7月3日に設立され、同12日にFukuoka Grouth Nextにて記者発表会が実施された「株式会社プロジェクトスタジオQ」。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズなどで知られるカラーが、ドワンゴ、麻生塾とともに福岡市で設立した新会社だ。カラー、ドワンゴ、麻生塾の3社は、先んじて昨年12月22日にアニメ・CG業界における若手育成プロジェクト「ANIME CG NINE Project」の発足を発表していた。
本稿では7月29日に麻生塾福岡キャンパス6号館にて開催された「ASOポップカルチャー専門学校(認可申請中)」のオープンキャンパスから、講演会「スタジオカラーのこれからのアニメづくり」の模様をお送りする。
TEXT & PHOTO_真狩祐志 / Yushi Makari
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
<1>松井祐亮氏がアニメCGの制作に至った経緯
「スタジオカラーのこれからのアニメづくり」では、スタジオQの取締役にも就任した株式会社カラー取締役の小林浩康氏と、デジタル部CGI作画監督の松井祐亮氏が登壇した。講演会が行われた29日はちょうど『シン・ゴジラ』の公開から1周年という日でもあった。
写真右からカラーの小林浩康氏、松井祐亮氏
昨年、カラーが創立10周年を迎えたことにちなみ、まずは小林氏が昨年開催された「株式会社カラー10周年記念展」などの紹介を行なった。展覧会で上映していた『よい子のれきしアニメ おおきなカブ(株)』(原作・安野モヨコ)は、ちょうど29日にネットで公開されたばかりで話題を呼んでいる。
「僕らデジタル部は3DCGを担当しているんですけど、この『よい子のれきしアニメ おおきなカブ(株)』(原作・安野モヨコ)』も8割くらいが3DCGで、2D作画とのハイブリッドな作品です」小林氏
続いて松井氏が3DCGの道を志してから現在に至るまでの経緯が語られた。もともと松井氏は美容の専門学校に通い、美容師として働いていたという。「美容学校に2年通って免許を取ったんです。高校生の頃はビデオカメラを持って走り回ってたので、将来的にも映像作品をつくりたいと思っていました。だけど漠然とした不安があって、業界に飛び込む勇気まではなかったんです。それでもやっぱり映像作品をつくってみたくて映画づくりをはじめたんですが、人を集めるのがすごく大変でした。おまけにロケーションも見つけられないし、条件も限られるし、お金もかかるし。当時は『ダイ・ハード』みたいなアクション映画をつくりたくて、花火の火薬をバラして爆発をさせようか......なんてことも考えていましたが、危険なので断念しました。そんな時に、3DCGなら街もつくれるしキャラクターもつくれる、と思ったんです」(松井氏)。
「Shadeを買って形をつくってみたらポーションっぽいなと思ったので(笑)」(松井氏)
「実際に3DCGをつくってみて"こんなに難しいものなんだ!"と痛感し、ちゃんと学校に行って学ばなきゃと思い美容師を辞めて北海道から上京しました。1年制の専門学校だったんですけど、そこでひたすらがんばりました。年齢的に他の学生たちと差がついていたので、本当に命をかけるつもりで勉強しました」(松井氏)。
松井氏は卒業後、まずサンライズに入社する。在校中に仲良くなった先生と飲みに行った際、先生から仕事を紹介されたという。「VFXとか実写合成に興味があったのですが、大友克洋氏の『AKIRA』の大ファンだったため『FREEDOM』に志願しました。サンライズには5年くらいいたんですが、他にも『ボトムズファインダー』や『ヒピラくん』などの制作に携わりました。その後、カラーに入ることになったのは、先にカラーで働いていた友人と電車でバッタリ会って、"カラーに来ない?"と誘われたからです。その当時のカラーでは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』のBlu-rayの仕事をしていたので、『エヴァ』の制作に本格的に携わったのは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』からですね」(松井氏)。
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<2>アニメ業界の大ピンチはアニメCGの大チャンス
<2>アニメ業界の大ピンチはアニメCGの大チャンス
「こういう話を真面目に話す機会もなかなかないので、新鮮ですね」(小林氏)
その後、アニメーション業界での仕事について話題が移行した。「漫画の『アオイホノオ』(島本和彦著。カラーの社長でもある庵野秀明監督もモデルに)でパラパラ漫画を描く授業のシーンがあって、(主人公の)焔くんが"昔は隠れて描いていたパラパラ漫画を今は堂々と描ける!"というようなセリフを言うんですけど、今の自分もまさにその通りで、好きなことを仕事にしているので全くストレスがないですね。趣味が仕事になってるので、これ以上に幸せなことはないと思います。だって1日中アニメのことを考えていられるんですよ? アニメ観て上司の前で感想を言ってもいいんですもん。映画だって仕事目線で観ることができますし、自分もプロなんだなと思える嬉しさや、これで飯が食えるありがたさを実感しています」(松井氏)。
アニメ業界の労働環境について話がおよぶと松井氏が「ブラックとは言いませんけど、スケジュールが詰まってて帰れないなど、覚悟はしておいた方がいいです」と発言したところで、小林氏が「そこでつくってみたんですよ」と、アニメ業界が大ピンチにあるとスライドにより紹介を始めた。
「3年前にも同じスライドをつくったんですけど、相変わらず大ピンチです」(小林氏)
「労働環境については、僕も色々と思うところがあって......。今、アニメ業界は大ピンチなんです。それは最近、NHKの番組(『クローズアップ現代+ 2兆円↑アニメ産業 加速する"ブラック労働"』のこと)で話題になったからというわけではなく、昔に比べると作品が増え続けているという状況がピンチなんです。とくに東京だと、深夜になると沢山のアニメが放送されていて、1クールで100作品以上つくられるような、人が足りない危機的状況です。逆に言えばアニメCGにとっては大チャンスです。そんな中、最近は3DCGを使ったアニメがどんどん活発になってきているのを、ひしひしと感じます」(小林氏)。
「もう1つ、3DCGにとって良いのが、3DCGスタジオが制作拠点を増やしていることです。現在は、東京以外にも様々な場所に3DCGスタジオがあります。また、シビアな話になりますが、低賃金と言われ続けているアニメ業界ですが3DCGをやる人にとっては、それほど悪くないという状況があります。契約形態はスタジオによって様々なのであくまでも一例ですが、初任給は普通の会社と変わらないくらいもらえる会社もあるんですよね。あとはその人のがんばり次第だというところです。よくアニメ業界が低賃金と言われているのは、作画が出来高制での支払いになっていることが多く、3DCGのように固定給のスタジオに入れば待遇も悪くないし、みんな普通に暮らしてます」(小林氏)。
その後、スライドには「わりとすぐに世の中に名前がでる」と映し出された。松井氏はこの点について「映画に自分のクレジットが出てるのを見ると凄く気持ちいいです。それを皆さんにも経験してほしいです」とアピール。小林氏は「いわゆる大作だけでなく、テレビ作品だって就職してすぐに名前が出ますから、両親から"お前、何やってんだ"って聞かれても、"この作品をつくってる"と胸を張って言えますよ」と、その利点を挙げた。
そして「どういう能力が必要ですか?」というスライドが表示されると小林氏は「いろいろと考えてみたんですけど、最終的には運かなと。なのですが、友達をいっぱいつくってコミュニケーションをはかっておけば、様々な会社から仕事をもらうこともできるし、そういう来るべきときに備えて様々な準備をしておくことこそが最も重要ですね」とアドバイスした。
「友達にバッタリ出会ってカラーでの就職を決めたのも運でしたね」(松井氏)
「上司が"こっちの方が得意かもね"と助言してくれることもありますが、自分の得意分野は自分で見つけておくと良いと思います。それに意気込みや責任感も大切です。下手な3DCGを見せたくない、作品として一生残るんだっていう意気込みがないと、もったいないと思います」(松井氏)。
このほか話は『カセットガール』や『グラビティデイズ2』のメイキング、『シン・ゴジラ』や『龍の歯医者』など最近の作品の紹介が行われた。ちなみに現在、カラーでは『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の制作が進められているという。