2017年4月19日(水)、大阪のハービスOSAKAにて「モーション制作セミナー~四足歩行モーションと重量武器アクション~(大阪会場)」が開催された。講師を務めたのは、Mox-Motionこと株式会社モックス(以下 、Mox)で活躍するアニメーターたち。良質なことはもちろん、汎用性も高い同社のモーション作成法について、作例動画を交えてレポートする。

TEXT & PHOTO_坂本拓馬 / Takuma Sakamoto(Olu Pictures
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
Special thanks to Mox-Motion

<1>犬の歩行モーションを解説

「モーション制作セミナー ~四足歩行モーションと重量武器アクション~(大阪)」で講師を務めたのは、Moxの田邊聡史氏と徐 策氏である。両氏はコンシューマーゲームやモバイルゲームなどで、手付けモーションを中心に手がけるアニメーターだ。

田邊聡史氏(左)と徐 策氏(右)

はじめに講演した田邊氏は、昨年開催された「手付けモーション制作セミナー(大阪)」のアンケートで要望が多かったものの中から「犬の歩行モーション」を取り上げ、モーション制作において必要な知識の解説と制作手順を、実演を交えながら紹介した。

制作手順についてはA.犬の特徴B.全体のながれC.背骨の動きD.足運びE.尻尾の動き、の5つのパートに分けて順に解説が行われた。まずA.犬の特徴の説明では、「歩様」、「指行性」、「重心」の3つを重要な要素としてあげた。「歩様」とは動物の足の動作パターンのことで 、草食動物や肉食動物、そして種ごとに様々で、遅い足運びから速い足運びまで多様な動作パターンがあるという。

最も遅い足運びは「常足(なみあし)」といい、今回のセミナーではこの「常足」のモーションが実演された。次に遅いのが「速足(はやあし)」、続いて「駈歩(かけあし)」、最も速いのが「襲步(しゅうほ)」で獲物を追いかけるときの全速力の歩様だ。

続いての重要な要素「指行性」とは、常に指先だけで直立して歩くこと。犬と人間のちがいについて田邊氏は、犬は本来、捕食動物であり、指行性のメリットとしては「長距離を速く走ることができる」点と、「柔軟性がある」という2つを挙げた

また、最後の重要な要素「重心」については、犬は前足約60%、後足約40%の割合で体重を支えていることに触れた。

セミナーでは、これらの知識を念頭にMayaでのモーション制作が行われたのだが、最初は最も基本的な足運びの制作からはじまった。スタートフレームではまずセットアップポーズから、全ての足をフロントビューから見た際の重心を意識しつつ体の内側に寄せ、続いてサイドビューで前足を犬の胸部あたりにくるように前に移動し、付随するコントローラー群を調整。後ろ足も同様に、サイドビューでちょうど腹部あたりにくるように移動させた。

キーポーズを固定するため、全ての位置と回転にキーを打つ。今回は28フレームで1回ループするため、中間の14フレームに進み、今度は前足と後足を下げたポーズを作成し、関連箇所を調整した。

次に0フレームのキーを28フレームへコピーしループさせる。この後は前足と後足の間のキーを作成していき、おおよその基本動作ができた時点で片側の前足と後足のキーを全て選択してキーをずらし、左右の足が互いちがいになるようにする。ここからは首から先をやや前傾姿勢にし、トップビューで体が弓なりにしなるように調整、それに準じ頭は常に姿勢を保とうするため、フロントビューでなるべく中心にくるように調整する。このポーズを0フレーム、14フレーム、28フレームへコピーし、14フレームの値をグラフエディターから「*=-1」と入力しポーズを反転。そして足のZ値(前に進む値)の変化を確認し「Rig All」にキーを作成し、B.全体のながれは完了となる。

この後、田邊氏の実演は中盤へと進み、C.背骨の動きにおける注意点については「移動と回転の各軸を分解して考える」、「伸縮ポーズを作成してタイミングを調整する」、「S字やひねりなど、ポーズの変化をつくる」、「胸と頭を安定させる」の4点だと語った。D.足運びについては「接地と蹴り足のポーズ変化を意識する」、「前足は内側、後足は若干外側を通る」、「反転コピーで効率を上げられる」ことに注意すること、最後に解説されたE.尻尾の動きでは、「筋肉を意識した動きにする」こととそれぞれの工程の注意点を述べ、完成したムービーを披露し締めくくられた。

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<2>重量武器アクションの制作ポイント

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<2>重量武器アクションの制作ポイント

つづいて徐氏による講演では「重量武器アクションの制作~大剣コンボ攻撃~」が取り上げられた。この重量武器アクションは、ゲームの攻撃モーション制作の中でも比較的難易度が高いものとなり、こちらも「犬の歩行モーション」と同様に、前回のセミナーのアンケートで要望の声が多かったそうだ。講演では「重量武器を扱う特徴」「重量感をつくり出すポイント」「ベースデータよりつくりこみ」の3つが解説された。まずは「重量武器を扱う特徴」については、私たちが日常生活で行なっている動作の中にヒントがあり、「両手持ち」、「全身の力を使う」、「重心の移動を利用する」という3点が重要であると解説。「重量感をつくり出すポイント」については、アクションを起こす主な力を分析し、それを実作業でポーズの変化に反映、タイミング&スペーシングを意識することによって効果的に重量感を表現できるとのこと。

この後は用意されたMayaのベースデータを用いて、「横切り攻撃」から「立切り攻撃」へと連動する一連の攻撃モーションに修正を加え、重量感をだす実演が行われた。

このムービーは、まったく修正を加えていない状態

まずはじめに「横切り」モーションの予備動作(力を溜める動作)について、重量感がでるように修正が入った。主な修正点としては重心を低くし、剣を身体の後ろへ引く、やや右足に重心を寄せるなど。このほかにも、剣をより低く構える、上半身を捻る、顔の向きを相手側にやや向けるといったブラッシュアップが施された。

次に剣が相手に当たる寸前のポーズの修正については、「上半身を前左へ傾ける」、「体重心が支持面内で前上へ移動する」、「剣が円を描くような動きにする」の3点を注意すべきと解説。

剣を振る前は腰から先行して移動するため剣と上半身は後方へ残し、上半身と頭をやや前左へ倒す。剣を振るときは上半身は体勢を保とうとするためやや反対方向(後ろ側)へ倒し、腰から上半身にかけて捻りを入れるといった修正を追加。

そして剣を振り切った後は、体が剣の重量に引っ張られるため剣を止めようと必死に踏ん張り反発した動きになる。

最後は全体を見て荒い部分を各ポーズごとに調整し、タイミングとカーブも修正。タイミングの修正時には「剣のスペーシング」を考えつつ、前半の剣を振る前の時間は長く、剣を振る時間は短く、後半、剣を止める時間は長く調整された(加速と減速)。

続いての「縦切り」モーションでは、剣を振り上げる予備動作から振り下ろす動作まで順にポーズの修正が行われた。

特に注意が払われたのが、予備動作では体の重心を下げ、シルエットをできるだけ小さく見せるという点。また、剣をもち上げる際は腰を捻り剣をお腹に乗せるようにもち上げることなどを意識し、剣をもち上げた後は重心を高く、右足を上げ、背中を反らせる。最も重心が高いとき剣は重いので後ろへ残し、腰と腰から上を捻り、顔はやや左へ倒すといった修正が施された。

最後の「胴体変化」の解説では、「高位で上半身伸展(反る)」、「低位で上半身屈曲」といった点が重要だと語った。

ここまでの一連の動きを確認し、最終調整が行われた。その際、モーションにアレンジが加えられたのだが、徐氏はアレンジについて「よりわかりやすいシルエットにすることやアクションポーズはカッコよくすることが何より重要」だと語った。重量武器アクションのポイントについては「作用する力を分析する」、「ポーズにメリハリをつける」、「タイミングにずれとメリハリをつける」、「スペーシングに変化をさせる」、この4点が最重要であると締めくくった。

剣の先にボールをコンストレインし、ボールのモーション軌跡を見ながらアークを最終調整する様子

最終調整を施した完成ムービー

まとめ

今回は昨年の講演よりも、制作現場の実例に近い形式で行われた。これは近年、3DCGアニメーションの質と需要が業界内で高まりつつあることが関係しているのではないだろうか。また、講演を通じて改めて感じたのは、リファレンスの重要性ももちろんだが、日常生活での観察力と重力の基本知識が重要だという点だ。

フル3DCGのシリーズアニメ作品も年々増加し、より高い能力を持ったアニメーターが求められている昨今。このレポートがスキルアップの一助になれば幸いである。