アジア最大規模の映像コンテスト「DigiCon6 ASIA Awards」が今年第20回を迎え、11月17日(土)東京・丸ビルホールにて授賞式が開催された。参加国は増え続け、今年は中国・台湾、インド、インドネシア、香港、日本、韓国、マレーシア、シンガポール、スリランカ、タイの12の国・地域を数える。アジア各国・地域から多様な才能が集った授賞式の様子をレポートする。

TEXT_横小路祥仁(いちひ) / Yoshihito Yokokouji(ICHIHI
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_DigiCon6 ASIA 事務局、横小路祥仁

プロ・アマ問わず、アジアの気鋭が集う映像の祭典

「DigiCon6 ASIA Awards」はアジアのデジタルコンテンツクリエイターの発掘と育成を目的として2000年から開催されている映像コンテストで、今年で20回を数える。15分以内の短篇作品であればCGアニメーション(2D/3D)、ストップモーション/クレイアニメーション、実写映像など表現方法は問わず、またアジア出身、在住、もしくはアジアで制作された作品であればプロ/アマ、年齢なども一切問われない。日本国内のみの募集からスタートした第1回から徐々に規模を拡大し、今年は12の国・地域が参加するなど、アジア最大規模の映像コンテストとして成長を続けている。

本コンテストは、まず各国内で優秀作品が選出され、それらの中からDigiCon6 ASIA Awardsの各賞が審査によって決定する、というしくみだ。審査員にはポリゴン・ピクチュアズ代表取締役社長の塩田周三氏やI.TOON代表の伊藤有壱氏、韓国の映画監督クァク・ジェヨン氏など、錚々たる顔ぶれが名を連ねる。

Regional Gold(各国金賞)

まずはじめに、国ごとの金賞作品が発表された。カンボジアGoldはPhann Sokheng氏の『The Drug』。都会のストリートを舞台に、薬物の脅威と再生への希望を描いた作品。カンボジアは国としては昨年に続いて2回目の参加となる。

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  • Phann Sokheng氏(左から2人目)

続いて、インドネシアGoldはBryan Arfiandy氏、Jason Kiantoro氏の『Life of Death』。死神へのインタビューというユニークなドキュメンタリー形式、過酷な労働に愚痴をこぼす死神など、死にまつわるブラックユーモアが高く評価された。

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  • Bryan Arfiandy氏(中央)、Jason Kiantoro氏(右)

中国Goldは『Hundred Miles Red』(Zheng Wu氏、Huang Liying氏、Shen Jiawen氏)。全ての面で細部までつくり込まれた作品。鮮烈な赤を主軸に、黒、黄色といったコントラストに加え、力強い音楽も印象的な美しい作品。7分に満たない短い尺で壮大な叙事詩と喪失感を描ききったと評価された。

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  • Zheng Wu氏(左)、Huang Liying氏(右)

マレーシアGoldには現地CGプロダクションThe R&D Studioの『Batik Girl』が輝いた。アニメらしい豊かな表現力で、アニメの概念そのものに迫る作品と評価された。

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  • ジュナイディ氏(The R&D Studio/写真右)

インドGoldはSomnath Pal氏の『Death of a Father』。映画のリアリズムの伝統を踏襲し、日常を見事に描写した類い稀な作品。アニメならではのミニマルな表情と緻密なディテールが描かれている。何重にも重なる形式と感情面を綴っていくことで、自然の摂理である死が、そこに意味を見出すための儀式に組み込まれているところを描いた。

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  • Somnath Pal氏

韓国GoldはChoi Yujin氏による『Love Spark』が選出。アニメーションは優れた想像力があればどんなものにも命・個性を吹き込むことができるということを証明した。オス型、メス型プラグが回路を繋ぎ電球を灯すことで愛の成就を表現するというコミカルなスタイルを取りつつ、感動を呼び起こす秀逸なCG作品となっている。

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  • Choi Yujin氏(中央)

台湾GoldはLiu, De-wei氏の『Robots' Design Academy』。人型ロボットを通じて人間らしさを考えさせる力を秘めた作品。

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  • Liu, De-wei氏(右)

スリランカGold『Song of the innocent』(Dananjaya Bandara氏)は、いじめをテーマにした実写作品。いじめをなくすために何ができるのか、そんな議論のきっかけになる力をもっていると評価された。

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  • Dananjaya Bandara氏

シンガポールGoldは南洋理工大学のDavide Benvenuti氏による『APPLE OF MY EYE』。ピクサー作品を彷彿とさせるコミカルなCGアニメーション。色鮮やかで楽しい作品と評価された。

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  • Davide Benvenuti氏(右)

そして、香港Goldは『Infidelity』(FUNG'S PRODUCTION HOUSE)。力強いブラックユーモア、意外性のあるビジョンが印象的で粋な作品。

タイGoldはNatunyarat Klinruang氏、Supakorn Permpoontaweechai氏による『VIRTUAL』が受賞。比喩をふんだんに使い、今日の社会における本当の心理を反映したクレイアニメ作品。社会で働きはじめた若者の夢をテーマとしているという。

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  • Natunyarat Klinruang氏(中央)、Supakorn Permpoontaweechai氏(右)

最後に、ジャパンGoldには見里朝希氏の『My Little Goat マイリトルゴート』が選ばれた。幾重にも描かれたストーリーでくり返し観たくなる作品。

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  • 見里朝希氏(右)

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DigiCon6 ASIA Awards

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DigiCon6 ASIA Awards

続いて、DigiCon6 ASIA Awards各賞の発表が行われた。「DigiCon6 ASIA Marunouchi」は、丸の内というエリアのように多様性に満ち、新しい価値を生み出せるような作品として、平松 悠氏の『毎日は踊りたいことだらけ(Dance to life)』に贈られた。作品は、丸の内周辺100箇所の丸の内ビジョンで放映される。

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  • 平松 悠氏

DigiCon6 ASIA Audience Choice(観客賞)」は各地域で選ばれた応募作品をDigiCon6特設サイトに掲載し、世界中から誰でも気に入った作品に投票できるというシステムで選ばれる。今回、全1,000票中300票を集めた『Liberty in a rut』(チームAtthahi/タイ)が受賞した。

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  • チームAtthahiのみなさん

DigiCon6 ASIA Special Mention

DigiCon6 ASIA Special Mentionは審査員が気に入り、審査会を盛り上げた作品に贈られる。今回はタイのNichakarn R.D.Choke氏による『Little Big Mess』が受賞した。この作品を特に推した審査員の伊藤有壱氏は「微笑ましくニヤッとさせられるリアリティの中に日常に潜む恐怖を感じさせ、それをユーモアをもって描いた点に可能性を感じた。とても愛すべき作品」と賛辞を述べた。

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  • Nichakarn R.D.Choke氏

DigiCon6 ASIA Next Generation

みずみずしい印象と力強いインパクトを与えた作り手に、今後の映像業界に影響を与えることを期待して贈られる賞。今回は香港の『Kin's Hair』(Chan Kwun Chung氏、Chang See Wan氏、Wong Tsz Yin氏)が選ばれた。

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  • 左から Chan Kwun Chung氏、Chang See Wan氏、Wong Tsz Yin氏

Silver Awards

続いてSilverの各賞が発表された。秀でた美しさと他とは比べられない独創性をもつ優れたアーティスティックな作品に贈られる「DigiCon6 ASIA Silver - Innovative Art(優秀美術賞)」。選出されたのはインドネシアの『One and a Half』(Raffael Arkapraba Gumelar氏、Michaela Clarissa Levi氏、Robert Sunny氏)。審査員を務めた香港のアニメーションディレクターChe Ying Lo氏は「シンプルだが非常に美しく心が惹きつけられる作品。母親と息子との心理を火山の溶岩にたとえる点が印象的」と高く評価した。

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  • 左から Raffael Arkapraba Gumelar氏、Michaela Clarissa Levi氏、Robert Sunny氏

DigiCon6 ASIA Silver - Best Technique(優秀技術賞)」は、表現とマッチした手法やチャレンジングな技法を使っているなど、テクニカルに秀でた作品に贈られる。今回は『Saturday's Apartment』(Seung Bae Jeon氏/韓国)が獲得。ストップモーションでありふれた穏やかな日常を描ききり、マンガチックな表現を使いつつも料理の匂いまで感じさせるようなリアリティを演出することに成功していると評価された。

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  • Seung Bae Jeon氏(右)

土地、風土、故郷から生まれるアジアならではのオリジナリティに溢れた作品に贈られる「DigiCon6 ASIA Silver - Asian Perspective(アジアからの視点)」。スリランカの作品『Turn』(W.M. Aravinda Wanninayake氏/スリランカ)が受賞した。スリランカからのDigiCon6への参加は初めてであり、初出場で初受賞の快挙となった。塩田周三氏は「作家にとても会いたくなる作品。スリランカで農民の方々が直面する問題を静的に描きつつ、音声で情景を豊かに演出し、さらにねらったのか偶然なのか、微妙な時空のズレを感じさせる不思議な空気感もある。どうつくったのか聞きたいことがたくさん出てくる作品」と高く評価した。

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  • W.M. Aravinda Wanninayake氏

Gold Awards

いよいよ残すはGold Awardsのみというところで、審査員から興味深い発表がなされた。Gold Awardsの専攻に際しては非常に白熱した議論がくり広げられ、グランプリと審査員特別賞の日本の他に、どうしても賞を贈りたい作品がひとつ残り、そのために今回新たに「DigiCon ASIA Rising Star」が設けられることとなった。「才能ある未来の期待の星に贈る」というコンセプトだが、急遽決まったため賞状、トロフィー、副賞はない。ともあれ、審査員からそこまで気に入られた作品は、インドネシアGoldを獲得した『Life of Death』であった。カートゥーンを見ているようなシンプルな絵柄は親しみやすく、ドキュメンタリーというアニメーション作品では珍しい形式を取り、その独創性とユーモアセンスで審査員を虜にしたようだ。

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Gold Awardsの2賞は12のRegional Gold受賞作品から選ばれる。まず「DigiCon6 ASIA Gold - Special Jury(審査員特別賞)」は、日本Goldを受賞した『マイリトルゴート』が獲得。土井裕泰氏(TBSテレビ ドラマ制作部)は、「いろんな意味でプロフェッショナルな作品。独自の世界観があり、ダークファンタジーの中に現代的なリアルなテーマが込められ、見るたびに新しい発見・解釈があって誰かと語りたくなる。観る喜びを与えてくれる作品」と絶賛した。見事受賞した見里氏は、「DigiCon6を通じて様々な作品に触れるうち、まだまだ自分の作品には改善点があることに気づいた。これまで採り入れなかった手法にも挑戦して新たな作品を制作し、機会があればまたDigiCon6に参加したい」と今後の意気込みを語った。

そして、栄えある「DigiCon6 ASIA Gold - Grand Prize(グランプリ)」は、白熱した議論の末に『Death of a Father』に決定した。審査員長の杉野希妃氏は「ドキュメンタリーを観ているような地味で淡々とした内容に驚き、もう一度観て、"親しい人の不在"という誰もが経験する生の儚さをリアリスティックに切り取り、伝統的なながれに現代的な感覚を添えてとても繊細に表現していることに驚かされた。これはアニメーションにおいて非常に野心的な試みなのではないか。目の動き、手の震え、そういったひとつひとつの細やかな表現が目に焼きつき、深い余韻が残る作品」と語った。インド作品としては初のGold Awards受賞という結果を残し、授賞式は幕を閉じた。

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DigiCon6 ASIA Awards 概要

スケジュール
・一般作品募集期間:3月5日(月)12:00〜7月31日(火)24:00
・Youth作品募集期間:4月2日(月)12:00〜8月31日(金)24:00
・JAPAN Audience Choice 投票期間:9月21日(金)13:00〜9月30日(日)18:00
・ASIA Audience Choice 投票期間:10月13日(土)18:00〜10月28日(日)18:00
・JAPAN Awards:10月13日(土)東京都写真美術館
・ASIA Awards:11月17日(土)丸ビルホール

後援:総務省/外務省/東京都
ALL ASIA パートナー三菱地所丸ビル/Inter BEE/アビッドテクノロジーワコムコニカミノルタ
協賛
ボーンデジタルレイBS-TBS
Youth部門 協力ライフイズテック

審査員(敬称略):
杉野希妃(女優 / 映画監督 / プロデューサー)
塩田周三((株)ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役社長)
土井 裕泰(TBSテレビ ドラマ制作部 演出家 / 映画監督)
リチャード・ウィリアム・アレン(香港城市大学 クリエイティブメディア学部長 映画&メディアアート教授)≪香港≫
ヨセプ・アンギ・ノエン(映画監督)≪インドネシア≫
クァク・ジェヨン(映画監督)≪韓国≫
ネコ・ロー・チイン(アニメーション・プロデューサー / ディレクター )≪香港≫
伊藤 有壱(アニメーションディレクター)
沖田 修一(映画監督)
片桐 仁(俳優 / 彫刻家)
竹内海南江(リポーター / デザイナー)
久保田 直(映画監督 / TVディレクター)
野村 辰寿(アニメーション作家 / 多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授)

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