2017年4月に発売されたPSOFT Pencil+ 4 for 3ds Max(以下、Pencil+ 4)は、3ds Maxによるセル調の3DCGアニメーション制作において、ディファクトスタンダードといえるノンフォトリアリスティック・レンダリング・プラグインだ。ここでは、7年ぶりのメジャーバージョンアップとなるPencil+ 4のレビューをお届けする。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 228(2017年8月号)からの転載となります

TEXT_川崎 司(クラフター/ディレクター・アニメーター)
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito、小村仁美 / Hitomi Komura

レビュー環境
ソフト:3ds Max 2016 Service Pack 4
CPU:Intel Core i7-3770 3.40GHz
RAM:32GB
GPU:NVIDIA Quadro K2200
OS:Windows 8.1 Pro

information
PSOFT Pencil+ 4 for 3ds Max
対応ソフトウェア:3ds Max 2015、2016、2017、2018
※スキャンライン レンダラで動作
ハードウェア:3ds Max各バージョンの動作環境に準拠
価格:スタンドアロン ライセンス ダウンロード版 60,480円/パッケージ版 64,800円/ネットワーク ライセンスパッケージ版 90,720円
www.psoft.co.jp/jp

PSOFT Pencil+ 4 for 3ds Max の新機能


アニメ業界を牽引するプラグインのメジャーバージョンアップ

近年のアニメCGの制作現場において、各スタジオで使用しているメインツールに差異はあるが、3ds Maxを使用した現場において必要不可欠となっているのが、セルシェーディング・プラグインPSOFT Pencil+(以下、Pencil+)だ。読者の方に説明は不要かもしれないが、かつて3ds Maxでセル調を表現できるツールやプラグインはいくつかあったものの、Pencil+が登場してからはほぼPencil+一本に統一された。以来、アニメCGの制作現場では3ds MaxとPencil+はセットになっていると言っても過言ではない。

月並みではあるが、日本のアニメ業界では3DCGを用いたセル表現はかなり定着してきた。各スタジオの研鑽の賜物であるが、近年はフル3DCGによるTVシリーズや劇場作品など、その需要はますます高まりをみせており、それに伴い技術も日進月歩である。そんなアニメCGの発展におけるPencil+の存在は大きい。Pencil+を使用したルックを見て3DCGの使用を決めた作品も少なくないはずだ。

筆者も業界に長く身を置き、業務の中でお世話になってきたPencil+シリーズの最新版Pencil+ 4が、去る4月27日(木)にリリースされた。Pencil+ 3のリリースから7年ぶりのメジャーバージョンアップである。先行して公開されたデモムービーを受け、そのアップデートの内容に期待の声が多く上がった。リリース後も、いち早く触れたクリエイターから現場への早急なPencil+ 4の普及を望む声は少なくない。かくいう筆者もデモムービーに心動かされたひとりである。

中でも推したい機能が「ラインのレンダリング速度の高速化」と「Pencil+ 4 Spreadsheet」だ。詳細は後述するが、前者は純粋にレンダリングコストが下がり、後者は複雑なマテリアル構成を組み上げる際のアシストツールとなりえる。どちらも生産性の向上がおおいに期待できるのだ。この2機能に加え、基本的な操作はPencil+ 3とあまり変わらぬまま、ユーザビリティの向上やライン設定の拡張・外部参照対応など、魅力的なアップデートが並ぶ。次項より、主だった新機能や使用感について紹介しよう。

Topic 1:レンダリング速度の高速化

マルチスレッド レンダリングに対応し高速化されたラインレンダリング

冒頭で述べたように、筆者が今回のアップデートで最も注目していたところが、ラインのレンダリング速度の高速化だった。筆者も長年Pencil+によるライン描画を用いた案件に携わってきたが、大量のラインを描画しなければならない場面では、正直なところレスポンス面での不満があった。Pencil+ 4のデモムービーでは従来に比べて夢のような速度でレンダリングされていたが、実際の速度感はいかがなものだろうか。デモムービーと同様にティーポット群体を作成して検証してみた。

結論から言えばPencil+ 3の約15倍の速度でレンダリングされ、ラインのレンダリング待ちによるストレスはほぼない。従来では避けるような設定でもチャレンジしてみたが、こちらもPencil+ 3は検証を諦めかねないほど重かったのに対し、Pencil+ 4では実に現実的な結果だった。P74に筆者のマシンスペック(レビュー環境)を記載しているので、そちらも参考にしてもらいたい。近年のマシン環境であれば同じくらいの速度か、CPU性能によってはそれ以上の速度でのレンダリングが期待できるだろう。


  • 従来だと若干のストレスを感じる設定で検証した例。スキャンラインのレンダリング時間を除くとPencil+ 3の約15倍の速度が出ている。ライン設定はアウトライン・オブジェクト・交差・スムージング境界・マテリアル境界。ポリゴン数は25万(三角形で50万)。スキャンラインが約4秒、Pencil+ 3のラインでは約30秒、Pencil+ 4のラインだと約2秒でラインをレンダリングできた


  • 左の10倍のオブジェクト数で検証した例。従来の感覚からするとラインの数に比例してレンダリング速度が向上しているように思えた。ライン設定は同様にアウトライン・オブジェクト・交差・スムージング境界・マテリアル境界。ポリゴン数は250万(三角形で500万)。スキャンラインが約30秒、Pencil+ 3のラインでは約1時間21分、Pencil+ 4のラインだと約22秒となった

Topic 2:Pencil+ 4 Spreadsheet

シーン内のライン・マテリアルパラメータを一括編集

Pencil+ 4では、共に提供されるPencil+ 4 Spreadsheet(以下、Spreadsheet)を使用して、シーン内のライン・マテリアルのパラメータを一括編集できるようになった。このSpreadsheetを起動すると、シーン内のPencil+ 4ライン・マテリアル(シェルやマルチサブ以下のサブマテリアルも含む)を参照し、その名の通り表計算ソフトのように羅列する。個別に設定することはもちろん、前述したようにマテリアルやラインのブラシ設定を複数選択してパラメータを一括変更することもできるので、ラインセットやマテリアルを渡り歩いて設定していた手間が払拭されるのだ。

また、パラメータの設定だけでなく命名もSpreadsheetから変更することが可能な上、マテリアル名の横のアイコンやマップのセルをクリックすると、マテリアルエディタのアクティブスロットにインスタンスコピーしてくれるといった気配りも嬉しい。さらにマテリアルや各ラインセットにラベル色やコメントのプロパティが追加されており、設定したラベル色はSpreadsheet上で表示されるため、ひと目で判別が可能だ。ラベル色やコメントはSpreadsheet上での絞り込みや整列としても活用できるので、多量のマテリアルを扱うようなシーンでは管理面で強力なアシストとなるだろう。


SpreadsheetのUI。上部のドロップダウンリストから表示するカテゴリ[Pencil+ 4マテリアル→高度な設定→ライン関連機能→Pencil+ 4ライン]の切り替えを行い、各カテゴリがもつタブを切り替えて各種設定を行なっていく。タブ下の各項目をクリックすると、表計算ソフトのようにパラメータ順に整列が可能だ。紹介した機能だけでも恩恵は十分に感じるが、欲を言えばカラー等に使用するマップのインスタンス化をSpreadsheetから管理・設定、ゾーン位置の一括編集を数値で設定できると作業がいっそうはかどるので、この場を借りて個人的な要望としてお伝えしておきたい


  • Pencil+ 4で追加された[ユーザー定義]のプロパティ。各マテリアル・ラインセットで設定した[ラベル色]がSpreadsheet左部の色と同期する。ユーザー定義はSpreadsheetの[ユーザー定義]タブからもアクセス可能なので、マテリアルやラインセットを渡り歩いて設定する必要はない

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Topic 3:ライン設定の機能拡張

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Topic 3:ライン設定の機能拡張

拡張されたライン設定により拡がる新たなライン表現

Pencil+ 4ではラインセットに[オープンエッジ]、[グループを結合]、[自己交差]、[選択エッジ]といったエッジ検出設定が追加されているが、中でも個人的に興味を引かれた[選択エッジ]をここで紹介したい。

[選択エッジ]は選択モディファイヤとセットで使用することにより、新しいアプローチでのライン設定が可能となる。選択モディファイヤでポリゴンやエッジを選択し、上位に[Pencil+ 4 選択エッジ]モディファイヤを作成すればライン設定が完了する、といった具合だ。実制作においてカットバイでラインを足したりするケースはままあるが、その際に折り目を設定したり交差用のオブジェクトを設定するといった手間が「選択エッジ」によって払拭できる。

またPencil+ 4のデモムービーでも紹介されているが、ソフト選択のアウトラインをライン出力できるので、オブジェクトに波紋が広がるような新たなライン表現も可能だ。


  • 選択モディファイヤでラインを出力したい形にエッジを選択する


  • レンダリング結果。選択されたエッジに沿ってラインが描画される


  • モディファイヤの構成


  • 別例として板にボリューム選択でノイズマップを当てたもの


  • レンダリング結果。選択範囲のエッジに沿ってラインが描画されている

Topic 4:ラインの外部参照

ライン設定の外部参照対応でワークフローの刷新なるか?

Pencil+ 4からライン設定も外部参照対応となった。手順としては参照元となるシーンにペンシル合成ヘルパーを作成し、通常の外部参照と同じように参照先で外部参照に設定するだけで完了となる。そのままシーンに合成することもできるので、通常運用は外部参照で、カットバイでモデル調整等が必要になった場合は合成して対応するなど、先々の運用に可能性を感じる。筆者の環境では様々な理由で敬遠されてきた外部参照であるが、今回のアップデートでハードルが一段下がったので、今後は外部参照による運用を視野に入れたい。


  • Pencil+ 4ラインを含んだシーンを外部参照したダイアログ画面。参照オブジェクトにラインの合成ヘルパーが読み込まれている


  • 外部参照されたシーンでのライン設定。各ライン設定は参照元に依存する

Topic 5:Nitrous シェーダー

Pencil+ マテリアルの表示をビューポート上で確認可能に

Pencil+ 4からはPencil+ マテリアルの表示設定をリアリスティックに変更することにより、ビューポートで表示を確認できるようになった。従来であれば一度テストレンダリングをして影付けやハイライトの具合を探っていたものが、ビューポート上で調整できるようになる。各Pencil+ マテリアルの表示設定は、前述のSpreadsheetを使用して一括で変更することができるので、設定も容易だ。

せっかくなのでいろいろな設定やマテリアルの組み合わせを検証してみた。いくつか制限はあるようだが、おおむねマテリアルで設定した通りに表示された。気になったところとしては「3ds Maxで計算した結果をpencil+ 4が受け取ってビューポートに表示する」といったフローなので、基本的に3ds Maxの仕様に紐づくことになるところだろうか。例えば[ライトを含む/除外]の設定は反映されず、複数のライトを使用してルックを決めるようなシーンでは、望む結果は得られないかもしれない。ほかにも3ds Maxが表示できないマップで置き換えると上手くいかないケースもあるだろう。このあたりはAutodesk側の対応が望まれる。

上記のような挙動はあるものの、上手くやればテストレンダリングの必要がなくライティング調整が可能になることは、実に喜ばしいことである。なお、Nitrousシェーダーの対応は3ds Max 2016以降なので環境には注意されたい。

表示設定を施したビューポート画面。思いつく範囲で様々な設定やマテリアルを検証してみた

レンダリング結果は以下の通り。1:ゾーン×1、2:ゾーン×2、3:ゾーン×3、4:ゾーン×4、5:ゾーン×8、6:ハイライト(異方性反射・方向)、7:ハイライト(スカッシュ・回析効果)、8:高度な設定(ハイライトデザイン)。9:高度な設定(グラデーションオフセットマップ)、10:ゾーン×3(ゾーン間グラデーション)、11:バンプマップ有効、12:反射マップ有効、13:カラーに合成マップを使用、14:ストローク、15:マルチ・サブマテリアル、16:シェルマテリアル、17:両面マテリアル、18:合成マテリアル、19:トップ・ボトムマテリアル、20:ブレンドマテリアル。おおむね設定通りに表示されたが、5では「ゾーン表示は4つまでの対応」、7、8、11、18~20では「サポート外」といった制限もみられた。筆者の環境や設定の不備で表示されていない可能性もあるが、上記を使用する際は注意が必要かもしれない

総括:ユーザーからの要望に的確に応えたアップデート

今回のレビューでは紹介しきれなかったが、Pencil+ 4のアップデートはマテリアルの透過やライト強度の制御、ラインサイズの減衰設定のインスタンス化、UI面の強化など、ユーザーの要望に的確に応えたアップデートであると感じた。Pencil+ 3からの移行に関しては、例によってコンバータが提供されており、シーン内のライン設定・マテリアル・モディファイヤ等を一度にコンバートでき、データ的な移行は実にスムーズだった。

懸念としては3ds Maxの対応バージョンが2015以降であることだろうか。それ以前のバージョンを主力としているスタジオも少なくない現在、3ds Maxのバージョンを上げてまでの導入はハードルが高いかもしれない。Pencil+ 3の使用率から鑑みて、コスト的な面での足踏みもあるだろう。かくいう著者の環境も今のところPencil+ 3を継続して使用している。お伝えしてきた新機能、特にレンダリング速度の向上は非常に魅力であり、本心では今すぐにでも乗り換えたい。業界に身を置くひとりとして、1日でも早く実務におけるPencil+ 4の普及を切に願う。今回のレビューが、その足がかりの一端になれば幸いだ。

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.228(2017年8月号)
    第1特集:画龍点睛スペシャル
    第2特集:CGWORLD白書 2017

    定価:2,268円(税込)※特別価格
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2017年7月10日
    分冊付録:CGプロダクション年鑑 2017