2月9日(土)より全国劇場にて上映開始となった『コードギアス 復活のルルーシュ』は、TVアニメシリーズ『コードギアス 反逆のルルーシュ』(2006〜2007)、『コードギアス 反逆のルルーシュR2』(2008)全50話を再構成した劇場版3部作(2017〜2018)のその後をつづる完全新作だ。谷口悟朗監督、脚本の大河内一楼氏をはじめ、TVシリーズを支えた多くのスタッフが再結集し、主人公 ルルーシュの「明日」を描いている。
ナイトメアフレーム(Knight Mare Frame/以下、KMF)と呼ばれるロボットによる戦闘は本シリーズの見どころのひとつで、TVシリーズでは中田栄治氏(本作での役割は、KMFデザイン/総作画監督)、中谷誠一氏(本作での役割は、総作画監督)をはじめとする、多くのアニメーターによる作画で表現された。その後制作された、赤根和樹監督によるOVAシリーズ『コードギアス 亡国のアキト』(2012〜2016)全5話では、KMFをオレンジがCGで表現し、生物的な動きや、立体的なアクションとカメラワークによる斬新な表現が話題を集めた。そして、最新作である『コードギアス 復活のルルーシュ』のKMFは、前述の中田氏や中谷氏などのアニメーターによる作画と、サンライズD.I.D.スタジオ(以下、D.I.D.スタジオ)によるCGを混ぜ合わせた表現が試みられた。本記事では、D.I.D.スタジオへの取材を通して、本作に携わったCGスタッフの仕事を以下の全3回に分けてお伝えする。
No.1 ランスロットsiN 編
No.2 ゲド・バッカ 編
No.3 月虹影 編
TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
▲劇場予告編 第2弾(90秒)。上の予告の1:07あたりから始まる紅蓮特式(ぐれんとくしき)の戦闘カット、および1:09あたりから始まるランスロットsiNの戦闘カットのメイキングを、本記事5ページ目に掲載しているので、ぜひご覧いただきたい
モブとして使うはずのランスロットsiNが、メインで使う方針に変更
『コードギアス 復活のルルーシュ』のCG制作を担当したD.I.D.スタジオは、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』シリーズ(2015〜2018)(以下、『THE ORIGIN』)の3DCGも手がけており、モビルスーツや戦艦が登場するCGカットを、作画とCGのハイブリッドで表現した実績をもつ(※1)。
※1 『THE ORIGIN』におけるCG制作については、「『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』作画&CG中核スタッフがふり返る『THE ORIGIN』のこれまでとこれから」をご覧いただきたい。以降で紹介する井上喜一郎氏(CGプロデューサー)、長嶋晋平氏(3DCGチーフ)、熊野祐介氏(3DCGアニメーションチーフ)は『THE ORIGIN』の制作にも携わっており、井上氏と長嶋氏は前述の記事にも登場している。
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井上喜一郎氏(CGプロデューサー) - サンライズを代表する長寿コンテンツである『ガンダム』シリーズのモビルスーツを手がけたD.I.D.スタジオだからこそ、多くのファンに長年愛されてきたKMFを表現するという大役を任されたのかと思いきや、『コードギアス 復活のルルーシュ』に着手した当初は「KMFの大半は、作画で表現する予定でした」とCGプロデューサーの井上喜一郎氏はふり返る。「本作の尺は110分ほどで、全体のカット数は約1,500。その中でCGを使うカットは250程度、300を超えることはないだろうという話でした。主な用途はヘリコプターや列車などのメカ、モブ(群衆)などで、ほとんどのカットにおいて、CGは脇役に留まるはずでした」(井上氏)。
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長嶋晋平氏(3DCGチーフ) - 本作の3DCGチーフを務めた長嶋晋平氏は、前述の井上氏が語った前提のうえで、2017年後半からランスロットsiNのモデリングに着手した。ランスロットは本シリーズを代表するKMFで、枢木スザクの専用機だ。本作にはその最新機としてランスロットsiNが登場する。なお「siN」は「罪」を意味している。「画面の奥、『例えば、背景の倉庫に立っているのを小さく映すだけですから......』という話だったので、テイク1のCGモデルはモブのつもりでつくりました。正直、これは楽な仕事だなと思っていたら、テイク3あたりから道のりが険しくなってきました(苦笑)」(長嶋氏)。
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中尾慎一郎氏(CG制作デスク) - 「本作は練馬スタジオの主導で制作されたので詳細はわかりませんが、作画カットを減らしCGカットを増やすという方針変更があり、『CGモデルのランスロットsiNもメインで使う』という話に変わったと聞いています」とCG制作デスクの中尾慎一郎氏は語る。谷口監督をはじめ、本作の演出や作画スタッフはサンライズの練馬スタジオを拠点としており、杉並区にあるD.I.D.スタジオとはやや距離が離れた環境で制作が進められた。「あくまで推測ですが、長嶋のテイク1の出来が思ったより良かったので、これなら使えるという判断があったのかもしれません」と井上氏は補足する。
加えて、最近の谷口監督作品である『revisions リヴィジョンズ』(2019)では全編をCGベースで表現している(※2)ため、CGを増やしても良いだろうという判断がなされたのではないかと筆者は推測する。
※2 『revisions リヴィジョンズ』におけるCG制作については、「3DCGによる"アニメ"の新機軸、TVアニメ『revisions リヴィジョンズ』」をご覧いただきたい。
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熊野祐介氏(3DCGアニメーションチーフ) - ともあれ、終わってみれば最終的なCGカットは402にのぼった。プロジェクトの期間は2017年初頭から2019年初頭までの約2年、本格的なカット制作期間は約7ヶ月、D.I.D.スタジオのスタッフ数は当初予定より増員され、モデリング約10人、カット制作約30人、2Dレタッチ約10人からなる、約50人が本作に携わることになった。また、一部の制作は外部の協力会社にも依頼している。カット制作の物量がピークに達した2018年後半には、3DCGアニメーションチーフの熊野祐介氏の席を練馬スタジオとD.I.D.スタジオの2ヶ所に設け、両スタジオの円滑な情報伝達と連携を図る措置もとられた。
「熊野は『THE ORIGIN』などで難しいCGカットをつくってきた実績があるので、本作には2018年の初頭から参加してもらいました。練馬スタジオに席をつくった後は、技術的な問い合わせなど、すぐD.I.D.スタジオと情報共有できる体制にしました」(井上氏)。約4年にわたった『THE ORIGIN』のプロジェクトでも、開始直後は作画スタッフとCGスタッフのつくり方や考え方に齟齬があり、その解消が最優先の課題だったという。「終盤にはいい体制ができ、最後は笑顔で終われましたが、そこにいたるまでには様々な問題が起きました。練馬スタジオとの仕事は本作が初めてだったので、『THE ORIGIN』のときと同様、情報伝達にはとりわけ神経を使いました」(井上氏)。
ちなみに、ランスロットsiNのモデリングに着手した2017年後半の時点では、本作における長嶋氏はモデラーのひとりという位置づけだった。しかしカット制作が本格化した2018年の夏頃、井上氏から3DCGの制作全体をまとめてほしいと打診された。「その頃には、ピーク時の山がそれなりの高さになることが予想できたので『長嶋がいないと対応しきれない』と判断しました。その少し前から中尾にもCG制作デスクとして加わってもらい、テコ入れを図りました」(井上氏)。中尾氏は練馬スタジオの制作スタッフと過去の仕事を通して面識があったのに加え、『機動戦士ガンダムユニコーン』(2010〜2014)第2話で3DCG担当の制作進行を務めた際に中田氏や千羽由利子氏(※3)とも関わっていたため、練馬スタジオとの連携を重視する本作には適任だと判断されたという。
※3 本作の総作画監督を務めた中田氏と千羽氏は、『機動戦士ガンダムユニコーン』第2話では作画監督を務めている。
以上の経緯で3DCGチーフになった長嶋氏は、CG制作全体のディレクションに加え、前述のランスロットsiNのCGモデル制作や、ゲド・バッカ(ジルクスタン王国の量産型の機動兵器、詳細はNo.2 ゲド・バッカ 編で紹介する)のCGモデル改修、高難度カットの制作なども担当した。「不測の事態が起こった場合に、なんとかするのも僕の役割でした(苦笑)。前半の状況を知らなかったので戸惑うこともありましたが、できうる限りがんばりました」(長嶋氏)。練馬スタジオとのやり取り、各種データのチェック、高難度のCGモデル、およびカット制作など、全方位で尽力し、プロジェクトを支えてもらったと井上氏は補足する。
以降では、約1年、テイク15におよんだランスロットsiNのCGモデル制作と、それを使ったカット制作の過程を紹介する。合わせて、紅蓮特式(紅月カレン専用機)のカット制作にも触れる。
ランスロットsiNの設定画
▲中田氏による、ランスロットsiN(全身)の設定画。左腰に手持ちライフルのC7-anti-materiel-VARIS(以下、ヴァリス)、左胸に肩パーツのコクーン(繭の意)を装備している。なお、ランスロットsiNやゲド・バッカをはじめとするメインのKMFのデザインは中田氏、KMFのコックピットなどのデザインは寺岡賢司氏が担当している
▲【左】前述のヴァリスとコクーンを外した状態。この設定画を受けて、後述するセットアップではヴァリスはもちろん、コクーンも分離できるリグが組まれた/【右】ランスロットsiNのエナジー・ウイング(エネルギー翼)を展開した状態。この翼で、飛行、刃状の粒子の射出による攻撃、防御まで可能
▲【左】ランドスピナーを展開した状態。スピナーは地上を高速走行する際に使用/【右】ランスロットsiNの頭部
▲【左】ランスロットsiNのヒジとヒザの可動、上半身、足パーツの参考/【右】ハンドパーツ。後述するモデリングとセットアップでは、ランスロットsiNのCGモデルの手が、この設定画と同じポーズをとれるようにすることが求められた
▲ランスロットsiNの武装の設定画。【左】はヴァリス、【右】はメーザー・バイブレーション・ソード(以下、MVS)。いずれも変形ギミックがあり、CGモデルでも同じ変形ギミックが再現された
▲ランスロットsiNとナギド・シュ・メイン(シャリオ専用機)の色彩設定は、当初、基本色に加え、夜色、朝焼け色の3種類がつくられた。その後、朝焼け色は日の出前【左】と日の出後【右】がつくられたため、両機の色彩設定は合計4種類になった。本作クライマックスの両機による戦闘は、深夜に始まり日の出と共に勝敗が決するため、その色彩の移り変わりには格別のこだわりが発揮された。なお、色彩設定へのこだわりについては、No.2 ゲド・バッカ 編で詳しく触れるため、そちらもご覧いただきたい
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約1年、テイク15におよんだ
ランスロットsiNのCGモデル
約1年、テイク15におよんだランスロットsiNのCGモデル
前述の通り、テイク1のランスロットsiNは「モブとして十分なクオリティ」を前提につくられていたため、テイク2以降はクローズアップのカメラワークにも耐えられるディテールの追加が必須となった。「テイク1の段階で提供された設定画は全身の斜め前と斜め後の2点のみで、『細部はお任せします』という話でした。ですので、『よし、任された』と思ってつくったのですが、何テイクか進んだ後に可動部分や開閉ギミックなどの詳細な設定画が追加されたため、いったん仕切り直すことにしました」(長嶋氏)。CGモデルの場合、形状が完成してから開閉ギミックなどを追加するとポリゴン面のながれが崩れるため、いったん仕切り直した方が早いという判断がなされた。
「長嶋はとても手が早いので、リテイク対応にかかる時間は短いです。ただ、練馬スタジオのメインスタッフは多くの仕事を抱えていたこともあり、リテイクが返ってくるまでに1ヶ月以上を要することもあって、スケジューリングに苦労しました。加えてランスロットsiNは特にリテイク内容が細やかだったので、通算のテイク数は15を数えることになり、完成までに約1年を要しました」(井上氏)。
▲【左】テイク1。この段階では、まだコクーンやランドスピナーが制作されていない。画像左には、比較用に設定画が置かれている/【右】テイク2。コクーンとランドスピナーを追加。プロポーションや細部の形状がかなり変わっている
▲【左】テイク3。この段階から、基本色を適用/【右】テイク4。ヴァリスを追加。コクーンの形状が特に変わっている
▲【左】テイク2の頭部に対する、赤ペンでの修正指示/【右】テイク3の頭部。先の赤ペンのラインに、可能な限りピッタリ合わせる修正が行われているが、正面・側面・背面に合わせた結果、上面だけは少しずれている。この後も完成にいたるまで、同じような修正が全身において繰り返された。「手描きの四面図なんですが、意外とピッタリ合わせることができ『やっぱりプロだな』と感心することが何度かありました。逆に合わないときは、僕の立体の解釈がまちがっているんじゃないかと思うようにしていました。とはいえ、合わないときは合わないので、どこかで諦めることも必要です」(長嶋氏)
▲【左】初期テイク段階の手。この後、先に紹介した作画用の手の設定画とまったく同じポーズをとったチェック用画像をつくるよう求められ、【右】が制作された
▲【左】上のテイクに対する、赤ペンでの修正指示/【右】ほぼ完成状態の手。先に紹介した頭部と同様、赤ペンのラインに可能な限りピッタリ合わせる修正が行われている。「プラモデルでも再現できそうな典型的なロボットの手だと、ここまで人間の手に近い握りこぶしを握ることはできません。ただ、本作では『この設定画にしっかり合わせてほしい』と依頼されたので、生身の人間と完全に同じではないものの、ロボットなりにいろいろと関節を工夫したリグを組みました。今までにつくったロボットの手の中で、一番難しかったです」(長嶋氏)
▲【左】テイク5/【右】テイク6。この段階でプロポーションの調整はほぼ終わっており、以降は細かいディテールの修正となる
▲【左】テイク7/【右】テイク8。この段階になるとぱっと見ではちがいがわかりにくいが、細部の形状やラインの位置が変わっている
▲テイク9は武装の修正のみのため非掲載。【左】テイク10/【右】テイク11。形状はほぼ完成。以降は作画に合わせ、テクスチャでラインを減らす処理や、色と質感の調整が行われ、テイク15でOKとなった
▲ランスロットsiNの形状チェック用ターンテーブル。形状のOKが出た状態。ポリゴン数は約10万で、レンダリング時に3ds MaxのTurboSmoothモディファイヤを適用している
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[[SplitPage]]ひとつのモデルデータで、3つの色彩設定に対応
▲ランスロットsiNは、全身に対してひとつのマテリアルのみを適用している。上の3ds Maxの作業画面内に置かれた「標準」「夜色」「朝色」のティーポットには、それぞれ基本色、夜色、朝焼け色の色彩設定に応じた色が割り当てられており、ランスロットの全身を選択した状態で、制作するカットに応じたティーポットの色を適用すれば、前述のマテリアルがその色に変わる。色彩設定ごとにCGモデルを用意するとデータ管理が煩雑になるため、このしくみが導入された
▲夜色を適用したランスロットsiNのCGモデル。作中の大半で使用された。ランスロットの彩色では「グラデーションを使わず、全てベタ塗りで表現してほしい」という指示があったそうだ
▲【左】同じく朝焼け色。クライマックスシーンで使用。前述の通り、後日、朝焼け色(日の出前)と朝焼け色(日の出後)の2種類がつくられた/【右】基本色。作中では未使用
▲前述の通りランスロットsiNのマテリアルはひとつで、ベースカラーはPencil+ 4マテリアルでベタ塗りしている
▲ランスロットsiNのテクスチャ。解像度は6,000×6,000pixelで、【左】はライン制御用、【右】はハイライト制御用。「余分なことをいっさい行わず、徹底的に素材を省いているため、レンダリングは軽いです」(長嶋氏)
▲テクスチャで線を減らしたランスロットsiNのCGモデル。画面左には、比較用に線を減らす前のCGモデルが置かれている。「TVシリーズのランスロットの印象から乖離しないこと、加えて、本作の作画カットのランスロットとなじませることが必須だったので、ラインの数はテクスチャでかなり減らしています」(長嶋氏)
▲完成したランスロットsiN(基本色)のCGモデル。これでOKとなったが、カット制作開始後に影とハイライトへの様々なリテイクが入ったため、3ds Max上でカメラマップを適用したり、After Effects上でマスク修正したり、後工程で作画スタッフに上からレタッチしてもらったりして、カット単位で臨機応変に対応した
▲【左】先のランスロットsiNを表示した、3ds Maxの作業画面/【右】同じくワイヤーフレーム
▲ランスロットsiN(基本色)の質感チェック用ターンテーブル。形状、色、質感の全てでOKが出た状態
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[[SplitPage]]分離・破壊表現も視野に入れたセットアップ
▲ランスロットsiNのリグ。CATを使用しており、上の作業画面ではメインのボーン構造のみを表示している。基本的には、これらを操作するだけでカット制作ができるようにセットアップされている
▲各所のアーマー、エナジー・ウイング、ランドスピナーなどの変形ギミックの操作や細かい制御は、前述のメインのボーン構造に追加したボーンで行う。これらの追加ボーンは、レイヤーを分けることで普段は隠しており、アニメーターが区別しやすいように配慮されている
▲先の画像から、ランスロットsiNの本体を非表示にしたもの。これらを使い、各種変形ギミックを操作する
▲ランスロットsiNの本体から分離させても問題のない武装類は、あえてダミーのボーンで制御している。「過去の経験則から、武装類はCAT(メインのボーン構造)から切り離したダミーのボーンで制御するようにしています。特にロボットは作中での分離・破壊表現が多用されるので、本体から切り離せるパーツは可能な限りダミーで制御するようにしています」(長嶋氏)
▲先の画像から、ランスロットsiNの本体を非表示にしたもの。左肩のコクーンや、アームパーツのシールドが分離できるようになっていることがわかる。特にヴァリスやMVSは変形ギミックが複雑なので、見た目の印象よりも制御点が多くなっている。なお、変形ギミックのアニメーションキーは事前にマイナスフレームに打ってあるため、アニメーターはキーをずらすだけで変形ギミックを制御できる。そのため前述の制御点をアニメーターが触る必要はほとんどない。これらのボーンや制御点も、レイヤーを分けることで普段は隠している
▲ヴァリスの形状・変形ギミックのチェック用ターンテーブル。形状と変形ギミックのOKが出た状態。マウント時、ノーマルモード、フルバーストモードへと順番に変形する。色と質感は、この後の工程で設定される
▲MVSの形状・変形ギミックのチェック用ターンテーブル。前述のヴァリスと同じく、形状と変形ギミックのOKが出た状態。色と質感は、この後の工程で設定される。TVシリーズのMVSと同じく、刃の部分は赤色に発光する。「色彩設定が届く前から、本作でも発光するだろうと予想はついていたので、心の準備はしていました。MVSに限らず、TVシリーズのルックや演出を参考にしながらつくるよう心がけていましたね」(長嶋氏)
▲エナジー・ウイングを展開し、左腕・左脚のプロポーションを変形させた状態。「徹底的にシンプルなCAT構造にしているので、カット制作時にはレイアウトに合わせた自由な変形が可能です」(長嶋氏)。ロボットであっても、アニメのカット制作時には演出意図に合わせた有機的な変形が求められることが多々あるため、自在に拡大・縮小・伸縮ができるセットアップとなっている
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[[SplitPage]]ラフ原画を下敷きとした、CGカット制作
本作のカット制作は『THE ORIGIN』の制作フローの一部を踏襲しており、最初に絵コンテからラフ原画が描かれ、ラフ原画を作画監督が修正し、ラフ原画と作画監督修正からラインテスト用のムービーが制作された。そのラインテストを練馬スタジオの演出や作画監督が確認し、各カットを作画で表現するのか、CGで表現するのか、両者を組み合わせるのかが判断された。基本的には、激しいアクションがあるカットのKMFはCGで表現し、止め絵(動画を使わない1枚絵)で見せるカットや、動きの少ないカットのKMFは作画で表現するという方針に基づいた判断がなされている。
例えば、大ヒット上映中PV(90秒)の、0:47あたりから始まる紅蓮特式の戦闘カットは、ラインテストを基にCGで表現された後、ミサイルの作画が描き足されたり、一部のフレームのKMFが作画に差し替えられたりしている。一方で、1:22あたりから始まるランスロットsiNの発進ポーズのカットは当初から作画だけでつくると判断された。
練馬スタジオにも席を置いていた熊野氏は、演出や作画監督などから、カット制作に関する詳細を相談されることが多かったと語る。「どのような絵を描けばCGスタッフに意図が伝わるか、レンダリング時にあるモデルと別のモデルのレイヤーを分けることは可能かといった質問をされることが多かったです。僕自身もD.I.D.スタジオの席でカット制作をやりつつ、お互いにとってベストの方法を提案するよう心がけていました」(熊野氏)。
前述の制作方法は、最近のTVアニメシリーズの制作では実現困難な、時間も費用も手間もかかる、非常に工程の多い効率度外視のやり方だと言える。その分、作品のクオリティは上がったが、課題も残ったと井上氏はふり返る。「事前の打ち合わせがあったものの、どのカットの、どの部分をCGで表現するのか、正確なところはラインテストが届くまでわかりませんでした。そのため、作業量の見積もりが難しかったのに加え、スケジュールも立てづらかったのは、本作で感じた課題のひとつです」(井上氏)。ラインテストを受けてCG制作を始めた後、作画でも同じ部分の制作が進行していると発覚したケースもあり、情報伝達の面でも課題を感じたという。
カット1323の制作/ヴァリスを撃つカット
▲【左列】カット1323のラフ原画/【右列】同原画に対する作画監督修正。ランスロットsiNがマウント状態のヴァリスを右手に持ち、画面左下から飛んでくるハーケンを避けながら、ノーマルモードに変形したヴァリスを撃つカット。作画監督がカメラの角度、ポーズ、エネルギー波の形状などを細かく修正している
▲カット1323のCG初期テイクの映像。画面左上には、比較用にラインテスト(先のラフ原画と作画監督修正を基に制作)が置かれている。本カットは熊野氏が最初に担当したもので、劇場予告編 第2弾(90秒)(1:09あたり)でも使われた。練馬スタジオで作画監督から直接リテイク内容を聞き、CG完成テイクまで仕上げたそうだ
▲カット1323のCG完成テイクの画像と映像。先のテイクと比較すると、ポーズ、カメラ位置、タイミング、ラインの出し方などが細かく修正されている
カット1312の制作/紅蓮特式が輻射波動を構えるカット
▲カット1312のラフ原画。画面右手前から奥へと軌跡を描きながら飛翔する紅蓮特式を、数多くのミサイルが追いかけるカット。カット終盤で再び紅蓮特式が画面手前に戻ってきた後、右手から輻射波動を放つ構えに入る
▲カット1312のCG初期テイクの映像。画面左下には、比較用にラインテストが置かれている
▲カット1312のCG完成テイクの画像と映像。この後の工程で、作画のミサイルが追加される
▲カット1312の完成カットの画像。劇場予告編 第2弾(90秒)(1:07あたり)では全フレームでCG完成テイクの紅蓮特式が使われた一方で、劇場公開版ではカットの前半フレームではCG【左】、後半フレームでは作画【右】の紅蓮特式を併用している。このように、本作では公開直前までカットのブラッシュアップが行われた
カット1374の制作/ナギド・シュ・メインとの接近戦のカット
▲カット1374のラインテスト。本作クライマックスのランスロットsiNとナギド・シュ・メインの一連の戦闘カットでは、制作末期のためラフ原画が間に合わず、かなりラフな原画によるラインテストを基にCGカットが制作された。ランスロットsiNの右脚中段蹴りがナギド・シュ・メインに決まった後、楯に刺さったMVSが爆発。さらに回転して左脚上段蹴り、剣を避けながら再び右脚中段蹴り。離脱した後、エナジー・ウイングで剣を弾いてから、さらに離脱。最接近した後、左手中段突き、さらに右手中段突きを決める。シンプルに言うと、ランスロットsiNが終始優勢の接近戦だ
▲カット1374のCG初期テイクに対する作画監督修正。目線やポージングの修正指示が描かれている。一連の戦闘カットでは、このような具合に、ほぼ全フレームに対して細やかな指示が描き込まれた。「1フレームたりとも気が抜けませんでした」と長嶋氏と熊野氏は口を揃える。なお、本カットは熊野氏が担当している
▲先の作画監督修正を受け、修正されたCG完成テイクの画像
▲同じく、カット1374のCG完成テイクの映像
No.1 ランスロットsiN 編は以上です。
No.2 ゲド・バッカ 編
No.3 月虹影 編
©SUNRISE/PROJECT L-GEASS Character Design ©2006-2018 CLAMP・ST
info.
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『コードギアス 復活のルルーシュ』
監督:谷口悟朗
脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン原案:CLAMP
キャラクターデザイン:木村貴宏
ナイトメアフレームデザイン原案:安田 朗
ナイトメアフレームデザイン:中田栄治
メカニカルデザイン・コンセプトデザイン:寺岡賢司
メインアニメーター:木村貴宏、千羽由利子、中田栄治、中谷誠一
CG制作:サンライズ D.I,D.スタジオ
製作:サンライズ、コードギアス製作委員会
www.geass.jp/R-geass/