今年8月1日にリリースされた、統合型3DCGソフトウェア「Cinema 4D Release 20」。モダンなノードベースを採用した新たなマテリアルシステム、定評あるMoGraphツールセットの大幅な拡張など、最新版の使い勝手をC4Dユーザーとして高名な朝倉 涼氏がレビューする。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 244(2018年12月号)からの転載となります。

TEXT_Ryo Asakura(Seventhgraphics)
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

Cinema 4D Release 20
最低動作環境:Windows 7 SP1 64bit以降が動作するSSE3をサポートしたIntelもしくはAMD 64-bit CPU/macOS 10.11.6もしくは10.12.4+が動作する64bit CPUのIntelベースのApple Macintosh RAM:4GB(8GB以上を推奨)
グラフィックス:OpenGL 4.1 をサポートしたOpenGL グラフィックスボード(専用GPUを推奨)

問:MAXON Computer Japan
TEL:03-5759-0530
e-mail:info_jp@maxon.net
www.maxon.net/jp


斬新な各種機能によってさらに画づくりの幅が広がる

Cinema 4D(以下、C4D)がついにRelease20(R20)へとバージョンアップした。筆者の率直な感想は「従来の非常に使いやすいUIはそのままに、新機能も整理された状態で搭載されている」である。C4Dと言えば、主にモーショングラフィックスに強く、国内では特に個人や小規模プロダクションのデジタルアーティストに愛されている3DCG統合ソフトウェアという印象を抱かれがちであるが、昨今では海外の著名なクリエイターや有名プロダクションにおける導入事例が牽引するかたちでC4D自体はもちろんのこと、様々なプラグインやレンダラ、そしてユーザーコミュニティも洗練されてきている。世界中で導入事例が着実に増えつつあるのだ()。

今年8月にバンクーバーで開催された「SIGGRAPH2018」にて、本誌編集部がMAXONワールドワイド・セールスディレクターのフリーデリケ・ブルキャット女史に聞いたところ、2017年度は日本を含めたアジア市場では20%も成長したという

最新バージョンR20では、ユーザー視点に立った定評あるアップデートをさらに発展させた印象だ。主な新機能では、ノードベースのマテリアルシステム、ボリュームベースのモデリングツール、非常に強力なCADデータのインポート機能の実装。それらに加えて、GPUレンダラであるProRenderならびにMoGraphツールセットの大幅な拡張、モーショントラッキングシステムの強化。そして、CADデータとの連携やFBX、Alembic最新版への対応といった、外部ツールとの互換性の強化といった具合に、非常にパワフルかつクリエイターの創作意欲を刺激するアップデートが幅広く行われている。本稿では、特にモデリングやレンダリングといった基礎的な強化部分と、MoGraphフィールドという非常にパワフルな新機能を中心に紹介しつつ、最新バージョンの魅力を紹介していきたい。

<レビュー用マシンのスペック>

  • PC
  • 自作
  • OS
  • Windows 10 Professional
  • CPU
  • Core i7-6700K
  • RAM
  • 64GB
  • GPU
  • GeForce1080Ti×2

Topic 01
ノードベースのマテリアルエディタ

多種多様なノードを組み合わせることで複雑なシェーディングを簡単に構築

従来のマテリアルシステムとは別に、「Uber Material」という新機能として追加されたもの。まったく新しい機能ゆえ、戸惑うユーザーもいるとは思うが、Substance等のノードベースエディタに慣れている人であればわりとスムーズに受け容れられるはずだ。ノードひとつひとつの柔軟性も高く、シンプルなマテリアルをつくる場合に無理してノードをたくさん生成しなくても組み立てていくことができるため、まずは試してみることをオススメしたい。もちろん複雑なマテリアルを組む際にはひとつひとつのノードを考えながら組み立てていくことが可能で、なおかつ従来のExpressoのような計算式ノード等も豊富に用意されているため、かなり複雑な表現にも対応している印象だ。惜しむらくはProRenderにはまだ一部未対応なことや、内部処理によるベイクが必要なため、若干スピード感に欠けてしまう部分は否めない。とは言え、今後ProRenderをはじめとする外部レンダラも同様の設計思想に基づいたノードベースに統合されていくことは確実なので、今のうちから慣れておいても損はないだろう。

マテリアル作成の新たな可能性を提供

Substance等のノードベースエディタの使用経験や、Expressoを普段から使っているユーザーであればそれほど迷うことはないだろう。だが、文字通り新機能のため、各ノードの役割を覚えるのが少し大変かもしれない

Topic 02
OpenVDBベースのボリュームモデリング

ポリゴンモデリングでは難しい形状をプロシージャルに

ボリュームシステムを用いたモデリング機能「ボリュームビルダー」では、C4D内で使われるほぼ全てのジオメトリをボリュームとして扱い、その組み合わせによって柔軟なモデリングを可能にした。プリミティブはもちろんのこと、通常のオブジェクト・スプライン・パーティクル・さらには後述するフィールドとの組み合わせによって、様々な形状を最小構成から順序立てていくようなモデリングが行える。既存ユーザー向けにわかりやすく説明するなら「超高機能になったブール」と言ったところだろうか。

ボリュームビルダーで生成したボリュームはボリュームメッシュ化にてジオメトリに変換することでオブジェクトとして扱うこともできるほか、OpenVDB形式(.vdb)によるインポート/エクスポートも可能なので、外部で制作したボリュームを読み込んだり、作成したボリュームを連番.vdbフォーマットで書き出すことができる。同様の機能はこれまでにも存在したが、ハードサーフェス系のきっちりした形状はあまり得意ではなく、個人的にアブストラクト表現にとどまりがちな印象があった。だが、本機能ではかなりきっちりとした形状を制作できるため、例えば「プレス機で形成したような形状」をはじめとする、従来のポリゴンモデリングでは難易度の高い表現も手早く制作することができるはずだ。

ブーリアン操作で複雑なモデルを作成できる

アンモナイトの化石をモデリングした。表面の凹凸や化石の欠け感など、かなり細かいディテールまでつくり込むことができる

このようなシンプルな形状の集合体を基に構成されている。ボリュームビルダーの中でMoGraphをそのまま使用したり、リシェイプレイヤにフィールドを割り当てて凹凸を表現したりと、自由度の高いモデリングが可能になった

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Topic 03 MoGraph新機能「フィールド」

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Topic 03
MoGraph新機能「フィールド」

操作性と表現力をハイレベルで両立

フィールドは、これまでのMoGraphエフェクタのように、オブジェクトやクローナーをはじめとする様々な機能に対してエフェクトを加えられる機能となっている。「フィールド」は非常に感覚のつかみづらい概念ではあるが、端的に説明するならば「およそあらゆる機能に対応するMoGraphエフェクタ」といったところだろうか。従来のMoGraphエフェクタではクローナーをはじめとするMoGraphの機能内で使用することを主目的として開発されていたが(もちろん外部の機能にも利用できるのだが、今回は割愛する)、フィールドではさらにMoGraphエフェクタそのものにもデフォーマや頂点マップ、選択範囲など様々な箇所に影響し、かつレイヤー構造や重ねがけを駆使することによって、今までは作ることが難しかったアニメーションを、キーフレームをほとんど打つことなく生成することができてしまう。

前述したボリュームビルダーにも影響させることができ、ボクセルに対してフィールドの影響を与えることで手動でモデリングすることが難しい形状を表現することも可能だ。フィールドはおよそあらゆる場面で影響させることができるほか、フィールドという機能そのものも非常に自由度が高いが、何を反面どう作用させるかが難しく、しばらくは戸惑う部分も多いだろう(筆者も本稿を執筆している時点では把握しきれていない......)。いろいろ試しながら、「こんなことができたんだ!」という発見が多い楽しい機能でもあるので、手を動かしながら考えるタイプのクリエイターには非常に有効な機能とも言えよう。

複数のフィールドをグループ化し、個々に調整可能

従来のMoGraphよりもさらに柔軟なアニメーション構築が可能になった。簡易エフェクタ内にてレイヤー構造として各フィールドを調整できるため、従来までのMoGraphの重ねがけ以上に複雑な効果をシンプルに組み上げることができる

プロシージャルノイズをボリュームに転用

ボリュームビルダーとの連携によって、ランダムフィールドを用いてC4Dで使用可能なプロシージャルノイズをボリュームとして扱うことができる。これにより今までは難しかった自然物・有機物などの表現も手軽に制作できるようになった

海外の著名クリエイターによる利用例

マシュー・オニール氏が制作したフィールド機能を用いた作例(動画キャプチャ)

Topic 04
ProRenderの拡張

SSS、モーションブラー、マルチパス等の機能追加により、実用性が向上

前バージョン(R19)から搭載されたGPUベースのレンダラ「ProRender」が新規対応機能と共にさらに使いやすく、そして高速になった。昨今では様々なGPUレンダラが登場しているが、R19時点でのProRenderはお世辞にも使いやすいレンダラではなかった。しかし、R20からマルチパスへの対応やSSSへの対応、各種モーションブラー&グラフィックスボードのメモリに依存しないアウトオブコアメモリへの対応、シャドウキャッチャーの搭載等、かなり実践的なレンダラへと進化を遂げた。特にSSSは非常に高速で美しく、従来のSSSマテリアルがそのまま使用できるため、大きく表現の幅が広がるだろう。また、多くのレンダラがNVIDIA系列のGPU しか動作しないことに対し、ProRenderではAMD系のGPUにも対応しているため、Macユーザにとってはかなり心強いレンダラとなるだろう。もちろんGPUレンダラとしてリアルタイムプレビューをしながらのシーン構築が可能なため、これまで他のGPUレンダラを使用できない環境にいたクリエイターにとっても心強い存在のはず。GPU性能にもよるがレンダリング速度もそれなりに速く、非常に美しいレンダリング結果を得ることが可能だ。反面、プレビュー時のジオメトリやマテリアルの更新等の遅さはやや気になる部分のため、今後の改良に期待したい。

サブサーフェス・スキャタリングのリアルタイムプレビュー

アンモナイトを樹脂で型取りしたようなマテリアル。ProRenderのSSSならば比較的美しい状態でリアルタイムで確認しながら調整可能。SSSの設定もシンプルなため、戸惑いは少ないだろう

R20新機能を組み合わせたシズルの表現

米粒はMoGraph+ボリュームビルダーにて生成、ごはんと味噌汁(具なし......)のマテリアルはSSSで作成している。C4Dではこうした複合技で素早く密度の高いシーンをつくることができる

そのほかの注目機能

ほかにも新機能、強化された機能があるので最後にいくつか紹介しよう。

まずは「マルチインスタンス」である。従来のインスタンスでは扱いきれなかった大量のインスタンスを生成することができる。また、インスタンスの表示方法を変更することで、ビューポートの描画が極端に重くならず、それどころか10万インスタンス程度ならかなり軽量に調整することが可能だ。もちろん複数のオブジェクトやアニメーションにも対応したインスタンス機能なので、例えば群衆や大量の動物の表現など、これまでは制御の難しかった大量のオブジェクト制御が可能となった。ProRenderにも対応しており、プレビューもそこそこスムーズである(ただし初回の計算のみ、それなりに時間がかかる傾向にはある模様)。

R20からモーショントラッキングのワークフローが改善された。これまでのモーショントラッキング機能では難しかった複雑なトラッキングを、さらに整理されたUIにて強化しているため、実写との合成案件などの際に非常に力強い機能になってくれるだろう。また、R20からはレガシー機能が整理されており、未来のC4Dに向けてコアを改修している。そのため、旧来型の一部プラグインは再コンパイルが必要になったり、使用不可になったものもあるのだが、それと同時により安定して高速なソフトウェアへと進化している。いわばレガシー機能に代わる新たな開発ツールやAPI等の改修が行われており、プラグイン開発者やスクリプトを多用するユーザーにとっては、より開発のしやすい環境になったと言えよう。今後のC4Dにもひき続き期待したい。

マルチインスタンスでアンモナイトのモデルを2万個複製したもの。アンモナイトのモデルはボリュームビルダーから生成したため63万ポリゴンほどあり、合計ポリゴン数を考えると恐ろしい。テスト時には10万個くらいの複製までは、それほど動作が重くならなかった印象である



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.244(2018年12月号)
    第1特集:映画『HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』
    第2特集:エンバイロンメント 2.0
    定価:1,361(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2018年11月10日