>   >  TAを増やす改善策は「余裕をもつこと」~若手テクニカルアーティストが大いに語ったラウンドテーブル~CEDEC 2018レポート(3)
TAを増やす改善策は「余裕をもつこと」~若手テクニカルアーティストが大いに語ったラウンドテーブル~CEDEC 2018レポート(3)

TAを増やす改善策は「余裕をもつこと」~若手テクニカルアーティストが大いに語ったラウンドテーブル~CEDEC 2018レポート(3)

8月22日(水)から24日(金)までパシフィコ横浜で開催されたCEDEC 2018。約8,000名の参加者を数える、国内最大のコンピュータエンターテインメントに関する開発者会議だ。本稿では200以上を数えるセッションの中から、「若手テクニカルアーティスト(以下TA)の育成とその役割について話すラウンドテーブル」のレポート記事をお届けする。

TEXT&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

新卒でTAになった6名の登壇者たち

CEDEC 2017の「若手テクニカルアーティストの業務効率改善への貢献、育成について話すラウンドテーブル」の内容を受けて実施された本セッション。会場では約40名の定員に対して100名以上が詰めかけ、改めて業界内での注目度の高さが示された。もっとも現役のTAは1/3以下で、人材不足が改めて浮き彫りになった。一方でTAを目指す学生の参加も見られるなど、新たな潮流も感じられた。

日本に紹介されて約10年が経過し、それなりに業界内の認知が進んできたTA職。特にPS4世代になり、物理ベースレンダリング(PBR)が一般化したことで、以前にも増して需要が拡大してきた。一方でコンソールだけでなく、モバイルゲームでも大作化とグラフィックの高品位化に伴い、TAの需要が拡大。つまり全方位的にTAの供給が不足しているのが現状だ。

こうした現状を象徴しているのが、新卒でTAになった開発者の存在だ。本セッションでも新卒TAが6名登壇し、自分たちのキャリアや仕事についてふり返った。一般にTAはある程度アーティストやエンジニアとしての研鑽を積んだ上でキャリアチェンジする「上級職」だとされる。しかし、新卒からTAとして採用されキャリアを積むケースが増加していることに対して、役職の定着が進んでいる様が窺えた。

●登壇者


左から
司会:今野達斗氏(ヘキサドライブ
2015年に新卒でTAとして入社。DCCツール用スクリプト・プラグイン・シェーダなどの開発業務を担当

中村 翔氏(スクウェア・エニックス
美大卒業後、2017年に新卒でTAとして入社し、『ファイナルファンタジーXIV』の制作に関わる。主にDCCツールのツール制作やデザイナー向けの環境整備などを担当。アーティスト寄りのTA

佐藤 嵐氏(スクウェア・エニックス)
理系大学を卒業後、2017年に新卒でTAとして入社。映像作品でDCCツールのプラグイン開発業務を担当する。他にエフェクトのデザイン業務も行う。プログラマー寄りのTA

田中博和氏(カプコン
学生時代は情報工学を専攻しつつ、フリーで背景イラストを制作。2016年に背景デザイナーとして入社後、通常業務のかたわらTA業務も担当。DCCツール開発・シェーダ作成・最新ツールの検証などを行う。アーティスト寄りのTA

竹谷 健氏(Cygames
2015年に新卒入社し、TAとしてワークフローの効率化を推進する。現在はモバイル/ハイエンドを問わず、社内共通基盤の整備を進めている。プログラマー寄りのTA

清水宣寿氏(セガゲームス
東京電機大学大学院修士課程を経て2016年に新卒入社。3DCG関連ツールのサポートや、業務の自動化ツールの開発などで、プロジェクトを支援する技術者として奮闘中。プログラマー寄りのTA

セッションは昨年度のふり返りからスタートした。今野氏は多くの参加者が「TAの必要性を感じているが、育成方法がわからない」と感じていることや、「各社ごとにTAの定義がバラバラで、ノウハウの共有が困難である」という問題意識を紹介した。その上で「技術とアートの両方の感性を共に伸ばすことが重要」、「若手TA志望者に目標をしっかりと明示させる」などの結論が得られたとまとめた。



若手TAの活用事例

セッションは前後半に分けられ、前半では「若手TAの活用事例」が議論された。はじめに共有されたのが登壇者6名が経験したTAとしての研修内容や、職務内容だ。

●中村氏(スクウェア・エニックス)
MayaとPythonを1ヶ月ずつ使用し、基本的な使い方を習得した上で、両者を組み合わせて簡単なツールを制作。それと並行してアーティストむけのドキュメント整備などを担当した。

●佐藤氏(スクウェア・エニックス)
CGプロダクションでのアルバイトや、インターンシップなどでツールプログラムやプラグイン開発を経験。入社後はMayaとHoudiniでデザイン研修を経た上で、業務でHoudiniを使用しながら研鑽を積んだ。

●田中氏(カプコン)
背景アーティストとして採用後、MayaとSubstance Painterの研修を半年間実施。一方で学生時代からTA志望だったため、上長に相談してTA向けの社内ミーティングに参加し、議事録を作成した。

●竹谷氏(Cygames)
Mayaでモデリング・スキニング・Unityでの実装などを3ヶ月間研修。その一方で先輩と共にアーティストの業務内容を見学した。その後、Mayaのファイルビューアを半年間かけて制作した。

●清水氏(セガゲームス)
社内で3DCGモデルビューアを作成し、モデルのインポータプラグイン開発を通して、データ形式について学んだ。その後、アーティストからの要望を咀嚼しつつ、ツールの制作実務へと進んでいった。


その後、会場も含めてディスカッションが行われた。印象的だったのはプログラマー出身のTAと、アーティスト出身のTAに関する育成方法のちがいだ。プログラマー出身者に対しては、先輩社員と共にアーティストの作業風景を見学したり、ヒアリング調査に同席するなどして、アーティストの考え方を理解することの重要性が聞かれた。

これに対してアーティスト出身者に対しては、田中氏から「アーティストと共に仕事をするTAも多いことから、現場で同じ作業を体験させることが重要」という意見も聞かれた。プログラマーとしてのスキルを積ませるよりも、アーティストの作業内容や、現状のボトルネックを体感させることが重要というわけだ。

また、竹谷氏から「アーティストからデータをもらって、実機にインポートする作業を若手TAにまかせる」というアイデアも紹介された。これによって若手TAはデータ形式や中身を自由に学べる。一方で作業が滞れば、自分がワークフローのボトルネックになりかねない。こうした立場を経験することで、業務の責任感が養われていく。

このほか清水氏から「若手には、先輩の時間をいかに効率化できるかという視点から、業務をまかせるといい」という意見もあった。1日で実装できるような規模で、優先度が低い作業からまかせることで、若手は経験を積むことができ、先輩は他の仕事に集中できる。これをくり返しつつ、徐々に大きめの案件を振っていくというわけだ。


会場からは「アーティストでTA志望だが、先輩から懐疑的な視線で見られている。自分の実力を証明するには、どのようにすればいいか」という質問もあった。これに対して佐藤氏は「ツール開発などを通して現状の問題を解決するなど、何かつくってみて実力をアピールするのが早道」だと回答。これに対して中村氏は「ツールをつくることが本質ではなく、ねらいや背景まで含めて理解し、周りに説明できるようになることが重要」だと補足した。

また、田中氏は「たくさんツールをつくってアピールしたが、上手く成果につなげられなかった」と明かし、「自分のやり方にあわせた効率化推進になっていた」と理由を分析した。そこで、なるべく多くのアーティストの作業を見学するなどして、汎用的なやり方を理解した上で、できるだけ多くの人に役立つツール開発を行うように努めたという。他に「インプット量が多い人が信頼を得られる。あらゆることに対して、専門家として認知されるように努力する」(竹谷氏)という意見も聞かれた。


司会の今野氏から会場のベテランTAに対して「若手TAが信頼を得られる方法」について逆に質問するシーンもあった。これに対して会場からは「技術やノウハウよりも、フットワークの軽さが重要」という回答が得られた。TAが集まるサポートチームであれば、タイトルの開発現場に直接行ってヒアリングし、実装するように努めていく。これをくり返していき、現場から直接指名がかかるようになれば一人前というわけだ。他に勤勉さやコミュニケーション能力の重要性を上げる声も聞かれた。

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