本誌で連載中の「JET STUDIO Effect Lab.」で数々の自然現象の模写を通じて培った知識と経験を応用して、非現実系の創作エフェクト制作に挑戦してみます。
※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 214(2016年6月号)からの転載となります

TEXT_近藤啓太(ジェットスタジオ) / Keita Kondo(JET STUDIO)
EDITEDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada


制作環境
Autodesk 3ds Max 2015
FumeFX 3.5.5
Adobe After Effects CS 6.0

自然現象を組み合わせてつくる魔法陣エフェクト

さて、今回のテーマはいつもと趣向をガラリと変えて「自然現象を応用した創作系エフェクトの制作」です。いつも本誌の連載を読んでくれている読者の方ならご存じかと思いますが、普段の連載では「自然現象を模写する」というコンセプトで執筆しています。モデリングならデッサン、アニメーションなら実際の動きを研究したり自ら動いたりすることで基礎的な学習を行えますが、「エフェクトで基礎を学ぶならどうしたらいいの?」というのが先述したコンセプトで始めることになったきっかけです。そうしたコンセプトの下、約2年連載を続けてきた中で多種多様な自然現象を調べ、制作した数も増えてきましたのでそろそろ今までのエフェクト制作をベースに創作エフェクトをつくってみよう! というのが今回のテーマです。

  • 近藤啓太(ジェットスタジオ
    エフェクトを中心に映像制作をしております。入社したばかりの新人さんから学生時代から連載を見ていたと聞いたりするようになりました。ありがたい気持ちと変なこと書いてなかったよな......という焦りが同時に押し寄せる今日この頃であります

模写と創作エフェクトの大きなちがいは「制作者の好みによってデザインや表現の幅は無限」であることです。しかし、そういったデザインの原点や迫力を出すための表現など、エフェクトをより魅力的に見せるための下地には現実に起こる自然現象が必ずあると筆者は考えています。そうした考えの下、応用する自然現象によってどれだけ見た目や表現に変化が起きるのかを検証する意味を含め、本記事ではベースとなるエフェクトを2つの属性に分けて制作に挑戦しました。自然現象がどれだけエフェクト制作に影響を与えるのかを何となくでも感じ取っていただければ幸いです。

JET STUDIO
ゲーム、映画、遊技機映像など幅広く制作を行う、3ds MaxをメインツールとするCGプロダクション。ベトナムにも支社を構え、大規模な制作体制を採っている
www.jetstudio.co.jp

炎の魔法陣エフェクトをつくる

自然現象を応用した炎属性エフェクト

今回の特集で紹介する炎属性エフェクトのながれを[1]~[9]に分けて説明します。[1]~[3]では雲のような煙に包まれた背景の隙間から火で描かれた魔法陣が出現します。[4]~[6]では地面の衝撃波により火が取り除かれ、周囲から粒子やエネルギーのようなものを中心で吸収する画が続きます。そして[7]~[9]では溜まったエネルギーを前方に放出し、最後にエネルギー弾の余韻となる火や崩壊した魔法陣の粒子が漂っています。この一連のエフェクトでは「自然現象を応用した創作エフェクト」というコンセプトの下に、過去の「JET STUDIO Effect Lab.」で掲載したテーマを応用して軸となるエフェクトを制作しています。


応用した過去の連載テーマ

炎属性エフェクトでは過去に掲載した3つの自然現象を応用しています。魔法陣発生エフェクトには第12回掲載「火文字」から燃料を伝って燃え広がる現象の「火炎伝播」。エネルギー弾エフェクトでは第5回掲載「戦車砲」から砲弾と衝撃波のビジュアルやそれに伴う周囲の影響を応用。エネルギー弾エフェクト発射後の余韻では、第4回掲載「小屋の破壊」で紹介した空気の押し出しによる気流の発生「スリップストリーム」を参考に、各要素の中心となるエフェクトを制作しました。「過去の連載を読んだことないよ!」という読者の方もたくさんいらっしゃると思いますので、次項では各自然現象の解説と制作手順を中心に紹介していきます。

魔法陣発生エフェクト


第12回「火文字」(CGWORLD vol.203 2015年7月号掲載)

エネルギー弾エフェクト


第5回「戦車砲」(CGWORLD vol.196 2014年12月号掲載)

エフェクト後の余韻


第4回「小屋の破壊」(CGWORLD vol.195 2014年11月号掲載)

次ページ:
火炎伝播を応用した魔法陣エフェクト

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火炎伝播を応用した魔法陣エフェクト

第12回のテーマ「火文字」からの応用と表現

前頁のエフェクトのながれ[1]~[3]内で、図形に火が伝って魔法陣が発生するエフェクトをピックアップしています。こちらは当連載12回のテーマ「火文字」で使用した自然現象である「火炎伝播」を応用して制作したものです[1] 。この現象をかいつまんで説明しますと、火文字のように気化した燃焼ガスが発生した状態にある物体の一部に点火すると、その周囲が引火点の温度に達するため連続的に火が伝わっていく(伝播)というものです。火文字ではこの現象を火や煙をシミュレーションできるプラグインFumeFXを用いて制作しました。さらに同プラグイン内の機能[Intensity]により白黒情報で燃焼部位をコントロールすることで[2]、火炎伝播のように火が伝わっていく方法を再現しています[3]

1.火炎伝播(かえんでんぱ)


2.Intensityの効果


3.Intensity適用後のシミュレーション


魔法陣のデザインから火を発生させるまで

さて、火炎伝播について理解できたと思いますので次に魔法陣エフェクトの制作について説明します。まず必要となる魔法陣のデザインですが、今回創作エフェクトということで筆者近影でもあるウサギのイラストを中央に据えた非常にチャレンジングなデザインにしてみました[1]。もちろん社内で物議を醸したことは否めません。が、そんな雰囲気に脇汗をかきつつ怯むことなくデザインを完了させたら、魔法陣出現時に各図形にアニメーションを付けたいので要素ごとに分割して出力しておきます。分割した図形をAfter Effects上で組み合わせ魔法陣の発生アニメーションを付け、前述した FumeFXの機能[Intensity]を使用し発生に合わせて火をシミュレーションします[2][3] 。メインとなる魔法陣エフェクトと周囲の煙、火の粉などを合わせ魔法陣のアニメーションに合わせて火が発生てコンポジットした画が[4]です。

1.Illustratorによる魔法陣の作成


各図形の拡大縮小をくり返すことを想定し、解像度に依存しないようベジェ曲線を用いて魔法陣を作成しました。魔法陣のデザインは火を加えた際の見やすさを重視するため極力シンプルにしています。今回創作エフェクトということで中央に持ちキャラを据えてみました。魔法陣が完成したらAfter Effectsで発生アニメーションを付けるため、図形を分割して出力していきます

2.シミュレーション図


3.魔法陣エフェクトの推移


4


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戦車砲を応用したエネルギー弾エフェクト

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戦車砲を応用したエネルギー弾エフェクト

要素を抽出し創作用にアレンジ

大きな要素となるエフェクト「衝撃波とエネルギー弾」を第5回のテーマで紹介した「戦車砲」から応用します。戦車砲は時速約6,480kmという途方もないスピードで移動するため、周囲への影響は計り知れません。特に発射時は急激な圧力の変化に伴う衝撃波により、その威力を表現するには余りあるスケールとビジュアルを確認することができます。この迫力を創作エフェクトに応用できないかと考え、まずは必要な要素を戦車砲の衝撃波と砲弾のながれから抽出してみたのが[1]となります。この情報を基に要素別で制作したエフェクト素材が[2]。主にこれらの素材を組み合わせて衝撃波とエネルギー弾のエフェクトを作り上げていきます。ちなみに素材は全て3ds Max上で制作[3]。これはアニメーションや大きさのバランス調整を行いやすくするためです。最終的な戦車砲エフェクトの画が[4]です。

1.戦車砲の衝撃波と砲弾のながれ



2.戦車砲をアレンジしたエフェクト要素


  • 砲弾とその衝撃波


  • 砲身からの高圧ガス


  • 円状の衝撃波①


  • 円状の衝撃波②


全ての要素を組み合わせた画

3


4


スリップストリームを応用してビームの余韻をつくる

衝撃波とエネルギー弾が完成しましたので、この2つのエフェクトをさらに強調するためのエフェクトを追加していきたいと思います。現実では質量の大きな物体が空間を急速に動くと周囲の空気のながれに大きな変化をもたらします。この現象をスリップストリームと言うのですが、わかりやすい例を示したのが第4回「小屋の破壊」で説明した図[1]です。もちろん戦車砲でも同様の現象が起きており[2] 、創作エフェクトにもスリップストリームを意識したエフェクトを付け足すことでより説得力と迫力が生まれることを期待して制作します。素材はFumeFXで制作するのですが、スリップストリームの再現でのポイントは発射後に生じる空気の押し出しの表現です。こちらは球状のオブジェクトを衝突用に指定し、後方から煙を追い立てる気流のながれを表現します[3]。完成図は[4]となります。

1.クルマ移動時のスリップストリーム


2.戦車砲のスリップストリーム


3.スリップストリームの再現


  • FumeFXによるエフェクト制作


  • 後方からの気流の押し出しを球体の衝突オブジェクトで再現


シミュレーション結果

4


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雷の魔法陣エフェクトをつくる

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雷の魔法陣エフェクトをつくる

自然現象「雷」を応用した雷属性エフェクト

炎属性のポイントとなるエフェクト制作に続き、全体のながれはそのままに属性だけを変更して新 たなエフェクトを制作しました。下図を見てわかるように自然現象「雷」を応用したエフェクトとなります。[1]~[4]では雷による魔法陣の出現。[5]でエネルギーを溜め、[6]~[9]でエネルギー弾の発射から消失までを表現しています。炎属性とベースは変わりませんが、色合いやポイントとなるエフェクトを変えるだけで大きく印象が変化したことがわかるかと思います。雷を連載で取り上げるのは今回が初となりますので、次項では雷のしくみから考え、最終項でポイントとなる雷エフェクトの制作を紹介していきたいと思います。


雷のしくみからエフェクト制作へ

雷エフェクトを制作するにあたって、実際の雷の発生メカニズムを調べてみました。通常、雷は積乱雲が成長した「雷雲」内で発生します。この雷雲の内部では大小様々な氷の粒が上昇気流によって高速に飛び交い、粒同士が衝突や摩擦をくり返すことでプラスとマイナスに帯電した粒に分かれ、雲内部に磁場が発生します。身近な例では静電気の発生がこれにあたります。学生時代、下敷きを擦って髪を逆立てるような遊びをした読者もいるのではないでしょうか。さて、雲内部でこの状態が続くと際限なく電気が溜まっていくので、空気中ほど抵抗力の高くない雲の中では放電が始まります。この放電状態があるとき地上の異なる性質をもつ極性と結びつき、空気中に一気に放電が行われることを「落雷」と言います。このしくみを踏まえてエフェクトを制作していきたいと思います。

雷のしくみ


雲放電と落雷の特徴による表現手法のちがいと制作

雷属性エフェクトでは、主に2つのポイントで実際の雷の現象を応用したエフェクトを制作しています。[1]取り巻く雲の中で発生している雷は「雲放電」。魔法陣発生時に起きる雷は「落雷」を参考にしています。[2]雲放電エフェクトでは雲の内部や付近での放電を表現するために手描きの雷アニメーションを数種類用意しました。雲放電特有の雷の推移や激しい点滅等のアニメーションをAfter Effects上でコントロールし、連番を貼り付けた平面を雲内部に丁寧にひとつずつ仕込んでいます。[3]では魔法陣を描くための雷を制作しています。上空から伸びる雷とは別に、ストリーマと呼ばれる地上で発生するお迎え放電を応用したエフェクト素材を配置します。

1.雲放電と落雷をベースに制作したエフェクト


完成動画


  • 雲放電をベースにしたエフェクト


  • 落雷をベースにしたエフェクト

2.雲放電の制作


手描きの雷パターン
シルエットの異なる雷を数種類用意。各素材で2f~6fの動画を描いた



After Effectsでの編集
描いた雷の連番素材を基に不透明度やチョークを使い、点滅アニメーションや消え際の振る舞いをコントロール。下図は編集した雷素材を出力し、3ds Maxのアニメーションテクスチャとして用意したもの


雷素材の配置
周りを取り囲む雲エフェクトの場所に合わせて雷素材を配置した図。出現するタイミングは全てOpacityアニメーションでコントロールし、画に偏りがないよう気をつけている

3.お迎え放電(ストリーマ)の雷素材の配置


お迎え放電と先駆放電
落雷は上空から地上に落ちているものと思われがちだが、実際はお迎え放電(ストリーマ)と言われる地上からの雷も同時に発生している。雲部から発生する先駆放電(ステップリーダ)とが上空約60m~200mの場所で互いに結びつき、大きな雷が発生する


  • ストリーマ素材の配置


  • 落雷エフェクトの要素を全て組み合わせた図

あとがき

普段の連載では実写の模写をコンセプトに制作しているため、創作エフェクト1本で制作&記事を書くことは新鮮であり大変でもあり、筆者にとっても良い勉強になりました。あとがきではページの都合上、本記事内で説明できなかったエフェクトを紹介してみたいと思います。1つめは「魔法陣と言えば周囲に漂う雲的な何かがあると格好良いよね」という思いつきで作り始めた周囲の雲。ビジュアルは気に入っているのですが、特に実写の某を応用したエフェクトではないので記事では触れず。2つめは雷属性のエネルギー弾。落雷エフェクトの紹介と内容が被りそうだったのでこちらも不採用に。見せたいものも見せられたということでこれにておしまい。

周りを取り囲む雲


  • 炎属性


  • 雷属性



3種類の異なる煙で構成

エネルギー弾(雷属性)完成図


主な素材の内訳



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.214(2016年6月号)
    第1特集「エフェクト探究」
    第2特集 短編映画『ムーム』-Prelude-

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:152
    発売日:2016年5月10日
    ASIN:B01D531AA2