしても、リアルに見せられなかったらデザインとして弱いんです。現実でないものをどうすればリアルに見せられるか、ライティングの変化、パースの狂いなどにすぐに気づけるように、まずは写真の模写をたくさんしました。写真は自分で撮った写真でも好きなフォトグラファーの写真でも何でも良いのですが、「何をどうすればリアルに見えるか」を意識しながら模写しました。また、油絵の模写も沢山したのですが、これがとても良い勉強になりましたね。というのも、写真の模写は「写真をコピーする」作業なんですが、油絵の模写は「印象」を描いていたりするんですよ。例えば「岩」を模写するにしても、様々な色が使われているなとか、どういった色使いをしているのかとか、画面の構成の中でディテールをどこにもって来ているのかとか、そういった所を意識しながらたくさん模写していました。

デザイン性を磨くなら、好きなデザイナーをまず見つけて、そのデザインがなぜかっこいいかを考えて模写をするのもとても勉強になります。僕がクリーチャーばかりつくっていた頃は、Aris kolokontesさんの模写をしていました。僕は主にインターネットで勉強していたので、おすすめアーティストやサイトを少しご紹介しましょう。Jordu schellさんのサイトや、シンガポールのアーティストFeng zhuさんのYouTubeチャンネル『FZDSCHOOL』、最前線で活躍しているアーティストにインタビューするチャンネルの『Level up !』などがおすすめです。

あと、今でもJama JurabaevさんのチュートリアルをGumroadで買って勉強していますが、彼は2Dも3Dもめちゃめちゃ上手いんですよね。彼がBlenderを使い始めたらみんなBlenderを使い始めたり(笑)、影響力がすごいのでぜひチェックしてみてください。



■NEXT
映像制作の仕事展×デジタルハリウッド本科デジタルアーティスト専攻開講記念「映像制作を仕事にする理由」

11月17日(日)19:00~20:30 @デジタルハリウッド東京本校 駿河台ホール

  • ゲスト:鈴木卓矢氏 SAFEHOUSE inc. 取締役/背景モデリングスーパーバイザー
    Blizzard EntertainmentのCinematics部署で背景のデザインからモデリングまでを担当し多くの作品に携わる。現在はドイツでArt Directorとしてリアルタイム映像制作で活躍しているErasmus Brosdauとタッグを組んで、SAFEHOUSE inc.を設立。更に自身のスキルアップのためにフリーランスの背景モデラーとしても活躍中

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