ゲーム、アニメ、CG、映像の分野で活躍するクリエイターを目指す高校生に向けたイベント、「CGWORLD Entry Live 2016 in 札幌」が、札幌エルプラザで8月1日(月)に開催された。業界に就職したいけれど、どんな仕事があるのか。また、何を勉強すればいいのか。彼らの疑問に答えるべく、現場で活躍するクリエイターたちによるふたつのトークセッションのほか、最新ハードやソフトのデモや学校紹介などの体感型イベントコーナーが用意された。未来のクリエイターたちの熱い眼差しが注がれた本イベントの様子をレポートする。
TEXT & PHOTO_佐藤理子(Playce)
<1>札幌のゲーム制作会社の若手クリエイターが語る
「ゲームのオシゴト」
トークセッション第1部は、札幌を拠点とするゲーム制作会社の若手クリエイターたちによるもの。入社3~4年目の彼らが、仕事を通して何を感じ、視点や考え方がどう変わってきたのか、リアルなエピソードとともに伝えていく。
登壇したのは、以下の3社9名。
●グルーブボックスジャパン 常務取締役 田村禎広氏、3D CGデザイナー 玉澤健悟氏、プランナー 久保田知将氏
●ゲームドゥ 代表取締役社長 中村 心氏、プログラマー 千葉於利衣氏、2D CGデザイナー 田村百音氏
●ハ・ン・ド 取締役 三上 哲氏、2D CGデザイナー 高堰志穂氏、2D/3D CGデザイナー 上田研斗氏
3名のトップと6名の若手クリエイターがズラリと並び、トップからの質問に若手が答えるという形式でセッションは展開された。
▲3社の若手クリエイターたち。左より、玉澤健悟氏、久保田知将氏(以上、グルーブボックスジャパン)、千葉於利衣氏、田村百音氏(以上、ゲームドゥ)、高堰志穂氏、上田研斗氏(以上、ハ・ン・ド)
ゲーム業界を目指したきっかけは6名それぞれだが、共通しているのは学生時代からゲームが大好きだったということ。そして、クリエイターになるにはゲームや勉強はもとより、ジャンルを問わずさまざまな知識を蓄えておくことが何よりも大切だという。全員が興味の幅を広げることの重要性を痛感している様子だ。
入社した会社の印象について各人にたずねたところ、以下のような回答が。各社の自由で個性的な社風が明かされる結果となった。
「グルーブボックスジャパンに入社する前から残業が多い会社だと覚悟していたけれど......。予想通り時間に追われて大変な時期もありますが、大きなプロジェクトが終わった後に、会社から1カ月ほど休暇をもらえたことも。忙しいけれど、きちんと休みはあります」(久保田氏)
「会社説明会でゲームドゥに行ったとき、社内に犬がいるのを発見して、『癒しがある! 楽しそう!』と思いました。取締役のペットなんですが、癒し担当として欠かせないスタッフです」(田村氏)
「黙々と作業するイメージがあったのですが、ハ・ン・ドは意外にコミュニケーション重視の社風だったので驚きました。あとは、仕事中はすごく集中しているけれど、休憩時間にはしっかりとふざける! その落差が面白いです」(高堰氏)
また、「ゲーム業界は男性しかいないようなイメージをもっていましたが、ゲームドゥに入社してみたら、女性の比率が多かったので嬉しかったです。働き始めてから、他社にも女性スタッフがいることも分かりました」(千葉氏)といったように、女性の活躍が期待されているのも、近年のクリエイター業界の特徴。女性向けタイトルの需要が拡大する中、この傾向はますます強くなるだろう。
▲北海道を代表するゲーム制作会社である、グルーブボックスジャパン、ゲームドゥ、ハ・ン・ドの3社。道内、特に札幌市内には、ほかにもゲーム制作会社が多数存在する。あのお馴染みのゲームも、実は札幌で開発されているかもしれない!?
さらに、「この業界で働いていちばん嬉しかったことは?」という質問を投げかけたところ、「作品完成後に味わう達成感」だと、登壇者たちは口を揃える。
「グルーブボックスジャパンに入社して初めて担当したゲームは、ニンテンドー3DS『ほっぺちゃん』。この作品のスタッフロールに自分の名前を見つけたときには、『このゲームを作ったんだ!』という実感が込み上げてきました」(玉澤氏)
「関わったゲームが世に出たときは感動ひとしおです。店の棚に商品が置いてあるのを見かけたり、ネットで検索して自分が担当したシーンのスクリーンショットを見つけたりすると、そのたびにピリッと気持ちが引き締まります」(上田氏)
現場でさまざまな経験を積み、成長を続ける若きクリエイターたち。彼らの志は、イベント参加者の心にもしっかりと届いたことだろう。
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<2>CGアニメ制作会社によるトークセッション
「道産子カモン!3DCGでエンタメを変えた勇者たち」
<2>CGアニメ制作会社によるトークセッション
「道産子カモン!3DCGでエンタメを変えた勇者たち」
トークセッション第2部では、日本を代表するプロダクションのトップたちが登壇した。テーマは、「現場で働いている人と環境」。登壇者は以下の5人だ。
●神風動画 代表取締役 水崎淳平氏(モデレーター)
●ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役 塩田周三氏
●サンジゲン 代表取締役 松浦裕暁氏
●グラフィニカ 取締役 吉岡宏起氏
●サイバーコネクトツー 代表取締役 松山 洋氏
▲壇上左から、塩田周三氏(ポリゴン・ピクチュアズ)、松浦裕暁氏(サンジゲン)、吉岡宏起氏(グラフィニカ)、松山 洋氏(サイバーコネクトツー)
セッションは、「会場の皆さんに、まず、働くイメージを持ってもらいたい」という松浦氏の発案により、各社の「あるスタッフの1日」を軸に展開された。
ポリゴン・ピクチュアズに所属するラインプロデューサーの1日を紹介した塩田氏は、「プロデューサーにいちばん大切なのは、お金に責任をもつこと。限られた予算と時間の中で、いかに良質な作品を作るか。このプロセスをスタッフ全員と共有しなければいけない」と力説。また、ラインプロデューサーは、プロジェクトのメンバーと、タスクや進捗を毎日確認することが仕事で、コミュニケーション重視の業務が多いと解説した。
続いて、吉岡氏からは若手女性作画監督 の1日が紹介された。作画監督とは、各担当から上がってきた原画の統一を図るために原画を修正していく仕事で、技術と経験が必要とされる職種。彼女は、「他社で原画のキャリアを積んでから転職し、グラフィニカ入社後にすぐに力量を認められて作画監督に抜擢された」とのことだが、「26歳で作画監督とは、早い!」と他の登壇者から驚きの声が上がった。
入社1年目の若手CGアニメーターの1日の紹介したのは、松浦氏。サンジゲンでは新卒採用の場合、最初は必ずオペレーターに就くが、早ければ2~3カ月でアニメーターに昇格できるという。「ただし、試験を突破することが条件です。仕事が滞って納期に間に合わないなど、トラブルがあったら困るので」との弁に、一同がうなずく場面も。
▲モデレーターの水崎氏(神風動画)は、同社の若手監督の1日を紹介。併せて、事前に申請すれば、早出・早帰りなど、個人の予定によって勤務時間が調整できる同社の制度も語られた
「神風動画では、若いうちに監督に昇進できる仕組みを考えている」と語る水崎氏は、入社2年目の監督をクローズアップした。「若い女性がターゲットのゲームを制作するときには、ユーザーに近い感覚のスタッフが適任」とのこと。また、監督はチェック業務が多いが、「例えば、時短勤務のスタッフから上がったデザインを優先的にチェックするなど、細かい気遣いができるのは女性」というのも、彼女が監督に抜擢された理由だという。
ここで各社の労働環境について触れておく。「CGアニメ業界は、厳しい業界なのでは......?」と、志望に際して不安に思っている学生もいるかもしれない。しかし、セッションを通して、どのスタッフも他の業界と変わらない時間帯に出社・帰宅し、休憩時間もしっかり取れているとコメントされていた。これについて水崎氏は、「業務過多を改善する動きが、各企業で活発になっています。規則正しい時間帯で働くことが、作品のクオリティ向上にもつながりますから」と強調した。
では、スタッフを守るために、企業のトップはどのような仕事をしているのだろうか。最後に、松山氏がサイバーコネクトツーのトップとしての仕事を語った。彼の1日は、出社後、福岡本社と東京スタジオとのテレビ会議から始まり、プロジェクトリーダー会議、宣伝広報室のミーティング、さらには外部との会議も多数。その隙間を縫って、スタッフが持ってきた各プロジェクトの進捗をチェックする。
「現在、12のプロジェクトを見ているので、会議の数も多いし、チェックの時間も相当かかります」と語る松山氏の帰宅時間は深夜に及ぶことも多いという。「"この時代にしっかりと名を刻んでやる!"くらいの覚悟をもって会社を経営しています。いちばん大切なのは仕事、そう決めて生きているんです」と説く松山氏の真剣な眼差しが印象的だった。
▲日本のCG業界を牽引する5社のトップたち。業界関係者はもとより、業界を目指す学生からも絶大な支持を集めている。「私に憧れて入社してくる人間もいるので、ランチなどの時間を使って、できるだけ多くの社員と話す機会をつくっています」(松山氏)
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<3>トークセッションのほかにも、体験型イベントコーナーが充実
<3>トークセッションのほかにも、体験型イベントコーナーが充実
会場では、ふたつのトークセッションが行われたセミナー会場に加え、最新ハードやソフトの体験コーナーや、学校紹介コーナーも併設された。
企業による展示コーナーでは、、サードウェーブデジノス、ディストーム、ボーンデジタルの3社がブースを出展した。
サードウェーブデジノスは、コミック・アニメ・CG・ゲームなどの制作に欠かせないクリエイター向けPC「raytrek」を紹介。VRゲームを体験し、エンターテインメント業界の可能性を感じ取った。
ディストームのブースでは、TV番組や映画など多くの現場で使用されて、数々の大作を生み出し続けている3DCGソフト「LightWave 3D」の最新バージョンのデモが行われた。
ボーンデジタルは、デザイナー必須ツールであるPhotoshopやIllustratorなど、Adobe Creative Cloud製品の最新バージョンのデモを行なった。
学校相談コーナーでは、エンターテインメント業界に就職するために必要なカリキュラムを揃えた、専門学校札幌マンガ・アニメ学院、北海道芸術デザイン専門学校、北海道情報専門学校、吉田学園情報ビジネス専門学校の4つの専門学校が出展した。
●専門学校札幌マンガ・アニメ学院
専門学校札幌マンガ・アニメ学院は、北海道で初となるアニメーター、マンガ家、声優を目指す専門学校として誕生。現役で活躍する講師陣に加え、各業界で活躍するプロフェッショナルも特別講師として来校。エンタメ業界の第一線で活躍している卒業生を数多く輩出している。
●北海道芸術デザイン専門学校
北海道芸術デザイン専門学校は、創立50年の伝統を持ち、9,000名以上の卒業生の育成実績のあるアート、デザイン、建築の職業実践専門課程認定校。仕事に直結した専門知識・技術の習得、社会人としての基礎力を身につけ、希望者全員の就職を目標としている。
●北海道情報専門学校
北海道情報専門学校は、1万6,000人以上の卒業生を輩出したIT系の伝統校。ゲーム開発からシステム構築まで、さまざまな分野で活躍できるIT技術者の育成を目指す。実践的なカリキュラムが組まれ、資格取得者実績は道内1位を誇っている。
●吉田学園情報ビジネス専門学校
吉田学園情報ビジネス専門学校は、各業界を代表する企業からのヒアリングを基に、本当に必要とされる実践スキルを教育課程に反映させる「超実践教育」を柱に運営。近年は、ほぼ100%の就職率の実績があり、特にゲーム、CG、IT業界への就職には定評がある。
セッションではメモを取りながら夢中で聞き入る高校生たちが多く見受けられた。ブースで積極的に最新機材に見入る姿も合わせ、来場者の映像業界への憧れと関心の高さをうかがい知ることができた。「これから何をすべきか」「どんな未来が待っているのか」、この日来場した学生には、さまざまな疑問や不安を解決するための大きな足掛かりになったのではないだろうか。