「小規模開発」とあなどるなかれ。近年は開発者が増えて、作品クオリティも向上している「インディーゲーム」。今回はインディーゲームの開発を行いながら、様々なクリエイター支援事業を行なっている株式会社ヘッドハイの一條貴彰氏に、日本のインディーゲームの盛り上がりを解説してもらった。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 241(2018年9月号)からの一部転載となります

TEXT_一條貴彰(株式会社ヘッドハイ)
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

  • 一條貴彰(株式会社ヘッドハイ)
    ゲーム作家。代表作はSteam/ニンテンドー3DS『Back in 1995』。個人でゲーム開発を行いつつ、インディーゲームクリエイターに対して開発ツールや、サービスを販売したい事業者を対象にコンサルティングサービスを展開。
    head-high.com

はじめに

本誌をご覧の皆様は、「インディーゲーム」をという言葉を一度は聞いたことがあるかと思います。昨年は任天堂がNintendo Switchのローンチ直後から様々なインディーゲームを積極的に紹介していたこともあり、実際にインディーゲームを買って遊んでいる方も多いのではないでしょうか? 本稿では、インディーゲームのムーブメントを知っておきたい人や、これからインディーゲーム開発に参入したいクリエイター向けに、日本におけるインディーゲームの最新事情についてご紹介します。

そもそもインディーゲームとは?

インディーゲームは、個人や数人のクリエイターが中心となって「自分たちがつくりたいゲーム」を小規模でつくっているゲームを指し、高コスト・大人数で開発するトリプルAクラスのゲームと対をなす用語として使われています。ほとんどは1,000~3,000円程度と比較的安価で、PCや家庭用ゲーム機、スマートフォン向けにダウンロード販売されることが中心です。インディーゲームは、「業界のレジェンドクリエイターがクラウドファンディングで予算を獲得してつくる新規IPゲーム」という意味ではありません。また、「海外の小規模ゲーム」というイメージをもたれることもありますが、特に国は関係ありません。日本にもインディーゲームクリエイターは大勢います。

インディーゲームという言葉の定義は難しく、SNS上では終わりなき議論が常に起こっています。たったひとりでつくっていようが、何十億円も融資を受けながら100人チームでつくっていようが、代表者が「わたしはインディーゲームクリエイター」と言ってしまえば、それはインディーゲームだ、というのが、どうやら世間の見解のようです。個人的な狭義の意見としては、「クリエイター自身がつくりたいゲームである(=市場分析主導ではない)こと」「クリエイター自身がプログラムやツール操作などの作業を直接行なっていること」の2点が条件かと思っています。

インディーゲームが発展した背景

インディーゲームが世界的に発展した背景は、おおまかに以下の4点であると考えています。

①ゲームエンジンなどの専用開発ツールの低価格化
②デジタル配信プラットフォームの整備
③家庭用ゲーム機への参入障壁が低下
④ゲーム開発会社におけるF2Pへの偏向

①ゲームエンジンなどの開発環境の低価格化

ゲームをつくるためには、プログラミングの専門知識と努力が必要です。その難しさをある程度まで緩和する汎用フレームワークを「ゲームエンジン」と呼んでいますが、過去において商用のゲームエンジンは使用料が数百万円以上する法人向け商品であることが当たり前でした。しかし、Unityが登場して、この状況は激変します。Unityは誰でも無償版をダウンロードしてすぐに触り始めることができ、有償版も数十万円クラスと破格でした(現在は月額モデルに移行しています)。

Unityが爆発的に利用者を伸ばしたことで、Unreal EngineCryENGINEなど他のゲームエンジンや、開発用の周辺ツールもインディー向けに無償、または安価で提供を行うようになりました。MayaMODOなどのDCCツールがインディープランを提供していることは、本誌読者のみなさまがよく知る通りかと思います。日本においても、サウンドミドルウェア分野においてゲーム業界で圧倒的シェアをもつCRI・ミドルウェアが、主力商品である「ADX2」のインディー向け無償版を提供しています。母数の大きいインディーゲームクリエイターに製品を知ってもらうことはツールやサービスにおいて普及の基本戦略であり、もはやインディー向けプランがないツールは今後ビジネスが難しいような状況です。

②デジタル配信の発展

過去においては、ゲームの流通は完成品をカートリッジやCD-ROMなどの物理メディアで販売する方法が中心でした。ゲーム専用メディアの生産にはプラットフォーマーとの契約金や数千本以上の最低生産数が必要であり、大きな初期投資が必要でした。そこに現れたのがPCゲームのダウンロード販売ストアである「Steam」です。物理メディアの生産がいらないデジタル配信によって初期投資と在庫リスクが解消され、小規模なクリエイターでもゲームを全世界に向けて販売できるようになりました。また、スマートフォンでは同様に誰でも開発者になれるアプリストアが開始され、個人や小規模のゲームクリエイターが作品を幅広く公開できる下地が出来上がりました。

③家庭用ゲーム機への参入障壁が低下

マイクロソフトが2008年から開始した「Xbox Live Community Games」は、個人や小規模事業者が家庭用ゲーム機であるXbox 360向けゲームを比較的簡単にダウンロード販売できる枠組みでした。これにPlayStationを有するソニー・インタラクティブエンタテインメント(以降、SIE)と任天堂が追従し、家庭用ゲーム機プラットフォーマーによるインディーゲームの誘致合戦が始まります。日本においては、2016年7月に任天堂が開発者向けポータルサイト「Nintendo Developer Portal」(developer.nintendo.com)をオープンし、インディーゲームクリエイターへの門戸を大きく開いています。

④ゲーム開発会社のF2Pタイトルへの偏向

多くのゲーム開発会社において、ビジネスの中心をスマートフォン向けのF2P(基本無料・アイテム課金)に軸足を移すことが見られるようになりました。F2Pゲームはゲームファン層を大きく拡大した一方で、ゲームクリエイターが挑戦したい創造性とかみ合わないことがしばしばあるようです。そうした変革の中で、「自分たちがつくりたいゲームをつくる」ことを掲げ、大企業を退職して小さなチームを結成し、インディーゲーム開発を始めるチームが出てきました。また、学生時代から個人ゲーム開発で生計を立て、ゲーム開発会社に入らずに、そのまま独立したスタジオとしてゲーム作品を発表していくスタイルも現れ始めています。大手ゲーム開発会社では絶対に企画が通らないようなゲームを自己責任でつくれてしまうのが、インディーゲームの醍醐味とも言えます。

日本の状況イベントの急増と支援策の不足

日本では90年代後半、Windows 95の時代から「同人ゲーム」と呼ばれる小規模ゲーム開発が徐々に台頭してきました。もっとも有名な『東方プロジェクト』シリーズの頒布数は数十万本ともいわれており、そこから派生したファンゲームも多くつくられています。その後の2000年代のFlashゲームブームや、RPG開発用の汎用ツールと共に発展したフリーゲームの勃興など、昔から個人・小規模のゲーム開発文化が脈々と続いていました。そこに新たな概念としてインディーゲームが加わったのは、ここ4~5年のことです。以降からは日本ならではの状況をより具体的に解説していきます。

①インディーゲームパブリッシャーの急増

ゲームを配信するためには、マーケティング施策や翻訳などのローカライズ作業、そして品質チェックやストア上での売上管理など、大量の準備が必要です。全てを個人でまかなうことも不可能ではありませんが、本流のゲーム開発と異なる作業はクリエイターにとって大きな苦痛です。その支援サービスとして発達してきたのが「インディーゲームパブリッシャー」です。かつては法人契約が必要だったSteamや家庭用ゲーム機へのリリースと、海外向けの翻訳を行うことがサービスの中心でしたが、事業者が増えた現在ではマーケティングやイベント出展支援なども手広く行うようになりました。日本では「PLAYISM」「Degica」「Play,Doujin!」「UNTIES」などが日本のインディーゲームを多く扱っているレーベルとして人気です。

②国内インディーゲームイベントの急増

この5年ほどの間に、日本国内においてもインディーゲームイベントの数が急増しました。日本のクリエイターが最も多く参加するイベントは、毎年11月に秋葉原で開催される「デジゲー博」(digigameexpo.org)です。250近くのチームが出展し、今年で6回目を迎えます。「クリエイターに対して門戸を広く」というコンセプトのもと、出展は抽選で決まります。クリエイターに対してフラットであることを重視したイベントといえます。

もうひとつの大きなイベントとして、京都で毎年開かれている「BitSummit」(bitsummit.jp)があります。こちらはインディーゲームファンを中心に据えたイ ベントで、日本を含めた世界の様々なインディーゲームを紹介する場として大きな人気を得ています。参加するには厳しい審査を通過する必要がありますが、特に海外からの注目度が高いイベントなのです。

今年初のイベントとして、Google による「Indie Games Festival」(gamefest.withgoogle.com/indie-game-fest)が4月に開催されました。これはAndroidでリリースされているインディーゲーム向けのコンテストで、2016年から欧米や韓国で行われてきましたが、今年ついに日本上陸となりました。スマートフォン向けに 小規模なゲームをつくっているクリエイターは、このコンテストに入賞することでGoogleから様々なマーケティング支援を受けることができます。

そして、みなさんもよくご存じの東京ゲームショウでも、2013年から「インディーゲームコーナー」が設置されています。このコーナーに毎年SIEが協賛を行なっており、審査に通過したチームは無償で出展することが可能です。ただし、現在のインディーゲームコーナーは大企業が集まるメインホールから離れた棟に設置されており、諸外国のゲームショウのように、幅広いゲームファンを誘致するながれが不足しています。このあたりはまだまだ改善が必要そうです。

③投資家・アクセラレーターの不足

日本ではインディーゲームクリエイターが開発資金を得る手段が長らくなかったのですが、喜ばしいことに平成29年度から日本ゲーム文化振興財団(japangame.org)による「ゲームクリエイター助成制度」がスタートしました。また、海外向けの展示や輸出を行う場合に限りますが、映像産業振興機構(VIPO)(www.vipo.or.jp)の「クリエイター等の海外挑戦支援事業」がゲームクリエイターも対象にしています。そして、前述したインディーゲームパブリッシャーがクリエイターに開発費を出すケースも見られるなど、徐々に状況は良くなっています。なお、インディーゲームの資金獲得手段として「クラウドファンディング」が挙げられますが、残念ながら現在のクラウドファンディングはマーケティングリソースの強さで勝負が決まってしまう世界になっており、無名の新人が単身乗り込むことは現実的ではありません。

諸外国と比較して、インディークリエイターが直接得られる資金支援はまだまだ不足しています。日本にはインディーゲームを対象にしたインベスターやアクセラレーターがいないため、わざわざ海外のピッチイベントに出かけるクリエイターも現れている状況です。インディーゲームクリエイターの資金獲得手段が多様化することを願うばかりです。

④業界理解の不足

日本のゲーム産業の中では、インディーゲームクリエイターという立場の理解がまだまだ進んでないように感じます。例えば、家庭用ゲーム機でのゲーム販売にはコンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)の審査を受け、ゲーム内容の対象年齢を表示する「CEROレーティング」を取得する必要があります。しかし、この審査費用は諸外国がダウンロード専売ゲームに設定している審査料と比較して高額であり、予算が小規模であるインディーゲームクリエイターにとって大きな負担になっています。

筆者は今年の冬、台湾のゲームショウである「TaipeiGameShow」に招待を受け、開発したゲーム『Back in 1995』の展示を行ないました。当イベントを主催する台北市コンピュータ協会(TCA)はインディーゲームに対する支援が厚く、出展費用は無償で、海外からの参加者にはホテルを提供するなど誘致策を行なっています。また、インディーゲームコーナー自体もビジネスエリアの真ん中に配置されていたので、大きな成果がありました。日本においてもインディーゲームクリエイターをゲーム産業が一丸となって支えるしくみづくりが急務だと考えています。

インディーゲームづくりに興味がある人へ

これからインディーゲームづくりに取り組みたいと考えている方は、まずは肩に力を入れすぎず、余暇時間で極小スケールのゲームをつくり始めることをオススメします。はじめに教材となる書籍を購入して、数秒~数分で終わるミニマムなゲームをタイトルからエンディングまでつくりきってみてください。次に、Web上で開催されているゲーム投稿イベントに参加して、知らない人にゲームを遊んでもらう経験を積みます。Unityユーザーならば、出されたお題に対して1週間でミニゲームをつくる「Unity1週間ゲームジャム」(unityroom.com/unity1weeks)というイベントがあります。Unreal Engine 4ユーザーならば、「UE4ぷちコン」(historia.co.jp/ue4petitcon)というコンテストが開催されていますので、ぜひチェックしてみてください。

次に、スマートフォン向けにミニゲームを実際にリリースするか、イベントに出展してPCゲームを販売するなどで、「ゲームでお金を稼ぐ」ことにチャレンジしましょう。ゲームファンの手に届くまでやることはたくさんあります。小さなプロジェクトにおいて、この経験を積んでおくことが重要です。

小さな作品をリリースして力がついてきたら、クリアに数時間かかる中規模のゲーム制作に取りかかかりましょう。作品がメディアに紹介され、パブリッシャーと契約し、ベータ版ができたら、インディーゲームクリエイターとして独立を検討してもいい時期かもしれません。しかし、そのゲームがヒットするかどうかは誰にもわかりません。受託の仕事を少しもっておくなど、サブプランを常に用意しておくことが肝心です。 今後、漫画家やイラストレーターのように、受注仕事をしながらオリジナル作品をつくって発表する独立系ゲームクリエイターがますます増えていくと考えています。ぜひ皆さんも「インディーゲーム」という自己表現の可能性に触れてもらえれば幸いです。

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日本のインディーゲーム作例紹介

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日本のインディーゲーム作例紹介

多くの日本人クリエイターがインディゲームを開発していますが、その中でも本誌の読者層に近い3DCGを活用したタイトルを3つほど紹介します。

01 キャラクターも世界観もかわいいアドベンチャーゲーム
Title : ジラフとアンニカ

『ジラフとアンニカ』はEpic GamesのゲームエンジンUnreal Engine(以下、UE4)で開発されているアドベンチャーゲームです。開発者の「紙パレット」氏は、以前ゲーム開発会社でデザイナー職に就いていたのですが、本作をきっかけに独立しています。Epic Gamesは「Unreal Dev Grants」というコンテストを開催しており、インディーゲームクリエイターに対して最大5万ドルの開発補助金を出しています。本作もその対象作品です。また、パブリッシングはソニー・ミュージックエンタテインメントの「UNTIES」が担当しています。ソニー・ミュージックは音楽の世界で多くのインディーズを発掘してきましたが、UNTIESは新たにインディーゲームのレーベルとして昨年起ち上がったものです。

INFORMATION
開発:atelie mimina(紙パレット)
発売日:2018年(予定)
Platform:PC
www.giraffeandannika.com
©2017 by Kamipallet

02 海産物への愛があふれる格闘ゲーム
Title : カニノケンカ ~Fight Crab~

『カニノケンカ ~Fight Crab~』は、現在開発中の海産物格闘ゲームです。本作はUnityを使って開発されています。クリエイターの「ぬっそ」氏は、大手の開発会社を務めた後に独立し、「海産物になりたい」という己の欲望に忠実なゲーム作品を発表し続けています。この作品のひとつ前に発売された『ACE OF SEAFOOD』は、PCから始まり、Wii U、PS4、Nintendo Switchなどにもリリースされています。なおSwitch版はパブリッシャーを介さず、個人事業主としてセルフパブリッシングで発売しているそうです。本作は日本ゲーム文化振興財団の助成金獲得タイトルでもあります。

INFORMATION
開発:ぬっそ
発売日:2019年(予定)
Platform:PC
www.neoaq.net/games/fightcrab
©2018 Nussoft

03 背景アーティストがつくるウォーキングシミュレータ
Title : NOSTALGIC TRAIN

『NOSTALGIC TRAIN』は、UE4で開発されている小規模作品です。単線電車や田舎駅、小学校などが3DCGで再現されており、日本の田舎を再現した箱庭をゆっくりと歩き回る癒しの作品となっています。開発者は背景アーティストとして活躍している畳部屋氏で、本作はウォーキングシミュレータと呼ばれるジャンルに属します。人気の少ない情景を歩きながら、時折表示されるテキストやちょっとしたアイテムの収集などを通じて、ゲーム世界の物語性を体感するゲームジャンルで、海外でも人気です。

INFORMATION
開発:畳部屋
発売日:発売中
Platform:PC
store.steampowered.com/app/801260
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  • 月刊CGWORLD + digital video vol.241(2018年9月号)
    連載「アニメCGの現場」にて『詩季織々』CGメイキングを掲載!

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2018年8月10日