2018年5月14日、「Houdini ビジュアルエフェクトの教科書セミナー」が御茶ノ水のデジタルハリウッド大学で開催された。同セミナーは5月15日発売の書籍『Houdini ビジュアルエフェクトの教科書』(エムディエヌコーポレーション)の発売記念として、著者の北川茂臣氏を迎えて行われた。同書の内容に加えSideFXとHoudiniの歴史や最新情報についても学ぶ機会となった同セミナーの様子をレポートする。

TEXT_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

▲Houdini Customer Reel 2017


Houdini 16.0 オンライン日本語ドキュメントが5月より公開

セミナーの第1部ではSideFXでVP Marketing and Salesを統括しているRichard Hamel氏が、同社の歴史やHoudiniの最新情報に関する講演を行なった。

▲【左】SideFXのRichard Hamel氏/【右】会場風景


同社の前身はカナダのトロントを拠点としていたオムニバスで、1987年に同社からソフトウェアの権利を買い取ったKim Davidson氏とGreg Hermanovic氏がSideFXを設立した。その2年後には当時保険会社で働いていたMark Elendt氏が入社し、現在もレンダリングソリューションとして名を残すMantraが誕生。そしてSIGGRAPH 92において、Houdiniの祖先とも言えるPRISMSが発表された。PRISMSはC言語で開発されており、当時はコマンド入力を多用するソフトウェアだったが、90年代前半に発表されたモーフィングソフトウェアのMojo、ノードベースの画像合成ソフトウェアのICEを経て、ノードベースの概念をもったHoudiniへと進化していった。


「SideFXにとって重要なのは、第1にプロシージャル性、第2にソフトウェアアーキテクチャと革新性、第3に顧客対応、第4に長期的視野です」とHamel氏は語り、それらを実践すべく同社のエンジニアは常に革新的なシステム開発に注力しており、非上場企業ゆえに株主のしがらみもなく、長期的視野をもった機能追加が行えていると説明した。

そんな同社とHoudini、その開発者数名 は「革新的かつ卓越した技術でもって、映画制作の進化に多大な貢献をした」として、2017年にAcademy Award of Merit(オスカー像)とScientific & Engineering Award (盾)を受賞した。実に700以上の映画で使用され、近年はゲーム開発でも多用されているHoudini。Hamel氏は「これからも積極的に機能強化をしていく。Ver16.5を超える大きなアップデートを期待してほしい」とコメントした。


その後はSideFX 日本担当シニアマネージャの多喜建一氏から、Houdiniの全般的な説明が行われた。多喜氏がSideFXに入社した2013年当時、Houdiniの日本語書籍はなかったが、現在では5冊を数えるまでに増えており、日本は最も教則本の多い国になっているとのこと。また、Houdini 16.0 オンライン日本語ドキュメントの公開も発表された。なお、16.5のオンライン日本語ドキュメントも5月中に公開予定だ。


Houdiniには複数の製品形態があり、多喜氏はHoudini CoreとHoudini FXの2種類について解説した。Houdini Coreはプロシージャルモデリングを行えるほか、リギング、アニメーションも可能。また、Mantraによるレイトレーシング、マイクロポリゴンなど最近のレンダラーができることは概ね網羅されており、基本的な合成ツールも内包されている。Houdini FXはHoudini Coreの全機能を内包しており、その上でParticles、Rigid Bodies、Pyro FX、Fluidsなどのエフェクト機能が追加されている。


講演ではOceanのボリュームからポリゴンを生成し、そのポリゴンとほかのポリゴンをブーリアン演算し、洞穴やトンネルのある地形をつくるといったデモも行われた。


難しい数学やプログラムの知識がなくても実現可能なエフェクトを解説

セミナーの第2部では北川氏による『Houdini ビジュアルエフェクトの教科書』の解説が行われた。北川氏はフリーランスのエフェクトアーティストで、近年はTV番組やドラマなどのエフェクトを制作している。加えて3DCGのTipsサイトNo More Retakeの管理人でもある。

▲【左】『Houdini ビジュアルエフェクトの教科書』を紹介する北川茂臣氏/【右】同書の書影


前述の通り、Houdiniはモデリングからアニメーション、レンダリング、コンポジットまで可能な統合ソフトだ。ただし同書はHoudiniを用いたエフェクトの入門書として執筆されており、難しい数学やプログラムの知識がなくても実現可能なエフェクトのつくり方が解説されている。同書は9つのChapterで構成されており、剛体、ボリューム、水、砂などのテーマに沿って段階的にエフェクト制作を学習できるようになっている。また、作例データのダウンロードも可能だ。

講演では全Chapterの執筆意図が作例と共に紹介された。Chapter1ではHoudiniの基本操作と用語が解説されており、ノードとは何か、どうすればコネクションできるかといった基本要素の学習からスタートできる。

Chapter2ではオブジェクトとSOPについて解説されている。同書は「つくりながら学ぶ」ことをコンセプトにしているため、制作の全行程を実践しながら学べる構成になっている。講演では北川氏が「DNAのようならせん」という作例のデータを開き、実際に操作するデモも披露された。続く「先端に変化のあるDNA」という作例では、ひねりのアニメーションが加えられ、コピースタンプ機能の使い方などを学習できる。

「成長するDNAらせん」という作例は、forループとVOPを使って制作されている。「難しいプログラムは用いないものの、ノードをつなぐことで同等のことができる(=VOP)よう解説しています。Houdiniはシーンファイルを見れば制作過程がわかるので、本書の解説でつまづいたとしても、完成シーンファイル(ダウンロード可)と比較しながら見ていけばノードの使い方などを理解できるようになると思います」(北川氏)。「雷」という作例では、forループのさらなる応用が解説されている。

▲【左】「DNAのようならせん」の作例/【右】制作過程を紹介する北川氏


▲「成長するDNAらせん」の作例動画


▲【左】「雷」の作例/【右】制作過程を紹介する北川氏


Chapter3はシミュレーションについて解説されており、全てのシミュレーションの基本となるパーティクルについて理解することが目的となっている。「火花」や「尾を引く軌跡」という作例では、パーティクルによるシミュレーションのやり方に加え、シミュレーション結果の加工も学習できる。

▲【左】「火花」の作例/【右】「尾を引く軌跡」の制作過程を紹介する北川氏


Chapter4は剛体シミュレーションについて解説している。ここは基本に忠実なChapterで、シェルフをふんだんに使って動きを付ける方法を学んでいく。ただし理解を深めるため、一度シェルフでつくったものを、次はシェルフを使わずにつくってみるという二段構えの構成となっている。「破壊には暗黙のルールのようなものがいくつかあります。シンプルな形状の破壊シミュレーションを通して、そのルールをちゃんと理解してもらうことが本Chapterのコンセプトです」(北川氏)。

▲「部分的な強度の変更」の作例動画


Chapter5はボリュームについて解説している。Houdiniのボリュームは煙や炎のシミュレーションだけでなく、モデリングやSOPでもよく使う要素だ。同Chapterではシミュレーションではないボリュームデータを制作する方法や、SDFボリュームからモデルの深度情報を取得して着色する方法などが説明されている。

「シェルフは学習の教材として非常に役立つと思います。よく使うシェルフを見てみたり、パラメータの値を変えて結果を確認することで理解が深まるでしょう」(北川氏)。同Chapterの中にはPyroのシミュレーションのクラスタ化を用いて最適化を行なっている作例もあり、高めの難易度となっている。そういった作例であっても同書だけで学習が完結するように、TipsやPointといった形で専門用語が詳しく解説されている。

▲「色のついた煙」の作例動画


Chapter6∼8では、水、海、砂と高負荷のシミュレーションについての解説が続く。水の解説では、シェルフを使った水のシミュレーションを実践しつつ、前述のボリュームの解説と同様、内部でどんなデータのもち方がなされているかを丁寧に学習していく。最初の作例は「水のスローモーション」。汎用性の高い作例で、水以外の表現にも応用できるものとなっている。続く作例は「粘性をもつ流体」。北川氏は「これで歯磨き粉のCMとかつくれそうじゃないですか?」と形容しながら、水のシミュレーションをメッシュ化して制作したデータを紹介した。その後の砂の解説では、水と同程度か、それ以上に処理負荷が高い砂のシミュレーションを、どうすれば効率化できるかについても言及されている。

▲「粘性をもつ流体」の作例動画


▲「砂」の作例動画


最後のChapter9は「その他の機能」として、Houdini EngineでMaya、Unity、Unreal Engine 4とインテグレートする方法や、群衆、地形、雲の生成、布のシミュレーションなどのシェルフの挙動について解説されている。

講演の最後には、Houdiniで制作された同書のカバーのメイキングが公開された。シーンデータは大きく分けて3つの要素でできており、1つめは縦方向に伸びる回転体、2つめは手前から奥に向かって伸びるライン、3つめは球体とのこと。詳細はNo More Retakeで公開されており、こちらから確認可能となっている。

▲同書のカバーの制作過程を紹介する北川氏


本セミナーの主題である『Houdini ビジュアルエフェクトの教科書』に加え、各種セミナーや日本語ドキュメント、教則本など、Houdiniに関連するラーニングコンテンツは増え続けている。一見難しそうに見えるHoudiniだが、このような背景から敷居はかなり下がっていると言える。Houdiniは無償のトライアル版も存在するので、まずは実際に触って使用感を確かめることも可能。今回の書籍を参考に、ぜひ面白いエフェクトを手元で再現してみてほしい。

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Houdiniは、ボーンデジタルほか、リセラー各社にて取り扱っております。

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Houdiniの製品概要と、ご購入特典
Houdini マスタークラス2018(9月22日開催)
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