映像・CGコンテンツの企画制作・コンサルティング・プロジェクト構築・講演などを手がけるGUNCY'Sは2018年1月23日、「CGスタジオ スタートアップサロン Vol.1」を東京・茅場町のFinGATE KAYABAで開催した。セミナーはいきなり交流会から始まり、参加者が飲食や交流をしながら講演に耳を傾けるという異色のスタイルで進行。個人事業主や小規模スタジオの経営者など約40名が参加し、バックオフィス業務に関する知見の収集や、ネットワーキングづくりなどに勤しむ中、「GUNCY'S流バックオフィス術」、「スタートアップのための税務講座」、「スマホで1日5分のフリーランス経理術」、そして「FinGATEの紹介」の講演が行われた。

TEXT & PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

<1>GUNCY'Sの多彩なツールを組み合わせたバックオフィスシステム

小一時間ほどの交流タイムを経て、はじめに登壇したGUNCY'S代表取締役の野澤徹也氏は「GUNCY'S流バックオフィス術」と題して講演を行なった。野澤氏は「面倒なバックオフィス業務は全て外注すれば良い、という考え方もある」と前置きしつつ、「一般常識がないのに『軍師』を名乗るのは避けたかった」と説明。2015年に設立され、今年で4期目を迎える中で、どのような考えでバックオフィス業務の効率化を進めてきたかについて解説した。


野澤徹也氏(GUNCY'S)

はじめに野澤氏は「どのようなバックオフィス業務があるか具体的に書き出し、それらをツールを使って効率化していくプロセスで業務改善を行なっていった」とあかした。その結果、ひとまず下記のようなしくみに落ち着いたという。

他にプロジェクト管理ツールのWrike、ファイル共有ソフトのBox、チャットツールのslackなど。これらを互いにスクリプトで連携させている。



具体的には協力会社・クライアント・顧問弁護士・顧問税理士とは、それぞれSlackで共有チャンネルを作成し、リアルタイムで情報を共有。契約書もクラウドサインを使用し、顧問弁護士のチェック済み契約書をテンプレート化して再利用したり、過去の契約書をPDF化してクラウドで管理する。複雑なプロジェクトマネジメントもWrikeを使用すれば簡単に「見える化」でき、マイルストーンの計画を立てやすい。いずれもツール同士の連携を進めることで、さらに便利に活用できるという。

また、今や欠かせない存在となったのが、クラウド会計ソフトfreeeScanSnapの組み合わせだ。領収書の類いはその都度スキャンして内容を読み取り、freee上で記帳されるしくみを構築していると語った。

もっとも、こうしたツールの導入に際しては、しばしば現場の無理解や導入拒否といった現象がみられる。しかし野澤氏は「新しいツールにどんどんさわっていかなければ、進化が止まってしまう」と警鐘を鳴らした。1つのツールやソリューションに慣れることで、業務が最適化するメリットも理解できるが、どんどん新しいものを取り入れることが、リスク軽減につながるともいう。「もともと新しいものが出たら、試さずにはいられない性格が役立っています」(野澤氏)。


このようにバックオフィスのタスクが棚卸しできれば、あとは「毎月発生するもの」、「突発的に発生するもの」、「年に1回発生するもの」などと分類し、年間計画が立てられるようになる。こうなってはじめて、外注するものは外注すればいいと指摘した。よくわからないうちに外部の業者に丸投げしては、コストがかかるばかりで、個人事業主や起業仕立てのスタジオには向かないというわけだ。その上で「バックオフィス業務は個々でやるより、まとめてやったほうが効率的」と語り、協力の必要性を訴えた。

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<2>確定申告からオフィス探しまで、その道のプロが徹底指南

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以後、「スタートアップのための税務講座」(公認会計士・税理士/野口剛氏)、「freeeで1日5分のフリーランス経営術」(freee花井一寛氏)、「FinGATEの紹介~オフィス移転の実務について~」(平和不動産 荒 大樹氏)と講演が進んだ。


野口 剛氏(公認会計士・税理士)


花井一寛氏(freee)


荒 大樹氏(平和不動産)

野口氏は個人事業主を対象に、青色申告時の注意点について説明した。野口氏は「確定申告期間は2019年2月18日から3月15日まで」として、申告に必要な書類や経費に相当する内容などについて説明。また「多少売上を少なめに申告してもバレない」、「売上が1000万円未満の場合は税務調査は来ない」、「そもそも個人事業主には甘い」、「領収書があれば全て経費にできる」、「バレたらそのときに払えば良い」といった風説にまどわされないように、プロの視点で注意を促した。

一例として、税務署は銀行口座などを事前にチェックできる権力が与えられているため、ある程度の確証をもって税務調査を行なっていること。その上で過少申告が発覚し、売上が1000万円を超えれば、その時点で消費税の納付義務が発生し、追徴課税が見込めるため、実は1000万円付近の個人事業主は「美味しい存在」なのだという。さらに、過去7年間にわたって納付義務が発生するため、小規模スタジオの場合は過少申告が発生した時点で債務超過に陥る例も少なくないと警鐘を鳴らした。


最後に税理士の選び方について、野口氏は「都内であれば、どの駅の周辺にもけっこういるし、税理士会からも紹介してもらえるので、気軽に問い合わせてみて欲しい。初回面談時は無料の場合も多い」とした。また報酬については、会社の規模や取引内容によって変化し、人間だから相性もあるとして、「迷ったときは人柄で決めるのもアリ」だとコメントした。


また、freeeの花井一寛氏は自社サービス「クラウド会計ソフトfreee」を活用した、フリーランス向けの経理術について説明した。同サービスはクラウド上でデータが管理され、スマートフォンでもPCからでも記帳が可能だ。テキスト読み取り機能もあり、領収書をカメラで撮影するだけでデータが記帳される(必要に応じて人間が読み取りミスを修正する必要はある)。これにより経理作業につきものの「紙の情報を一箇所に集めるのが大変」、「入力するのが大変」という問題を一気に解決できるというわけだ。

なお、フリーランスの経理は主に「売上」、「経費」、「固定資産」の3種類に分類される。このうち売上についてはfreeeで請求書を作成して送付し、インターネットバンキングを同期させれば、自動的に記帳される。経費も銀行口座やクレジットカードの口座を同期させ、領収書類をスマホで撮影すれば、自動仕分けや記帳が行われる。固定資産も物品を購入した際に固定資産台帳に入力すれば、自動的に減価償却費が計上されるしくみだ。boardなど主要請求書サービスとも連携している。


また、花井氏は「フリーランスの場合、事業費と帳簿で残高が異なっている例が多い。両者は同じでなければならない」と継承を鳴らした。自宅兼オフィスなどで、事業用と個人用の銀行口座やクレジットカードが一緒になっている場合、こうした事態に陥りやすい。対策として花井氏は「両者を分けること」、「分けられない場合は、何が経費で何が経費ではないか、きちんと振り分けること」、「現金をできるだけ使用しないこと(全て事業用のクレジットカードで決済)」を推奨した。


最後に荒氏は平和不動産の概要について紹介しつつ、スタートアップから上場まで必要に応じてオフィスを移転する際、どのような点を心がければ良いか説明した。同社は全国の証券取引所ビルを所有する不動産デベロッパーで、特に首都圏では茅場町一帯でスタートアップの成長支援プラットフォーム「FinGATE」を展開。それが縁で今回の会場提供も行なったという。また、イベントや勉強会などの場所を提供しており、IT関連のコミュニティ活性化にもひと役買っている。

はじめに荒氏は「働き方改革などでリモートワークが広がる中、改めてオフィスを所有する意義が問われている」と指摘し、ABW(アクティブ・ベースド・ワーキング)という考え方を紹介した。いつでも、どこでも働ける時代では、オフィスで働く行為自体に付加価値が必要となる。そのためにはチームによる知識創造に特化した環境へと、オフィスを変貌させなければならない、というわけだ。その上でオフィスごとの特徴を見極め、ライフスタイルを整合させることが重要だとした。


また、オフィス探しは「いかに良い営業に出会うかが重要」だとした。個人の家探しと異なり、情報の入手法法などが限られているからだ。その際、スタートアップや中小企業、大手企業など、会社の規模や方向性によって得手不得手があるため、いくつかの業者に相談してみると良いという。他に最低限のコスト感やスケジュール感は理解しておいてほしいと呼びかけた。経営者によっては契約日が入居開始日と勘違いし、問題になることがあるという。

「契約を済ませてから内装工事などを行う例が多いため、入居できるのはずっと後になります。退去される場合も現状復帰が原則で、そこまで家賃がかかります。ご注意ください」(荒氏)。

講演がひと通り終了すると、ふたたび交流タイムとなり、参加者間で様々なネットワーキングが行われた。GUNCY'Sの野澤氏は開催理由について「当社も設立時にバックオフィス業務をいかに効率良く行うかで、たいへん苦労した。こうした勉強会を通して知見が共有できれば、業界も盛りあがるし、当社にとってもネットワークが広がる」とコメント。今回やってみて評判が良いようであれば、ぜひ今後も続けていきたいと意欲を示した。