2017年6月5日(日本時間6日)〜9日(同10日)に開催された、Apple(アップル)の定例イベント「WWDC」(Worldwide Developers Conference)。今回も様々な発表が行われたが、デジタルアーティストにとっては、iMac ProならびにMacBookといったMacシリーズ(PC製品)の新モデルの使い勝手が気になるところだと思う。今回、CINEMA 4DといったプロユースのDCCツールのパフォーマンスを体感できる機会に恵まれたので、お届けしたい。

TEXT & PHOTO_横小路祥仁 / Yoshihito Yokokouji(いちひ / ICHIHI



<1>MacBook 12inch

まずMacBookだが、外観は現行機種とちがいはない。つまり、USB-Cポート1つのみの外部接続は変わらないということだ。いずれは他のデバイス、外部ストレージとの接続はこの規格に収斂されていくとは言われているが、現状では、ユーザーの身の回りにはUSB-C以外の規格もあふれている。
そうでなくとも、充電と同時に何かを接続しようと考えただけで、ポートが一つだけ、というのはいかにも窮屈だ。結局USBハブを別途購入せざるを得ず、この方針は不満の声が多い。

しかし、Appleはそんなことでポリシーを曲げるような会社ではない。MacBookを手にした以上、他に余計なものは持つな、ということである。それだけのものをMacBookに詰め込んだという自負があるのだ。

バッテリー性能は向上し、iTunesプレイバックで12時間使用可能となった。帰宅難民にでもならない限り、バッテリーの心配をする必要はない。プロセッサーもKaby Lakeに更新され高速化が期待される。第7世代の Core m3/i5/i7が選択可能で、動画編集も問題なく処理できる。メモリーは標準で8Gだがオプションで16Gも選択可能だ。
よほど重い作業でない限り、このMacBook1台あればいつでもどこでも、すべての作業を完結させうるのだ。

また、キーボードにはMacBook Proには搭載済みだったバタフライキーボードが採用された。キータッチは柔らかく、ストロークが制限される中で手応えも感じさせるものとなっている。

MacBookは取り回し重視、頻繁に持ち歩き、場所を選ばず作業に当たりたいユーザーを想定したマシンだと言える。拡張性やさらなる性能を求めるならMacBook Pro、さらにiMacが選択肢として用意されている。その使い勝手、利便性は私達ユーザー側のセレクト次第といえるのだ。

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MacBook 13inch

<2>MacBook Pro 13/15inch

MacBook Proは13-inchと15inchが発表された。MacBookに対し、性能を追求した文字通りの「プロ仕様」であり、ハイエンドユーザーの様々な使い方に応えられる機器となっている。WWDCのデモでは5Kモニタを2台、Promise社外付けHDD Pegasus2を接続してパフォーマンスを披露していたという。
15inchモデルはディスクリート(単体チップ)のグラフィックが向上し画像処理が速くなっている。一方で、13inchにはタッチバー非搭載タイプも有り、こちらはエントリーモデルとしてもニーズに応えられる。

MacBookからMacBook Pro、iMacと一連のアップデートを並べてみると、独りよがりなスタイルの押しつけではなく、様々なニーズをカバーする柔軟なラインナップとなっているといえる。

WWDCでは、新MacOS「High Sierra」も発表されたが、グラフィックAPI「Metal for VR」を実装しVR対応のアプリケーションが搭載されることも明らかとなった。
VRとなるとiMacのようなある程度のパワーが必要となりそうだが、外付けGPUデバイスを接続することで、MacBook ProでもVR対応が可能であることが明かされた。

WWDCのデモではAMD社のRadeon RX580を搭載した開発者版のデバイスをThunderbolt3を経由して接続していた。MacBook本体のCPU性能からして、どの程度の水準のVRに対応可能なのか、数カ月後に予定されている、外付けデバイスのコンシューマー版の発売の頃には、さらなる詳細が明らかになるだろう。

MacBook Pro本体と外付けデバイスだけで、場所を問わずVRコンテンツを披露できるとなれば、活躍の場はいくらでも広がっていくことは想像に難くない。このあたりにも、シンプルさを旨とするAppleのスタイルが現れていると言える。

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<3>iMac

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<3>iMac

iMacは21.5inchのフルHDと4K、そして27inchの5Kの3シリーズがラインナップされている。27inchタイプでは本体の背面が開けられ、拡張性が担保されている。

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iMac21.5inchとiMac27inch

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    iMac27inch背面

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    マジックキーボードにテンキー付きが登場



今回のアップデートの目玉は、グラフィックの向上につきると言ってよいだろう。まず、明るさだが、500nit、現行モデルより43%明るくなる。これはMacBook Proと同等の明るさではあるが、倍の大画面で実現しているのだ。
そして、色数だが、現行で数百万色と言われているものが、一気に10億色に増えた。写真のサムネイル表示の段階で鮮やかさが一目瞭然である。色数が少ない場合、微妙な色のちがいは修正されて消えてしまうが、この色数を実現したことで、水、影、煙などの微細なグラデーションも余すところなく描画される。

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      201708_apple_demo

結局のところ、取材側のカメラをはるかに超えた画質であり、この鮮やかさは実機にて実感していただくしかない。騙されたと思ってぜひ見ていただきたい

また、それだけの画質を支えるパフォーマンスも向上している。CPUはKaby Lakeに刷新され、メモリーもDDR4になり、SSDの処理も高速化された。
一部のMac向けストレージオプションFusion Driveのコンフィグレーションは、27inchではデフォルトになり、21.5inchではオプションとして選択可能だ。

21.5inchでもディスクリートグラフィック(画像処理専用の単体のGPU)を導入し、動画編集では50%、3DCG制作では2倍、ゲーム制作では3倍に向上している。27inchは現行で搭載済みだが、アップデートにより動画編集で40%、3DCG制作で40%、ゲーム制作では50%高速化している。

4K動画をリアルタイムで編集処理できるということで、Blackmagicdesign製DaVinci Resolveのビデオクリップのデモムービーを見せていただいた。リアルタイムレンダリングで、追加したエフェクトが即座に反映されていく。
1つずつのピクセルを処理するぼかしは、かなり重い処理になるが、これも瞬時に変わっていく。

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    4Kクリップを4本同時に処理している

また、WWDCではCINEMA 4Dのテクニカルプレビューがあり、iMac上でAMDが開発したGPUでアクセラレートしているPro Renderを用いた3DCG制作のデモを行なったそうだ。クライアントと検討しつつモデルを制作するといったことも可能であり、生産性も向上するだろう。

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    約100万ポリゴンのモデル。通常8時間かかるレンダリングを1時間で処理

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    レーシングゲーム「F1 2016」によるデモ。細かい風雨も滑らかに表現される

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    テールの排気によるゆらぎ

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    カメラレンズの水滴

<4>iMac Pro

今回の取材では実機に触れることはできなかったが、iMac Pro最新モデルが今年12月から発売予定だ。最大18コア(8,10,18コアから選択可)の次世代Intel Xeonプロセッサを搭載し、高負荷のプロの作業が処理でき、冷却機能が最大80%向上した。また、Radeon Pro Vega GPUが搭載され、最大22テラフロップスのグラフィックス処理が可能となっているとのこと。

さらに、Thunderbolt3ポートが4つ用意され、5Kモニタを2台接続することが可能だ。データ転送速度は4Gb/s、さらに10GbのEthernetが組み込まれ、iMac Proを軸として、極めて高性能なワークステーションを構築することができる。高度なグラフィック編集、VRコンテンツ制作、リアルタイムの3Dレンダリングに対応できる、Mac最強のマシンといえるだろう。

今回紹介したMacシリーズ新製品では、Valveが提供する「Steam VR」によるVRコンテンツの視聴にも対応した。そして、ゲームエンジンUnityとUnreal Engine 4は、いずれもMacでVRコンテンツを可能にする開発者向けキットが提供さている。さらにFinal Cut Pro Xでも360度動画の編集が可能になり、Adobe社のPremiere Proと共に360度動画へ対応したことになる。

これは、「VR/ARコンテンツクリエイターのための道具にMacはなる」「MacはVR/ARの開発プラットフォームとして使える」というAppleの宣言とみていいだろう。のみならず、映像クリエイターのスタンダードマシンの地位を獲りにきている、そんな意気込みさえ感じられる。

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