ゲームエンジンで扱うモデルの制作についてはいくつか留意すべき点がある。今回はハイエンドゲーム向けの物理ベースモデリング、リアルタイムレンダリングエンジンへのセットアップほか、3DCGに関わる各種技術コンサルもしているデジタルアーティストの坂本一樹氏に、自身が参加するゲーム開発技術研究コミュニティの事例を基に解説してもらった。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 233(2018年1月号)からの転載となります

TEXT_坂本一樹
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara、山田桃子 / Momoko Yamada
©2017 Kazuki Sakamoto All rights reserved.

1 ゲーム開発技術研究コミュニティ「AsteriskLab」での開発事例

01 はじめに

「AsteriskLab」とは著者の坂本とゲームプログラマーの梅村時空氏、テクスチャアーティストの若槻義人氏などが運営している「Discord」(※)上のゲーム開発技術研究コミュニティです。CG、プログラミング、音楽制作まで多用化するゲーム制作スキルを網羅するため、様々な分野のスキル所持者を招き入れ、持ち回りで月例のセミナーを開催しています。今回、Labの運営メンバーが協力し、汎用型素体とキャラメイクシステムの開発、加えてデモシーンの制作を行いました。今回の記事ではその汎用型素体「SotaiChan」の制作事例を元にキャラメイク並びに、キャラクターの運用手順などを解説していきたいと思います。


※コミュニケーションツール「Discord」
discordapp.com

02 キャラクターメイキングアセット「SotaiChanTransformer」

「SotaiChanTransformer」はUnreal Engine 4(以下、UE4)で体型や顔のキャラメイクを可能にする汎用素体モデルと、キャラメイクをするためのUI、キャラメイク後に結果を反映させるブループリントで構成されたキャラクターメイキングアセットです。キャラメイクシステムは商業ゲームでは定番ですが、一般公開されているアセットが見つからず、実装するためには非常に手間のかかるシステムでした。そこで、アーティストや個人開発者が利用できるようなキャラメイクシステムの雛形を開発しようと考えました。

SotaiChanのモデルはUnityやUE4に相互性のあるボーン構造をしていて応用性があり、ボーンを流用することで、ご自身でオリジナルのキャラクターを運用することができます。当アセットは現在開発調整中ですが、来年度に公開予定です。このシステムを活用してご自身のキャラクターを様々な年齢や顔に変えてみてはいかがでしょうか。

「SotaiChanTranceformer」フルHDデモ動画

03 デモ用のオープンワールド「SotaiChanWorld」

今回のアセット開発に合わせデモ用のオープンワールドを作成しました。背景モデルのほとんどは著者が以前からコツコツ作成していたものですが、開発期間は1ヶ月、組み込みや実装自体は2週間程度と、UE4を利用することで驚異的な速度でコンテンツ制作をこなすことができました。以前、他の環境で開発していたころは小規模開発に行き詰まることも多かったのですが、UE4に移行したことで個人レベルの開発でもストレスなく進められるようになり、今の開発環境を大変気に入っています。

今回はSotaiChanWorldのメイキングと共にリアルタイムに向けたキャラモデリングで特に注意した方が良い点、そして、完成したモデルをUE4の世界でどのように動かすかなど、より実践的な解説をしていきたいと思います。

「SotaiChanWorld」1440px高画質版プレイ動画

2 プリレンダーからリアルタイムへ

01 ゲームエンジンで注意すべき4項目

ハードウェアの飛躍的な進化により画質が向上し、VRやAR、映像業界からの参入などでますます注目の高まるリアルタイムレンダリングの分野ですが、今回は特にUE4を題材とし、プリレンダリングから移行する際に注意すべき点を実際の制作事例と共に紹介していきたいと思います。以下にプリレンダリングからリアルタイムレンダリングに 移行する際につまずきやすい点を4つに分類してみたので、参考にしてください。

1 OpenSubdivが使えない

サブディビジョンサーフェスはもともとPixarにより開発されたポリゴンを細分化して綺麗な曲面として描画する技術で、3ds MaxのターボスムースやMayaの3番表示が該当します。プリレンダリング向けのモデリングとしては最も重宝されている技術のひとつですが、ゲームエンジンでは使用することができません。代わりにTessellationという技術がありますが、多用して良いものでもなく、モデルのつくり方も異なります。

2 メモリリソースの節約

頂点数、テクスチャ、エフェクト、シェーダ、ライティング、アニメーション、ポストエフェクトなど、様々な面でメモリリソースの節約を意識する必要があります。特に混同しがちなのは「メモリ使用量の増加」と「総データ量の増加」はまったく異なる問題だということです。ミップマップやシャドウマップ、LODモデルの作成など、事前に様々な準備することで総データ量は増えますが、メモリ消費量は削減することができます。

3 アニメーション運用の制限

原則としてゲームエンジンで運用できるアニメーションはボーンかモーフに限定されます。AlembicキャッシュやHLSL、パーティクルなどの例外はありますが、基本的にMayaや3ds Maxなど、外部ソフトのモディファイヤやシミュレーション、コンストレイント、物理処理などが持ち込めません。様々な工夫をしてデータを持ち込むか、ゲームエンジン上でモディファイヤを擬似的に再現することがリアルタイムコンテンツ開発の大きな要素のひとつです。

4 ボーン構造の違い

HumanIKやBipedなどの伝統的なボーンはHipsがRootとなっていることがほとんどですが、ゲームエンジンではエンジン側でモデルの移動をコントロールするためUE4のマネキンやUnityのHumanoid同様に、原点にウェイトが割り振られていないRootジョイントが必要です。また、原則として移動値を入力してよいのはRigやHipsなどの腰のボーン、ウェイトの割り振られていないボーンだけです。移動値が入っているとリターゲットが困難になり、モーションを流用しにくくなってしまいます。

CGWORLD227号掲載『IkueRieChan!!』のその後

ここでは関連記事としてCGWORLD227号で取り上げていただいた「イクリエ&ファーストインパクトが開発 HTC Viveを使ったデジタル原型のVR閲覧システム」の、その後のご報告をさせていただきたいと思います。こちらの記事は株式会社イクリエの代表・濱島広平氏の企画で、氏のご厚意により著者はイクリエの看板キャラクターのフィギュアをVRやWebブラウザで閲覧できるデジタルフィギュアとしてリメイクする過程を紹介させていただきました。その取り組みを「Artstation」に投稿したところ、「MarmosetToolbag」の優秀作品として「ShowCase」、そして「MARMOSET VIEWER HIGHLIGHT | EP. 98」に選出していただき「Marmoset」公式サイトのトップページを飾るなど、海外で高い評価をいただくことができました。

今回の企画ではUE4を用いたセミリアル表現を追求しましたが、前回の取り組みはUnityとToolbagを用い、VRアプリ開発やWebGL、メイキングではPBRペイントを中心に取り上げていただいています。バックナンバー227号をお持ちの方は関連記事としてぜひ合わせて読んでいただけるとありがたいです。


「Marmoset」
www.marmoset.co

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3 キャラクターのモデリング

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3 キャラクターのモデリング

01 ゲームモデリングのワークフロー

ゲームモデリングの一番の特徴は、実際に使用する「ローポリゴンモデル」と、実際には使用しないディテール転写用の「ハイポリゴンモデル」の2種類のモデルをつくり、ローポリのUVにハイポリの形状をベイクする手順が一般的であるということです。用途に応じてローポリゴンに頂点法線のみを設定してモデルを運用する場合や、ハイポリモデルを用意せずにディテールのみを手作業で追加する方法もありますが、いずれの場合もポリゴンを過度に節約したモデルに対して厳密な法線設定をするのがゲームモデリングの醍醐味です。以下の図にゲームエンジンに向けたモデリングの一連のながれをまとめました。本記事ではリアルタイムで運用するものを「ローポリ」、運用しない前提のものを「ハイポリ」と呼称しています。


02 ポリゴンモデリングでこそ力を発揮する「ZBrush」

ZBrushはハイポリとローポリの状態を互いに維持したままモデリングができるマルチサブディビジョンメッシュ編集機能があるため、テクスチャベイクに必要なハイポリとローポリが同時に作成できます。また、頂点ペイントでアルベドを塗装したり、モーフ差分形状をレイヤーに登録してMayaのブレンドシェイプに書き出すことができるため、アニメーション制作にも欠かすことができません。

特にZModelerという強力なポリゴンモデリングに特化した機能を使うことでハードサーフェスやサブディビジョンサーフェスモデリング、ローポリモデリングをすることが容易になりました。今回のSotaiChanや背景オブジェクトの数々は全てZModelerでローポリを構築した後、分割を増やしハイポリをつくり込んでいます。特に注意した点は、各要素の断面ごとにエッジループを構築したことです。断面形状をシンプルにすることで、形状の制御がしやすくなります。

SotaiChanの最終総ポリゴン数は約6万ポリゴンに抑えました。著者はリアルタイムで運用するキャラクターはモバイルコンテンツで1,000~1万ポリゴン、PCやコンシューマ向けなら1~15万ポリゴン程度に抑えるように注意しています。

ハイポリからローポリを作成



表情差分(モーフ)を作成


03 和製モデリング特化ソフト「xismo」①~面張りモデリング~

ZBrushの唯一苦手なことが、何もないところから頂点を配置して面を張る"面張り"モデリングやトポロジー構造の変更です。そこを完全にカバーできるDCCツールのひとつが「xismo」です。そして驚くことにこの高機能なソフトは作者のmqdl氏によりひとりで開発されていて、完全に無料で公開されています。活用しない理由が見当たらない大変優れたソフトです。


04 和製モデリング特化ソフト「xismo」②~モディファイアで髪を作成~

「xismo」のヘアモディファイアはわずか3クリックから美しい曲線のポリゴンヘアーを生成できます。線ポリゴンという独特の概念を使用しますが、ナーブス曲線を点で制御してヘアーを生成するのと同じアプローチです。板ポリ、チューブ、キャップの有無、断面の指定、UVも自動生成されます。長い間、手間に感じていたアーモデリングが「xismo」の登場で一気に楽しいものへと変わりました。分割密度さえ気をつけていれば、ヘアーの結合も容易でGeoMayaHairやOrnatrixなどと組み合わせることでリアルなスプラインヘアー、ゲーム用のベイクドヘアーにも変換可能です。ヘアーモデリングを苦手と感じている方はぜひ一度試してみて下さい。

3Dモデリングソフトウェア「xismo」
mqdl.jpn.org

05 Marvelous Designerで服飾モデリング

クロスシミュレーションを利用した服飾モデリングは昔から行われていましたが、複雑な手順が要求される敷居の高いものでした。しかし、Marvelous Designerの登場でその常識は覆りました。UV上で型紙からポリゴンを生成した後、3Dビュー上でクロスシミュレーションをかけながら素体に服を着せていくという、通常のモデリングとはまったく逆の、現実世界の服飾デザインと同じ方法で衣装をデザインすることが可能です。近年、縫い目やボタンなどを作成する機能も追加され、外部ソフトとの連携が必要なくなりました。3DCGのモデリング技術ではなく、実際の服飾スキルで勝負できる時代に原点回帰したのだと実感しています。

06 UV展開

UV展開を面倒に感じている方は多いと思います。今回はプロシージャルテクスチャで髪を運用するため、矩形(マス目状に)開く必要があり、苦労の末MODOにたどり着きました。UV展開ができるそれぞれのツールに特徴がありますので、オススメのUV展開ツールを3つ紹介したいと思います。

UVMaster


ひとつ目は、ZBrushの「UVMaster」です。ワンタッチでUVを開いてくれて、Polygroupを分けたり、ZModelerと併用することでUVレイアウトも可能です。手早くUVを開きたいときに便利ですが、細かい調整は全て手作業になってしまい、時間がかかりがちです

3D-Coat


「3D-Coat」は複数枚のテクスチャ、複数のオブジェクトをまたいだUV管理が得意で、今回比較検証した中では最も思い通りにUV展開が可能でした。しかし、マス目状に展開することが苦手なためハードサーフェスのUV展開には不向きかもしれません。矩形のUV展開を必要としない場合は最速のUV展開ツールだと思います

MODO


MODOは最新のアップデートでUV機能が非常に強化され、UV構造を破壊せずにモデリングとUV管理を同時に行えるなどの強みがあります。また、矩形ツールがあり、正確なエッジループで作成したモデルであれば綺麗な矩形展開が可能です。他のツールにはできない部分に手が届くので非常にオススメです

07 スムージンググループの設定

ゲームモデルにはスムージンググループの設定が必要です。モデルを構成する各ポリゴンの頂点はそれぞれに描画向き(頂点法線情報)があり、共有する頂点の方向が一致しているか否かでローポリモデルの見た目が大きく変わります。エッジに対して設定することをソフトエッジ/ハードエッジ、フェース単位で設定することを一般的にスムージンググループと呼称します。ノーマルマップを使用せずに法線を制御する方法なので、ノーマルベイクが難しいポリゴンヘアーのエッジを立てる際などに有効なアプローチのひとつです。著者が比較検証した中ではMODOが一番簡単で、自由度の高い設定が可能です。

08 テクスチャベイク

ハイポリのディテールを焼き込むためにベイカーを使用し、各種ライトマップや形状の差分マップをベイクします。ベイクの工程でオススメしたいのはベイク領域を可視化し、調整できるKnald、Toolbag、3D-Coatです。重なった領域が干渉しないように名前の一致したメッシュ同士でベイクすることが基本ですが、SotaiChanのリボンのような複数のパーツが重なり合った"ぶっ刺し"でつくられたメッシュは、UV展開後にベイク用のオブジェクトを分け、シェルをバラバラに離すエクスプロードと呼ばれる処理をする必要があります。また、このときに必ずスムージンググループを設定するのを忘れないでください。


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4 テクスチャとマテリアル

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4 テクスチャとマテリアル

01 3Dペイント①~盛り上がるPBRペイント界隈~

リソースはここ近年で大きな盛り上がりを見せ、多様なサービスが生まれています。PBRペイントでは単色だけではなく、質感を含んだPBRマテリアルで着彩することが可能で、そのためにはスマートマテリアルを用意する必要がありますが、近年はPBRテクスチャのネットリソースが増え「Quixel SUITE」「Substance Live」「GameTextures.com」などのサービスを活用することが多くなりました。

今回の制作では和風の素材が必要でしたが、あまり出回っていませんでした。そこで、制作のメインビジュアルでは自分で撮影した写真素材をBitmap2MaterialPhotoshopでタイル処理や質感加工を施し、使用することにしました。3Dペイントの際は人物やクリーチャーの着彩にアナログペイントに近い感覚で着彩ができる3D-Coatを使用し、石灯籠などの細かい着彩の必要ない背景用素材にはフィルタ類の多いSubstance Designerを使用しています。

オリジナルの素材が必要なAsteriskのロゴマークや金魚の模様、透過処理の必要なレースなどはCLIP STUDIO PAINTやZBrushを活用し、細かい模様はテクスチャベイク時にハイポリに模様のオブジェクトを差し込みベイクするか、ノーマルペイントを施しています。




02 3Dペイント②〜プロシージャルヘアーテクスチャジェネレータの開発〜

背景用テクスチャ制作に使用されることが多いSubstance Designerですが、今回はテクスチャアーティストの若槻義人氏がキャラクターの髪の毛のUVテンプレート画像を入力すると、房ごとに根元から毛先へのグラデーションが入ったカラーマップをプロシージャルに生成するSubstanceグラフを作成しました。出力したSubstanceアーカイブ(sbsarファイル)をゲームエンジン内に持ち込むと、パラメータによって色調や汚れ具合を動的に変化させてゲーム内オブジェクトに適用することができます。

今回は完全なPBRマテリアルを生成するのではなく、UE4のカスタムヘアシェーダが受け取るカラー、ノーマル、アンビエントオクルージョンマップとグレースケールのグラデーションマスクを出力する処理を組みました。また、今回は上から下へ流れるグラデーションを生成しました。SVGファイルとしてベイクしたUVテンプレートをFlood Fillノードに読み込ませることで、UVアイランド内をランダムなカラーやグラデーションで塗りつぶすことができます。UVアイランドごとのサイズに応じて自動的にグラデーションの勾配を設定してくれるので、髪の房ごとに矩形にUV展開されていれば別のモデルにも適用可能です。

GPUエンジンを使用するFlood Fillノードはゲームエンジン内で処理させることができないため、いったん画像として書き出した上で、ビットマップ素材として再インポート。さらに、コントラスト操作やノイズを加えるプロシージャル処理をかけていきます。



03 3Dペイント③~動的に変化するカラーグラデーションの作成~

カラー2色をブレンドしたグラデーション画像をGradient Dynamicノードにグレースケール画像と一緒に入力すると、カラー画像をパレットとして明暗に応じて彩色してくれます。カラー画像の任意の縦軸1ピクセルの列がサンプリングされ、サンプリング列を横にずらすことでブレンドの比率をコントロールできます。ゲームエンジンのシェーダで利用できるように白黒マスクも出力しておきます。PBR表示のプレビューでルックを確認し、グラデーションのバランスとノーマルとアンビエントオクルージョンの強度パラメータをエクスポーズ(公開)して、ゲームエンジン上で調整可能にしたsbsarファイルを出力します。



04 UE4のマテリアルの基礎知識と運用

UE4のマテリアルはUnityやMayaのシェーダに該当し、安易に増やすとGPUリソースを消費して描画負荷が増してしまいます。そこで、Unityでのマテリアルに該当するマテリアルインスタンスを活用。マテリアルインスタンスを使うことで負荷が軽減でき、さらに、即座にビューポート上の見た目を更新することができます。

UE4でSubstanceファイルを読み込んだ後はマテリアルインスタンス同様にSubstanceもインスタンス化することで、シェーダを増やさずに様々なバリエーションのテクスチャを生成することができます。Substance Designer上でエクスポーズしたパラメータ群はUE4エディタ上でも同じようにアクセスし、調整が可能です。複数生成したUEマテリアルインスタンス内に、やはり複数生成したSubstanceグラフインスタンスが出力するテクスチャを読み込むことで、UE内のマテリアルエディタのみでは作成困難な多彩なバリエーションをもつマテリアルを効率良く量産することが可能になります。




05 マテリアルの実用例①~トゥーンマテリアルの利用~

逆光のときにかわいく見えない場合はエミッシブの値を上げるか、トゥーンマテリアルを利用することで光の影響を受けにくくなり、肌を一定のシェーディングに保つことができます。また、ポストプロセスマテリアルを利用することでアウトラインの描画もでき、漫画的な表現が可能になります。

06 マテリアルの実用例②~ヘアーマテリアルのつくり込み

ベースの髪マテリアルを作成した後に、先ほどSubstance Designerで用意したグラデーション、ノーマル、アンビエントオクルージョンマップをアサインします。カラーグラデーションやディテールが加わることで、髪の解像感が増しました。

07 マテリアルの実用例③~スキンマテリアルのつくり込み

3D-Coatで質感をペイントしたラフネスマップの強度を変えることで肌の艶感を再現します。今回は唇にハイライトが乗る程度に調節しました。また、PNテッセレーションを用いることで、カメラが寄ると肌のメッシュが細分化され、滑らかな曲面になるように設定しました。さらに、逆光表現で人肌に暗い影が落ちてしまうのを防ぐために、人肌の表面下散乱光を再現しています。これにはサブサーフェス・スキャタリングシェーダを使用しました。これにより、逆光でも陰領域が明るくなり、また、比較画像をみるとわかるように光が肌を透過する表現も実現できました。


  • SSS適用前

  • SSS適用後

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5 ゲームエンジンへの実装

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5 ゲームエンジンへの実装

01 キャラクター運用の事例

ここからはゲームプログラマー、梅村時空氏にゲームエンジンでキャラクターを運用するための複雑なしくみを手順化し、わかりやすく解説してもらいました。

①UE4スケルタルメッシュの運用


バインド済みのモデルやモーションをインポートするとUE4内部では「スケルタルメッシュ」「スケルトン」「アニメーションシークエンス」「物理アセット」の4種類の要素として読み込まれます。使用するアニメーションシークエンスとスケルトンの構造が一致しない場合、つまり、別のキャラクターのモーションを使用したい場合はリターゲットという変換処理が必要になります

②キャラクターの移動


前提として、ゲームエンジンのアニメーションではキャラクターの「モーション」と座標の「移動」は別の概念として考え、分けて管理するのが一般的です。キャラクターの座標を「移動」させるにはブループリントのキャラクタークラスを使い、キー入力を取得して移動させます。一方、キャラクターの「モーション」を管理するためにはキャラクタークラスのスケルタルメッシュに「アニメーションBP」を適用して運用します

③アニメーションBP


「アニメーションBP」を使うと自由度の高いアニメーション制御が可能です。アニメーションステートやBlend Poseを使用するとモーションのブレンドや分岐を管理できます。また、スケルタル制御機能を使用するとキャラクターのボーンを移動、拡大縮小させることができます。冒頭で説明したSotaiChanTransformerもこの機能を使って作成しています。ほかにも、IKを使用して手の位置を固定したり、足を地形に沿って配置することなど、紹介しきれないほど様々な機能が詰まっています

④「SotaiChanTransformer」でできること


SotaiChanTransformerはUE4のブループリントで構成されていています。図右下の独立したノード群をアニメーションBPのFinal Animation Poseの直前に挟むことで、キャラメイク用のレベルで設定したキャラクターの設定を適用し、実際のシーンに反映することができます

⑤着せ替え実装時の服の運用法


衣装は素体とは別データでつくり、時と場合に応じてパーツ分けをして、別データでエクスポートします。服の運用方法は大きく分けて2種類存在しています。ひとつめは小階層として装備させる方法で、ジョイントによる物理シミュレーションが可能です。ふたつめは素体と同じ骨を入れてアニメーションBPのCopy Pose From Meshを用いることで、常に素体と同じポーズを同期させる方法です。この方法では人の素体と同じスケルトンを使用するため、ジョイントによる物理シミュレーションは行えません。そのため、揺れものの表現はクロスシミュレーションを使用します。今回のSotaiChanに対してはふたつめの方法を使用していて、髪やスカートをシミュレーションで揺らしています

⑥クロスシミュレーション


髪やスカートなどの揺れものをアニメートするために、スケルタルメッシュエディタを使ってクロスアセットを作成します。クロスシミュレーションはマテリアルスロット単位で設定するため、シミュレーションさせたい箇所は個別に単一のマテリアルに設定し、固定頂点とパラメータを設定することでシミュレーションすることが可能です

02 アニメーションメイキング①~Adobeの3Dアニメーションツール「Mixamo」~

自動でリグやアニメーションを付けてくれる「Mixamo」というサービスがあります。手順は簡単で、事前にフェイシャルモーフやマテリアルを設定した後にWebブラウザからMixamoにアクセスしキャラクターをセットアップします。ウェイトのおかしい部分は「Akeytsu」(詳細は下記)で追加修正が可能です。さらに、UE4のアニメーションエディタは非常に優秀で、めり込んでしまっている箇所をずらしたり、腕の向きを変えてブレンドしたり、ソケットをつくりアイテムをもたせたり、フェイシャルモーフで表情を変えたりすることも可能です。アニメーターではなくてもオリジナリティのあるアニメーションを簡単につくることができます。


「Mixamo」
www.mixamo.com

03 アニメーションメイキング②~アニメーション特化のDCCツール「Akeytsu」~

バインド済みのモデルは、通常はバインドポーズやボーン構造の編集はできませんが、CGアニメーションツール「Akeytsu」を用いることで新規ジョイントを追加したり、構造を変えることが可能です。これはMixamoなど外部でウェイトを付けたモデルを修正加工できることを意味します。また、直感的にゲーム用のループアニメーションを作成できるため、非常に便利です。最新のソフトのため、現時点ではブレンドシェイプに対応しておらず、ブレンドシェイプ情報が壊れてしまうという弱点がありますが、今回のプロジェクトではMayaなどの外部ソフトで、ブレンドシェイプ情報をもった元のモデルにウェイトを転写することでこの問題を解決しています。

「Akeytsu」
www.nukeygara.com

04 「Instant Terra」を用いたTerrain作成

「Instant Terra」はUBISOFTの開発陣が鋭意開発中の地形作成ツールで、まだベータ版のみの公開ですが、直観的で素晴らしいソフトです。操作感はSubstance Designerに非常に似ています。何かをしたいと思えば、その機能にすぐたどり着くようなUI設計になっていて、次世代感があります。様々なTerrainツールで挫折を経験した著者でも、わずか5分で操作方法を理解して自由に地形をつくれるようになりました。自分で描いた地図画像を階調化して完全に思い通りの地形を生成することも可能で、UE4やUnityでも地形データとしてインポートすることができました。「Instant Terra」の詳しい使用レビューは著者ブログ(kazukisakamoto.hateblo.jp)で解説していますので、ぜひご一読ください。


05 UE4で背景をつくりこむ

背景、オープンワールドなど、様々な呼び名があると思いますが、UE4では短時間で広大な世界をつくることができます。UE4のランドスケープを作成するとデフォルトでは巨大な板が生成され、手作業で凹凸させていきますが、今回は前述の「Instant Terra」で作成した地形データを白黒画像でインポートしました。

地形のマテリアルの塗分けは単色のマテリアルで確認しつつ、後から置き換えるような方法を採っています。大きな建物を配置した後、木や草の生える位置も単色で塗り分けて制御。次に、川や滝を道と同様にカーブで生成し、海や湖を配置します。自動配置である程度作成した後に特徴的な石や、今回だと彼岸花などをフォリッジツールで散布しました。説明は割愛しますが、このときに注意すべきなのがLODやミップマップを設定することです。また、水しぶきなどの環境エフェクトに関してはAsterisk運営メンバーの高槻氏に協力していただきました。

アーティストのセンスをより活かすコンテンツ制作へ!

UE4やUnityなどのゲームエンジンを活用することで、今回のようなセミリアルな表現から写実的な表現まで、個人開発でもスピーディに制作できる時代が訪れました。昨今、建築やプロダクト、映像業界への参入が多く見られるゲームエンジンですが、ゲームエンジンに最適化した適切な処理と丁寧なつくり込みをすることで60fps、VRであれば90~120fpsのフレームレートを実現し、様々なデバイスへ向けた実行ファイルへの書き出しも可能です。さらに高負荷な設定をすればプリレンダリング用のGPUレンダラとして代用することもできます。また、開発中も常に最終ルックを確認しながら作業ができるため、アーティストの画力や美的センスをよりダイレクトに作品に伝えることが可能です。これはZBrushやMarvelous Designerにも見られる傾向ですが、CG制作のスタンダードは難しい技術から解放され、アナログのセンスで勝負する時代に突入したのだと実感させられます。この記事をきっかけにリアルタイムレンダリングに興味をもっていただければ幸いです。

  • 坂本一樹
    「人柱系CGモデラーのTipsブログ」著者で、「AsteriskLab」というゲーム制作技術の配信勉強会を主催しています。フリーランスのCGアーティスト/モデラー/講師/技術コンサルとして活動しています。
    kazukisakamoto.hateblo.jp

  • Palmie「ZBrushでつくろう! 3Dキャラクターメイキング講座」
    ZBrushでオリジナルキャラを作成し、WebGLでアップロードしよう! 3Dモデリングの基礎知識を抑えつつスマホ・タブレットでも閲覧できるモデルをつくります。Webポートフォリオ作成に便利な情報が満載です。PalmieのZBrush講座、ぜひよろしくお願いします!
    www.palmie.jp

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.233(2018年1月号)
    第1特集:映画『鋼の錬金術師』
    第2特集:ゲームエンジン向けキャラクター制作

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2017年12月9日
    ASIN:B0783Z46XK