世界的な知名度を誇るスイス発のクレイアニメーション『ピングー』が、株式会社ポリゴンピクチュアズ(以下、PPI)と合同会社ダンデライオンアニメーションスタジオ(以下、DL)の手により3DCGアニメーションとしてリメイクされた『ピングー in ザ・シティ』。PPIとDLによる同作のメイキングセミナー『ピングー in ザ・シティ メイキングセミナー』が3月4日(日)、ヒューマンアカデミー秋葉原校で開催された。

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世界的クレイアニメーション作品『ピングー』を3DCGでリメイクした 『ピングー in ザ・シティ』。

『ピングー in ザ・シティ』は、かつて小さな集落で暮らしていたピングーが大都会に引っ越し、持ち前の好奇心を発揮して様々な職業に挑戦しつつ街の人々との関わりを通して周囲をハッピーにしていくというコンセプトの子供向けアニメとなっている。本作を手がけるのは、これまで多くの海外クライアントとアニメ制作に携わり、本作で総合プロデュースを担当したPPIと、「世界中の子どもたちへプレゼントを」をポリシーにアニメ制作に挑むDL。監督を務めるのはイラストレーター/キャラクターデザイナーでもあり映像ディレクターのイワタナオミ氏、アニメーションディレクターを務めるのは株式会社XEBECを経てフリーランスのアニメーターとして活躍中の北田勝彦氏が担当している。


左から、小野奨平氏(ダンデライオン)、中岡 亮氏(ポリゴンピクチュアズ)、イワタナオミ氏


左から、北田勝彦氏、鳥居洋之氏(ダンデライオン)

『ピングー』が日本でリメイクされることになったきっかけについてPPIのプロデューサー中岡 亮氏は、おもちゃメーカーでありピングーの権利を保有しているマテル・インターナショナルに対して、日本放送協会(以下、NHK)と共に日本発のリメイク企画 提案する機会を得たことが今回のシリーズ制作につながったと話し、本作を手がけるに至った経緯を説明した。

言葉を使わず世界中の子供たちにストーリーを伝えるために。

3/7DVD発売「ピングーinザ・シティ ピングー、スターシェフになる」予告編

さて、オリジナルの『ピングー』はクレイアニメーションとして非常に有名な作品だが、本作では3DCGを使ってのリメイクに挑戦するということで監督のイワタ氏を中心に企画が練られていった。イワタ氏は、「クレイアニメーションの風合いをそのまま3DCGで再現してリメイクすることも考えましたが、3DCGと高画質なデジタル映像に慣れたオリジナル『ピングー』を知らない現代の子供たちにはクレイアニメーションのアナログ感は違和感を与える要素となる可能性があること、加えて長年のピングーファンの期待にも十分に応えられる作品であることを考慮する必要があり、これら時代を隔てたそれぞれの世代にとって違和感を与えないベストな3DCG表現を模索していきました」と話す。


『ピングー』を知らない子供から『ピングー』のファンの期待に応えるために、新たなピングーの世界を作り出していく。

設定に関しては子供向けアニメということもあり、大人の手伝いをするのが好きな子供の心理にフォーカスし、ワーキング・ピングーをコンセプトとして決めたのだが、ここで大きな問題に直面することになる。世界各国における「表現、習慣、常識」に関する認識が様々なうえに言語を用いた情報伝達ができなかったため、多岐に渡って各国の文化や習慣に関する情報を収集しつつ、脚本の段階から創意工夫を凝らして表現を追求した。

本作でも引き続き ピングー語という独自の言語(非言語)が使われているため、世界標準となる英語を始め一切の言語的表記が許されない映像作品制作の難しさを痛感したのだ。一切の言葉を使わず、世界中の子供たちにいかにストーリーを伝えるべきか。イワタ氏は「ピングーの世界はどこの国にも属さない無国籍な世界なので、演技をつけるのがとても難しかったですね。例えば誕生日をテーマにした場合、小道具として用意したケーキにハッピーバースデーと書くわけにいかず、何のお祝いのためのケーキなのか分からなくなってしまうんです。演技と雰囲気だけで "今日は○○の誕生日"を表現していかなければならないわけで非常に悩まされました」と語る。しかし、試行錯誤と模索を続けるうちに解決策は見つかるもので、「言葉の助け無しに表現できないことは初めからやらない」、「もはやタイトルに"○○の誕生日"と入れてもらう」など、シンプルな脚本制作に徹底し、解釈を複雑にしうる要素を極力省いたミニマルな思考に集約していったことで解決の糸口が掴めたようだ。


キャラクターデザイン

オリジナルの良さを踏襲しつつ、いかに新たな「ピングーワールド」を作り出すか。

世界観構築に関してはオリジナル『ピングー』のクレイで作られた素朴でシンプルな雰囲気を踏襲し、人の手で作られたクラフト感を残したCG作品となるようこだわった。「モデリングに関して言うと、細部に至るまでいくらでもCGでリアルに作れるのですが、人の手が粘土をこねて作ったら情報量はこれくらいしかないだろうという具合に、過剰となりうる部分をどんどん削って、綺麗に作ってもらったモデルをあえて歪ませたり崩してもらったり、とことんシンプルに考えました」(北田氏)。なお、より詳細なメイキングに関してはCGWORLD 236号『アニメCGの現場』で紹介しているので、こちらも合わせてチェックして欲しい。



世界観 プロップデザイン

また、質感やルックだけではなく、シルエットと動きにも独特の特徴があることに注目し、"ピングーらしさ" を徹底的に分析。原作の流れを汲んだ新たなピングーの世界となるようにアニメーションをつけていった。CGスーパーバイザーを務めたDLの鳥居洋之氏は「CGモデルのピングーに動きをつけていく中で自然と "新たなピングー" が見えてくるのではないかと思い、北田さんからもらったポーズ集や仕草のアイデア集をもとに、CGで作った場合に可能なポーズや動きを見極めていきました」と振り返る。



「ピングーらしさ」を探るためのスケッチ

イワタ氏はオリジナルの『ピングー』が醸し出す ストップアニメーション感を再現させるため、After Effectsでコマ落ちさせるのではなくMayaのキーフレームでコマ落ちさせてフルアニメーションで撮影するという、現代映像技術の合わせ技で ストップアニメーションの雰囲気を実現した。北田氏は「ハリウッド並みに滑らかなアニメーションがつけられるほど実力のあるアニメーターたちに、あえてアニメーションを汚してもらったり硬い動きにしてもらったり、できるけどやらないという作り方でした」と語る。

そのほかにビジュアルのキーを握っているのが、登場するキャラクターが着用する様々なユニフォームと都会の街並みらしいカラフルな配色だ。オリジナルでは雪と氷の世界で描かれていた『ピングー』だが、今回のリメイクではさらに彩りを添えてヴィジュアル的にも鮮やかで楽しい映像を目指した。キャラクターデザインは一目見てそのキャラクターの職業と性質がわかるように作り上げて行ったが、ここでも国による認識のちがいが発生し職業の使い分けに悩まされたと言う。


差別化のためのキャラクターデザイン

様々な職業のユニフォームが見られるのも本作の魅力のひとつなのだが、北田氏は「例えば消防士のキャラクターですが、日本では赤いイメージがある消防士も他の国ではそうではなかったりするわけです」と語った。アイテムと色の関係性に加え、消防士以外にもヘルメットをかぶる職業のキャラクターたちが登場する際に、一目でキャラクターを識別できるよう、いかにして各キャラクターにアイデンティティーを持たせかに腐心した。

「それぞれ魅力的なキャラクターだと言ってもらえるように芝居をつけてもらうなど、アニメーターをはじめ現場からもらうフィードバックがキャラクターの構築に欠かせませんでした」(北田氏)。『ピングー』というクレイアニメーションの歴史において外すことのできない大作のリニューアルに挑戦した『ピングー in ザ・シティ』は、数々の難題に直面しつつも、制作現場で全員がアイデアを出し合い、試行錯誤と創意工夫を凝らして作り上げていった。そんな様子が語られたセミナーであった。