>   >  STUDIO4℃が緻密に描き出すポップ&バイオレンス〜仏・ANKAMA共同制作映画『ムタフカズ』(MUTAFUKAZ)
STUDIO4℃が緻密に描き出すポップ&バイオレンス〜仏・ANKAMA共同制作映画『ムタフカズ』(MUTAFUKAZ)

STUDIO4℃が緻密に描き出すポップ&バイオレンス〜仏・ANKAMA共同制作映画『ムタフカズ』(MUTAFUKAZ)

STUDIO4℃と仏・ANKAMAによる共同制作アニメーション映画『ムタフカズ』(MUTAFUKAZ)が10月12日(金)に劇場公開された。原作はフランスの漫画家ギヨーム"RUN"ルナール、アニメーション制作は日本で行われたという本作。舞台となった「ダーク・ミート・シティ」は、アメリカ・LAと南米の都市をミックスした架空都市で、フランス・日本・アメリカ・南米の様々な文化が絶妙なさじ加減で混ざり合った不思議な世界観がとても魅力的な作品となっている。本稿ではCGI監督を務めた坂本拓馬氏に制作の舞台裏を伺った。

TEXT_UNIKO
EDIT_UNIKO、小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

作品情報
10月12日(金)全国ロードショー
監督・絵コンテ:西見祥示郎(『鉄コン筋クリート』『バットマン ゴッサムナイト』)
監督・編集:ギヨーム"RUN"ルナール(バンド・デシネ「MUTAFUKAZ」原作者) 
作画監督:滝口禎一/美術監督:木村真二(『鉄コン筋クリート』『STEAM BOY』)/CGI監督:坂本拓馬/プロデューサー:田中栄子、アンソニー・ルー/アニメーション制作:STUDIO4℃/製作:ANKAMA
Presented by:パルコ、Beyond C./配給:パルコ/宣伝:モボ・モガ
©ANKAMA ANIMATIONS - 2017
mutafukaz.jp

「コミックらしいアニメーション表現」を追求した3DCG制作

10月12日(金)より劇場公開がスタートしたアニメーション映画『ムタフカズ』(MUTAFUKAZ)。「ムタフカズ」は「マザーファッカーズ」という意味の"とてもワルい言葉(スラング)"であり、そのタイトルが示す通りヒップホップ&ストリートカルチャー満載の作品に仕上がっている。そんな強烈な文化的背景とはうらはらに、ポップなキャラクターたちがくり広げる奇想天外なストーリー展開と美術監督の木村真二氏による美しい背景美術が魅力的かつ印象深い。

そんな本作はSTUDIO4℃と仏・ANKAMAの共同制作。原作者のギヨーム"RUN"ルナール氏は、ベルギーおよびフランス地域を中心とした漫画「バンド・デシネ/バンデシネ」で活躍中の漫画家で、映画化にあたっては日本のアニメに興味を抱いていたルナール氏の意向により、『鉄コン筋クリート』(2006)をはじめ数多くのアニメーション映画の制作を手がけているSTUDIO4℃に白羽の矢が立ったとのこと。

実制作(編集や音響は除く)は全てSTUDIO4℃で行われ、『鉄コン筋クリート』やショートアニメ『TURNOVER』(2015)などの制作にも携わった坂本拓馬氏がCGI監督を務めた。坂本氏は「監督の西見祥示郎さんと一緒にパイロット映像を制作したのはもう6年以上も前になります。その後、本制作の開始までに約1年を要し、再スタートから1年半ほどで本編をSTUDIO4℃で制作、制作したものをANKAMAに納品し編集・音響工程の後にようやく完成、という長い道のりを経ての劇場公開となります」と、制作当時の工程をひとつずつふり返りながら語ってくれた。


  • 坂本拓馬/Takuma Sakamoto

    CGI監督・演出。2001年スタジオ4℃入社。07年『鉄コン筋クリート』では、第7回映像技術賞、第11回日本映画テレビ技術大賞を受賞。多くのOVA・劇場作品でCGI監督を務める。主な作品に『魔法少女隊アルス』(CGI監督)、『Genius Party・デスティックフォー』(CGI監督)、『ベルセルク・黄金時代篇Ⅰ覇王の卵』、『ベルセルク・黄金時代篇Ⅱドルドレイ攻略』(演出)。2015年から京都精華大学マンガ学部アニメーション学科の教員を務める

    takumasakamoto.net

さて、本作の見どころのひとつとして、美しい背景美術が挙げられる。美術監督として、本作の舞台となった架空の都市「ダーク・ミート・シティ」の背景美術を担当したのは映画『スチームボーイ』(2004)、『鉄コン筋クリート』などを手がけ緻密な描写を得意とする木村真二氏だ。「LAや南米の街並みを写したリファレンス用の写真をとにかくたくさんもらったのですが、木村さんは道路の幅から道端に生えている植物にいたるまで徹底的に研究して描かれたようです。木村さんの背景は特別な存在なので、CGは"木村さんの描いた背景を貼る"ことを大前提として制作しました」と坂本氏は語る。

また、アニメ化にあたりルナール氏の描いた原作の世界を忠実に再現すべく、コミックらしいアニメーション表現を追求したという。「カーチェイスや銃撃戦のシーンはフルCGで制作したのですが、そういったCG制作においても原作に忠実に"コミックらしさ"を出すよう工夫しました。例えば、描画線を手描き風に緩ませたり、パースを極端につけたり動きを誇張させたり、コミックの平面的な良さを活かすため撮影効果を加えすぎないようにしたり。常に原作本を傍らに置いて制作していました」(坂本氏)。それでは、フルCGのアクションシーンをはじめとした制作の裏側を見ていこう。

TOPIC 1:フルCGの武装警官突入シーン


主人公アンジェリーノと同居人ヴィンスが暮らすホテルの室内で突如始まる武装警官との銃撃シーンは、本作の目玉となるアクションシーンのひとつだ。メインキャラクターのふたりは作画で描かれているが、そのほかのキャラクターは全てCGで制作されたハイブリッドなシークエンスとなっている。

「ワークフローは作画を先に進めてレイアウト作業をし、上がってきたレイアウトをスキャンして"CGの兵隊"という指示が入っている部分をCGチームでピックアップして制作。再度作画に戻して、作画でメインキャラクターや必要なものを入れていくという同時進行で作業を進めました。できるだけ自動中割りのようなCGっぽい絵が入らないように、キーフレームで1つずつ手で描くように手付けでアニメーションしています」(坂本氏)。

また、原作の雰囲気を再現するため、コンポジットの際にはAfter EffectsのVideo Gogh(ビデオゴッホ)」プラグインを使用。CGから出力した素材に手描き風の歪みを加え、作画とCGの質感のバランスを取るようにCGの綺麗すぎるフォルムをわざと崩している。



◼️武装警官と武器のモデル

左:兵士の手描き設定画。これを基に3Dのデザインを行う/右:設定を基に制作した武装警官のモデル。実制作は4年ほど前ということもあり、制作ツールにはSoftimage(以下、SI)が使われていた

武装警官のリグは、オープンソースのモジュールベースリグシステム「GEAR」を使用してセットアップした。左:コントローラのみ表示、右:ボーンとデフォーマ表示

左:シノプティックビューを表示した状態。右:武装警官の色彩設定。SIからアンチエイリアシングを切った状態で出力したモデルを色彩設計スタッフに渡し、設定を固めた。「色彩設計のスタッフ(伊東美由樹氏)は『鉄コン筋クリート』も担当していたベテランなのですが、本作はいきなり画面全体が赤くなったり白黒になったりするので難しかったのではないかと思います」(坂本氏)

武器の設定画と色彩設定

◼️背景

主人公・アンジェリーノと同居人・ヴィンスが暮らすサンタ・テレサ・ホテル777号室の美術設定【A】と背景ボード【B】

SIで制作した背景美術・レイアウト用ガイドセット。この3Dレイアウトから背景の原図出しを行うが、レイアウトの段階でテクスチャがある程度貼られているため、このテクスチャを背景担当者がレタッチして背景美術として仕上げる。カットによってはカメラマップ(背景動画)が発生するが、その際にも足りない部分のみレタッチで対応することができる

◼️シーン制作のながれ

シーン制作の一連のながれをまとめた動画。【1】作画レイアウト。大まかな動きの参考(ラフ原)や、作画になる部分と3Dになる部分の指示が入っている/【2】CGレイアウト。【1】を基にSI上でカメラアングルの決定、キャラクターの配置、ラフアニメーションを進めていく/【3】【4】アニメーション作業が完了した状態の3Dセル素材/【5】仕上げ済みの作画素材と【4】を合成して動きを確認する/【6】レンダリング済みの3Dセル素材と、仕上げ済みの作画素材/【7】アニメーション済みのCGキャラクターを使って、ICEによって構築した炎のエフェクトと、仕上げ済みの作画素材/【8】炎のエフェクトのレンダリング素材/【9】完成カット。背景美術、仕上げ済みの作画素材、3Dセル素材、3D炎エフェクトと撮影効果(T光、波ガラス、煙、炎の影響など)を足して完成となる

◼️コンポジット


After Effects(以下、AE)でのコンポジットでは、「ビデオゴッホ」というプラグインを使用してCG素材に手描きっぽい歪みを足している。SIで出力した3Dセル素材の影色【A】とノーマル色【B】、ハイライト色【C】(アンチエイリアシングはAE)/【D】【A~C】の合成時の塗り分け指定マスク(Rが影色・Gがノーマル色・Bがハイライト色)/【E】SIで出力したライン素材。AEではジャギーが出るためSIから出力している/【F】【A】【E】を全て合成した結果。ここまではSTUDIO4℃の自社スクリプトにより自動で構築/【G】線と塗りが手描き風になるようAEで歪みを加える。セルの大きさや動きによってかけ具合は調整/【H】歪みだけではセルのベタな質感が目立ってしまうため、ビデオゴッホを使って塗りムラを加える。くれぐれも目立ちすぎないように注意しつつ調整/【I】完成。武装警察以外にも車・モブなど3D素材は全て同様の手順を踏んでいる。なお、使用されたトゥーンシェーダについては後述する

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TOPIC 2:圧倒的物量のカーチェイスシーン

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