12月12日(土)と13日(日)の両日、名古屋市のナディアパークにて「デジタルコンテンツ博覧会NAGOYA 2015」が開催された。会期中はゲームセミナーや企業・団体展示会などが実施された。本稿では初日に行われた「国際デジタルアニメーションフェスティバルNAGOYA 2015」における特別講演『現代ハリウッド映画におけるアニメーションとテクノロジーの進化』および最終ノミネート作品上映会/審査発表・表彰式の模様をお伝えする。
<1>特別講演『現代ハリウッド映画におけるアニメーションとテクノロジーの進化』
「デジタルコンテンツ博覧会NAGOYA」は昨年から始まったイベントだ。同じくナディアパークで開催されていたイベントとしては、1999年から2005年まで隔年で開催されていた「JDAF(ジャパン・デジタル・アニメーション・フェスティバル)」を思い出す人もいるだろう。さて、そんな「デジタルコンテンツ博覧会NAGOYA 2015」の初日には、メインプログラムと言える「国際デジタルアニメーションフェスティバルNAGOYA 2015」が実施された。
特別講演『現代ハリウッド映画におけるアニメーションとテクノロジーの進化』
特別講演『現代ハリウッド映画におけるアニメーションとテクノロジーの進化』では、ILM(Industiral Light&Magic)からチャールズ・アレネック/Charles Alleneck氏が登壇。来日は5年ぶりの2回目で、1回目は秋葉原や三鷹の森ジブリ美術館などを訪れていたという。チーフアニメーターとして活躍するアレネック氏は、ILMに入って15年。スタジオはバンクーバーやロンドン、シンガポールなどにもあり、所属するサンフランシスコが一番規模が大きく800名ほど在籍しているそうだ。アレネック氏は「アニメーターの人数は30人から40人くらいですね。全体からすると少ないかも知れませんが、4、5本の映画を同時進行でつくっており、他国のスタジオとも作業を分けていることもあり、1本に関わる人数は20人くらいになってます」と、サンフランシスコでのアニメーターの比率を明かした。
またILMに所属する日本人クリエイターとしては、山口圭二氏が知られている。アレネック氏は、『トランスフォーマー』のワンカットを例に「このオプティマスプライムが立ち上がってクルッと回るのを僕がやりましたが、山口さんは変形していくのを作るのがとても得意なので、動きに合わせてパーツが追随するのを担当されています。このカット全体では僕らを含めて8人が制作に関わっています」と、山口氏との共同作業を述懐した。
さらにアレネック氏は「僕が考えるプロとアマのちがいですが、プロは監督のコンセプトに合うまで映像を作り続けます。実写映画の監督は役者やカメラマンに対して、もう1度ちがうバージョンでやってみようと言えるんですが、それがアニメーターにも求められるということです」と職務上の話に触れた。そして「様々なバージョンを試してみて、その中から良い物を選ぶためにオプションを提供するのが僕達の仕事なんです。監督の指示に従っていかねばならないので、アニメーターとしてのこだわりは捨てないとやっていけません。アーティストとしてこういう風に作りたい、という気持ちがあると思いますが、それは差し置いて全部作り直すというのもよくある話です」と続けた。
チャールズ・アレネック氏(左は映画パーソナリティの松岡ひとみ氏)
さらにアレネック氏はマイケル・ベイ監督について「ハリウッドでもやり手として有名で、ILMにも直接来て作業しているすぐ後ろに立って、これちょっと変えてみようかとか言われるので怖くなりますが、そこが素晴らしいんじゃないかなと思います」との印象があると述べた。「アニメーターではないんですが視覚にこだわった監督で、彼のコメントに適応させるとシーンが良くなるんです」とマイケル・ベイ監督を評した。
ちなみにジョージ・ルーカス監督については「直接アニメーターと仕事をすることはないんですが、やりたいことのヴィジョンがハッキリしているので、自分のやり方を貫く人だなと思います」とのこと。また、『スターウォーズ』シリーズに携わったのは、ILMに入って一番楽しい仕事だったとも。「子供の頃から『スターウォーズ』で育ってきたわけですから、それを仕事にできただけでもラッキーだったと思います」と感慨深げであった。
またアレネック氏は自身の名刺の肩書を引き合いに出し「僕の名刺はデジタルアーティストで、アニメーターという肩書は入っていないんですよ。8年前に名刺を作った時にモデラーとかコンポジターとか、色々な職種があるにも関わらず、みんなひっくるめて書かれたんです」と話し、"アニメーター"と書かれていなかったことが不満だったと振り返った。
そして、この15年の間にアニメーターが果たす役割がとても広がったと続けた。「様々なメディアも出てきてるので、デジタルアーティストという肩書がしっくりくる時代になってきたのかなと思っています。アニメーターという職種ひとつでも、沢山のことをしないといけないからです」と技術的な変遷についても言及。ILMが開発して2007年の『トランスフォーマー』で導入したダイナミックリギングもその一例になる。
ダイナミックリギングは、先述の山口氏も利用した
続いて話題は『アイアンマン』に移った。アレネック氏が担当したシーンでも「ここではほとんどがアニメーションの部分なんですが、登場人物は実写ではありません。このシーンに携わったアニメーターは3人ですが、ILMでの仕事はいかにリアルに見せていくかというところなので、車も人も木も全て合成でつくっています。最終的には実写の俳優の動きを組み込んでいくのですが、それまでは全部コンピュータでの処理なんです」と説明した。そして「2カ月かけたシーンでもともと実写で役者がいたのですが、その後アニメーションとのタイミングにズレが生じたため、差し替えを行っていきました」と話し、実写映画の監督でも役者の演技がイマイチな場合は、アニメーションに差し替えると語った。
さらにモーションキャプチャに関しても、最初に用いられた時はこれで完全に制御ができるのかと懐疑的で、「自分たちの仕事が無くなってしまうのではないかという心配もありましたが、今ではほとんどの映画で使われていて、便利なツールであると考えが変わってきました」と語った。アレネック氏は「この15年の間にキャラクターの動きが自然になったんですね。テスト段階ではギクシャクした動きにしてたんですけども、マイケル・ベイ監督はアスリートのように滑らかな動きにしてほしいと注文しました」と、『トランスフォーマー』を例に挙げ、立ち上がるところはモーションキャプチャだが、クルリと回るところはアニメーターの作業といった風に、部分的に使われるようになってきていると述べた。
6つのうち2つをピックアップ
アレネック氏は最後に「プロのアニメーターになるのはすごく難関で正直難しいですが、本当にこれ以上楽しい仕事はないと思います」とアニメーターという仕事の楽しさについて触れた。図表から観客が観て何が起きているのかが分かるように明確にすることが大事で、それから他人からのフィードバックを大事にすること。そしてそれがネガティブなものであったとしても受け止めることが大事であると、アニメーターとしての心構えについても語った。「こだわらないことが大事です。自分の作品に固執しがちだけど周りの意見を聞いてやっていけば最終的に自分が意図していたものよりも良くなる。そこは大事にしてほしいですね。アニメーターは謙虚であってほしいと思います」と話し、映画を制作するというのは誰かの下で働くということである、と付け加えた。
注:文中でアニメーターとしているのは、アレネック氏が「アニメーター」と呼称していたからであるが、実写VFXやコンソールやPC向けのハイエンドなゲーム開発現場では、アニメーターと言えば一般的に2Dではなく3DCGアニメーターを意味している。
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<2>最終ノミネート作品上映会/審査発表・表彰式
<2>最終ノミネート作品上映会/審査発表・表彰式
次の最終ノミネート作品上映会審査発表・表彰式では、最近ネットでも話題となった『東京コスモ』など15作品が各賞を競った。地元のコンテストとしては、冒頭で記したJDAF内に設けられていたもの以外に、愛知県が2007年から昨年まで実施していた愛知デジタルコンテンツコンテストが知られていた。
アレネック氏も審査員として参加
久々に海外作品も対象としたコンテストの第2回目。各賞の発表の後「今回は22の国と地域から86作品の応募がありました」と、審査委員長を務めたポリゴン・ピクチュアズ代表取締役の塩田周三氏。「作品の技術力がここまで到達すると、我々審査員がどういう点に注目するか。それは基本的には物語性であり作品としての個性に注目します。とはいえ、審査員のひとりひとりがそれぞれちがう背景を持っているので、見る所は少しづつちがいます。それを語り合って議論するということで、作品の審査にそれなりの時間を費やしました」と選考のポイントについて触れた。
『東京コスモ』。公開から1カ月で100万再生を突破
準グランプリと観客賞に選ばれたのは『東京コスモ』。制作した宮内貴広氏と岡田拓也氏は、地元・トライデントコンピュータ専門学校の卒業生でもある(同校に関しては第20回学生CGコンテストの記事内参照)。しかも審査員には、2人が所属する白組・代表取締役副社長の小川洋一氏の姿も。
この点でも塩田氏は「通常は審査員に会社の人がいると有利に働くと思われるかもしれませんが、むしろ不利に働きます。というのも審査員がどちらかというと遠慮するんで1票減るんですね。1票減った中でも準グランプリになりました」と選考の過程を明かした。
受賞コメントにて宮内貴広氏(左)と岡田拓也氏(右)
ちなみに塩田氏は国内外の映画祭やコンテストで審査員の経験が多く、この『東京コスモ』も第17回DigiCon6、SIGGRAPH Asia 2015などで観ており、既に馴染みのある作品となっている。それもあって「現代の日本で働く女性の心情をこのモサい2人が本当に的確に生活の細かい空間を描いている所が作品の魅力でした。たぶんタイトルが『名古屋コスモ』だったらグランプリになっていたと思うんですが、『東京コスモ』ということで準グランプリになりました」と笑いを誘った。
そして注目のグランプリは『アタラクシア』が獲得(作者欠席)。ここでも改めて「一定のレベルのものが並んだ時に何が差別化の対象になるかというと、やはりその作品の個性や強度です。この大画面で見た時に圧倒的な強さで引力のある作品でした」と塩田氏。「『アタラクシア』というのは心の平穏・平静を意味する言葉なんですけども、この作品は全く逆でした。主人公の心情の不安さが痛々しいほど溢れ出ていたのを3DCGで描くというのは非常に難しいことで、難易度の高いものを見事に3DCGで描いたと高く評価されました」と決め手となった理由を述べた。
『ATARAXYA / TRAILER』
このほか審査員特別賞は『WATER LILY』、エクシング賞は『ゆめみるシロ』、名古屋市長賞は『DAIDARABOTCHI』となった。
講評する塩田周三氏
TEXT & PHOTO_真狩祐志
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デジタルコンテンツ博覧会NAGOYA 2015
日程:2015年12月12日(土)・13日(日)
場所:ナディアパーク(名古屋市中区栄3-18-1)
主催:デジタルコンテンツ博覧会NAGOYA実行委員会(名古屋市、中日新聞社、中部ゲーム産学協議会)
www.digihakunagoya.com