2月9日(土)より全国劇場にて上映開始となった『コードギアス 復活のルルーシュ』。ナイトメアフレーム(Knight Mare Frame/以下、KMF)と呼ばれるロボットによる戦闘は本シリーズの見どころのひとつで、シリーズ最新作である『コードギアス 復活のルルーシュ』のKMFは、中田栄治氏(KMFデザイン/総作画監督)や中谷誠一氏(総作画監督)をはじめとするアニメーターによる作画と、サンライズD.I.D.スタジオ(以下、D.I.D.スタジオ)によるCGを混ぜ合わせた表現が試みられた。本記事では、D.I.D.スタジオへの取材を通して、本作に携わったCGスタッフの仕事を以下の全3回に分けてお伝えする。

No.1 ランスロットsiN 編
No.2 ゲド・バッカ 編
No.3 月虹影 編

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

▲大ヒット上映中PV(90秒)


▲左から、中尾慎一郎氏(CG制作デスク)、熊野祐介氏(3DCGアニメーションチーフ)、井上喜一郎氏(CGプロデューサー)、長嶋晋平氏(3DCGチーフ)

100カット近くで、CGのKMFコックピットを使用

本作には、No.1 ランスロットsiN 編で紹介したランスロットsiN、紅蓮特式、ナギド・シュ・メイン、No.2 ゲド・バッカ 編で紹介したゲド・バッカなど、多彩なKMFが登場する。しかし全てのKMF表現にCGが使われているわけではない。「出番が少ない、アクションシーンがないなどの理由で作画負荷が低いKMFは、作画のみで表現しています。一方で、作画負荷の高いものほどCGの活用を提案しました。中には、外装は作画、コックピットはCGで表現したKMFもあります」(井上氏)。

ヘリコプターや列車なども加えると、本作でつくったCGメカの総数は約30点、KMFのコックピットは7点にのぼった。本作ではKMFによる戦闘シーンにかなりの尺が割かれているため、コックピットが登場するカットも多く、100カット近くでCGのKMFコックピットが使われている。

以降では、月光影(げっこうえい)のコックピットが登場するカットのメイキングを紹介する。月光影は本作終盤でルルーシュとC.C.(シーツー)が搭乗する大型KMFで、作戦立案・指示伝達に用いられた。まだ未完成、上半身のみのKMFという設定で、派手なアクションシーンは描かれないため、外装が映るカットは作画で表現された。その一方で、コックピットは登場カットが多いのに加え、様々なカメラワークで描かれるため、CGで表現されている。「ルルーシュとC.C.が月光影に乗り込むシーンは、どこまで作画で表現し、どこからCGで表現するか、練馬スタジオと相談しながら落としどころを探りました」(中尾氏)。

カット1066の制作/コックピットを俯瞰で映すカット

▲カット1066のラフ原画。月光影のコックピットを俯瞰(ふかん)するカット。前方のシートにC.C.、後方のシートにルルーシュが座る。本カットでは、3DCGでつくられたコックピットに、作画のC.C.とルルーシュが合成されるため、両者のパースを合わせることが求められた。なお、本カットのコックピットは止め絵(1枚絵)で表現されている


▲カット1066のCG初期テイクの画像


▲カット1066のCG完成テイクの画像。先の初期テイクに影とハイライトが追加され、質感が表現されている。「影もハイライトも、モデリング段階で1度はOKになったのですが、カット単位で調整が必要になりました。コックピットはメインキャラクターと共にクローズアップで映されるので、特に目立つ要素です。自ずと作画監督さんたちの指示も細かくなりました。3DCGだけでリテイクに対応するのは難しかったので、最終的には10人ほどの2DCGスタッフにも加わってもらい、Photoshopで1枚ずつ影とハイライトをレタッチしています」(井上氏)


カット1072の制作/コックピットを前方から映すカット

▲カット1072のラフ原画。【左】月光影のコックピットを前方から映すカット/【右】前方のシートにC.C.、後方のシートにルルーシュが描かれている。本カットのコックピットも止め絵で表現された


▲カット1072のCG初期テイクの画像


▲先のCG初期テイクに対する修正指示


▲カット1072のCG途中テイクの画像。初期テイクよりも広角気味の画になっている。レイアウトはこれで完成となり、以降は質感修正が行われた


▲カット1072のCG途中テイクの画像。影とハイライトが追加されている


▲カット1072のCG完成テイクの画像。先のテイクから、メインの光源の位置が上方に変更されており、影とハイライトの位置も大きく変わっている。本カットでも、Photoshopを使った修正が併用された。最終的にどんな絵がほしいのか、3DCG制作の段階では明示されていなかったため、テイクを重ねながら答えを探っていくことが多かったという。「過去のプロジェクトでは、提示されたゴールに向かってシステマチックにつくることが多かったのですが、本作は勝手がちがいました。『ちがう』と言われたとき、何がちがうのか、われわれの方で考えることが期待されていたように思います。とはいえ考えても答えがわからず、教えてもらいに行くこともありました」(井上氏)。実際のところ、ゴールを明確に示すことは容易ではなく、それなりに手間も時間もかかる。それをする余裕のない環境では、双方の歩み寄りが必要だったということだろう

©SUNRISE/PROJECT L-GEASS Character Design ©2006-2018 CLAMP・ST

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カット1079の制作
コックピットを後方から映すカット

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カット1079の制作/コックピットを後方から映すカット

▲カット1079のラフ原画。ルルーシュの視点で描かれるカットで、月光影のC.C.のコックピット前方にあるモニターを映す画から始まり、カメラがズームアウトしてC.C.の後頭部とシートの背面を映す。カメラのズームアウトが終わった後、C.C.がふり返る


▲カット1079のCG初期テイクの画像


▲同じく、カット1079のCG初期テイクの映像。モニター映像が貼り込まれ、作画のC.C.のラフ原画が追加されている


▲先のCG初期テイクに対する修正指示


▲カット1079のCG途中テイクの画像。初期テイクよりも広角気味の画になっている


▲カット1079のCG完成テイクの画像。コックピットに影とハイライトが加わり、モニターが貼り込まれ、作画のC.C.も追加されている


▲同じく、カット1079のCG完成テイクの映像。観客の視線を、モニターからC.C.へとスムーズに誘導するカットに仕上がっている

モブ、メカ、Cの世界など、KMF以外のCGの用途

最後に、本記事の本筋からは外れるが、本作におけるKMF以外でのCGの用途も紹介しよう。ここまでに紹介したKMF表現に関しては、総作画監督の中田氏と中谷氏、作画監督の重田 智氏ら、本作のメカ作画を支えた作画監督たちのこだわりが際立っていたようだ。一方で谷口監督は、作品全体のながれを抑えてくれれば、その中での表現は作画監督に任せるというスタンスだったという。「KMFのアクションよりも、モブ(群衆)の演技や、場面転換のときのメカの動きなどに対する説明の方が具体的だったように思います」(熊野氏)。詳しくは後述するが、特に本作のモブ表現ではCGの利点を活かした細やかな演出がなされており、監督や演出陣からの評価が高かったそうだ。

以降では、モブ、メカ、Cの世界の表現における、CGの活用について紹介する。

カット0032の制作/モブのカット

▲カット0032のラフ原画。画面左奥での爆発を受け、難民キャンプのモブが画面手前へと逃げるカット。本カットではモブが3DCGで表現されたため、モブの逃げる芝居の参考用の原画が描かれた


▲先の原画に対する修正指示。追加するモブの配置具合に加え、「3D様/各モブ/走って逃げる(転ぶ人間も居ても良い)逃げ方は元のラフ原を参考に芝居づけして下さいませ」という指示も書かれている


▲カット0032のCG初期テイクの映像。画面右側には、比較用にラインテスト(先のラフ原画を基に制作)が置かれている。4〜5パターンの逃げる動きを組み合わせて使っているが、タイミングや走る方向を変えることで変化をつけてある。画面左側のモブ1名、および中央のモブ1名が、ちゃんと転んでいるのが面白い。画面右側には、小さな子供を抱え上げてから逃げようとするモブもおり、細やかな演出が施されている



▲カット0032のCG完成テイクの画像と映像。画面奥にもモブが追加され、爆発が起こる前から何人かのモブが逃げ始める演技も足されている

©SUNRISE/PROJECT L-GEASS Character Design ©2006-2018 CLAMP・ST

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メカ(ヘリコプター)、およびCの世界のカット

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カット0082の制作/メカ(ヘリコプター)のカット

▲カット0082のラフ原画と、カメラワークを伝える参考画。ジルクスタンの荒野を飛行するヘリコプターが、線路上を走る装甲列車の上を飛行した後、海上に建設された首都グラルバードの王城に達するカット。本作の序盤に登場する本カットでは「国土の9割が砂漠と荒野」「強大な軍事力を有する」というジルクスタンの風土や特性と、物語の要となる王城付近の地形を伝えるため、CGの強みを活かした長尺映像がつくられた


▲カット0082のCG初期テイクの映像。画面右下には、比較用にラインテストが置かれている。この段階では、美術素材が貼り込まれていない



▲カット0082のCG完成テイクの画像と映像。広大な荒野や、王城との位置関係をわかりやすく伝えるカットに仕上がっている。このように、本作ではヘリコプター、列車、自動車などのCGメカが、状況説明や場面転換で効果的に使われている。「3D空間内のカメラを使うことで、広さ、遠近感、立体感などを表現できるのがCGのメリットのひとつだと思います。それを活用する一方で、カメラを動かさなくても表現できるとき、例えば遠くでメカがターンしているときには、あえてカメラを動かさないといった判断がなされていました。こちらとしても、カメラを動かした方が効果的なのか、動かす必要がないのか、しっかり見極めるよう心がけていました」(熊野氏)

カット0391の制作/Cの世界のカット

▲カット0391のラフ原画。TVシリーズにも登場したCの世界は、本作ではフル3DCGで表現された。本カットでは、Cの世界をカメラが俯瞰した後、中央にある球体へと接近する。なお、最後に球体内に現れる女性は作画で表現されている


▲カット0391のCG初期テイクの映像。画面左下には、比較用にラインテストが置かれている



▲カット0391のCG完成テイクの画像と映像。球体に接近するときのカメラワークが変更されている



▲カット0391の本撮テイクの画像と映像。フォグの追加によって空気感が増している

『コードギアス』では、情報量を増やすことが正解とは限らなかった

総作画監督として本作のメカ作画を支えた中田氏と中谷氏は、TV版の第1話(2006年放送)から『コードギアス』シリーズに携わってきた。ちなみに第1話では、中田氏が総作画監督、中谷氏が作画監督を務めている。また、本作の作画監督のひとりである重田 智氏は、『機動戦士ガンダムSEED』シリーズ(2002〜2005)や、『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』のOVAシリーズ(1992〜2000)のメカ作画を支えてきたことがよく知られている。いずれもサンライズの長寿コンテンツのメカ表現において長年尽力してきた面々であり、その指揮の下、KMFをCGで表現することは、大きなプレッシャーであり、多くの困難があったと想像する。

「『コードギアス』シリーズならではのKMFの格好よさをCGで表現するのは、本当に難しかったです。つくっている最中は、夜逃げしたくなったこともありました。『THE ORIGIN』の場合は、情報量を増やせることや、形状を作画に合わせて変形させつつ、絵として崩れないことがCGで表現するメリットだと思っていました。『コードギアス』シリーズでは、情報量を増やすことが正解とは限らなかったので、どこに着地させれば良いのか、答えを見つけるのに苦労しました」(長嶋氏)。

「『コードギアス』の名を冠する作品は、いろんなことがあり、どれも大変だという話は事前に聞いていました。まさか自分が携わることになるとは思っていなかったのですが、ご多分にもれず、大変な現場ではありました。ただ、本当にいろんな経験をさせてもらえたので、この経験値を今後に活かしていきたいです」(中尾氏)。

「次に同種のプロジェクトをやるなら、その作品において、作画の方が有効なこと、CGの方が有効なことをすり合わせ、最初にテストカットをつくった後、本制作をスタートしたいです。実際、『THE ORIGIN』の前には『シャア専用オーリス』のPVをテストカットを兼ねてつくりました。そこで方針や課題を洗い出しておけば、カット制作後のCGモデル修正の回数を減らせると思いますし、CGカット数の見積もりの精度も上げられると思います」(熊野氏)。

「制作を終えたときに悔いは残したくなかったので、3Dも、2Dも、CG制作も、最後までやれることは全部やりきりました。全ての要望に応えられたとは思いませんが、例えばゲド・バッカの物量や、カメラまで動かす激しいアクションシーンは、CGでなければ対応できなかったし、間に合わなかっただろうと思います。そういう点では、お役に立てたのではないでしょうか。本作品を通して強く感じたことは、新しいスタッフと作品をつくるときには、技術の前に、コミュニケーションが非常に大切だということでした。その上で、クリエイティブな部分に入っていく。当社の人気タイトルに携われたことに感謝しつつ、今後のCG制作にとって大きな教訓となりました」(井上氏)。

アニメファンの中には、メカ表現に続々とCGが使われていく昨今の状況を惜しむ人もいるが、メカの作画ができるアニメーターは減り続けており、時計の針は巻き戻らない。そんな中で、作画スタッフとCGスタッフが共に妥協なきメカ表現を追求し、互いの強みが混ざり合った『THE ORIGIN』や『コードギアス 復活のルルーシュ』のような作品が生み出されていくながれは、時代の必然だと感じる。本作の経験を新たな土台として、今後もその時代に即したメカ表現が生み出され、作品を盛り上げてくれることを期待したい。



No.3 月虹影 編は以上です。
No.1 ランスロットsiN 編
No.2 ゲド・バッカ 編

©SUNRISE/PROJECT L-GEASS Character Design ©2006-2018 CLAMP・ST

info.

  • 『コードギアス 復活のルルーシュ』
    監督:谷口悟朗
    脚本:大河内一楼
    キャラクターデザイン原案:CLAMP
    キャラクターデザイン:木村貴宏
    ナイトメアフレームデザイン原案:安田 朗
    ナイトメアフレームデザイン:中田栄治
    メカニカルデザイン・コンセプトデザイン:寺岡賢司
    メインアニメーター:木村貴宏、千羽由利子、中田栄治、中谷誠一
    CG制作:サンライズ D.I,D.スタジオ
    製作:サンライズ、コードギアス製作委員会
    www.geass.jp/R-geass/