本誌でもお馴染み、業界屈指のメカモデラー・帆足タケヒコ氏。今回は特別に帆足氏が自ら、実際の映画に登場したメカの解説をしてくれることになった。フルCG映画『GANTZ:O』の「ガンツロボ」を例に氏のテクニックをみていこう。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 223(2017年3月号)からの転載となります。
※vol. 223では「ガンツバイク」のモデリングも掲載しています。
※映画『GANTZ:O』についてはvol. 219(2016年11月号)の第1特集にて、作品全体のメイキングを掲載しています。

TEXT_帆足タケヒコ(studio Picapixels
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

映画『GANTZ:O』
原作:奥 浩哉/総監督:さとうけいいち/監督:川村 泰/脚本:黒岩 勉/音楽:池 頼広/制作:デジタル・フロンティア/配給:東宝/製作:「GANTZ:O」製作委員会
gantzo.jp
©奥浩哉/集英社・「GANTZ:O」製作委員会

『GANTZ』の世界観を再現し演出面でも映えるモデリングを目指して

これまでに実写映画化やアニメ化、ゲーム化もされている人気漫画『GANTZ』(集英社ヤングジャンプコミックス刊)。2016年、満を持してフルCG作品として新たに誕生したのが映画『GANTZ:O』だ。今回はその世界観を壊さぬように、今風にメカを生まれ変わらせるのが大きなミッションだった。

「ガンツロボ」は「原作に忠実に作成」というオーダーがあったため、こちらは漫画の中にある絵を参考にした。しかし、アップで形状が把握できるのは足の部分のみだったため、まずはここから作成に入り、全体のテイストを整えるという作業スタイルを採った。

ロボに限らず、『GANTZ』の世界観に言えるのは、基本色は黒でマットよりの質感。そして、情報量の多いデザインというのがひとつの共通項だと思われる。また、共通のテイストを醸し出す部品が多用されている印象が強い。このあたりを上手く制作の効率化に盛り込めれば、手早く作業ができるはずだ。特に共通部品のくり返しなどはその代表格と言えるだろう。今回はこの2つの3Dモデルについて、制作の思考や手順をモデル画像を交えながら解説していく。

使用モデリングツール:Maya 2014

  • 帆足タケヒコ(studio Picapixels)
    スーツアクター、ゲームプロデューサー、海外CGスタジオを経て2013年日本最初のモデリング専門会社studioPicapixels設立。コンセプトデザインからモデリング、質感までをトータルで行う。数々の日本を代表する映画やCM、PVに参加。2017年春には台湾に法人AURASを友人と共同設立し、世界に向けてゲームアプリの開発にも乗り出した。
    www.studiopicapixels.com
    お仕事のご相談はこちらへ  info@studiopicapixels.com

漫画のコマから読み解くデザインとラフモデリング

モデリングを始める前に原作の漫画をよく読んで、演出で何が大事かを読み解いていく。演出から見るに、「漫画のこのコマを大事にするであろう」という発想から、一番印象深い足が現れるシーンをメインにしてモデリングしていくことにした。

今回、残念ながら特別なモデリング機能やコツは使っていない。筆者は通常、Mayaに入っている機能以外はほとんど使わない。こう書くと面白くないかもしれないが、事実なので仕方がない。まずはシンプルな形をつくり、シルエットを整えディテールを加える。そして、最後に全体のシルエットを整える。これが一連のながれであり、全てはこのくり返しである。

このガンツロボに関して制作のコツをしいて上げれば、車の部品のような形状がデザインにちりばめられていることだ。これをデザインのモチーフのキーアイテムとする。目立つのは自動車のバンパーやライト、エンジン、シリンダー、ラジエーターのようなデザイン。これらをつくり、あちこちに配置する。後はとにかくゴチャゴチャさせていく。しかしデータは軽く、稼動の箇所もわかるようにつくり込むことが大切だ。

01 ラフモデル


まずは漫画の絵を参考にしつつラフモデルをつくる。ほぼプリミティブとメイクポリゴンでチクチクと制作した面を押し出してつくったものだ。気をつけるのは最初からある程度色を付け、雰囲気をつくること。夜のシーンであるためシルエットを大事につくり込む

02 頭部


頭部は首にあたる部分にキャラクターが乗る設定であるため仮配置。芝居ができる広さをつくる。これも演出において必要なデザインへのアプローチである

03 脚部と足の爪


脚部のシルエットについてのライン指示。漫画のコマと比較して「もう少しこうではないか?」と試行錯誤しつつ、全体の部品を配置していく


足の爪に関しての調整。やはり一番映る可能性が高いことからラフの段階で細かく整える。こうして全体を整えつつ、ラフモデルの最終シルエットのOKをもらう

04 共通部品


今回のガンツロボのためにつくった共通項の部品たち。クルマのバンパー風、ボンネットの中にありそうなものや、エンジンのシリンダーなど。これをガンツロボに配置して、つくり込んでいく

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ディテールアップ

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ディテールアップ

ラフモデル時に作成した共通パーツを上手く使いながら全体をつくる。共通パーツは上手くラフ上に配置し、シルエットを壊さないようにする。このとき気をつけるのはリピート感がなるべく出ないようにすること。スケールを変えたり、多少の湾曲を入れてあげると良い。デザイン的に問題がない場合は構わないが、そうでない場合はやはり単純に並べただけでは"サボった感"が出てしまう。例え使いまわしであっても、ただ並べただけに見えないようにすること。加えて、それだけでは補えない部品や関節のフレームを新規に作り起こし、それぞれを繋ぐなど、きちんと動きそうなデザインを心がける。また、そのフレームから出る可動用のシリンダーなど、筋肉に値するパーツも人体アナトミーを参考に、デザインに取り入れている。

そのほか、ゴチャゴチャさせる要素としてあちこちからワイヤーが垂れ下がっている。これらもある程度なら動きの邪魔にならないようにデザインした。また、コードのたわみ方もその硬さなどを意識して重力の存在を感じられるようにつくり込むなど、各所に気を遣いながらつくっていく。とにかく巨大なものというのを作業中に常に忘れないようにした。

01 脚部パーツの作成



  • つま先のディテールアップ。漫画のコマで斜め後ろからの画像を見つつ、ディテールをつくり込む。独立した2本のつま先は可動箇所も意識しつつクリアランスを確保



  • かかと部分のディテール。アングル的にアップになる描写があるため、ほかよりつくり込んでいる。足ということからショック吸収用の部品らしいものをちりばめ、無骨さも加味して工業製品らしさを出す。また、ところどころに金色を配置して情報量を増やした



  • 足、脛にかけてのディテールを横から。ガスタンクのような球状パーツをキーとして、そこから派生しているように部品をデザインしている。また、コード類は歩行時に揺れる演出のため、揺れがよく見えるような場所に繋いでいる



  • 太もものパーツを横から。共通部品はこのように配置。突き出すようにつくることで、シルエットに複雑さをもたせている

02 腕パーツの作成



  • 手を作成。指はエンジンシリンダーパーツを改造して指状にしている。手のひらにはアイアンマンのようなディテールが確認できたので再現。また、手のベースはエンジンの冷却風のパーツから起こしている



  • 二の腕から上腕にかけて横から見るとこのような感じに。肘部分も同様にシリンダーを仕込んでいる。そのほか、エンジン部品やフレーム、コードなどで複雑に見えるようにつくり込む


上腕から肩にかけて。特に肩はボリュームがあるため大きめにつくってある。ここもひと目で複雑に見えるように部品を並べてある。意味がなさそうに見えるものも、何か意味をもたせてデザインすることが重要

03 胴体パーツの作成



  • 腰からお腹にかけての正面はこのようにデザインした。一番目立つバンパーのようなパーツは、漫画を見ると2つ上下に並んでいるのが確認できたのでそのように。また、スケールを調整して横部分にも縦むきに配置した



  • 胴体を背中から。背中には背骨のようなデザインを入れ、少し有機的な印象を出している。また、正面にも配置したバンパーのようなパーツを後ろにも2つ並べている。背中部分は大型ラジエーターのようなヒダヒダのデザインにした


胸部分。バンパーはこのように配置。また、その間はヒダのようにして熱を逃がす。そのほか、肩の部分は大型ギアボックスのようにして、力強さを出している

04 頭部パーツの作成



  • 頭部を正面より。ここは漫画で形状がある程度読みとれたので、それに準じている。左右非対称で少しブリッジのようなデザイン。そのほか、センサー類が頭のあちこちから生えている



  • 頭部を斜め上から。頭頂部はあまり映ることはなさそうだが、念のためつくり込んだ。巨大なCPUを冷却する水冷パイプやエアダクト。そんなイメージである。これでモデリングの作業は全て終了

05 テクスチャの作成


質感は種類として8種類ほど。黒の部分は素材に変化をもたせてある。また、テクスチャの数も少なく、全部で9枚。アップになる箇所のみ描き込んで、他の部分は汎用のテクスチャを上手く使用している


アップ箇所のカラーマップ



  • バンプマップ



  • リフレクションマップ

完成


完成したモデル。情報量が多く巨大感が出ているのがわかる


コード類などのおかげでシルエットも複雑に仕上げることができた

まとめ:デザインを分析することで複雑なモデルを効率的に作成

今回、このオファーをお受けして、今までにない複雑なデザインゆえ作業は困難なものになるだろうと覚悟したが、複雑なものでもきちんとデザインを紐解くとパターンが見えてくる。これを分析、解析した後、最小の工数で作業が進められるように作戦を十分に練ってから挑んだのは良かった。質感的には黒一色に近い存在で、どのようにリッチに見せるかというのも試行錯誤が続いたが、黒の質感を数種類つくり、全体に情報量を増やすことによって何とか着地できたのである。

作業終了時にはまだこのロボがどのように画面で戦ってくれるかわからない状態ではあったが、完成した映画を観て苦労が報われたと心から感じることができた。



  • 全体のレンダリング画像



  • 脚部



INFORMATION

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  • 月刊CGWORLD + digital video vol.223(2017年3月号)
    第1特集:フォトグラメトリー考察
    第2特集:メカCG究極テクニック2017

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2017年2月10日
    ASIN:B01NAL9IKN